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『怪異払い』と刑事の記録
後編
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「納得の行く説明をしてもらうぞ」
男がいるのは怪異が活動をしていた病院の個室。
怪異が払われてから一晩が明け、四人の被害者はすでに全員目を覚ました。
最後に『怪異払い』の女が目覚めたと連絡を受けた男が、この病室に乗り込んでいた。
男は怒りと心配を混ぜ合わせた表情を隠さず、病室のベットに座る『怪異払い』である妻を詰問する。
「いやー色々ドジっちゃった」
『怪異払い』の仮面を外した妻は、夫の怒りをどうにか有耶無耶にすべく、言い訳を始めた。
「階段を揺らしてよろめかせるだけのへっぽこ怪異だったし、本当にひとりで十分な相手だったの」
あれくらいの強さなら『見習い怪異払い』の練習台レベルだと説明した。
「だったら、なぜ被害者は目を覚まさず、お前は退治を急いだんだ」
「階段の怪異が弱っちいのはわかってたんだけど。それなのになんでか、被害範囲が広いと言うか、バラツキがあるというか、とにかく気持ち悪い感じだったの」
経験的にほっとくと面倒になるタイプ、と断言する。
「あと、被害者に関しては別の怪異の仕業だった」
そしてあっさりと、二体目の怪異について言及した。
「ただ、隠れるのがうまいと言うか、階段野郎の気配が弱っちいくせに無駄に幅を取っていて、他の怪異の気配がわからなかったの。弱いくせにいっちょ前に邪魔してくるのが腹立って、最短でぶちのめしに行ったってわけ」
悪びれもしない言い訳を重ねる妻を見て、夫は自身の感情を落ち着けるように、こめかみを押さえる。
「……イレギュラーがわかっていたなら、単独での退治はリスクがあったんじゃないのか」
「あのさ~確かに私は調査専門の『怪異払い』だけど、これでも一応自分の事務所を持ってるんだよ。『怪異払い』が独立するには調査と退治を、どっちもある程度ひとりで出来るのが条件なんだからね」
私、結構エリートなんだよと胸を張り、夫の心配を一蹴する。
そのふてぶてしい態度に、夫の感情は爆発した。
「だったらどうしてお前は気絶してたんだよ! 横たわるお前を見つけた俺がどんな思いだったか! 少しは考えやがれ!!」
「ごめんなさい」
夫からの愛の怒号に、妻は姿勢を正して謝罪した。
が、変わらず妻の言い訳は続く。
「でもでも、階段野郎はすぐに『ぺしゃんこ』にしたんだよ! ただ、階段野郎の最後っ屁で足場を揺らされて、バランスを崩しただけなの!」
「……つまりドジだと」
「ちがうよ~コケる前にちゃんと手すり掴んだし」
「だったらなんで」
「その手すりが、二体目の怪異だったから」
唖然とする夫を残し、妻は話を進める。
「ちなみに、被害者を出してるのがクソ手すりの方。階段野郎はぷるぷる震えてるだけだった」
あのクソ手すり、と思い出しているのか恨みがましく罵る。
「階段野郎が転ばせた相手に自分を掴ませて、助かる希望をちらつかせるクソ怪異だった! 今思い出してもほんと腹立つ!」
「……その手すりは何をする怪異なんだ?」
「ん?……ああ、めちゃくちゃぬるぬるしてて手が滑るんだよ。ほんと最悪」
「つまり……お前が気絶したのは、隠れていた怪異に気づかず、不意を疲れて、怪異の術中にハマったから、ってことでいいのか?」
「ちーがーいーまーすー」
煽るように否定する妻。
夫に苛立ちが走る。
「確かに手が滑って階段から落っこちそうになったけど、床に付く前に全力込めて、きっちりクソ手すりをひねり潰しまーしーたー」
「……わかったから。なんで気絶していたか、結論を早く言え」
苛立ちを隠さなくなった夫の鋭い視線に、妻は言い淀むように観念した。
「あー……これまでに積み重なったストレスを、んー……一撃に込めてぶっ放したらスッキリして、そのー…………受け身とりそこなっちゃった、てへ」
「結局お前がドジっただけじゃねえか!!!!」
可愛く誤魔化そうとする妻の媚びる声と、それに対する夫の怒号によるツッコミが、病室内に反響した。
病室の外には、見舞いに来ていた夫の同僚と妻の同業者が居た。
夫婦を通してよく顔を合わせる二人は、病室から聞こえてくる声に肩をすくめる。
「いつものことですね」
「全くです」
「実力はあるのにどこか抜けている彼女と」
「責任感は強いのに打たれ弱くて心配性な彼」
「お似合いですね」
「お似合いですよ」
「……」
「……」
「「元気そうですし帰りません?」」
病室から漏れてくる会話に、二人は声を合わせて呆れる。
