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聖(ひじり)の生い立ち
滝~たき~
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聖が、木造の家に移り住み、ノートに些細な日常を書き始め、気が付つけば、一冊目のノートが後、数ページになっていた。
それに気付いた兄が、気を良くして十冊、ノートを持ってきた。
そして、大きく⑴と数字を書き、二冊目に入った頃、少し大きめのテーブルと本棚を持ってきて、寝室に置き、⑴と書かれたノートの置き場になった。
そんな静かな生活が三年ほど続き、聖は16歳になっていた。
相変わらず、家で本を読んでゴロゴロし、昼寝をして、庭を眺めていた。
あの頃と変わったのは、使用人は誰も居なくなって、全て自分でするようになった事だ。
簡単な料理を教えてもらい、洗濯、掃除もこなしていた。
食事だけは、みんなが心配して、父の親友が経営する旅館から、週に二回、料理の材料や日用品と共に運ばれてきた。
あと、家の横に有った物置の倉が直され、本棚が置かれて、読み終わった本が並べられた。
屋根付きの渡り廊下も作ってくれて、たまに倉に籠りっきりになることもあった。
ただ、明かりを付けてくれなかったので、夕方には読みにくくなるので、家の方に戻ってはいた。
切っ掛けは兄の婚約者である紅緒だった。
聖の部屋に並べてあるノートを見つけ、ペラペラと捲り手を止めた。
「ひーちゃん。これ…頂戴」
「何、言ってるの?紅ちゃん?」
「…私が言葉にしたかった事が、ココに書かれている…」
「…。」
「私は、みんなを元気付ける歌手になりたい…。だけど、どう言葉にして良いのか、表現したら良いのか迷ってた。…少し寂しげだけど、伝えたい心情がココにある…」
「…。これは…あげない…。でも紅ちゃんになら…貸してあげる…」
そんなもので、紅ちゃんの役に立つのなら…。
「ありがとう。今度、美味しいお菓子を持ってくるね」
紅緒は、それが切っ掛けで、ココに出入りするようになった。
時々、妹の沙羅も一緒にきて、女の子同士、話に花を咲かせ、おしゃべりに夢中になっている様子をぼんやりと眺めていた。
そんなある日。
珍しく、紅緒とその父親が、家にやって来た。
紅緒の父親に日記を見られてしまい、ココまでやって来たのだと言う…。
「聖くん。これ、出版して良いかな?」
「?どうして?」
「何気ない日常が、細かく書かれていて、それでいて、癒される。忙しさの中、忘れてしまっている風景を、時の流れを思い出させてくれる…。短編、エッセイとして出版させてくれ!」
「…。」
「ひーちゃんの心の声。みんなに見てもらいたい。私だけが、この優しい気持ちを感じるのは、勿体ない…」
「…父さんと、兄さんが、良いって言ったら…」
「よし!すぐに許可を取りに行くぞ!」
そう言って、紅緒を置いて、部屋を出ていってしまった。
「ごめんね。ひーちゃん。お父さんに見られてしまって…」
「…別に…いいけど…」
聖は特に興味はなかった。
すぐに許可がおりたらしく、さっそく、雑誌の1ページに載せられた。
『聖の日記~ある日のこと~』
普通の日常が書かれたソレは密かに反響があり、次々と掲載されていつた。
人の出入りが多くなるのが嫌で、紅緒が仲介になってくれて、最終確認など、最小限度での接触にしてくれた。
挿絵が有った方が良いわね。と、紅緒が見つけてきた滝を連れてきた。
滝は体格が良く、身体をきたえているのか、服の上からでも、身体の厚みが有るのが分かるくらいだ。
彼が、庭を見てから決めたいと、言ってきたらしい。
紅緒が、聖を紹介すると、驚いて上から下までじっくりと眺め、ため息をついていた。
いつも眺めている庭に連れていくと、じっと見て、おもむろにすわり、鞄から紙と筆を取り出し書き始めた。
滝は何枚も何枚も書いて、紅緒がソレを乾かすために、廊下に並べる。
その姿を見て聖はペンを取った。
『真っ白な紙に筆が動くと絵が浮き上がってくる。
それが不思議で思わずじっと見つめてしまう。
こっちの視線も気にせず、次々と写し出されていくのが面白い。ほのかに色がついて、温もりを感じる』
思う存分描き終えると、滝は筆を置いた。
「また、来ても良いか?」
季節によってまた、見え方が違うから…。
「…良いよ」
そう返事すると、滝は嬉しそうに笑い、乾かない絵の回収を紅緒に頼み、帰っていった。
「面白い人でしょう。あの体格で、繊細な絵を描くのって」
「どこで、知り合ったの?」
「オーディション会場の近くの公園よ」
「紅ちゃんらしいや…」
聖の日記は、挿絵が付いたことによって、心情がよりリアルに表れ、誰が書いているのかと、囁かれ始める。
そして一年後には、一冊の本が出版された。
