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桜
桜~ベンチ~ 2
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庭の桜の木に、薄ピンク色の蕾が膨らみだした。
まだ、少し肌寒いが、庭が明るく彩り始める季節だ。
桜の木の下には、少し古びたベンチが置かれている。
子供の頃に庭師さんが持ってきてくれて、聖のお気に入りの、絶好の昼寝場所となっていた。
ベンチに寝転がり、桜の木を下から見上げ、ヒラヒラと舞い降りて来る花びらは、いつまででも見ていられる。
「あの木、桜の木だったんだな…」
日曜日の昼過ぎ。
長い廊下に座り、庭を眺めていた聖に、昼食の食器を片付け終えたクロが、声をかけてきた。
「うん。玄関に、滝が描いた桜の絵があるでしょう。この木だよ」
クロは何か思い出したのか、話しを始めた。
「…そう言えば昔、祖父に『桜の木の下に寝転がる子供に、ベンチを持っていく約束をしたから、持っていくのを手伝え』て、言われて、運んだ事を思い出すな…」
クロは桜の木を見ながら、物思いに耽っている。
「何処の庭だったんだろな…」
「…。」
聖は、目を丸くして、クロを見上げた。
…えっ!?
もしかして、あの時の子供?
同じ年頃の少年が、庭師のおじさんと一緒に、桜の木の下にあるベンチを持ってきてくれた。
『…嬉しそうに、楽しそうに、もっと笑え』
その少年はそう言って、髪の毛に付いていた、桜の花びらを取ってくれた。
…クロなのか?
似ていると言えば、なんとなく面影はある気がする。
ほんの一時、話しただけで、あれ以来、少年はこの庭には来ていない。
違うかも知れないけれど、もし、あの時の少年だとしたら、この庭だと思い出すだろうか…。
聖の口元に笑みが浮かんだ。
「桜が満開になったらお花見しようね」
「ああ」
静かな平日。
聖はベンチに座り、八分咲きになった桜の花びらが、時おり舞い降りて来るのを眺めていた。
ひらひら舞う桜の花びらは、時間を忘れさせてくれる。
聖はベンチに身体を横たえ、桜の木を見上げた。
吸い込まれそうなほど綺麗で、ヒラヒラと降りてくる花びらから目が離せなくなってしまう。
「…聖…」
いつの間にか、側にいたクロが、聖の頬に触れてくる。
「…お前、だったのか…」
「…。」
聖はベンチから身体を起こし、座り直すと、クロが隣に座ってきて、身体を引き寄せられた。
「身体が冷たくなっている」
聖はクロの胸に顔を埋める。
「覚えているか?昔、このベンチを持ってきたときの事を…」
「…覚えている。…この間、気づいた…」
やっぱりクロだったんだ…。
「…どうしてあの時、僕に『笑え』って言ったの?」
クロは身体を離し、聖と向き合い視線を合わせる。
「嬉しそうに笑ってくれれば、可愛いのに…笑って欲しい…そう思ったんだ。…俺の初恋だ。…それに、女の子だと思っていたしな…」
クロへ照れ臭そうに笑う。
「…初…恋…」
聖はよく分からず首を傾げた。
「…部屋に入ろう。どれだけ外に居たんだ?」
クロが聖の唇に触れ、ベンチから立ち上がるように促され、聖はベンチから立ち上がった。
「…あの時の、笑ったら…可愛いなんて…初めて言われた。…笑い方を忘れてしまったから…何を言っているんだと思ったんだ」
「今は?」
「たくさんの人に笑い方を教えてもらった。昔のように笑えるようになったと思う」
クロが再び口付けてくる。
「聖は昔から可愛い。桜を眺めているときも、眠っているときも、甘えるときも、寂しそうにしている時も、…惚れた欲目だな…」
クロは照れ臭そうに、そう言って身体を引き寄せられた。
触れているところから、クロの暖かい体温が伝わってくる。
「中に入ろう…」
クロに抱き寄せられたまま、聖はクロを見上げて、家に向かった。
まだ、少し肌寒いが、庭が明るく彩り始める季節だ。
桜の木の下には、少し古びたベンチが置かれている。
子供の頃に庭師さんが持ってきてくれて、聖のお気に入りの、絶好の昼寝場所となっていた。
ベンチに寝転がり、桜の木を下から見上げ、ヒラヒラと舞い降りて来る花びらは、いつまででも見ていられる。
「あの木、桜の木だったんだな…」
日曜日の昼過ぎ。
長い廊下に座り、庭を眺めていた聖に、昼食の食器を片付け終えたクロが、声をかけてきた。
「うん。玄関に、滝が描いた桜の絵があるでしょう。この木だよ」
クロは何か思い出したのか、話しを始めた。
「…そう言えば昔、祖父に『桜の木の下に寝転がる子供に、ベンチを持っていく約束をしたから、持っていくのを手伝え』て、言われて、運んだ事を思い出すな…」
クロは桜の木を見ながら、物思いに耽っている。
「何処の庭だったんだろな…」
「…。」
聖は、目を丸くして、クロを見上げた。
…えっ!?
