【BL短編集】不完全な恋の1000文字

たま

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親友に子供ができた話。お二人の未来にご不幸が訪れることをお祈り申し上げておりますという話。

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 野毛の端っこにある汚い焼き鳥やは、いつも繁盛している。壁は油で黒ずんでいるし、座席のシートは破れているような店だけど、味だけは抜群にいいから大人気だ。俺と明人はハタチになった頃から、この店に通っている。もう三十だから、かれこれ十年だ。
 高校の同級生だった明人との付き合いはもっと長い。今年で十三年目になる。いわゆる親友ってやつで、これからもずっと友達なんだろうなと思っている。
「いやさあ、俺もいよいよ父親かと思うとちょっと怖い」
「なんでだよ。めでたいだろ」
「うん、嬉しいんだけど責任とかそういうのがさ」
 ふーん、と言って俺は笑う。今日は明人に子供ができたお祝いで飲みに来た。俺たちはこうやって人生のイベントがあるたびに、二人で酒を飲んできたのだ。たまに明人の奥さんに怒られながら。
「大変だな、結婚てやつは」
「他人事だなー、お前だっていつかは結婚するだろ」
「まあなあ。でもまだいいかな」
 いつも通りの嘘をついて、俺は焼き鳥をかじる。ぱりぱりに焼けた皮は十年通っても感動するほどうまい。俺はゲイだから結婚などしないのだけど、明人はそれを知らない。いつか普通に結婚して、俺にも子供ができて、親と子とで家族ぐるみの付き合いができると信じている。俺がそう信じさせているところもある。だって、親友だから。
「生まれたら飲みにもいけなくなっちまうなあ」
 明人が残念そうにいう。でも言葉のなった音ほど、実際は残念がっていないのが、なんとなく伝わってくる。明人は幸せなんだと思う。俺は笑って、当たり前だろと返す。妊婦の奥さん怒らせるなよ、と付け加える。
「うん。今日のうちにいっぱい食べとこ」
 明人がぼんじりとネギマとつくねを追加でオーダーする。そんなに食えるのかよと言いながら、俺はもうすぐ終わっちゃうなと思う。子供が生まれれば、明人の生活は子供一色になるだろう。そういう男だってわかっている。途方もなく幸せそうな顔をして、赤子の柔らかな頬にすりすりする様が目に浮かぶ。俺のことなんて忘れちゃう。俺にすりすりしたって、ヒゲが突き刺さるだけだから仕方ない。
「俺、ちゃんと父親になれるかな」
「大丈夫だろ。お前優しいし」
「おっ、ほめてくれるの珍しい」
「バカは治したほうがいいけどな」
 俺は笑う。こんなの笑うしかないよなあと思う。高校の頃から好きだった男に子供ができて、すげえ幸せそうで、俺のことを親友として信じている。こんなの笑うしかない。
 明人、俺はさ、お前と奥さんが別れたらいいと思っているよ。お前の不幸を願っている。そんでなにかの間違いで、もう女はいいやーお前がいればいいやーなんて無責任に言わないかなと思っているよ。ごめんな。
 あーあ、なんで俺が幸せに出来ないんだろう。
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