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脱・引きこもり姫
三人デート?
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馬車に揺られながら、三人で向かった場所はとあるスイーツのお店だった。
「ここは、最近ご令嬢に人気のスイーツ屋だと聞いてやって来たんだ。君は甘いものは好きかい?」
「あっ、はい!好きですし、よく食べます。こんな美味しそうなお店に行けるなんて光栄です」
私は今のこの状況を少しでも楽しむ為に、店に並んでいるお菓子をじーっと見つめる。
(どれもキラキラして、宝石みたい)
私はその中でも、大きな苺が乗ったショートケーキを頼んだ。飲み物はブラックコーヒーだ。
「お前、ブラックコーヒーなんて飲めるんだな」
私がショーケースを覗き込んでいる横にアルビー様が顔を近づけて話しかけてきた。
私はそれに驚きつつも答えた。
「甘いものを食べすぎると胸焼けを起こしてしまうんです。コーヒーと一緒に食べると胸焼けを起こさず、尚且つ味変して食べれるのでオススメですよ」
「うげぇ。俺、ブラックコーヒーとか一生無理。せっかく甘いものがあるんだから思いっきし甘いものを食べるべきだろ」
そう言って、彼が頼んだのはシンプルな白いシフォンケーキと果物たっぷりのタルト、そして砂糖たっぷりのココアだった。
「アルビー様って、意外と甘党なんですね………」
「どっちかって言うと肉の方が好きだけどな。でも、甘いものはその次に好きだ!」
それにしてもよく食べるな……彼には胸焼けという概念が無いのだろうか。あんなに沢山甘いものを食べているのに、細マッチョな体を維持出来るなんて心底羨ましい。
「二人とも頼んだみたいだし、この店の席を予約しといたから、席で座って待っていようか」
そう言って、ルイズ様の案内に着いて行ったそこは、店のVIPルームだった。
「は、はぇえ…………」
流石王子。やる事が庶民思考の私と違う。
絢爛豪華なそこは金色で統一された家具で、いかにも高そうな椅子と机、絵画に花瓶にシャンデリアまでも用意されていた。
もふもふとした赤いカーペットを私は恐る恐る踏んで、席に着いた。
「やっぱり人気店なだけあってVIPルームも悪くないね。予約してよかったよ。君はどう?気に入ってくれた?」
「は、はい!とても素敵だと思います。私には勿体無いくらいで」
「ふふ、そうかな?侯爵令嬢である君はもっと自分の地位を見直した方がいいよ」
そう言って、私たち三人は席に着いた。
席に着いたは良いものの、会話が全く無く、静かな空気に私は頭を抱えたくなった。
(き、気まずい………この二人って仲が良い設定なんじゃ無かったの!?)
アルビー様もルイズ様も会話をすることなく、静かに目を伏せていた。
(アルビー様、なんでこんな時だけ静かなの!?)
