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脱・引きこもり姫
大切な人④-レイア視点-
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しゃがれた声が、私のすぐ背後から聞こえた。私はまるで壊れた人形のようにギギギと、恐ろしげに背後を見た。
目の前には私を蔑むかのように怒りを露にした白髪をはやした男が立っていた。
「あ………」
私は一瞬で、死を悟った。
男は右手でついていた杖をゆっくり上に向けると勢いよくそれを振り下ろした。
廊下に激しい音が響く。
「っ………」
「今のは脅しだ。お前は手ぶら、こちらは人を殺害できる凶器を持っている。降伏するなら自分の口で言え」
私は相手を睨みつけたまま、両手を挙げた。
「ふん……どうせ捕まるというのに小賢しい真似を……。ほら、さっさと立て!ディテール家を殺した大罪人!!」
「…………!」
ディテール家というのは、私の実家の名───つまり、私の家族の事を示している。
田舎の方の男爵家で、特にこれといった特徴も無かったが、私の亡き兄は優秀であったと少しばかり有名になっていた。
つまりこの男は私の家族に何らかの関係があり、火事で死んでしまった私の家族を、私が殺害したと勘違いしている……?
この男の反応をみるに、あながち間違えでは無いのかもしれない。
しかし、一体何故、この男が私を誘拐までしてディテール家に執着しているのか、未だよく分からない。
それに、今は真相を突き止めるよりも自身の命を一番に考えなければ。
男は私の腕を再度縛り、そのまま痣が浮かび上がるほどにぎりり、と強く腕を掴んで私を連れて歩いた。
私がこの男一人を倒すのは容易ではあるが、今それを行うと真相を聞けずに終わってしまうかもしれない。
もう二度とこんなことがないよう、早めに種は摘んでおきたかった。
私が連れられたのは最初いた部屋よりも、大分豪華な部屋だった。
周囲に窓は一つ。それも大きな窓だ。しかし、赤いカーテンが掛かっているせいで、外の様子は見られない。
月光らしきものが垣間見えるので、今は深夜と思われた。
しかし、そこからの脱出は不可能だろう。大きな窓故に、頑丈にロックが掛かっており、ガラスも分厚い。全く窓から音がしないのがその証拠だ。
しかも、ここは恐らく3階か2階。下から足音や廊下に階段があったことからそれは推察できる。
窓から降りたら、きっと大怪我は免れない。
私は窓から目を外し、今度は周囲をぐるりと見てみる。
小さなデーブルに、高級そうな椅子。
そして、まるでこの部屋の主役だとも言うべき、分厚く白い布が掛けられた巨大な絵画。
何が描かれているか、布が掛かっているせいで分からない。
私が辺りを見回していると、男が主張するかのようにゴツン、と杖を地面に打ち付ける。
私は即座に彼を見た。その冷淡な瞳に脅迫されている気持ちになる。
男は静かに、そして怒気を含んだ声で低く話し出した。
「お前、ここに何故連れられたか、分かっているか?」
「………いいえ、全く」
私は言葉を選んで慎重に話す。
相手を刺激しないように。
すると、男はおもむろに絵画に近寄って、絵画に掛けられていた白い布を勢いよく剥がした。
私は描かれていた絵画に、息を呑んだ。
────描かれていたのはディテール家全員が描かれた油絵だった。
「…………何故………」
私はゆっくりと男を見る。そこで、ふと気づいた。
何年も見ていなかったせいで、忘れそうになっていたが、男の目は母と同じく、深い青の瞳をしていた。
「!……まさか、貴方……!!」
男はニヤリと気味悪く笑ったのを最後に私は背後から麻袋を被せられた。
視界が一気に真っ暗になり、瞬間なにをされたか分からなくなった。
