女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

乗馬大会④

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 入場口から入場した瞬間、周囲の観客からはどよめく声が聞こえた。
 彼らの言いたいことは分かる。女の私が乗馬大会に出場するのは珍しいことだから。

 そもそもこの世界の女性はあまり好き好んで運動をしない。勿論、乗馬もその一つ。

『女のお前が乗馬をすることに周囲は珍しいと思うかもしれない。もしかしたら、舐められるかもしれない』

 先生が以前私に言っていた言葉を思い出しながら私は一歩ずつ歩みを進める。

『そん時は周りの奴らを驚かせてやれ。女だから出来ないんじゃない、エマだから出来るんだってな』

 私は先に待機していたエヴァに跨り、開始の合図を静かに待った。

 審査員がそれぞれ確認し、開始の合図のピストルが今、空に向けて放たれた。

 それと同時に私はエヴァと共に風のように動き出した。
 












 ────結果は圧勝だった。


 私以外の選手全員が馬が言うことを聞かなかったり、怪我をしてしまったりして唯一まともに動けた私が優勝出来たのだ。
 先程観戦していたグループよりも私と共に対戦した出場者のほうが酷かったかもしれない。

 観客は女の私が勝った驚きと、唯一まともな動きをした私に対し、賞賛が飛び交っていた。
 私はそれに適度にお礼しながらエヴァと共に退場口を早足で歩く。

「エマ、お疲れ」

 退場口を潜ると、先生が満面の笑みで待っていた。

「せ、先生……私、勝った、んですよ、
ね?」

「あぁ、勝ったぞ。流石俺の教え子だな」

 先生は頭をわしゃわしゃと撫でてくる。

 正直、あまりにも簡単に勝ちすぎて実感がない。そもそもこれは本当に大会として成り立っているのか?

「この調子で二回戦勝つぞ!おー!」

「お、おー……?」

 まぁ、先生が喜んでいるならそれでいいか。
 私は考えるのを放棄した。

 その後の試合も私は難なく勝利を獲得し続けた。
 そのお陰か、会場が最初の頃よりは大違いに盛り上がっていた。
 そして、それに比例するように私の緊張は膨れ上がっていった───。









「──次で決勝か」

「はい、そうみたいです」

 私は勝ち進んだお陰か、決勝までとんとん拍子に上り詰めることが出来た。
 正直、こんな簡単にここまでこれるとは思いもよらなかった。どの試合も他の選手達はこぞって初心者のようだったので、私は難なくゴール出来たが、決勝には先程勝ち進んだジェイさんがいる。

 だから油断は禁物だ。また何か言ってくるかもしれないし、身構えておこうと思った。

「不安になってるのか?」

「………えっと、はい。そうみたいです」

 すると、先生は珍しく優しく頭を撫でてくる。
 まるで赤子の頭を撫でるみたいに柔らかく、温かい。

「………先生……?どうかしましたか?」

「……ん?見りゃ分かるだろ、お前を落ち着かせてんの」

「……………やり方が不器用だと思いますよ」

 そんな事を言ったら先生にデコピンされた。これはいつもの先生だ。

「励ますんじゃなかったんですか!」

「気が変わった。お前にはデコピンぐらいが一番丁度良いだろ」

 酷すぎでは。いつから私はデコピンが丁度良い女になったんだ。

「決勝に出場される選手の方々は入場口からお入り下さーい」

 先生と話していると、案内人の大きな声が私達の耳にも入った。
 もうそろそろ移動した方が良いだろうと思い、私はその場を離れようとした。

「エマ」

 動き出した足を止めたのは、私の名前を呼んだ先生だった。

「はい?なんですか?」

 先生は私の側まで近付くと、額に軽くキスをした。

「なっ」

「お前が優勝する為のおまじないだ。……俺の母親がよくやってたんだ。だから、胸張って堂々としてろ。前だけを見てるんだ」

 先生はにっと歯を見せて太陽のような笑顔を見せた。先程はいきなりのキスに動揺したが、彼の笑顔で胸が温かくなる。
 この笑顔は私に元気を与えてくれる特別な笑顔だ。
 
 私も彼に倣ってとびきりの笑顔を向けて告げた。

「───絶対、勝って来ますね!」











 入場した後、私はスタート位置に着いて、エヴァに跨る。
 そこで偶然かつ最悪で隣にジェイさんが並んでいた。
 フェンス越しではあるが、馬に跨がれば顔同士が対面する事になる。
 
「やぁ、エマさん。調子はどう?」

「……いつも通りです」

「そうか。……ところで、さっきの失礼な男って君の恋人?」

「……違いますよ」

 こんな始まる直前にそんな話をしないで欲しい。集中が逸れる上に周囲に迷惑だ。

「でも彼、君の運命の人とかふざけた事を言っていたけれど?」

「それは貴方もだと思いますけど……」

「それは事実なのだからしょうがない。でも彼の言っていることは虚言だ。僕の邪魔をして……絶対に後悔させてやると決めたんだ」

 言っていることが無茶苦茶だと思う。自分の機嫌を損ねたからと言って、相手に悪意の持った行動をするのは間違った行為だ。
 しかし、そんな事を言っても彼には伝わらないだろう。

「あぁそうだ、さっきはあの男に邪魔されたから言えなかったけれど、もしこの大会で僕が優勝したら僕と付き合って貰える?」

「は……?そんなの嫌に決まって──!」

「僕がどの立場にいる人間か、分かって言っている事なのかな?」

「っ………」

 私が女王候補ということを彼に伝えれば、一発で事が終結するだろう。しかし、それを告げるにはそれ相応のリスクが伴う。
 何より、この人のせいで私の大切な時間が奪われてしまうことが一番気に食わなかった。

 だから、私がこの状況を打開する為には──。

「……お言葉ですが、私は貴方に負けるなど微塵も思っておりません故、貴方のその場違いな告白は泡となって消えるでしょう」

「………へぇ?君も僕に反抗するんだ。………………後悔させてやるよ」

 最後に呟いた言葉はとても低く、唸り声のようで背筋がゾッとしたが、私は先生の言葉を思い出し、胸を堂々と張った。

「私は貴方になど負けません。必ず勝利致します」

 そして、彼が怒りに青筋を立てた瞬間、開始の掛け声が聞こえた。
 誰もが意気込んで、そのまま開始のピストルが高々に会場に響いた。







 



















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