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アリミネ火山~追憶のキース~

風霊が呼んだ男

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 イオは男と短い距離を跳ぶ『移動』を使って、アリミネ火山の中腹の、始めに煙が出ていたと言われる場所に向かった。 
 アリミネ火山の中腹に向かうに連れて、気温が上がり熱風が襲ってきた。
 男が風のシールドを展開しながら、イオが熱を押さえながら道を進んでいった。
 裂け目が有った筈の場所に近付くと、裂け目ではなく、ソコは深く陥没して、まるで爆発があったかのように、地表がえぐり取られていた。
 イオの耳に叫び声が聞こえた。
「…何か、聞こえないか…」
 男にたずねた。
「…鳴き声…」
 彼も気が付いたらしく、熱風と蒸気とで視界が遮られる中目を凝らした。
 …こんな灼熱地獄のような場所に、誰かいるのか?
 …何?視界に赤く動くものが見えた。
 …まさか…本でしか見たことの無い…希少種…。
「…ドラゴン…竜だ…」 
 イオは震える声で呟いた。
「…炎の竜か…?」
 この噴火で目覚めたのか、目覚めたから噴火したのか…。
 仲間に伝えてどうするか考えないと…。
 ソレに、足が焼けるように痛い…。
「一旦戻りましょう」
「そうだな…」
 イオと男は灼熱地獄から離れ、熱風の来ない場所まで来ると、ホッとため息を付いた。
 いくら炎や熱を制御できると言っても、短時間しか無理だ。
 身体が熱を持っていて、きっと足は水脹れが出来ているだろう。
 かろうじて、気力だけで歩いているようなものだ。
 男が腰に下げたポーチの中から石を二つ取り出し、魔法をかけた。
「『冷却』!」
 みるみる石が凍りつき、冷気を放ち出す。
 それをイオに一つ渡してきて、身体を冷やすように言ってきた。
「こんな事も出来るのか?」
 イオは有りがたく『保冷石』を使って身体を冷やしながら、怪訝そうに男を見て、麓に向かって歩き出した。
 取りあえずココから離れなくては…。
「簡単なものなら、この石が有れば出来るよ」
 男は何気なくそう答えてくれた。
「…普通の石では無いのか?」
 ただの石にしか見えないが…普通の石ではこんな簡単に魔法はかからない。
「…魔法がかかりやすい…石なんだ…。だから、普通とは少し違うのかも…」
「…。」
「魔法石みたいに、自ら魔力を放つ石ではなくて、魔力を込めた分、魔法石みたいに使える…。炎の魔法を掛ければ、熱くなって暖をとれるよ」
 そんな石が有ると言うのか…。
 それがあれば、魔法を使えない者でも使用できる…。
 生活が一変するかもしれない…。
「探せば何処かに有るのかもしれない。…偶然見つけただけで、数はあまり無いよ」
「…そうか…」
 そう簡単に手に入る分けないか…。
「全てが落ち着いたら、周辺の岩を調べると良いかも。意外なところに眠っているかもね…」
 彼はそう言って微笑む。
 そんな石が存在すると言うのなら、調査してみる価値は有る。
 そんな事を重いながら、炎の竜の事を皆に報告してどう対処するのか考えなくてはいけなかった。


 イオが男と麓に戻ってくると、最初の広場の人数が増えて、獣人族、有翼族までもがいた。
 アリミネ火山の周辺の町の者達だ!
「イオ!戻ってきた!」
 こちらに気付いたルドが駆け寄ってくる。
「上空に偵察に行ったら、彼らが居たんだ!人数が多い方が何か対策出来るだろ!!」
「ああ。俺達だけでは防ぎようがない…」
「初めまして。隣のロバロク山に住む有翼族のシバです。我々の領地から赤々と輝いて見えたものですから…」
 そう言って白い翼をピクピクと動かしてイオに挨拶する。
「ワイトデのイオだ」
 アリミネ火山周辺に有る、町の主だった者達が集まっている。
 深く関わってはいないが、存在している事だけは互いに認識している。
「我々は、伝えなくてはいけないと思い、ここまで来た」
 有翼族のシバは、そう前置きをして話し出した。
「我ら有翼族は山の中腹を住みかとする。その山に伝わる言い伝えが有り、山が騒いで噴火するとき、炎の竜が生まれる。その竜は山の守り神。竜が暴れれば炎が立ち上ぼり町を滅ぼす。と…」
「…。」
 イオは男と顔を見合わせた。
 …あの竜の事か?
「なので、何処かに炎の竜が出現している可能性があります。炎の竜にお願いして、噴火しないように、これ以上溶岩が流れ出ないように頼むしかないです」
「それが、一番の解決策と言うわけか…」
 イオはため息をつく。
「この広大なアリミネ火山から炎の竜を探し出すのは、容易な事ではないですか…」
「…炎の竜なら見つけた」
 男がそう言うと、辺りがシンと静まり返った。
「ただ、近付けない…。鳴き叫んでいた…」
「何処に?!」
 有翼族のシバが男に距離を積めてやってくる。
「アリミネ火山の中腹だ。熱風と蒸気で視界が悪く、お願いするところでは無いぞ…」
 イオもそう言って、男を見る。
「まずは炎の竜に近付く為に、熱風と蒸気を防げる手だてを考えないと、身体中が水脹れになる」
 そう言ってイオはズボンの裾を捲り、水脹れになった足を見せた。
 やはり酷いことになっている…。
「かなり痛い」
 シバや仲間達は痛々しいそうに、顔を歪ませる。
「…何か方法はないか?」
「それより、早く冷やしてください!」
 蒼白な顔をして、チハヤがそう言ってきた。
 チハヤは幼馴染みであり屋敷の使用人でも有るが、自衛団員でもあり風を扱う。
 治療前に冷やして清潔にしなくてはいけないな…。
「…一旦、屋敷に行く。使用人や両親達はいないが、降り注ぐ灰の中で考えるよりは落ち着くだろう」
 そう言って、イオは屋敷に向かって歩き出した。
 歩けるうちに屋敷に戻らないと…痛みが増してきた…。
 しばらくするとチハヤが駆け寄って来た。
「屋敷の玄関ホールを開放しますね。灰が舞うからソファーや椅子に何か被せて置いた方が良いですよね」
「ああ、頼めるか」
「こういう時は『頼んだ』で良いんですよ。何か飲み物も用意しますね」
 チハヤはそう言って笑って、足早に屋敷に向かっていった。
 まだ、始まったばかりだ…。


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