私は耐えきれなくなって、自分から話題を振った。
「お、お二人は王子様方の仲でもとりわけ仲が良いと聞きました。いつもどんなお話をしているんですか?」
「今更そんな質問をするのか?」
「ふふ、前に僕が訪問したとき、横でずっと聞いていたでしょ?もしかして忘れちゃった?」
「い、いえ!忘れてはないです。ただ、昔から仲が良かったのかなーと……」
「それって、皇族の情報を聞き出そうとしてる?」
「えっ………」
私はそんなつもりは無いと、慌てて首を横にブンブン振る。
「あははっ、冗談だよ。エマはそんなことしないって分かってるから。うーん………そうだね………あんまり面白い話は無いけど、少しなら話せるよ」
「えっ、ど、どんなのですか?」
私はこの気まずい空気を打ち消すためならなんでも良いと思い、食い気味に質問する。
ルイズ様は綺麗な白い手を顎に当てて、思い出そうとしていた。
「アルビーが昔、おねしょしていた話とか」
「おいルイズ!!!」
ルイズ様はクスクス笑って、そんなルイズ様をアルビー様が慌てて阻止していた。
「アルビーは小さい頃は僕と部屋が近くてね。だから、おもらしした時は僕に相談しに来て、僕の専属執事に内緒で洗濯してもらったなぁ」
「~~~~っ!!ルイズ!もう勘弁してくれ………」
「あははっ、ごめんねアルビー。懐かしいものだからつい」
項垂れたアルビー様にぽんぽんと、背中を叩くルイズ様。
(やっぱりこの二人は仲良しなんだな)
「……………なんだよ、エマ。馬鹿にするなら馬鹿にしろよ」
「えっ、馬鹿になんて。そんな」
「じゃあなんでこっち見てたんだよ」
「いえ………お二人はやっぱり仲良しなんだなって………そう思ってただけです。馬鹿になんてしてません」
「仲良しねぇ…………」
アルビー様はルイズ様をじっと見て、そんなアルビー様にルイズ様はニコリと笑った。
アルビー様はまたぐったりと項垂れて、机に突っ伏した。
すると、注文していたケーキがやって来て、私たちはケーキを食べながら再び談笑した。
(!このケーキめちゃくちゃ美味しい………)
有名店なだけあって、頼んだケーキは皇室で食べる料理と同じようにとても美味しかった。
私がもぐもぐとケーキを味わっていると、ルイズ様に話しかけられた。
「そういえば、エマはこの後どこへ行きたい?このケーキ屋に行く以外、予定は立ててないのだけれど。君の好きな場所へ僕もついて行くよ」
「えっ、よろしいのですか?…………と言っても私も特に行きたい場所は無くてですね………」
強いて言うなら部屋に帰らせてほしいと言いたいが、そんなことを許されないのは目に見えているので、さっさと終わらすべく私はどこも行かないという選択肢を敢えて伝えた。
「ふむ…………じゃあその辺を散歩でもしてみようか。出店も出ているみたいだし、欲しいものが見つかるかもよ?ああでも、最近は誘拐事件が発生しているらしいし、気をつけてね」
「は、はあ…………」
私の願いは虚しく、ルイズ様の一言に一蹴されてしまった。誘拐事件なんて危ないから早めに帰ろうと言ったら帰してくれないだろうか。
私が意味の無いことを考えていると、唐突にアルビー様から爆弾が落とされた。
「そういや、さっきお前らの馬車を追っかけてた時、女王候補の一人のリル・キャロメ嬢に出会ったぞ」
「ごほっ、ごほっ!!」
急にその名を聞いた時、私はコーヒーを吹き出しそうになってしまった。
「だ、大丈夫か?エマ」と私を心配するアルビー様に、私はこう言った。
「アルビー様!リル様は一体どこへ行くつもりなのか、聞きませんでしたか?」
「ん、んん?リル嬢が行く場所?そんな余裕無かったから、ただ挨拶しただけでそのまま通り過ぎたぞ」
「そ、そうですか…………」
もし、主人公が向かっている場所に私たちがたまたま出会ってしまったら、それはとても大変なことになる。
(ゲーム進行が狂ってしまう………!!)
「………そんなにリル嬢のことが気になるのかい?だったら一度引き返して………」
「いえいえいえ!そんな、引き返さなくて大丈夫です!このまま王都から離れた場所でゆっくり過ごしましょう!!」
恐ろしい提案をするルイズ様に私は首を横に振った。
「そう?じゃあ、やっぱりここら辺を少し散歩してみようか」
私はその提案を喜んで受け入れた。
店を出て少し歩くと、たくさんの出店が並んでいる通りに来た。
人もたくさんおり、歩きながら宣伝している人や食べ歩きをしている人もいた。
「何か気になるものはある?食べ物でも物でもなんでもいいよ」
「え、そ、そうですね…………あ、これとか素敵ですね」
私は目に入った緑色の指輪を適当に指す。
「ふーん………君ってアクセサリーに興味あったんだ」
「えっ」
(ルイズ様は私のことを一体なんだと思っているの……!?)
