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シグマス編 ~出会い~

制服

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 カイトが運転する魔動車の中は賑やかなまま、連合軍の第一にたどり着いた。
 運搬用の魔動車を定位置に駐車すると、イサはカバンからシルバーブルーの制服を取り出し、着用する。
 ハズキもシルバーグリーンの制服を羽織って大きなタメ息を付く。
「…窮屈なんだよな…」
「太ったんじゃないか?」
「そう言う意味じゃない!」
 イサは思わずクスッと笑ってしまった。
 仲の良い二人を見ていると、とても楽しくなる。
 そう言えばカイトは制服を着ないのだろうか?
「…制服は?」
 イサが気になってカイトに聞くと、カイトはニヤリと笑って言う。
「俺はカメレオンだから」
「?!」
 ハズキさんの方を見ると、驚いた風も無く、羨ましそうにカイトを見ている。
 『カメレオン』とは、連合軍の全ての部署に必要に応じて配属される、全ての事をそつなくこなせる者の通称だ。
 一ヵ所に留めておくのが、勿体ないと言う理由も有るらしい。
 一つの事に特別に特化しているわけではないが、殆どの事に対して一般的な隊員より能力が高く、人員が足りたい時は引っ張りだこだ。
 連合軍に数人しか居らず、部署が固定して決まっていないため、制服もその場その場で支給される。
 特別な任務が多いため、拒否権を持っていて、自分の嫌な仕事は断る事が出来き、ほとんど連合軍にはいない…。
 イサのかつてのルームメイトも『カメレオン』だ。
 彼の場合は、恋人と二人で一組の『カメレオン』だけれど…。
 もしかしてカイトの場合は、サクラさんが窓口になっているのかな…。
 部署が決まっていないので、連絡を取りたい時に伝達役として、窓口を設定している。
 彼らは任務から戻ってきたタイミングで、窓口に有る任務内容を見て、次の任務が選べるのだ。
「だから制服は無いよ」
 カイトは微笑んで言う。
 …すごい人だったんだ。
 そうだよね。
 任務の帰りに飛行船の故障を治して、飛行船を胴体着陸させるなんて、普通は出来ない…。
「…さあ、行くか…」
 三人はそれぞれ荷物を持って、建物の中へと入っていった。


 ハズキは部署が違うので、途中から連合軍の第三の建物に向かって渡り廊下を渡っていった。
 確か開発部とか研究室とかがあったはず…。
 ハズキさんは技術関係なのだろう。
 三階のサクラさんの部屋をノックして入ると、ソファーにサクラさんとコーデリアが資料をテーブルの上に広げて話し合っていた。
「…来たわね」
 カイトとイサは向かいのソファーに座り、広げられた資料を見る。
「着陸地点の候補よ。貴方が搭乗するなら夜間着陸が出来る。向こうに気付かれずダルタルに入れるわ」
 …夜間着陸?!
 イサは驚いてサクラとカイトを見る。
「先行して地上に降りる小型飛行船は何機積める」
「二機よ」
「それなら大丈夫だ」
 …二機の小型飛行船で、着陸地点の位置を指示し、そこへ下ろすと言うこと…。
 真っ暗な地上の二つの光だけを頼りに、ゆっくりと地上に飛行船を下ろすのは至難の技だ。
 サクラさんとカイトは細かな段取りを確認し、夕方、日の入りと同時に着陸することになった。
 日が沈む時は空全体の色が変化するので、監視している方は、雲と飛行船と鳥と、目の錯覚で見分けが付かなくなりやすいからだそうだ。
 
「そうだ。これを渡しておかないと…」
 サクラはそう言って立ち上がり、部屋のすみに置かれた棚からシルバーブルーの制服を取り出した。
 …カイトの制服…。
 カイトはサクラから制服を受け取ると、その場で着てくれた。
 普段の服と違って、きっちりとしていて…なんか…新鮮で…カッコいい…。
 イサがカイトの制服姿にボーッと見惚れていると、カイトがイサの方を向いて微笑む。
「なんだ?惚れ直したか?」
「…うん」
 イサは素直に返事して、サクラとコーデリアがいることを思い出して、頬を染めてうつむいた。
 …はっ恥ずかしい。
 イサはカイトに身体を引き寄せられ、頭を撫でられ、サクラさんとコーデリアの大きなタメ息が聞こえた。

 その後、ダルタルの王女と面会し、ダルタルに着いてからの行動として、閉鎖された空港の解除、兄王子と合流、叔父の目的を探るなど、様々な事柄のすり合わせを行った。
 空港が閉鎖された時間が長くなれば、物資が行き渡らなくなり、住民が疲弊してしまう。
 その前に、何とかしなくてはいけなかった。
 任務としては、ダルタルの王女を送り届け、空港の解除、ダルタルの王都を平常の状態に戻すこと…。
「ダルタルに行ってみないと、どういう状況になっているか分からないな…」
「そうだね」
 カイトがダルタルを出国してから数日が過ぎている。
 何か変化が有るかもしれない。
 まずは無事にダルタルにたどり着く事だった。



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