いろんな人が出入りするようになり、聖も少しずつ人馴れしていくが、時折寂しげに、儚さに、周囲の者達は守らなくてはと、決断していた。
聖の日記が、4冊目を向かえた年、クロと…黒龍と出会った。
それに気付いた兄が、気を良くして十冊、ノートを持ってきた。
そして、大きく⑴と数字を書き、二冊目に入った頃、少し大きめのテーブルと本棚を持ってきて、寝室に置き、⑴と書かれたノートの置き場になった。
そんな静かな生活が三年ほど続き、聖は16歳になっていた。
相変わらず、家で本を読んでゴロゴロし、昼寝をして、庭を眺めていた。
あの頃と変わったのは、使用人は誰も居なくなって、全て自分でするようになった事だ。
簡単な料理を教えてもらい、洗濯、掃除もこなしていた。
食事だけは、みんなが心配して、父の親友が経営する旅館から、週に二回、料理の材料や日用品と共に運ばれてきた。
あと、家の横に有った物置の倉が直され、本棚が置かれて、読み終わった本が並べられた。
屋根付きの渡り廊下も作ってくれて、たまに倉に籠りっきりになることもあった。
ただ、明かりを付けてくれなかったので、夕方には読みにくくなるので、家の方に戻ってはいた。
切っ掛けは兄の婚約者である紅緒だった。
聖の部屋に並べてあるノートを見つけ、ペラペラと捲り手を止めた。
「ひーちゃん。これ…頂戴」
「何、言ってるの?紅ちゃん?」
「…私が言葉にしたかった事が、ココに書かれている…」
「…。」
「私は、みんなを元気付ける歌手になりたい…。だけど、どう言葉にして良いのか、表現したら良いのか迷ってた。…少し寂しげだけど、伝えたい心情がココにある…」
「…。これは…あげない…。でも紅ちゃんになら…貸してあげる…」
そんなもので、紅ちゃんの役に立つのなら…。
「ありがとう。今度、美味しいお菓子を持ってくるね」
紅緒は、それが切っ掛けで、ココに出入りするようになった。
時々、妹の沙羅も一緒にきて、女の子同士、話に花を咲かせ、おしゃべりに夢中になっている様子をぼんやりと眺めていた。
そんなある日。
珍しく、紅緒とその父親が、家にやって来た。
紅緒の父親に日記を見られてしまい、ココまでやって来たのだと言う…。
「聖くん。これ、出版して良いかな?」
「?どうして?」
「何気ない日常が、細かく書かれていて、それでいて、癒される。忙しさの中、忘れてしまっている風景を、時の流れを思い出させてくれる…。短編、エッセイとして出版させてくれ!」
「…。」
「ひーちゃんの心の声。みんなに見てもらいたい。私だけが、この優しい気持ちを感じるのは、勿体ない…」
「…父さんと、兄さんが、良いって言ったら…」
「よし!すぐに許可を取りに行くぞ!」
そう言って、紅緒を置いて、部屋を出ていってしまった。
「ごめんね。ひーちゃん。お父さんに見られてしまって…」
「…別に…いいけど…」
聖は特に興味はなかった。
すぐに許可がおりたらしく、さっそく、雑誌の1ページに載せられた。
『聖の日記~ある日のこと~』
普通の日常が書かれたソレは密かに反響があり、次々と掲載されていつた。
人の出入りが多くなるのが嫌で、紅緒が仲介になってくれて、最終確認など、最小限度での接触にしてくれた。
挿絵が有った方が良いわね。と、紅緒が見つけてきた滝を連れてきた。
滝は体格が良く、身体をきたえているのか、服の上からでも、身体の厚みが有るのが分かるくらいだ。
彼が、庭を見てから決めたいと、言ってきたらしい。
紅緒が、聖を紹介すると、驚いて上から下までじっくりと眺め、ため息をついていた。
いつも眺めている庭に連れていくと、じっと見て、おもむろにすわり、鞄から紙と筆を取り出し書き始めた。
滝は何枚も何枚も書いて、紅緒がソレを乾かすために、廊下に並べる。
その姿を見て聖はペンを取った。
『真っ白な紙に筆が動くと絵が浮き上がってくる。
それが不思議で思わずじっと見つめてしまう。
こっちの視線も気にせず、次々と写し出されていくのが面白い。ほのかに色がついて、温もりを感じる』
思う存分描き終えると、滝は筆を置いた。
「また、来ても良いか?」
季節によってまた、見え方が違うから…。
「…良いよ」
そう返事すると、滝は嬉しそうに笑い、乾かない絵の回収を紅緒に頼み、帰っていった。
「面白い人でしょう。あの体格で、繊細な絵を描くのって」
「どこで、知り合ったの?」
「オーディション会場の近くの公園よ」
「紅ちゃんらしいや…」
聖の日記は、挿絵が付いたことによって、心情がよりリアルに表れ、誰が書いているのかと、囁かれ始める。
そして一年後には、一冊の本が出版された。
いろんな人が出入りするようになり、聖も少しずつ人馴れしていくが、時折寂しげに、儚さに、周囲の者達は守らなくてはと、決断していた。
聖の日記が、4冊目を向かえた年、クロと…黒龍と出会った。
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