女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

大切な人②-レイア視点-

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 私の家族がこの世を去ってから、約半年が経過した。
 あれ以降、侯爵様が私の家族の事について口を出すことは無かった。それと同じように、エマ様もあの尋問以降、特に何も質問することは無かった。

 ただただ、平和な日常が過ぎて行くだけだった。
 しかし私は、心のどこかで何かが引っかかって取れないままでいた。

「レイアー!今日はピクニックに行こう!」

「かしこまりました。ですがエマ様、もう十歳なのですから、あまりその様に飛び跳ねて喜んでははしたないですよ」

 エマ様は相変わらず、私によく懐いてくれている。毎日必ず、私を遊びに誘ってくれる程だ。

「だって、レイアと一緒に遊べるから、楽しみで仕方無いんだよ!」

 エマ様は最近、勉強ばかりに打ち込んでいた。
 きっと、そこらのご令嬢よりも頭が良いだろう。
 それでも、彼女が勉強をやめないのは将来、女王候補として皇宮に行きたいかららしい。
 元女王候補の一人だった、今の皇后様にエマ様は感激し、そして王子様方にハートを撃ち抜かれたという。

 思いだけで、これ程までに一生懸命になれるのは凄いことだが、如何せん動機が不安だ。

「ほら、早く行こ!レイア!」

「はい、お嬢様」

 そして私達は護衛を数人引き連れて、綺麗な花々が咲いている草原に来た。

「レイア見て!お花に蝶々が止まってるよ」

「本当ですね。たしかこれはアベリア蝶という蝶だと思いますよ。今の地域でよく見られる蝶ですね」

「へぇ~、レイアって物知りだね!」

「お嬢様の専属侍女ですから」

 エマ様はキラキラと瞳を輝かせて、一点の曇りもない様子で私を見つめてくる。
 エマ様の明るい緑の瞳は今日も誰かの心を癒してくれるのだ。

 しばらく一緒に護衛の騎士たちも混ざってお花畑を楽しんでいると、エマ様が唐突にお腹が空いた、と言った。

 太陽が天上に昇っているので今は丁度お昼くらいの時間だろう。
 
「エマ様、本日の昼食はサンドイッチと紅茶になります。紅茶はこちらの花を浮かせてお飲み下さいませ」

「わぁ!すごく綺麗な花!この花を紅茶に浮かせたら美味しくなるの?」

 私が示した花は可愛らしい桃色のカップに丁度良い大きさで入る花だ。
 エマ様はそれを見て、わくわくした表情をしている。

「はい、香りが更に良くなります。そしてリラックス効果もありますので、午後からはごゆっくりと過ごすことが出来ますよ」

「そうなんだ!ありがとう、レイア」

 メイドである私に、とびきりの笑顔で礼を言うお嬢様。そのまま健やかに育って欲しいと、侯爵様も奥方様も他の使用人達も口々に言っていた。

 私はメイドらしく礼をした後、そのまま美味しそうにサンドイッチを頬張っているお嬢様に向かって口を開いた。

「お嬢様、お食事のところ大変申し訳ないのですが、ここから歩いて近くの市場で買い物を済ませたいのですが、行ってもよろしいでしょうか」

 お嬢様は口の中一杯に詰め込んだサンドイッチをゴクリと飲み込んで、笑顔を向けて話す。

「んむんむっ、……わかった!早めに帰って来てね、レイア。いってらっしゃい!」

 エマ様は手を振りながら私を送り出してくれた。
 私も軽く手を振り返してその場を離れる。早めに帰って来いと言われたので、急いで市場を回らねば。

 市場は思った以上に混みあっていて、人から人と、止まることの無い人混みの中に私は紛れていた。

 私の今日の目的は食料調達だ。お嬢様が小腹を空かせた時に渡すお菓子を買うのだ。

 エマ様は甘いもの───プリンが大好きだ。
 だから、市場で限定のプリンといつも食べているプリンの両方を買うためにこの市場へ訪れていた。

 この街は侯爵様が統治している街よりもかなり端の方にある。
 いくら温厚で民から慕われている侯爵様であっても、まだまだ街の荒くれ者はごまんといる。
 しかし、エマ様が産まれる前は今よりももっと酷い状態だったらしい。
 