「エマ、お前の好きなもんはそういうのじゃないだろ。ほら、あそこにお前の好きなオレンジが売ってるぞ。買ってきてやろーか?」
「えっ、そうなんですか……──って、そこまで食い意地張ってませんよ!!」
たしかに私はアクセサリーよりも食べ物の方が需要があると考えがちだが、オシャレに興味が無いという訳では断じて無い!
「ぷっ、あっははは!ちょっと釣られてんじゃねーか。くははっ、ほら、そこで待ってろ。買ってきてやる」
そう言ってアルビー様は果物屋へ駆け出した。
「………………まさかここで差を見せつけられるなんてね」
「………?差ですか?」
「ああ、いいや。何でもないよ。立って食べるのも何だし、どこかの広場のベンチに座ろうか」
「そうですね……?アルビー様が帰ってきたら行きましょう」
アルビー様が帰ってきて、私たちは近くの広場のベンチに三人並んで座った。
(なんで真ん中が私なんだろう………)
私は居心地の悪さを感じつつ、アルビー様が買ってきてくれたオレンジを皮を剥いて齧り付く。
「………………ふふっ」
「むぐ………?なんですか?」
「いいや、オレンジにそのまま齧り付く令嬢なんて、初めて見たから面白くて。ふふふ」
「あっ、た、たしかに下品ですよね!申し訳ありません」
「ううん、君は謝らなくて良いんだ。そこが君のいいところで僕の好きな部分でもあるんだから」
「…………?あ、ありがとうございます……?」
褒められた?よく分からないけれど、怒られなくて良かったと思う。前世の感覚が残って、令嬢らしくないことをしてしまった。気をつけなければ。
しばらく広場でオレンジを頬張っていると、目の前に小さな女の子がやって来た。
ボロボロの薄汚れた白いワンピースにボサボサした頭髪、肌は傷だらけで手のひらは汚れている上に傷跡がたくさんあった。
「あ、あの!た、たすけて………私の弟を助けて下さい!!」
女の子はその場で私たちに向かって土下座をした。
「………───え、ええええ!?ちょ、ちょっと大丈夫?そんな、土下座なんてしないで顔を上げて?」
私はすぐさま女の子の元へ駆け寄り起き上がらせた。
「……あなた、ここら辺に住んでいる子?弟って………一体何があったの?」
「っ…………た、たすけてくれるんですか…………?」
そう聞かれて、私は困惑してアルビー様とルイズ様の顔を見た。
二人はその様子を見て、安心させるように女の子に寄り添った。
「大丈夫だ。俺らが弟を助けてやるよ。安心しろ」
「ほら、泣かないで。せっかくの可愛らしいお顔が台無しだよ?はい、ハンカチだよ」
二人がそう言って、私は安心した。私だけの判断で独断行動してしまったら二人に迷惑がかかってしまうかもしれないと思ったからだ。
「ぐすんっ………あ、ありがと………ございますっ………!!じ、実は私の弟が、知らない男の人たちに攫われて………!わ、わたしっ、怖くって、何もできなくて………!弟はそのまま連れ去られて………っ」
「!それは誘拐なんじゃ…………!?」
涙を浮かべる女の子はルイズ様から貰ったハンカチを両手で握り締めながら苦しそうに語った。
その姿が余りにも痛々しくて、私は背中をさすってあげた。
「つまり、俺らはお前んの弟を連れ去った男たちを退治すれば良いんだな。任せろ。楽勝だ。すぐに取り返してきてやるよ」
「うん、大丈夫だよ。君の弟を危険な目にはあわせないから。それより、どうしてそんな話を僕たちにしてきたの?」
「っ………ごめんなさい……わ、私、みなさんに助けを求めたら助けてくれるかもしれないって思って……っ。他の大人の人達は話を聞いてももらえなくて…………だから、話を聞いてくれたのはみなさんが初めてで…………っ!」
きっとこの子は私たちに助けを呼ぶ前に他の色んな人に声をかけて助けを求めていたんだろう。
