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第二話 理由
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なぜこんなことになったのか?
それは三カ月前のことだ。
三カ月前まで、私は魔王の側近を務めていたのだ。
あの頃は、魔王を尊敬していた。魔王は強くて聡明。それに、美しかったからだ。漆黒の長い髪も、金色に輝く猫のような瞳も全てが美しく、私を魅了した。
まぁ、今はその氷のような美貌に恐怖を感じているのだがな。
話が逸れたな。
とにかくその日、私は魔王に結婚する旨を伝えた。
相手は同じ吸血鬼の女だ。名前はヨーランと言う。
二人で魔王の元にゆき、結婚の報告をしたのだ。
すると、いつも無表情だった魔王が豹変した。
「お前は俺の側近だ。身も心も俺のモノだと誓ったはずだ。それなのに、お前はその女を愛するのか?」
正直、その言葉を聞いて驚いた。
てっきり祝福してくれると思っていたからだ。だが、魔王は怒り狂い、その場で私とヨーランを引き離した。
魔王は私の髪の毛を掴み、そのまま魔王の寝室まで引き摺った。それから服を脱がせ、私を全裸にした。
一度魔王は部屋を出た。私はあまりの出来事に逃げることさえ忘れていた。呆然としていると、魔王が鎖と首輪を持ってきて戻ってきた。
「それを付けろ」
「な、なぜですか!?」
「お前は俺を裏切った。贖罪の気持ちがあるのなら付けろ」
「……」
裏切ってないし、贖罪の気持ちなんてない。
だから私は躊躇した。だが、魔王はそんな私の態度が気に入らなかったらしく、ほおを叩いた。
何度も……何度も。鼻血が出るほどに。
なぜ魔王があんなに怒っていたのか分からない。だが、私はその姿に恐怖を感じた。だから……、鎖と首輪を自分から付けた。
それから魔王は私に一カ月に一度しか食事を与えず、寝室に監禁したのだ。理由は、魔王を裏切った罰だと言う。
私は吸血鬼なので、食料を食べなくても死ぬことはない。だが、血液はダメだ。血液は、吸血鬼が生きるための大事な栄養なのだ。
それを絶たれると、頭がおかしくなる。正気じゃいられなくなるのだ。魔王はそんな私を見て、うっとりと笑みを浮かべている。
それが、三カ月も続いているのだ。
今魔王は仕事中だ。
魔王は夜になると戻ってくるので、今が唯一の安らぎの時間だと言っていい。
もうこんな毎日は嫌だ。
裸にされ、正気を失うくらいに飢えさせて、私の尊厳は失われた。
魔王を殺して楽になりたい。
それで、ヨーランと一緒にここから逃げるのだ。
二人で逃げれば、なにも怖いことなどない。
どこか静かな場所にゆき、ひっそりと暮らしてゆきたい。
そんな妄想をして現状から目を逸らしていた私は、あることに気が付きハッとした。
――そう言えば、ヨーランはどうなったのだろう?
魔王になにかされていないだろうか?
もしも私と同じように全裸にされ、どこかに繋がれているとしたら、彼女が気の毒だ。
あぁ……私は自分のことばかりで彼女のことをなにも考えていなかった……。
彼女は無事だろうか。彼女の安否を確認したい。
大嫌いなアイツに話しかけるのは死んでも嫌だが、そんなことは言ってられない。
今夜、魔王に聞いてみよう。
私はそんな決意をし、夜になるのを待ったのだった。
それは三カ月前のことだ。
三カ月前まで、私は魔王の側近を務めていたのだ。
あの頃は、魔王を尊敬していた。魔王は強くて聡明。それに、美しかったからだ。漆黒の長い髪も、金色に輝く猫のような瞳も全てが美しく、私を魅了した。
まぁ、今はその氷のような美貌に恐怖を感じているのだがな。
話が逸れたな。
とにかくその日、私は魔王に結婚する旨を伝えた。
相手は同じ吸血鬼の女だ。名前はヨーランと言う。
二人で魔王の元にゆき、結婚の報告をしたのだ。
すると、いつも無表情だった魔王が豹変した。
「お前は俺の側近だ。身も心も俺のモノだと誓ったはずだ。それなのに、お前はその女を愛するのか?」
正直、その言葉を聞いて驚いた。
てっきり祝福してくれると思っていたからだ。だが、魔王は怒り狂い、その場で私とヨーランを引き離した。
魔王は私の髪の毛を掴み、そのまま魔王の寝室まで引き摺った。それから服を脱がせ、私を全裸にした。
一度魔王は部屋を出た。私はあまりの出来事に逃げることさえ忘れていた。呆然としていると、魔王が鎖と首輪を持ってきて戻ってきた。
「それを付けろ」
「な、なぜですか!?」
「お前は俺を裏切った。贖罪の気持ちがあるのなら付けろ」
「……」
裏切ってないし、贖罪の気持ちなんてない。
だから私は躊躇した。だが、魔王はそんな私の態度が気に入らなかったらしく、ほおを叩いた。
何度も……何度も。鼻血が出るほどに。
なぜ魔王があんなに怒っていたのか分からない。だが、私はその姿に恐怖を感じた。だから……、鎖と首輪を自分から付けた。
それから魔王は私に一カ月に一度しか食事を与えず、寝室に監禁したのだ。理由は、魔王を裏切った罰だと言う。
私は吸血鬼なので、食料を食べなくても死ぬことはない。だが、血液はダメだ。血液は、吸血鬼が生きるための大事な栄養なのだ。
それを絶たれると、頭がおかしくなる。正気じゃいられなくなるのだ。魔王はそんな私を見て、うっとりと笑みを浮かべている。
それが、三カ月も続いているのだ。
今魔王は仕事中だ。
魔王は夜になると戻ってくるので、今が唯一の安らぎの時間だと言っていい。
もうこんな毎日は嫌だ。
裸にされ、正気を失うくらいに飢えさせて、私の尊厳は失われた。
魔王を殺して楽になりたい。
それで、ヨーランと一緒にここから逃げるのだ。
二人で逃げれば、なにも怖いことなどない。
どこか静かな場所にゆき、ひっそりと暮らしてゆきたい。
そんな妄想をして現状から目を逸らしていた私は、あることに気が付きハッとした。
――そう言えば、ヨーランはどうなったのだろう?
魔王になにかされていないだろうか?
もしも私と同じように全裸にされ、どこかに繋がれているとしたら、彼女が気の毒だ。
あぁ……私は自分のことばかりで彼女のことをなにも考えていなかった……。
彼女は無事だろうか。彼女の安否を確認したい。
大嫌いなアイツに話しかけるのは死んでも嫌だが、そんなことは言ってられない。
今夜、魔王に聞いてみよう。
私はそんな決意をし、夜になるのを待ったのだった。
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