その隙をついてか、腹部に衝撃が襲った。
「あ”ぐっ………!!」
男が持っていたであろう杖の細長い棒が私の腹部を突き刺した。
まるで抉るように、強く。
「ようやく……ようやく思い出したか!!この殺人犯め!!!」
「あ”がっ……!!」
もう一度男は私の腹部を殴る。
「今まで、ずっと悩んできた!!お前が私の愛しい娘を殺して、お前が!!私の愛しい娘を苦しめて!!ずっと!ずっとずっと恨んできた!!優秀な兄と違って私の愛娘に恥をかかせるばかり、挙句の果てにはお前は娘を殺した!!!ふざけるな!!この恩知らずが!貴様などがのうのうと侯爵家のメイドとなり暮らすな!!この大罪人が!!」
彼はそう怒鳴っている間、何度も何度も私を殴りつけたり、蹴ったり、叩いたりを繰り返した。
私は麻袋に入れられているせいで、何がなにやら分からず、そのまま拷問をされ続けた。
男は怒りを鎮めることなく、永遠に殴りつけてくる。
「貴様のようなゴミが、クズが、親不孝が、この世の原理を壊すのだ……!私の恨みを果たすために、娘の願いを叶えるために……お前を今ここで殺す……!!」
そうか、私は今殺されるのか。
本気で傷を与えるためか、麻袋が取り外され、視界が見えるようになった。
しかし、私の体はもう限界だった。
頭や身体が強く打ち付けられ、血が出ている気がするが、何より感覚がない。
ぼうっとする。
ただそれだけだった。
死の瞬間まで、私は静かに待った。
ただ一つ、心残りなのはお嬢様とのお約束を果たせなかったこと。
ずっと、見守りたかった。成長を共に感じたかった。
───もっと、一緒に笑い合いたかった。
そこで、朧気な脳でようやく分かる。
私はとうの昔からお嬢様のことを大切な家族で、愛しい人で、何よりも守りたい、たった一人のお方なのだと、認識していたのだ。
それなのに私は……とても酷いことをした。
お嬢様の優しい心に救われながらも、冷たい態度をとって否定してしまっていた。
悲しい。涙が出てくる。謝りたい。
感情がごちゃごちゃになって、麻袋が血と涙で混ざって濡れる。
あぁ……!死にたくなんてない……!
もっとお嬢様と、生きていたい……!!!
死ぬ間際にそんなことを思うなんて、私は愚かだ。
この命はとうの昔にお嬢様に授けたはずのに、お嬢様がそれを押し留めようとするから、私は───……
───生きたいと思ってしまったのだ。
何かが勢いよく空気を切る音がする。きっと凶器を振り下ろされ、私は死ぬのだろう。
恐怖が胸を支配し、唇を強く噛んだ。
「死ねえええぇぇえぇええ!!!」
「っ……!!!」
次の瞬間だった。
脱出不可能だと思われた大きな窓から、ガラスが割れた音がし、割れた窓から一人の小さな少女が飛び出して来た。
「──そんなこと、私がさせる訳無いでしょ!!!」
飛び出して来た少女は、紛れもない私の唯一無二のお嬢様だった。
目の前には私を蔑むかのように怒りを露にした白髪をはやした男が立っていた。
「あ………」
私は一瞬で、死を悟った。
男は右手でついていた杖をゆっくり上に向けると勢いよくそれを振り下ろした。
廊下に激しい音が響く。
「っ………」
「今のは脅しだ。お前は手ぶら、こちらは人を殺害できる凶器を持っている。降伏するなら自分の口で言え」
私は相手を睨みつけたまま、両手を挙げた。
「ふん……どうせ捕まるというのに小賢しい真似を……。ほら、さっさと立て!ディテール家を殺した大罪人!!」
「…………!」
ディテール家というのは、私の実家の名───つまり、私の家族の事を示している。
田舎の方の男爵家で、特にこれといった特徴も無かったが、私の亡き兄は優秀であったと少しばかり有名になっていた。
つまりこの男は私の家族に何らかの関係があり、火事で死んでしまった私の家族を、私が殺害したと勘違いしている……?