その様子を想像すると、胸がとても痛くなる。
「…………なるほどね。ふふっ、僕たちに頼んで正解だよ。大丈夫、絶対に連れ戻すから。君は安全な所で待っているんだよ。傷だらけなんだし、手当もしてもらいなさい。それと、連れ去られた場所はわかるかな?」
「わ、わかるよ!あの、ほんとに、本当にありがとう…………っ!!」
アルビー様とルイズ様の言葉に女の子は再び頭を下げた。
「ねぇ、あなたお名前は?弟さんのお名前もおしえてくれる?」
「わ、私の名前はテア。弟の名前はアテナだよ」
「テアにアテナね。素敵なお名前だわ。今まで弟さんの為によく頑張ったね。貴方は素敵なお姉さんだわ。後は私たちに任せて」
「う、うん!お姉ちゃんもありがとう……!!」
「あ、そうだ。このオレンジ食べる?食べかけで申し訳無いのだけれど半分にしたら口は付けてないところはあげられるから」
私は食べかけのオレンジを半分に割ってテアに渡す。
「!嬉しい……………ありがとうお姉ちゃん!」
テアはとても嬉しそうに笑い、大事そうにオレンジを持っていた。
テアはそのまま馬車に乗せて弟のアテナを連れ戻すまで待機してもらうことにした。待っている間、護衛の人たちが手当てを施すことになった。
「さてと、場所も聞いたし、警備隊も呼んだことだから、僕たちは救出作戦に行くとしますか。最近、王都で誘拐事件が起きてたらしいから、今回はその尻尾を掴めるかもしれない。ね、団長さん」
「そうだな。騎士団長として、俺は絶対許さない。何としてでも捕まえる」
「そうこなくっちゃ」
アルビー様とルイズ様は腰に剣を携えて敵を討つ準備をしだした。
「そんじゃエマ、お前も馬車で───って、なんでお前も剣を携えてんだよ!」
「え?一緒に行くからに決まってるじゃないですか」
「何言ってんだよ!お前が行ったら危ないに決まってるだろ!それにお前剣なんて…………」
「アルビー、知らないの?女王候補になる為の試験の一つで女王候補は剣技を習ってるんだよ?」
「…………は?そうなのか?」
アルビー様はポカンとした様子で私を見る。私はそれに頷き、念の為と思って持ってきておいた髪ゴムで髪を結び出す。
「私は魔法こそ使えませんが、剣の腕なら騎士にも劣りませんよ。絶対に足でまといにはなりません。なので、私も一緒に行きたいです!」
私はルイズ様とアルビー様に頼み込んだ。
「……………ちっ、仕方ねぇなぁ………でもちょっとでも危ないと思ったらすぐに逃げろよ!出来るだけ助けられるようにはするけど、いざとなった時は分からないからな!」
「うん、僕も異論は無いよ。戦力が増えるのもそうだけど、そもそも傷つけさせるつもりなんて微塵も無いからね」
「………!ありがとうございます!」
私は二人にお礼をし、気合いを入れた。
「ちょ、ちょっとお待ちください!お三人方!我々が皆様を危険な目にはあわせてはなりません。ここは警備隊の助けを待った方が───!」
慌てて間に入った召使いの一人が私たちに訴えかけた。
「何言ってんだよ。そんな待っていたらアテアの命が危ないかもしれないんだぞ。それに俺は国民を守る騎士団長だ。こんな時に動かない奴が団長になんてなれるかよ」
「私もそれは同意見です。私はこの国民の女王を目指す者です。小さな男の子一人守れないで、女王になる資格は無いと思います」
「で、ですが………!!」
「大丈夫だよ。兄上には僕から言っておくから。君も知ってるでしょ?僕たちがそんな簡単にやられる奴らじゃないってことくらい。それに、三人だけで乗り込む訳じゃないんだ。護衛も勿論連れていくさ。だから、お願いだ」
「………………っ!分かりました!ですが、護衛は厳重にさせて頂きますからね!!」
「うん、ありがとう」
