女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

最悪なデート

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 軽装の格好をしたルイズ様も、いつもの正装に負けず劣らず格好良かった。
 白のシャツにそこから上に羽織った緑のジャケット。ズボンは脚長効果……………元々脚の長いルイズ様に似合う灰色のスラックスだ。茶色のベルトも良いアクセントになっていた。金色の肩の長さまである頭髪は、ジャケットと同じ色のリボンで緩く結んでおり、より統一感を出している。

 流石攻略対象だ。

 しかし、服装をじろじろ見ても今の私にはそんなことはどうでも良かった。

 ──なんで、ここに来た。

「ふふっ、なに?その顔は。折角の可愛いらしい顔が台無しだよ。ほら、その眉間の皺を緩めて」

「………………なんで、ここに来たんですか」

「?不思議なことを言うね。約束しただろう?デートに行くって。日にちを決めていなかったことは謝るよ、時間が無くてね。でも、今日はとびきりのエスコートをするから安心して」

 そうして、私の左手を美しい所作ですくい取って手の甲に軽いキスを落とす。

 片目だけ閉じて、まるでイタズラが成功したように笑う顔は妖艶で、目が離せなかった。

「な、なん………!」

「それじゃあ、まずはそれ相応の格好をしようか」

 ルイズ様はパンパンと手を叩くとすぐにメイドと執事がルイズ様の背後に整列した。

「彼らは一流の使用人たちだよ。この人達の手に掛かれば一瞬にして可愛らしいお姫さまに様変わりさ。ほら、彼らに身を預けて」

「えっ、ちょ、ルイズ様!?」

 がっちりとルイズ様の用意した使用人たちにホールドされ、私はされるがままに身ぐるみを剥がされ、風呂に入らされ、髪型を整えられ、化粧を施され、ドレスを着せられた。

「え、エマ様…………!!」

 私が死にかけの状態で放心していると、いつの間にか隣にいたレイアが呆然とこちらを見ており、何故かその表情が段々と涙ぐんでいった。

「エマ様………!お美しくなられて………!!」

 レイアは私の格好を見て涙ぐんでいたのだ。

「君の目にも彼女が美しく見えるかい?やはり、僕の目に狂いはなかった」

 私は使用人たちから解放され、ルイズ様に姿見を差し出された。

「……………───!?」

 目の前にいたのは、正に、絶世の美女だった。
 緩く巻かれた髪を下ろし、ペリドットで作られた花の形をしたアクセサリーは顔を動かす度にキラキラしている。
 膝丈の淡い黄色のワンピースはフリルになっており、思わずくるりとその場を回ってしまいたいほど、軽くふわりとしていた。
 ワンピース生地に描かれた刺繍は花を描いていたり、鳥を描いていたり、とても可愛らしい。
 白の靴下に茶色のブーツはアクセントとして、金色の紐が付いている。

 そして何よりいつものパッとしない顔が、今は華やかで肌が陶器のように白く、瞳がキラキラしている美少女になっていた。

「ふふっ、今の君は誰よりも美しくて可愛らしいよ。………このまま攫ってしまいたいくらい」

「た、確かにこの顔は私も攫いたいくらいに可愛いですね………!!」

 ルイズ様は一度きょとんとすると、あははっ、と愉快そうに笑いだした。

「ふふふ、まさか同意されるとは。予想外だったな。あははっ、流石エマだよ」

「ありがとうございます………?」

「クスッ、それじゃあ、準備も整ったことだし、さっそく行こうか。僕らの初デートへ」

 するりと手を差し出され、私は戸惑い気味にその手に重ねた。
 ここで断ってまた申し出をされるのも困るし、彼には私を助けてくれた恩もある。だから今日だけ彼の願いを叶えようと思った。

 (………それに、あんなに可愛い格好をされるのも悪くなかったしね)

 私はレイアに一言言って、部屋を出た。終始レイアは私を見ると涙ぐんでいて、ちょっと可愛くて面白かった。

 そんな事を思っていながら廊下を歩いている途中、突然ルイズ様からこんな質問をされた。

「君のあの専属メイドはいつもあんな感じなのかい?」

「え?いえ………そんなことはないと思います。私もレイアの泣き顔はそんなに見ませ…………」

 いや、最近はよくレイアを泣かせてしまっている気がする。心配を掛けさせてばかりだ。
 私は顔を渋らせてどう言おうか迷っていると、ルイズ様が見兼ねてこう言った。

「僕から見ると、あの専属メイドは冷静沈着で、冷たい瞳を持った女性だと思うのだけれど」

「え!?全然そんなこと無いですよ!レイアはいつも温かな眼差しで私を助けてくれたり、相談に乗ってくれたりするんです…………ルイズ様からレイアがそんな風に思われていたなんて驚きました」

「ふむ…………そうなんだね。君たちは固い絆で結ばれているみたいだ」

 ニコリとルイズ様は笑うと、これで話は終わりとでも言うように私から顔を逸らして、歩いている方向を見た。

 (固い絆で結ばれている………?一体どういうことなんだろう?)

