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日常

嫉妬

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 月日が流れ、気がつけば庭の葉は落ち、寒い冬がやって来ていた。
 部屋にこたつを出し、ストーブにヤカンを置き、テーブルには蜜柑みかんが常設され、寒い日は、こたつで眠ったりしていた。
 
 その日は日曜日で、こたつに布団並べてをくっつけて、惰眠だみんむさぼっていた。
 布団のから出ると寒いから、出たくないと言うのもあったが。
 でも、そろそろ起きようと、聖は布団から出て寝巻き浴衣を着ると、横たわるクロの横に座り、見下ろした。
「そろそろ起きようよ」
 クロは微笑んで手を伸ばし、聖の頬に触れると引き寄せられ、聖は屈み込んでクロの唇に触れさせた。
 また、それで誤魔化す! 
「聖兄さん。帰省のお土産持ってきたわよ」
 その声と同時に部屋の戸が開かれた。
 聖はハッとしてクロから唇を離し、声のした戸へ振り向いた。
「…紗羅さら
 紗羅は硬直し、お土産をポトリと落として、次第に顔を赤めて「ごめん!」と、言って走り去っていった。
 足音は階段を上がり、二階の紗羅の部屋へと駆け込んで行ったみたいだ。
「…二階に上がって行ったぞ。上は物置だったんじゃないのか?」
「奥はね。あまり使っていないけど、紗羅と兄さんの部屋が有る。…ちょっと行ってくる」
 聖はそう言って、落としていったお土産を拾い、こたつの上に乗せると、二階へと上がっていった。
「…妹ね…」
 クロは仕方なく布団から這い出ると、寝巻き浴衣を来て、布団を畳始めた。


 紗羅を追いかけて二階への階段を上がり、上がって直ぐの紗羅の部屋の戸をノックして、開けた。
「兄さんと、男の人が…。どう言うこと?修司しゅうじ兄さんと、紅緒さん達は知っているの?知らないわけ無いわよね…」
 紗羅はぶつぶつと何か言いながら、部屋の中をうろうろとしていた。
 部屋の前に聖が居ることに気が付くと、紗羅は頬を染め、足を止めて、聖を見た。
「ごめん。驚かして…」
「あの人…と、一緒に暮らしているの?」
「暮らしてはいない」
 週末に泊まっていくだけ。
「兄さんは、あの人の事が好きなの?」
「…わからない。ただ、側に居ると心地良い。だから、触れたくなるし、触れて欲しくなる」
 …何故なのか、自分でもよく分からない。
「…それって…」
 紗羅は何か言いたげに聖を見てくる。 
「あの人は兄さんの事をどう言っているの?」
「好きみたいだ」
 以前、そう言われた。 
「好きみたい?」
「…よく分からない…」
 紗羅が部屋から出てきて聖の服に掴まる。
「ハッキリさせた方が良い!」
「…。」
 紗羅が勢いよく二階から降りていった。


 黒龍が布団をたたみ、部屋から出ようとしたら、紗羅が階段を降りてきた。
「貴方、兄さんの事をどう思っているの!?」
 凄い勢いだ。
「いきなりだな。…紅緒さんそっくりだ。…聖の事は好きだぜ。だが当の本人が、あの感じだから、伝わっているか分からないが」
 今は、それで良い。
 側にいることを許されているのだから。
「…。」
「気長に待つよ。でなければ、小納谷の手伝いしないし、車の免許を取ろうなんて思わない」
 慣れない旅館の仕事や、ましてや、今までは必要ない、車免許を取ろうなんて思わなかった。
「…。」
 ただ、どうして、こうなったかを説明するのは面倒だ。
「経緯は、紅緒さんから聞いてくれ。説明するのが面倒臭い」
「面倒臭いって何よ!」
 紗羅は顔を真っ赤にして、睨み付けてくる。
「色々複雑なんだよ」
 そんな事を言っていると、聖が遅れて階段を降りてきた。
「…なんか楽しそう」
 ぼそりと聖が呟く。
「えっ?」
 紗羅が驚いて聖の方に振り向いた。
「土産はお菓子なのか?」 
 黒龍が紗羅に質問する。
「…ええ、そうよ」
「聖。土産を開けろよ。お茶をいれてくる」
「うん」
 聖は部屋に入りこたつに入ると、お土産の袋を開け始めた。
 黒龍は台所へ行って、お湯を沸かし、お盆に急須きゅうすと湯飲みを準備をしながら、チラリと廊下の紗羅を見る。
 紗羅は呆然と廊下に、まだ立っていたので声をかける。
「寒いから、部屋の中に入って、待ってろよ」
 紗羅が黒龍の方を向いた。
「…聖兄さんが、嫉妬した…」
 驚きを隠せない様子でそう呟くと、部屋の中に入って戸を閉めた。
 黒龍は苦笑いする。
 そうやって、少しずつ感情を表に出していこうな…聖。


  
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