そう言ってルイズ様は召使いを納得させた。
お互いに納得した後、私たちは敵を討つべく、アテナが攫われたとする建物へと向かって馬車が動き出した。
「ここは、最近ご令嬢に人気のスイーツ屋だと聞いてやって来たんだ。君は甘いものは好きかい?」
「あっ、はい!好きですし、よく食べます。こんな美味しそうなお店に行けるなんて光栄です」
私は今のこの状況を少しでも楽しむ為に、店に並んでいるお菓子をじーっと見つめる。
(どれもキラキラして、宝石みたい)
私はその中でも、大きな苺が乗ったショートケーキを頼んだ。飲み物はブラックコーヒーだ。
「お前、ブラックコーヒーなんて飲めるんだな」
私がショーケースを覗き込んでいる横にアルビー様が顔を近づけて話しかけてきた。
私はそれに驚きつつも答えた。
「甘いものを食べすぎると胸焼けを起こしてしまうんです。コーヒーと一緒に食べると胸焼けを起こさず、尚且つ味変して食べれるのでオススメですよ」
「うげぇ。俺、ブラックコーヒーとか一生無理。せっかく甘いものがあるんだから思いっきし甘いものを食べるべきだろ」
そう言って、彼が頼んだのはシンプルな白いシフォンケーキと果物たっぷりのタルト、そして砂糖たっぷりのココアだった。
「アルビー様って、意外と甘党なんですね………」
「どっちかって言うと肉の方が好きだけどな。でも、甘いものはその次に好きだ!」
それにしてもよく食べるな……彼には胸焼けという概念が無いのだろうか。あんなに沢山甘いものを食べているのに、細マッチョな体を維持出来るなんて心底羨ましい。
「二人とも頼んだみたいだし、この店の席を予約しといたから、席で座って待っていようか」
そう言って、ルイズ様の案内に着いて行ったそこは、店のVIPルームだった。
「は、はぇえ…………」
流石王子。やる事が庶民思考の私と違う。
絢爛豪華なそこは金色で統一された家具で、いかにも高そうな椅子と机、絵画に花瓶にシャンデリアまでも用意されていた。
もふもふとした赤いカーペットを私は恐る恐る踏んで、席に着いた。
「やっぱり人気店なだけあってVIPルームも悪くないね。予約してよかったよ。君はどう?気に入ってくれた?」
「は、はい!とても素敵だと思います。私には勿体無いくらいで」
「ふふ、そうかな?侯爵令嬢である君はもっと自分の地位を見直した方がいいよ」
そう言って、私たち三人は席に着いた。
席に着いたは良いものの、会話が全く無く、静かな空気に私は頭を抱えたくなった。
(き、気まずい………この二人って仲が良い設定なんじゃ無かったの!?)
アルビー様もルイズ様も会話をすることなく、静かに目を伏せていた。
(アルビー様、なんでこんな時だけ静かなの!?)
私は耐えきれなくなって、自分から話題を振った。
「お、お二人は王子様方の仲でもとりわけ仲が良いと聞きました。いつもどんなお話をしているんですか?」
「今更そんな質問をするのか?」
「ふふ、前に僕が訪問したとき、横でずっと聞いていたでしょ?もしかして忘れちゃった?」
「い、いえ!忘れてはないです。ただ、昔から仲が良かったのかなーと……」
「それって、皇族の情報を聞き出そうとしてる?」
「えっ………」
私はそんなつもりは無いと、慌てて首を横にブンブン振る。
「あははっ、冗談だよ。エマはそんなことしないって分かってるから。うーん………そうだね………あんまり面白い話は無いけど、少しなら話せるよ」
「えっ、ど、どんなのですか?」
私はこの気まずい空気を打ち消すためならなんでも良いと思い、食い気味に質問する。
ルイズ様は綺麗な白い手を顎に当てて、思い出そうとしていた。
「アルビーが昔、おねしょしていた話とか」
「おいルイズ!!!」
