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桜
マフィン
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クロが、小納谷で仕事をするようになった。
だから、今までみたいに、急に家に来ることは無くなった。
だけど、何処に居るのか分かっているし、会おうと思ったら会える場所にいるので、聖は小納谷に行くことが増えた。
聖は小納谷に行って、風呂掃除をするクロを眺めるのが好きだった。
風呂場と脱衣場の間にイスを持ってきて、クロが柄の付いた長いタワシで湯船の中のタイルを擦る。
時折水飛沫が上がり、クロを濡らす。
汗を拭いながら、ゴシコシと擦る音が心地よく、ドキドキしてきて、いつまでも眺めていれる。
聖が小納谷にいる時は、休憩時間にクロが部屋に来て、本を読んだり、一緒に町中へ買い物に行ったりする、楽しい時間を過ごしていた。
今日は昼食を食べ、夕方からのクロの仕事までに、新しく出来たケーキ屋さんへ行く。
大輔に、新しいケーキ屋さんが開店したから、行ってくるといいぞ、と、言われたからだ。
甘いお菓子は、全般的に好きだ。
だから、楽しみで仕方がない。
聖はいつも町に出るとき着ている、シャツに薄手のパーカーを羽織った。
クロと、一緒に出掛けれるのも、嬉しいのだが…。
聖は少しイライラとしていた。
クロと二人で買い物に出掛けると、女性が頻繁にクロに声をかけ、道を訪ねて来るのだ。
今も、クロは二人組の女性に道を訪ねられ、場所の説明をしている。
なんだろう…、面白くない…。
クロが説明を終え、聖のもとに戻ってきた。
「どうした?」
聖は顔を歪めてクロを睨んだ。
「別に…」
モヤモヤとしたモノが聖の中で渦巻いていた。
「ほら行こう。種類が少なくなってしまうぞ」
そう言ってクロに促され、歩き出した。
「…。」
種類が少なくなってしまうのは困る。
聖は渋々と歩き、クロはそれに付き添った。
クロの側にいると、自分の知らない自分が、時折現れる。
それが、何と言うのか分からない。
クロだけが、いつも、僕の知らない、いろんなモノをくれる…。
最近、開店したケーキ屋さんは女性客で賑わっていた。
昼もだいぶ過ぎ、おやつの時間帯なのだろう。
外から見ると、ケーキ屋の横がカフェになっているので、ここで飲食も出来るのかもしれない。
聖は店のガラス越しに見える、カラフルな色のケーキに目が行った。
良かった。まだ、たくさん有る。
聖は店内に入ると、ガラスケースに入った、カラフルなケールに見とれていた。
「…可愛い。…美味しそう」
どれにしようか迷い、悩んでいた。
三個までは絞ったのだが、決めかねていた。
すると、クロが声をかけてきた。
「どれが食べたいんだ?」
「イチゴがたくさん乗っているショートケーキか、タルトの果物が乗っているのか、イチゴのムースが良いんだけど…」
いっぺんにそれだけ食べれないから、迷っているのだ。
クロが店員さんに、ここで食べれるのか聞いてくれて、誘ってくれた。
「…ここで、お茶をしていこう。二つ頼んで、半分しよう。もう一つは、持って帰って食べれば良い」
聖は振り向いて目を輝かせ、頷いた。
「うん。食べていこう!」
クロと二人で、外で飲食するのは始めてだ。
いつもは、買い物して帰るだけ。
聖はショートケーキとタルトを頼み、紅茶を選んで、店員に案内されてカフェへと入っていった。
聖は席に座りながら、ケーキが来るのを楽しみに待ち構えていた。
ケーキも楽しみだが、クロと食べるのも楽しみだった。
ケーキを半分しようとクロが言っていたけれど、ほとんど聖が食べてしまった。
クロは二口ほど食べて、『甘い…』と、聖にくれたのだ。
聖はニコニコとケーキを平らげていった。
目の前にクロがいて、美味しいケーキを食べるなんて、幸せだなぁ…。
そんな事を思いながら…。
帰りには、イチゴのムースと、マフィンを買った。
実際に買ったのは、大ちゃんのお土産のマフィンだけ、だけど。
「大ちゃんにお土産」
いつも、いろんなお菓子を持ってきてくれる大ちゃんに、自分も何かお土産をあげたかったからだ。
だから、日持ちするマフィンを選んだ。
「どっちも美味しいよな…」
と、レーズンとチョコで迷っていると、クロがレーズンの方が良いと思うぞ。
と、言ってきたので、お土産はレーズンのマフィンにした。
自分の分も買おうとしたら、クロが『これは聖用のお土産』と、イチゴのムースと、レーズンとチョコのマフィンを買ってくれた。
嬉しいな…。
聖はニコニコとしながら店を出て、小納谷に戻り始めた。
ムースを買ったから、持ち歩いて、買い物するわけにはいかない。
「おいしかったね」
「ああ。また、一緒に食べに行こう」