お腹すいたしどこかで食べませんか、と見舞い未遂の二人は談笑しつつ病室前から離れていった。
心配する夫の叫びと、自分の失態を誤魔化そうとする妻の言い訳が、病室内から惚気のように漏れ出ている。
男がいるのは怪異が活動をしていた病院の個室。
怪異が払われてから一晩が明け、四人の被害者はすでに全員目を覚ました。
最後に『怪異払い』の女が目覚めたと連絡を受けた男が、この病室に乗り込んでいた。
男は怒りと心配を混ぜ合わせた表情を隠さず、病室のベットに座る『怪異払い』である妻を詰問する。
「いやー色々ドジっちゃった」
『怪異払い』の仮面を外した妻は、夫の怒りをどうにか有耶無耶にすべく、言い訳を始めた。
「階段を揺らしてよろめかせるだけのへっぽこ怪異だったし、本当にひとりで十分な相手だったの」
あれくらいの強さなら『見習い怪異払い』の練習台レベルだと説明した。
「だったら、なぜ被害者は目を覚まさず、お前は退治を急いだんだ」
「階段の怪異が弱っちいのはわかってたんだけど。それなのになんでか、被害範囲が広いと言うか、バラツキがあるというか、とにかく気持ち悪い感じだったの」
経験的にほっとくと面倒になるタイプ、と断言する。
「あと、被害者に関しては別の怪異の仕業だった」
そしてあっさりと、二体目の怪異について言及した。
「ただ、隠れるのがうまいと言うか、階段野郎の気配が弱っちいくせに無駄に幅を取っていて、他の怪異の気配がわからなかったの。弱いくせにいっちょ前に邪魔してくるのが腹立って、最短でぶちのめしに行ったってわけ」
悪びれもしない言い訳を重ねる妻を見て、夫は自身の感情を落ち着けるように、こめかみを押さえる。
「……イレギュラーがわかっていたなら、単独での退治はリスクがあったんじゃないのか」
「あのさ~確かに私は調査専門の『怪異払い』だけど、これでも一応自分の事務所を持ってるんだよ。『怪異払い』が独立するには調査と退治を、どっちもある程度ひとりで出来るのが条件なんだからね」
私、結構エリートなんだよと胸を張り、夫の心配を一蹴する。
そのふてぶてしい態度に、夫の感情は爆発した。
「だったらどうしてお前は気絶してたんだよ! 横たわるお前を見つけた俺がどんな思いだったか! 少しは考えやがれ!!」
「ごめんなさい」
夫からの愛の怒号に、妻は姿勢を正して謝罪した。
が、変わらず妻の言い訳は続く。
「でもでも、階段野郎はすぐに『ぺしゃんこ』にしたんだよ! ただ、階段野郎の最後っ屁で足場を揺らされて、バランスを崩しただけなの!」
「……つまりドジだと」
「ちがうよ~コケる前にちゃんと手すり掴んだし」
「だったらなんで」
「その手すりが、二体目の怪異だったから」
唖然とする夫を残し、妻は話を進める。
「ちなみに、被害者を出してるのがクソ手すりの方。階段野郎はぷるぷる震えてるだけだった」
あのクソ手すり、と思い出しているのか恨みがましく罵る。
「階段野郎が転ばせた相手に自分を掴ませて、助かる希望をちらつかせるクソ怪異だった! 今思い出してもほんと腹立つ!」
「……その手すりは何をする怪異なんだ?」
「ん?……ああ、めちゃくちゃぬるぬるしてて手が滑るんだよ。ほんと最悪」
「つまり……お前が気絶したのは、隠れていた怪異に気づかず、不意を疲れて、怪異の術中にハマったから、ってことでいいのか?」
「ちーがーいーまーすー」
煽るように否定する妻。
夫に苛立ちが走る。
「確かに手が滑って階段から落っこちそうになったけど、床に付く前に全力込めて、きっちりクソ手すりをひねり潰しまーしーたー」
「……わかったから。なんで気絶していたか、結論を早く言え」
苛立ちを隠さなくなった夫の鋭い視線に、妻は言い淀むように観念した。
「あー……これまでに積み重なったストレスを、んー……一撃に込めてぶっ放したらスッキリして、そのー…………受け身とりそこなっちゃった、てへ」
「結局お前がドジっただけじゃねえか!!!!」
可愛く誤魔化そうとする妻の媚びる声と、それに対する夫の怒号によるツッコミが、病室内に反響した。
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夫婦を通してよく顔を合わせる二人は、病室から聞こえてくる声に肩をすくめる。
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「お似合いですよ」
「……」
「……」
「「元気そうですし帰りません?」」
病室から漏れてくる会話に、二人は声を合わせて呆れる。
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