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脱・引きこもり姫
大切な人③-レイア視点-
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男達が去って行った後、私は再び縄を解き出した。
それ程難解に結ばれていた訳では無かった為、時間はそう掛からずに解くことが出来た。
縄が解けたのなら次は密室からの脱出だ。
この部屋は正方形のように縦も横も同じ長さのようになっており、五歩ほど歩くと壁に当たる程の小さな部屋になっている。
もちろん窓は無く、ドアから零れる気持ち程度の明かりが部屋を照らしていた。
当たり前だが、ドアにはしっかりと鍵が掛かっており、錆びついている扉の為か少しガタつくが、開きはしなかった。
しかし、私はこんな時の為に常に髪留めを持ち歩いていた。
普段髪に留めるピンとは違って、緊急時専用のピンだ。
長さが通常のものより長めで、曲がりやすくなっている。
私は即座に鍵穴を調べ、ピンで形を取っていく。
部屋が暗いので少々手間が掛かったが、数分程度で扉を開くことが出来た。
私は静かに扉を開けて、隙間から外の様子を伺う。
監禁されていた部屋とは違って、廊下にはレッドカーペットが敷かれており、花瓶も所々置かれている。まるで貴族の屋敷の様だった。
ぽつりぽつりと適度に蝋燭が廊下には置かれており、視界に支障をきたすことは無かった。
足音の問題もカーペットが音を吸収してくれるお陰で内密に行動することが出来た。
出来るだけ姿勢を低くして、尚且つ迅速に動ける態勢をし、私は素早く歩みを進める。
しばらくそのまま進んで行くと、豪華な装飾が施された両扉が見えた。
扉の隙間からは明かりが少々漏れている。
私は扉からは誰かの話し声が聴こえてきたため、私は迷いながらもそっと扉に耳を這わせた。
『旦那、あの娘は捕獲しましたし、あとはどうするおつもりですか』
『あの子が目覚めるまで待つのみだ。あの子が目覚めたら、お前たちは金だけ受け取って去れ』
『……ありがとうございます、旦那』
しゃがれた男性の声と、野太い男性の声。
私はそんな二人の会話を聞いて、旦那、と呼ばれている人間が私と血縁関係にある人間だと察した。
私を誘拐した人間が誰なのかはもちろん知りたい。しかし、一番の目的は無事にお嬢様が待っているであろう侯爵家に帰還することだ。
眠っていた時間がどれくらいだったのか定かでは無いため、丸一日……いや、それ以上経過しているかもしれない。
お嬢様の専属メイドがそうそうに主の側を離れる訳にはいかない。
私は私欲を消して、侯爵家への帰還を目標にした。
『……それにしても、旦那もあの歳若い娘に対して、かなりの所業をするおつもりですねぇ……』
ニタリ、と怪しく笑っていそうな声で、旦那の子分……もしくは契約相手が話し出したため、私は反射的に動き出そうとした足を止めてしまった。
────かなりの所業とは、一体……?