もしかして、あの時の子供?
同じ年頃の少年が、庭師のおじさんと一緒に、桜の木の下にあるベンチを持ってきてくれた。
『…嬉しそうに、楽しそうに、もっと笑え』
その少年はそう言って、髪の毛に付いていた、桜の花びらを取ってくれた。
…クロなのか?
似ていると言えば、なんとなく面影はある気がする。
ほんの一時、話しただけで、あれ以来、少年はこの庭には来ていない。
違うかも知れないけれど、もし、あの時の少年だとしたら、この庭だと思い出すだろうか…。
聖の口元に笑みが浮かんだ。
「桜が満開になったらお花見しようね」
「ああ」
静かな平日。
聖はベンチに座り、八分咲きになった桜の花びらが、時おり舞い降りて来るのを眺めていた。
ひらひら舞う桜の花びらは、時間を忘れさせてくれる。
聖はベンチに身体を横たえ、桜の木を見上げた。
吸い込まれそうなほど綺麗で、ヒラヒラと降りてくる花びらから目が離せなくなってしまう。
「…聖…」
いつの間にか、側にいたクロが、聖の頬に触れてくる。
「…お前、だったのか…」
「…。」
聖はベンチから身体を起こし、座り直すと、クロが隣に座ってきて、身体を引き寄せられた。
「身体が冷たくなっている」
聖はクロの胸に顔を埋める。
「覚えているか?昔、このベンチを持ってきたときの事を…」
「…覚えている。…この間、気づいた…」
やっぱりクロだったんだ…。
「…どうしてあの時、僕に『笑え』って言ったの?」
クロは身体を離し、聖と向き合い視線を合わせる。
「嬉しそうに笑ってくれれば、可愛いのに…笑って欲しい…そう思ったんだ。…俺の初恋だ。…それに、女の子だと思っていたしな…」
クロへ照れ臭そうに笑う。
「…初…恋…」
聖はよく分からず首を傾げた。
「…部屋に入ろう。どれだけ外に居たんだ?」
クロが聖の唇に触れ、ベンチから立ち上がるように促され、聖はベンチから立ち上がった。
「…あの時の、笑ったら…可愛いなんて…初めて言われた。…笑い方を忘れてしまったから…何を言っているんだと思ったんだ」
「今は?」
「たくさんの人に笑い方を教えてもらった。昔のように笑えるようになったと思う」
クロが再び口付けてくる。
「聖は昔から可愛い。桜を眺めているときも、眠っているときも、甘えるときも、寂しそうにしている時も、…惚れた欲目だな…」
クロは照れ臭そうに、そう言って身体を引き寄せられた。
触れているところから、クロの暖かい体温が伝わってくる。
「中に入ろう…」
クロに抱き寄せられたまま、聖はクロを見上げて、家に向かった。
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