「うん!」
聖は、また一緒に食べに行ける喜びで、微笑んでいた。
だから、今までみたいに、急に家に来ることは無くなった。
だけど、何処に居るのか分かっているし、会おうと思ったら会える場所にいるので、聖は小納谷に行くことが増えた。
聖は小納谷に行って、風呂掃除をするクロを眺めるのが好きだった。
風呂場と脱衣場の間にイスを持ってきて、クロが柄の付いた長いタワシで湯船の中のタイルを擦る。
時折水飛沫が上がり、クロを濡らす。
汗を拭いながら、ゴシコシと擦る音が心地よく、ドキドキしてきて、いつまでも眺めていれる。
聖が小納谷にいる時は、休憩時間にクロが部屋に来て、本を読んだり、一緒に町中へ買い物に行ったりする、楽しい時間を過ごしていた。
今日は昼食を食べ、夕方からのクロの仕事までに、新しく出来たケーキ屋さんへ行く。
大輔に、新しいケーキ屋さんが開店したから、行ってくるといいぞ、と、言われたからだ。
甘いお菓子は、全般的に好きだ。
だから、楽しみで仕方がない。
聖はいつも町に出るとき着ている、シャツに薄手のパーカーを羽織った。
クロと、一緒に出掛けれるのも、嬉しいのだが…。
聖は少しイライラとしていた。
クロと二人で買い物に出掛けると、女性が頻繁にクロに声をかけ、道を訪ねて来るのだ。
今も、クロは二人組の女性に道を訪ねられ、場所の説明をしている。
なんだろう…、面白くない…。
クロが説明を終え、聖のもとに戻ってきた。
「どうした?」
聖は顔を歪めてクロを睨んだ。
「別に…」
モヤモヤとしたモノが聖の中で渦巻いていた。
「ほら行こう。種類が少なくなってしまうぞ」
そう言ってクロに促され、歩き出した。
「…。」
種類が少なくなってしまうのは困る。
聖は渋々と歩き、クロはそれに付き添った。
クロの側にいると、自分の知らない自分が、時折現れる。
それが、何と言うのか分からない。
クロだけが、いつも、僕の知らない、いろんなモノをくれる…。
最近、開店したケーキ屋さんは女性客で賑わっていた。
昼もだいぶ過ぎ、おやつの時間帯なのだろう。
外から見ると、ケーキ屋の横がカフェになっているので、ここで飲食も出来るのかもしれない。
聖は店のガラス越しに見える、カラフルな色のケーキに目が行った。
良かった。まだ、たくさん有る。
聖は店内に入ると、ガラスケースに入った、カラフルなケールに見とれていた。
「…可愛い。…美味しそう」
どれにしようか迷い、悩んでいた。
三個までは絞ったのだが、決めかねていた。
すると、クロが声をかけてきた。
「どれが食べたいんだ?」
「イチゴがたくさん乗っているショートケーキか、タルトの果物が乗っているのか、イチゴのムースが良いんだけど…」
いっぺんにそれだけ食べれないから、迷っているのだ。
クロが店員さんに、ここで食べれるのか聞いてくれて、誘ってくれた。
「…ここで、お茶をしていこう。二つ頼んで、半分しよう。もう一つは、持って帰って食べれば良い」
聖は振り向いて目を輝かせ、頷いた。
「うん。食べていこう!」
クロと二人で、外で飲食するのは始めてだ。
いつもは、買い物して帰るだけ。
聖はショートケーキとタルトを頼み、紅茶を選んで、店員に案内されてカフェへと入っていった。
聖は席に座りながら、ケーキが来るのを楽しみに待ち構えていた。
ケーキも楽しみだが、クロと食べるのも楽しみだった。
ケーキを半分しようとクロが言っていたけれど、ほとんど聖が食べてしまった。
クロは二口ほど食べて、『甘い…』と、聖にくれたのだ。
聖はニコニコとケーキを平らげていった。
目の前にクロがいて、美味しいケーキを食べるなんて、幸せだなぁ…。
そんな事を思いながら…。
帰りには、イチゴのムースと、マフィンを買った。
実際に買ったのは、大ちゃんのお土産のマフィンだけ、だけど。
「大ちゃんにお土産」
いつも、いろんなお菓子を持ってきてくれる大ちゃんに、自分も何かお土産をあげたかったからだ。
だから、日持ちするマフィンを選んだ。
「どっちも美味しいよな…」
と、レーズンとチョコで迷っていると、クロがレーズンの方が良いと思うぞ。
と、言ってきたので、お土産はレーズンのマフィンにした。
自分の分も買おうとしたら、クロが『これは聖用のお土産』と、イチゴのムースと、レーズンとチョコのマフィンを買ってくれた。
嬉しいな…。
聖はニコニコとしながら店を出て、小納谷に戻り始めた。
ムースを買ったから、持ち歩いて、買い物するわけにはいかない。
「おいしかったね」
「ああ。また、一緒に食べに行こう」
「うん!」
聖は、また一緒に食べに行ける喜びで、微笑んでいた。
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