『貴様などには関係ない。ここまでやれば、お前たちは用済みだ。とっととこの場から立ち去れ。……もしくは、お前が実験としてあの娘に行う所業をやってあげても良いのだぞ』
───低い、それはそれはとても低く、唸るような声で旦那はそう告げた。
『っ………はははっ、ご冗談を。ただの世間話ですよ。そんなにお気になさらずとも、旦那のご命令通りここを今すぐにでも立ち去りますよ』
そう言って、こちら──扉に向かって歩く足音が聞こえたので、私は急いで曲がり角に隠れる。
バタン、と音がして扉が閉まると、男は舌打ちをした後、堅苦しいじじぃだな、と捨て台詞を吐いて、私とは反対方向へ歩いていった。
「……………」
私はしばらく立ち尽くした後、再度、この屋敷の出口を探すことにした。
(───出口が全く無い………)
私はあれから体感一時間以上もの間、廊下を徘徊し続けていた。
この屋敷はとても広く、曲がり角が多い。その上、窓も鉄格子が全て付けられていて、階段が全く見当たらない。
まるで、人を閉じこめる為だけに作られた家だった。
これほどまでに苦戦すると思っていなかった私は人気のないところで少し休憩することにした。
辺りは暗く、明かりはぽつりぽつりと灯されている蝋燭のみだった。
本当に、厄介なところに来てしまった。
(……きっと、心優しいお嬢様は急に姿を消してしまった私をとても心配なされているでしょうね……)
どうせなら、私のことなどただのメイドだからと切り捨ててくれれば、どれほど楽なことか。
彼女がきっと──いや、絶対に私の帰りを待っているだろうから、私は彼女の元へと無事に帰還しなければならない。
私のことを必要としてくれている人の元へ帰らなければならない。
まるでこれは一種の呪いだ。
彼女は私を見えない鎖で縛り付けている。なのに、その鎖はタチが悪く、縛られていても苦痛を感じないし、あの純粋な瞳で見られると使命感が湧き出てくる。
(エマ様…………)
私はもう、とっくにエマ様の忠実なメイドなのだ。
私はまだ出会えぬ主の顔を浮かべ、身を奮い立たせた。
もうこんなに時間が経過している。おそらく、私が脱走していることを相手は把握している可能性が高い。
私は再び身を低くして、四つん這いで暗い廊下を進んで行った。
(きっと、出られる──)
確証も無いのに、何故か信じようとしてしまう。昔の私は絶対にこんなことはしなかった。
誰のことも信じず、ただ従順に親のために働いていた。
しかし、そんな思想を変えてしまったのは紛れもないエマ様だ。
エマ様のせいで、私は間抜けで、愚かで、救いようがなくて………諦めの悪い人間に近づいてしまった。
(………感謝しております。エマ様)
私は力強く歩き出す。
希望を持って進み始めた、その時だった。
「───やっと見つけたぞ。…………この、ひとでなしが」
扉越しに聞こえたしゃがれた声が、すぐ背後にはっきりと聞こえた。
希望が絶望に、変わる瞬間だった。
それ程難解に結ばれていた訳では無かった為、時間はそう掛からずに解くことが出来た。
縄が解けたのなら次は密室からの脱出だ。
この部屋は正方形のように縦も横も同じ長さのようになっており、五歩ほど歩くと壁に当たる程の小さな部屋になっている。
もちろん窓は無く、ドアから零れる気持ち程度の明かりが部屋を照らしていた。
当たり前だが、ドアにはしっかりと鍵が掛かっており、錆びついている扉の為か少しガタつくが、開きはしなかった。
しかし、私はこんな時の為に常に髪留めを持ち歩いていた。
普段髪に留めるピンとは違って、緊急時専用のピンだ。
長さが通常のものより長めで、曲がりやすくなっている。
私は即座に鍵穴を調べ、ピンで形を取っていく。
部屋が暗いので少々手間が掛かったが、数分程度で扉を開くことが出来た。
私は静かに扉を開けて、隙間から外の様子を伺う。
監禁されていた部屋とは違って、廊下にはレッドカーペットが敷かれており、花瓶も所々置かれている。まるで貴族の屋敷の様だった。
ぽつりぽつりと適度に蝋燭が廊下には置かれており、視界に支障をきたすことは無かった。
足音の問題もカーペットが音を吸収してくれるお陰で内密に行動することが出来た。
出来るだけ姿勢を低くして、尚且つ迅速に動ける態勢をし、私は素早く歩みを進める。
しばらくそのまま進んで行くと、豪華な装飾が施された両扉が見えた。
扉の隙間からは明かりが少々漏れている。
私は扉からは誰かの話し声が聴こえてきたため、私は迷いながらもそっと扉に耳を這わせた。
『旦那、あの娘は捕獲しましたし、あとはどうするおつもりですか』
『あの子が目覚めるまで待つのみだ。あの子が目覚めたら、お前たちは金だけ受け取って去れ』
『……ありがとうございます、旦那』
しゃがれた男性の声と、野太い男性の声。
私はそんな二人の会話を聞いて、旦那、と呼ばれている人間が私と血縁関係にある人間だと察した。
私を誘拐した人間が誰なのかはもちろん知りたい。しかし、一番の目的は無事にお嬢様が待っているであろう侯爵家に帰還することだ。
眠っていた時間がどれくらいだったのか定かでは無いため、丸一日……いや、それ以上経過しているかもしれない。
お嬢様の専属メイドがそうそうに主の側を離れる訳にはいかない。
私は私欲を消して、侯爵家への帰還を目標にした。
『……それにしても、旦那もあの歳若い娘に対して、かなりの所業をするおつもりですねぇ……』
ニタリ、と怪しく笑っていそうな声で、旦那の子分……もしくは契約相手が話し出したため、私は反射的に動き出そうとした足を止めてしまった。
────かなりの所業とは、一体……?