ルイズ様はクスクス笑って、そんなルイズ様をアルビー様が慌てて阻止していた。
「アルビーは小さい頃は僕と部屋が近くてね。だから、おもらしした時は僕に相談しに来て、僕の専属執事に内緒で洗濯してもらったなぁ」
「~~~~っ!!ルイズ!もう勘弁してくれ………」
「あははっ、ごめんねアルビー。懐かしいものだからつい」
項垂れたアルビー様にぽんぽんと、背中を叩くルイズ様。
(やっぱりこの二人は仲良しなんだな)
「……………なんだよ、エマ。馬鹿にするなら馬鹿にしろよ」
「えっ、馬鹿になんて。そんな」
「じゃあなんでこっち見てたんだよ」
「いえ………お二人はやっぱり仲良しなんだなって………そう思ってただけです。馬鹿になんてしてません」
「仲良しねぇ…………」
アルビー様はルイズ様をじっと見て、そんなアルビー様にルイズ様はニコリと笑った。
アルビー様はまたぐったりと項垂れて、机に突っ伏した。
すると、注文していたケーキがやって来て、私たちはケーキを食べながら再び談笑した。
(!このケーキめちゃくちゃ美味しい………)
有名店なだけあって、頼んだケーキは皇室で食べる料理と同じようにとても美味しかった。
私がもぐもぐとケーキを味わっていると、ルイズ様に話しかけられた。
「そういえば、エマはこの後どこへ行きたい?このケーキ屋に行く以外、予定は立ててないのだけれど。君の好きな場所へ僕もついて行くよ」
「えっ、よろしいのですか?…………と言っても私も特に行きたい場所は無くてですね………」
強いて言うなら部屋に帰らせてほしいと言いたいが、そんなことを許されないのは目に見えているので、さっさと終わらすべく私はどこも行かないという選択肢を敢えて伝えた。
「ふむ…………じゃあその辺を散歩でもしてみようか。出店も出ているみたいだし、欲しいものが見つかるかもよ?ああでも、最近は誘拐事件が発生しているらしいし、気をつけてね」
「は、はあ…………」
私の願いは虚しく、ルイズ様の一言に一蹴されてしまった。誘拐事件なんて危ないから早めに帰ろうと言ったら帰してくれないだろうか。
私が意味の無いことを考えていると、唐突にアルビー様から爆弾が落とされた。
「そういや、さっきお前らの馬車を追っかけてた時、女王候補の一人のリル・キャロメ嬢に出会ったぞ」
「ごほっ、ごほっ!!」
急にその名を聞いた時、私はコーヒーを吹き出しそうになってしまった。
「だ、大丈夫か?エマ」と私を心配するアルビー様に、私はこう言った。
「アルビー様!リル様は一体どこへ行くつもりなのか、聞きませんでしたか?」
「ん、んん?リル嬢が行く場所?そんな余裕無かったから、ただ挨拶しただけでそのまま通り過ぎたぞ」
「そ、そうですか…………」
もし、主人公が向かっている場所に私たちがたまたま出会ってしまったら、それはとても大変なことになる。
(ゲーム進行が狂ってしまう………!!)
「………そんなにリル嬢のことが気になるのかい?だったら一度引き返して………」
「いえいえいえ!そんな、引き返さなくて大丈夫です!このまま王都から離れた場所でゆっくり過ごしましょう!!」
恐ろしい提案をするルイズ様に私は首を横に振った。
「そう?じゃあ、やっぱりここら辺を少し散歩してみようか」
私はその提案を喜んで受け入れた。
店を出て少し歩くと、たくさんの出店が並んでいる通りに来た。
人もたくさんおり、歩きながら宣伝している人や食べ歩きをしている人もいた。
「何か気になるものはある?食べ物でも物でもなんでもいいよ」
「え、そ、そうですね…………あ、これとか素敵ですね」
私は目に入った緑色の指輪を適当に指す。
「ふーん………君ってアクセサリーに興味あったんだ」
「えっ」
(ルイズ様は私のことを一体なんだと思っているの……!?)