 確かにレイアとは昔からずっと一緒にいるけれど、こんなふうに他人から言われのは初めてだ。

 しかし、ルイズ様の思考を読み取ることなんて───アルビー様はともかく、私には絶対に分からないので、早々に思考を放棄した。

 廊下をまっすぐ歩くと、豪華絢爛な王族の馬車が私たちを待っていた。
 派手な金の装飾に私は言葉を失っていると、ルイズ様が馬車の扉を開き、こちらに手を差し出してきた。

「言っただろう?エスコートするって。お先にどうぞ、僕のお姫さま」

「あ、ありがとうございます……」

 一々絵になる行動をするルイズ様に私は見惚れつつ、そそくさと馬車に乗った。
 馬車の座り心地はそれはもう良くて、座った瞬間、柔らかなクッションが私の下半身を包み、馬車が動き出してからも、揺れによるおしりの痛みを一切感じなかった。

 (これが皇宮の馬車……………!!)

 私が感動している中、その光景を見ていたルイズ様は面白そうに微笑みを浮かべていたことに、私は気づかなかった。

「馬車の乗り心地はどうだい?痛みを感じる場所はある?」

「ぜんっぜん無いです!こんな座り心地の良い馬車は初めてです!」

「ふふっ、喜んでもらえて良かった。それなら今日のデートも疲れずに済むね」

「…………そ、そうですね」

 ルイズ様は終始ニコニコさせながら楽しそうだ。私は全然楽しくないけど。

 (そういえば、二週間の休暇を渡されたのは私だけじゃなくて、女王候補全員が渡されたはず…………女王候補の人達は一体今頃何してるんだろう?)

 ふと、そんなことを考えて、窓の外を不意に見ていると、私の目に金髪碧眼のアザーブルーの瞳を持つ少女の姿が写った。

「───────え」

 そう、今私が目にしたのは紛れも無い主人公のリル・キャロメだった。

「はあああああああああああ!?!?!?」

「わっ、急にどうしたんだいエマ」

 私は勢いよく窓にしがみついて、通り過ぎた方向をガラスに頬を付けながら見る。

 (嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ!!!)

 最悪だ。よりにもよって主人公と街中で出会うなんて。
 私の死亡フラグがぐんと高くなった気がした。

「エマ………?何か窓の外に気になるものでも見つけたの?何だったら一度降りて引き返そうか?」

「いえいえいえいえ!!!お構いなく!このまま真っ直ぐ、全速力で向かいましょう!」

「?何だかよく分からないけど、やる気が出てきてくれて嬉しいよ。今日は一緒に楽しもうね」

「はい!それはもう、ずっとずっと遠くの辺りで楽しみましょう!!!」

 私は全力で、ルイズ様の言葉を肯定したのだった。

 ────そんな時だった。

「っ!?」

「っ、何事だ」

 唐突に馬車が急停車し、私とルイズ様は反動で体の体勢を崩してしまう。

 馬車の扉越しに馬の高い鳴き声が聞こえてくる。

 (何………?一体どうしたの?)

 まさか、皇族を狙う何者かが襲ってきたとか………?

 私は怖くなり、そっと、窓の外を覗き込もうとした瞬間、窓付きの馬車の扉が勢いよく開かれた。

「へぁ!?」

「エマ!」

 私は手をかけようと思った扉が急に開いたせいで、馬車の外に倒れ込みそうになった。

 しかし、扉を開いた主によって、私はそのまま受け止められた。

 逞しい胸筋にがっしりとした腕。ほのかなオレンジの香りが私の鼻を撫でる。
 体つきとは異なり、優しい仕草で私を支えたのは─────

「あ、アルビー様!?」

 汗を額に浮かべ、息を切らしながらこちらを見ているアルビー様の姿が目の前にあった。

「やっと………はぁ、はぁ、追いついた………!!」

「お、追いついたって…………?というか、何でここにいることを知っているんですか?」

 息を切らして、落ち着かせながらアルビー様はこう言った。

「お前ら二人だけ、デートに出掛けるなんて、ズルすぎるだろ!!!!!俺も連れて行け!!!!!」

 彼のその言葉に一同、ポカーンとなる。

 最初にその空気を壊したのはルイズ様だった。

「あっははは!アルビー、まさかとは思ったけど、本当にここまで来るなんて驚いたよ!走ってきたの?馬が引き連れている馬車を?ふふふ、君は本当に体力馬鹿だねぇ。あはははっ」

「え?え?ルイズ様、一体どういう………?」

 ルイズ様は目に涙を浮かべながら、私にこう言った。

「実はね、君を誘いに行く直前、アルビーにも今日君とデートに行くことを伝えたんだよ。そしたら、何も言わずにこっちを見つめて、その後全速力でその場を去って行くものだから、逃げたのかな?と思ったら……案の定僕達に着いてきてたね」

「つ、着いてきていた………?この馬車を??」

「はぁ、はぁ、はぁ。結構激しいけど、まだまだだな………!俺は馬車なんかに負けねぇ!!」

「馬車と速度比べするのはアルビーだけだと思うけどね」

 その後、走ってきたアルビー様を追い返すのも可哀想な気がして、ルイズ様は致し方なくアルビー様も馬車に迎えて、三人で街へ行くことになった。

 私はその場で頭を抱えたくなった。

















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