 なんでも、お嬢様がこの街の生活に関与したお陰でここまで安全な街になっただとか……。

 私も、エマ様の専属侍女としてまだまだ未熟なのだなと思い知らされた。

 しばらく人波に乗って歩いていると、いつも行っているプリン屋の看板が見えてきた。
 市場にあるからか、建物ではなく屋台になっている。
 私はプリン屋の看板を目指してそのまま人波に乗って歩き出そうとしたその時。

「っ───!?」

 突如後ろから腕を乱暴に引っ張られ、そのまま屈強な腕で口を塞がれる。
 手にはハンカチが握られており、本能的に吸ってはダメだと思ったが、無理矢理押し付けられ、そのまま私は意識を失った。













 目が覚めると、私は硬い石でできた地面に横たわって、手足を縄で固定されていた。
 口も布でキツく覆われて、声をあげることが出来ない状態だった。

(この状況は……──)

 真っ先に思いついたのは、誘拐だった。
 この街では最近あまり見なくなったが、完全に無くなった訳ではない。

 女子供が誘拐されている事件だって、ついこの間問題になっていた。

 もちろん、金銭目当てで貴族のご令嬢なんかを誘拐する事だってある。

 それなのに、どうしてわざわざ貴族の令嬢では無く、そのメイドである私を誘拐したのだろう。

 貴族の令嬢なら脅迫して金を要求すれば、大金などいくらでも払ってくれるというのに。

 そのリスクに危機感を感じて令嬢の誘拐に臨まなかった、ということも有り得るが、貴族でなくとも、商人の娘など金持ちの家の少女はいくらでもいる。

 よりにもよってどうして私なんだ。

 考えても仕方がない為、私はとりあえず自分を拘束している縄を解くことにした。

 専属侍女になるため、こういった非常事態の時の対処の仕方も頭に入れておいた。
 貴族のご令嬢と一緒に誘拐される危険を考慮してのことだ。

 そして、あと一歩で解けそうな状態になったとき、運悪く何者かの足音がこちらに近付いて来た。

(っ……───!?)

 私は動きを止めて、出来るだけ解けそうな縄を見られないように両手を体の下にして、仰向けの状態になって、そのまま寝たフリをした。

 ガチャリと錆びれた鉄のドアが開くと、コツコツと2人分の足音が聞こえた。
 薄ら明かりが暗い部屋の中に差し込むことを瞼を閉じたままでもはっきりと感じた。

「まだ眠ってるのか」

「そうみたいだな。ま、依頼者が用意した気絶薬だ。結構強めのやつだったんだろ」

 男二人。一人は嗄れた四十後半程の男性で、もう一人はそれよりも少し若そうな、三十代くらいの少々高めの声の男性だ。

「にしても、なんで貴族の令嬢じゃなくて、貴族の令嬢の専属侍女を狙ったんだ?金目当てならメイドじゃなくて、いくらでも他の奴を狙えただろ」

 嗄れ声の男がもう一人の男にそう尋ねた。
 どうやら、彼も私と同じ疑問を抱いていたのだろう。
 誘拐するくらいだ。理由を知っていたかとも思ったが、何も知らないまま犯行に及んでいたらしい。

「確かに俺も最初そう思ったさ。だから気になって親玉に聞いてみたんだよ。なんでも、このメイドの親族が依頼者らしいんだ。家族間の事情とか、そういうんじゃねぇの?深くは教えてくんなかったぜ」

 私の親族が依頼者………?

 私の家族はもう既に他界している。家族の骨も見た。となると、両親では無く、親戚かなにかの類の仕業だというのか。

 そうなると、ターゲットはエマ様では無く、私という線が濃くなる。
 もしかしたら、本当に金目当てでは無いのかもしれない。

 でも、一体何故私が狙われた───?

「確か、依頼者からは自分の元に身柄を渡せとの事だったな。生死は問わないと言っていたが……どうする?やっちまうか?」

 嗄れ声の男が物騒な事を言う。

「いや、男ならまだしも、女をあまり殺したくはねぇ。それに結構悪くない顔してるしな。遊びにでも使えるだろ」

「ははっ、確かにそれもそうだな。暴れて面倒だった場合に殺すか」

「あぁ。それじゃ、まだしばらく寝てるみてぇだし、監視に戻るか」

 そう言い残して、男達は去っていった。

 再び、重い鉄のドアがガチャリと閉まって部屋が暗くなった。

「……………」

 私は起き上がり、ただそのドアを見つめていた。








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