「エマ、お前の好きなもんはそういうのじゃないだろ。ほら、あそこにお前の好きなオレンジが売ってるぞ。買ってきてやろーか?」
「えっ、そうなんですか……──って、そこまで食い意地張ってませんよ!!」
たしかに私はアクセサリーよりも食べ物の方が需要があると考えがちだが、オシャレに興味が無いという訳では断じて無い!
「ぷっ、あっははは!ちょっと釣られてんじゃねーか。くははっ、ほら、そこで待ってろ。買ってきてやる」
そう言ってアルビー様は果物屋へ駆け出した。
「………………まさかここで差を見せつけられるなんてね」
「………?差ですか?」
「ああ、いいや。何でもないよ。立って食べるのも何だし、どこかの広場のベンチに座ろうか」
「そうですね……?アルビー様が帰ってきたら行きましょう」
アルビー様が帰ってきて、私たちは近くの広場のベンチに三人並んで座った。
(なんで真ん中が私なんだろう………)
私は居心地の悪さを感じつつ、アルビー様が買ってきてくれたオレンジを皮を剥いて齧り付く。
「………………ふふっ」
「むぐ………?なんですか?」
「いいや、オレンジにそのまま齧り付く令嬢なんて、初めて見たから面白くて。ふふふ」
「あっ、た、たしかに下品ですよね!申し訳ありません」
「ううん、君は謝らなくて良いんだ。そこが君のいいところで僕の好きな部分でもあるんだから」
「…………?あ、ありがとうございます……?」
褒められた?よく分からないけれど、怒られなくて良かったと思う。前世の感覚が残って、令嬢らしくないことをしてしまった。気をつけなければ。
しばらく広場でオレンジを頬張っていると、目の前に小さな女の子がやって来た。
ボロボロの薄汚れた白いワンピースにボサボサした頭髪、肌は傷だらけで手のひらは汚れている上に傷跡がたくさんあった。
「あ、あの!た、たすけて………私の弟を助けて下さい!!」
女の子はその場で私たちに向かって土下座をした。
「………───え、ええええ!?ちょ、ちょっと大丈夫?そんな、土下座なんてしないで顔を上げて?」
私はすぐさま女の子の元へ駆け寄り起き上がらせた。
「……あなた、ここら辺に住んでいる子?弟って………一体何があったの?」
「っ…………た、たすけてくれるんですか…………?」
そう聞かれて、私は困惑してアルビー様とルイズ様の顔を見た。
二人はその様子を見て、安心させるように女の子に寄り添った。
「大丈夫だ。俺らが弟を助けてやるよ。安心しろ」
「ほら、泣かないで。せっかくの可愛らしいお顔が台無しだよ?はい、ハンカチだよ」
二人がそう言って、私は安心した。私だけの判断で独断行動してしまったら二人に迷惑がかかってしまうかもしれないと思ったからだ。
「ぐすんっ………あ、ありがと………ございますっ………!!じ、実は私の弟が、知らない男の人たちに攫われて………!わ、わたしっ、怖くって、何もできなくて………!弟はそのまま連れ去られて………っ」
「!それは誘拐なんじゃ…………!?」
涙を浮かべる女の子はルイズ様から貰ったハンカチを両手で握り締めながら苦しそうに語った。
その姿が余りにも痛々しくて、私は背中をさすってあげた。
「つまり、俺らはお前んの弟を連れ去った男たちを退治すれば良いんだな。任せろ。楽勝だ。すぐに取り返してきてやるよ」
「うん、大丈夫だよ。君の弟を危険な目にはあわせないから。それより、どうしてそんな話を僕たちにしてきたの?」
「っ………ごめんなさい……わ、私、みなさんに助けを求めたら助けてくれるかもしれないって思って……っ。他の大人の人達は話を聞いてももらえなくて…………だから、話を聞いてくれたのはみなさんが初めてで…………っ!」
きっとこの子は私たちに助けを呼ぶ前に他の色んな人に声をかけて助けを求めていたんだろう。
その様子を想像すると、胸がとても痛くなる。
「…………なるほどね。ふふっ、僕たちに頼んで正解だよ。大丈夫、絶対に連れ戻すから。君は安全な所で待っているんだよ。傷だらけなんだし、手当もしてもらいなさい。それと、連れ去られた場所はわかるかな?」