『貴様などには関係ない。ここまでやれば、お前たちは用済みだ。とっととこの場から立ち去れ。……もしくは、お前が実験としてあの娘に行う所業をやってあげても良いのだぞ』
───低い、それはそれはとても低く、唸るような声で旦那はそう告げた。
『っ………はははっ、ご冗談を。ただの世間話ですよ。そんなにお気になさらずとも、旦那のご命令通りここを今すぐにでも立ち去りますよ』
そう言って、こちら──扉に向かって歩く足音が聞こえたので、私は急いで曲がり角に隠れる。
バタン、と音がして扉が閉まると、男は舌打ちをした後、堅苦しいじじぃだな、と捨て台詞を吐いて、私とは反対方向へ歩いていった。
「……………」
私はしばらく立ち尽くした後、再度、この屋敷の出口を探すことにした。
(───出口が全く無い………)
私はあれから体感一時間以上もの間、廊下を徘徊し続けていた。
この屋敷はとても広く、曲がり角が多い。その上、窓も鉄格子が全て付けられていて、階段が全く見当たらない。
まるで、人を閉じこめる為だけに作られた家だった。
これほどまでに苦戦すると思っていなかった私は人気のないところで少し休憩することにした。
辺りは暗く、明かりはぽつりぽつりと灯されている蝋燭のみだった。
本当に、厄介なところに来てしまった。
(……きっと、心優しいお嬢様は急に姿を消してしまった私をとても心配なされているでしょうね……)
どうせなら、私のことなどただのメイドだからと切り捨ててくれれば、どれほど楽なことか。
彼女がきっと──いや、絶対に私の帰りを待っているだろうから、私は彼女の元へと無事に帰還しなければならない。
私のことを必要としてくれている人の元へ帰らなければならない。
まるでこれは一種の呪いだ。
彼女は私を見えない鎖で縛り付けている。なのに、その鎖はタチが悪く、縛られていても苦痛を感じないし、あの純粋な瞳で見られると使命感が湧き出てくる。
(エマ様…………)
私はもう、とっくにエマ様の忠実なメイドなのだ。
私はまだ出会えぬ主の顔を浮かべ、身を奮い立たせた。
もうこんなに時間が経過している。おそらく、私が脱走していることを相手は把握している可能性が高い。
私は再び身を低くして、四つん這いで暗い廊下を進んで行った。
(きっと、出られる──)
確証も無いのに、何故か信じようとしてしまう。昔の私は絶対にこんなことはしなかった。
誰のことも信じず、ただ従順に親のために働いていた。
しかし、そんな思想を変えてしまったのは紛れもないエマ様だ。
エマ様のせいで、私は間抜けで、愚かで、救いようがなくて………諦めの悪い人間に近づいてしまった。
(………感謝しております。エマ様)
私は力強く歩き出す。
希望を持って進み始めた、その時だった。
「───やっと見つけたぞ。…………この、ひとでなしが」
扉越しに聞こえたしゃがれた声が、すぐ背後にはっきりと聞こえた。
希望が絶望に、変わる瞬間だった。
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