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眠っていた帰り道 

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 堤防を散歩して車に戻ると、聖は後部座席に座って、クッションを抱えていた。
 お腹一杯になって、眠気が襲って来ていたからだ。
「眠かったら、横になって眠れよ」
「…うん…」
 クロに言われて、ズルズルと身体を滑らせ、平たくした後部座席に身体を横たえた。
「毛布かけないと、風邪ひくぞ」
 聖は、横に置いてあった毛布を手に取り、身体にかけ、ふと視線を上げると、クロと目があった。
「出発するぞ」
「…うん」
 クロは前を向いて、車を家に向かって出発させた。

 聖は身体を横たえなが、クロが運転するのを見ていた。
 助手席に座っているときは、外ばかり見ていたので、クロが運転する姿を見てはいない。
 ちょうどココから、真剣に前を向いて運転する姿か見える。
 …何か…良いな…。
 何が良いのか自分でも分からない。
 でも、そんな風に思った。
 クロは時折、横を向いて、多分周囲を確認して運転している。
 その真剣な眼差しが、いつもと違って見えて、ドキドキしてきて、それを誤魔化すように笑ってしまった。
 …何、ドキドキしてるんだろう…。
「…どうかしたのか?」
 クロが、前を向いたまま、声をかけてきた。
「…別に」
 聖はそう言って、再び小さな笑い声を立てる。
 …ドキドキして、何か…楽しい…。
 聖は車の揺れる振動に、眠気を誘われ目蓋を閉じる。
 …帰り道も…楽しいね。
 聖はそのまま深い眠りに付いていた。


「聖。着いたぞ」
「…んっ…」
 クロに声をかけられ、目蓋をゆっくりと開ける。
 どこだココ…。
 車の…中…。
 聖は、ぼんやりとして、どこにいるのか分からなかった。
「…家に着いたぞ」
「…。」
 クロのその言葉に、聖は身体を起こし、辺りを見回した。
「…いつの間に…」
 確か、駐車場で車に乗って、運転しているクロを見ていて…。
「ぐっすり眠っていたからな…」
 クロは微笑んで、着替えの入ったカバンを引っ張りだす。
「荷物を下ろすぞ。…聖、洗濯機の水を入れてきてくれるか?」
「…わかった」
 着替えが二日分あるし、雨に濡れた服もある。
 聖は靴を履き、後部座席に置いてあった、濡れた服の入ったバケツを持って、家の中に入って行った。


 洗濯が終わり、荷物を片付け終わる頃には、外は薄暗くなってきていた。
 いつもの部屋に座り、持って帰ってきた天ぷらと、魚の煮付けを温め、味噌汁は作って、小納谷に寄ったときもらったおにぎりとサラダを並べ、少し早い夕食にした。
 聖は食べながら、楽しかった話をした。
 また、クロと一緒に行きたいな…。

 
 いつものように、聖は布団に入って、クロが側で髪を撫でてくれる。
 …三日間、ずっと一緒で楽しかった時間も終わる。
 クロは明日から仕事があるので、今日は泊まってはいかない。
 …離れがたい…。
「お休み、…聖」
 クロがそう言って微笑む。
 いつも、眠るまで側にいてくれる。
「…お休み…」
 聖は目を閉じた。
 眠い訳ではないが、目を閉じれば眠気が襲ってくる。
 …お休み…クロ…。


 翌日、宿にいたときみたいに、クロが側にいなくて寂しかった。



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