「わ、わかるよ!あの、ほんとに、本当にありがとう…………っ!!」
アルビー様とルイズ様の言葉に女の子は再び頭を下げた。
「ねぇ、あなたお名前は?弟さんのお名前もおしえてくれる?」
「わ、私の名前はテア。弟の名前はアテナだよ」
「テアにアテナね。素敵なお名前だわ。今まで弟さんの為によく頑張ったね。貴方は素敵なお姉さんだわ。後は私たちに任せて」
「う、うん!お姉ちゃんもありがとう……!!」
「あ、そうだ。このオレンジ食べる?食べかけで申し訳無いのだけれど半分にしたら口は付けてないところはあげられるから」
私は食べかけのオレンジを半分に割ってテアに渡す。
「!嬉しい……………ありがとうお姉ちゃん!」
テアはとても嬉しそうに笑い、大事そうにオレンジを持っていた。
テアはそのまま馬車に乗せて弟のアテナを連れ戻すまで待機してもらうことにした。待っている間、護衛の人たちが手当てを施すことになった。
「さてと、場所も聞いたし、警備隊も呼んだことだから、僕たちは救出作戦に行くとしますか。最近、王都で誘拐事件が起きてたらしいから、今回はその尻尾を掴めるかもしれない。ね、団長さん」
「そうだな。騎士団長として、俺は絶対許さない。何としてでも捕まえる」
「そうこなくっちゃ」
アルビー様とルイズ様は腰に剣を携えて敵を討つ準備をしだした。
「そんじゃエマ、お前も馬車で───って、なんでお前も剣を携えてんだよ!」
「え?一緒に行くからに決まってるじゃないですか」
「何言ってんだよ!お前が行ったら危ないに決まってるだろ!それにお前剣なんて…………」
「アルビー、知らないの?女王候補になる為の試験の一つで女王候補は剣技を習ってるんだよ?」
「…………は?そうなのか?」
アルビー様はポカンとした様子で私を見る。私はそれに頷き、念の為と思って持ってきておいた髪ゴムで髪を結び出す。
「私は魔法こそ使えませんが、剣の腕なら騎士にも劣りませんよ。絶対に足でまといにはなりません。なので、私も一緒に行きたいです!」
私はルイズ様とアルビー様に頼み込んだ。
「……………ちっ、仕方ねぇなぁ………でもちょっとでも危ないと思ったらすぐに逃げろよ!出来るだけ助けられるようにはするけど、いざとなった時は分からないからな!」
「うん、僕も異論は無いよ。戦力が増えるのもそうだけど、そもそも傷つけさせるつもりなんて微塵も無いからね」
「………!ありがとうございます!」
私は二人にお礼をし、気合いを入れた。
「ちょ、ちょっとお待ちください!お三人方!我々が皆様を危険な目にはあわせてはなりません。ここは警備隊の助けを待った方が───!」
慌てて間に入った召使いの一人が私たちに訴えかけた。
「何言ってんだよ。そんな待っていたらアテアの命が危ないかもしれないんだぞ。それに俺は国民を守る騎士団長だ。こんな時に動かない奴が団長になんてなれるかよ」
「私もそれは同意見です。私はこの国民の女王を目指す者です。小さな男の子一人守れないで、女王になる資格は無いと思います」
「で、ですが………!!」
「大丈夫だよ。兄上には僕から言っておくから。君も知ってるでしょ?僕たちがそんな簡単にやられる奴らじゃないってことくらい。それに、三人だけで乗り込む訳じゃないんだ。護衛も勿論連れていくさ。だから、お願いだ」
「………………っ!分かりました!ですが、護衛は厳重にさせて頂きますからね!!」
「うん、ありがとう」
そう言ってルイズ様は召使いを納得させた。
お互いに納得した後、私たちは敵を討つべく、アテナが攫われたとする建物へと向かって馬車が動き出した。
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──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
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