この男の反応をみるに、あながち間違えでは無いのかもしれない。
しかし、一体何故、この男が私を誘拐までしてディテール家に執着しているのか、未だよく分からない。
それに、今は真相を突き止めるよりも自身の命を一番に考えなければ。
男は私の腕を再度縛り、そのまま痣が浮かび上がるほどにぎりり、と強く腕を掴んで私を連れて歩いた。
私がこの男一人を倒すのは容易ではあるが、今それを行うと真相を聞けずに終わってしまうかもしれない。
もう二度とこんなことがないよう、早めに種は摘んでおきたかった。
私が連れられたのは最初いた部屋よりも、大分豪華な部屋だった。
周囲に窓は一つ。それも大きな窓だ。しかし、赤いカーテンが掛かっているせいで、外の様子は見られない。
月光らしきものが垣間見えるので、今は深夜と思われた。
しかし、そこからの脱出は不可能だろう。大きな窓故に、頑丈にロックが掛かっており、ガラスも分厚い。全く窓から音がしないのがその証拠だ。
しかも、ここは恐らく3階か2階。下から足音や廊下に階段があったことからそれは推察できる。
窓から降りたら、きっと大怪我は免れない。
私は窓から目を外し、今度は周囲をぐるりと見てみる。
小さなデーブルに、高級そうな椅子。
そして、まるでこの部屋の主役だとも言うべき、分厚く白い布が掛けられた巨大な絵画。
何が描かれているか、布が掛かっているせいで分からない。
私が辺りを見回していると、男が主張するかのようにゴツン、と杖を地面に打ち付ける。
私は即座に彼を見た。その冷淡な瞳に脅迫されている気持ちになる。
男は静かに、そして怒気を含んだ声で低く話し出した。
「お前、ここに何故連れられたか、分かっているか?」
「………いいえ、全く」
私は言葉を選んで慎重に話す。
相手を刺激しないように。
すると、男はおもむろに絵画に近寄って、絵画に掛けられていた白い布を勢いよく剥がした。
私は描かれていた絵画に、息を呑んだ。
────描かれていたのはディテール家全員が描かれた油絵だった。
「…………何故………」
私はゆっくりと男を見る。そこで、ふと気づいた。
何年も見ていなかったせいで、忘れそうになっていたが、男の目は母と同じく、深い青の瞳をしていた。
「!……まさか、貴方……!!」
男はニヤリと気味悪く笑ったのを最後に私は背後から麻袋を被せられた。
視界が一気に真っ暗になり、瞬間なにをされたか分からなくなった。
その隙をついてか、腹部に衝撃が襲った。
「あ”ぐっ………!!」
男が持っていたであろう杖の細長い棒が私の腹部を突き刺した。
まるで抉るように、強く。
「ようやく……ようやく思い出したか!!この殺人犯め!!!」
「あ”がっ……!!」
もう一度男は私の腹部を殴る。
「今まで、ずっと悩んできた!!お前が私の愛しい娘を殺して、お前が!!私の愛しい娘を苦しめて!!ずっと!ずっとずっと恨んできた!!優秀な兄と違って私の愛娘に恥をかかせるばかり、挙句の果てにはお前は娘を殺した!!!ふざけるな!!この恩知らずが!貴様などがのうのうと侯爵家のメイドとなり暮らすな!!この大罪人が!!」
彼はそう怒鳴っている間、何度も何度も私を殴りつけたり、蹴ったり、叩いたりを繰り返した。
私は麻袋に入れられているせいで、何がなにやら分からず、そのまま拷問をされ続けた。
男は怒りを鎮めることなく、永遠に殴りつけてくる。
「貴様のようなゴミが、クズが、親不孝が、この世の原理を壊すのだ……!私の恨みを果たすために、娘の願いを叶えるために……お前を今ここで殺す……!!」
そうか、私は今殺されるのか。
本気で傷を与えるためか、麻袋が取り外され、視界が見えるようになった。
しかし、私の体はもう限界だった。
頭や身体が強く打ち付けられ、血が出ている気がするが、何より感覚がない。
ぼうっとする。
ただそれだけだった。
死の瞬間まで、私は静かに待った。
ただ一つ、心残りなのはお嬢様とのお約束を果たせなかったこと。
ずっと、見守りたかった。成長を共に感じたかった。
───もっと、一緒に笑い合いたかった。
そこで、朧気な脳でようやく分かる。
私はとうの昔からお嬢様のことを大切な家族で、愛しい人で、何よりも守りたい、たった一人のお方なのだと、認識していたのだ。
それなのに私は……とても酷いことをした。
お嬢様の優しい心に救われながらも、冷たい態度をとって否定してしまっていた。
悲しい。涙が出てくる。謝りたい。
感情がごちゃごちゃになって、麻袋が血と涙で混ざって濡れる。
あぁ……!死にたくなんてない……!
もっとお嬢様と、生きていたい……!!!
死ぬ間際にそんなことを思うなんて、私は愚かだ。
この命はとうの昔にお嬢様に授けたはずのに、お嬢様がそれを押し留めようとするから、私は───……
───生きたいと思ってしまったのだ。
何かが勢いよく空気を切る音がする。きっと凶器を振り下ろされ、私は死ぬのだろう。
恐怖が胸を支配し、唇を強く噛んだ。
「死ねえええぇぇえぇええ!!!」
「っ……!!!」
次の瞬間だった。
脱出不可能だと思われた大きな窓から、ガラスが割れた音がし、割れた窓から一人の小さな少女が飛び出して来た。
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