戦争に行った幼馴染に恋する孤児の少女は、娼婦として育てられる。

‪α‬缶

文字の大きさ
15 / 15
第三章 娼婦になるために

14 モリガン様の散髪と王都への旅立ち & 作者コメント

しおりを挟む
「ねぇ、うさこ。髪を切ってくれない?」

 モリガン様が甘えたように言う。モリガン様は自分の身長よりも長く伸びた髪を床にずって歩いていた。たしかに前から邪魔そうだとは思っていた。

「戦えば自然と伸びてくるからなあ。だいぶ短くして構わない。でもそうだな…お前と同じ感じがいいな。」

「ボブヘアーですか。」

「そういう名前なのか?疎くて分からないが、任せたよ。短めで頼む。耳の下くらいでいいよ。」

 左京達が出発してから数ヶ月で、トラブルでモリガン様が戦場へ行く事になった。辺境伯であるアース様が護衛としてお供するらしい。

「現地にいた部隊が何隊も壊滅し、人手不足らしい。その分の埋め合わせで、人数バランスが整うまでひと暴れしてくる事になった。爆弾はダメになるわ、お金不足で戦力は調達できないわで、散々だな。」

 アース様が側にいるならモリガン様は大丈夫だろうが、この人が戦っている様子があまり想像できない。

「戸惑っているな?私は破壊神だよ?」

 モリガン様は得意げに言う。

「この切り終えた髪は自由にして良い。お前なら有効活用してくれるだろう。」

 有効活用、それはこの髪で薬品を作れということか。モリガン様の身体は神聖なものとされており、人智を超えた特別なものだ。体液や血が回復薬になるならば、髪だって人々の役に待ってくれるだろう。

 しかし、髪は何に使えるのだろうか。栄養はあまりあるように思えない。有機物なのでコンポストにして肥料にするのはどうだろうか。モーリアン辺境地はあまり土が肥えていない。モリガン様の髪の毛をベースに農薬か何かを作れたら、もっと食べ物が育つのかもしれない。後で資料にまとめて先生に提出してみよう。そうしたら領地の研究チームが何かしら検討してくれるだろうから。

 私がそんなことを考えながら散髪していると、モリガン様はご機嫌な様子だった。

*

 散髪が終わると、髪が短くなってさっぱりとしたモリガン様はめずらしそうに自分の髪を触っていた。アース様が見たら驚きそうだな…あの人、長髪が好きそうだったから。でもすぐに伸びるなら関係ないか。

「うーさこ、ありがとう。」

 モリガン様はそう言って私に軽くキスをした。

「私が戻ってくる頃にはお前はもう王都にいるんだな。さみしいよ。」

 全く予想をしなかった言葉に驚いたが、モリガン様の言葉に嘘は無い。そういえばアース様が私の事を「モリガン様のお気に入り」と言っていた。あまり真に受けたいなかったが、本当だったのか。

「たまに帰ってきます。」

「そうだな。いつでも帰ってきてくれ。」

 こういう時、モリガン様はお母さんみたいだなと思う。私に母親はいないからよく分からないけれど、もしいたとしたらこんな感じなのかなと錯覚することがあるのだ。

「それにしても、私が出ていかなきゃいけないなんて、現地の奴らは何をしているのだ?全く。用が済んだらアースに慰めてもらわねばな。」

 そんなことを言いつつ、本当は力を振るうのが楽しみとでも思っていそうだ。もしくは、運動後にアース様に思い切り甘やかしてもらうことが目的かもしれない。どちらにせよ、アース様はいつどんな時でもあなたの願望に応えてくれると思いますけどね。

「うさこ、無理はするなよ?お前が死んだら悲しいからな。」

 モリガン様は私を心配している。それほどまでに、娼婦というのは大変な仕事なのだろう。モリガン様は念を押すように言った。そしてその日の夜は何をせず、お互いに抱きしめ合って眠った。

*

 次の日、散髪したモリガン様を見て、アース様は不機嫌そうにした。

 ――やっぱり、アース様はモリガン様の長い髪が好きだったのね。

「アース、似合ってるだろう?」

 モリガン様は、それが分かっているくせに、アース様に質問している。

「似合っていますよ。」

 アース様はそう答えるが、不服そうである。

「モリガン様の髪はお前の手紙と一緒に研究班に預けた。うまくいけば農業で役立つかもな。」

 昨晩モリガン様が眠ったのを確認してから、私は急いで意見をまとめたのだった。髪から肥料を作る方法としてアイデアを提供したのだ。

 ――アース様はその事についても納得してなさそうね。もしくは他にも理由があるのかしら?

 今日のアース様は全体的に不機嫌である。私がモリガン様の散髪をした事もあるだろうが、もしかしたら昨晩フェルナンドさんと何かあったのかもしれない。何故そう思うかは、フェルナンドさんの機嫌は良いからである。
 
 ――この2人は男同士でしたのかしら。アース様は勃たないだろうから、お尻を差し出したのかしら…。

 私がそんなことを考えながらふとモリガン様を見ると、視線があった。

 ――もしかして、見られてた?

 目をぱちぱちさせていると、モリガン様はニコッと笑った。

「考え事かい?うさこ。キスしていいか?」

 何が何だか分からずボケっとしていると、モリガン様はチュッと軽くキスをした。

「そろそろ行くよ。アースが早く出発したそうだからな。」

 そう言って2人は有翼人に抱きかかえられて、飛んで行ってしまった。

「俺たちは馬車で向かう。手の空いている有翼人がいないんでな。」

 フェルナンドさんは言った。

*

 私は大荷物を持って、馬車に乗る。馬車だと王都まで1ヶ月もかかるらしい。

「王都で俺たちの運び屋を担当してくれる有翼人がいる。途中で待ち合わせするから、もう少し早く着くよ。」

 私が驚いているとフェルナンドさんはそう言った。

「ところで、その荷物何持ってくんだよ。」

「布団です。これがないと眠れないので。」

「勘弁してくれよ。布団なんか向こうで調達したら良いだろう?」

 私は左京がくれた布団を持ち出そうとしていたのだった。布にくるんで背負えるように準備してある。

「これがないと、夜不安で…」

「夜なんか寝れるわけないだろ?疲れて自然と朝には寝てるから、心配するな。」

「いえ、これは私にとっては必需品で…」

 あまりに私が折れないので、フェルナンドさんは、はぁ…とため息をついた。
 これは左京が私のためにくれた布団。左京の羽根が詰まってる。これがあれば私は何でも乗り越えられる気がしていた。

「責任を持って自分で運ぶんだぞ。」

 私があまりに譲らないので、フェルナンドさんはやれやれといった感じで、渋々許可してくれた。
 こうして私も娼婦としてお金を稼ぐために、王都へ向かうことになったのである。


_______________________________________

次回から娼館の章が始まります。うさこは主にアンナと呼ばれるようになります。ややこしくてすみません...!

また、不特定多数のお相手が出てきますのでご注意ください。気にされる方は地雷チェックをご確認ください。

次章もよろしくお願いいたします。

しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

✩.*˚
2025.07.04 ✩.*˚
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。