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僕と彼とカレンダーの印 全三話
僕と彼とカレンダーの印 前篇
しおりを挟む僕の幼馴染は昔から遅刻が多い。
彼は学校に遅刻するのはもちろん、遊びの待ち合わせにもよく遅刻をした。
そのたびに彼は「俺が悪かった、ごめんごめん」と薄っぺらい謝罪を繰り返し、悪びれもしない。
僕は彼のそういう不誠実なところが許せなく、何度も口論から喧嘩に発展した。
小学校、中学校、高校と同じ学校に通い、ことあるごとに、彼へ説教をしては言うことを聞かせようとした。
しかし、彼は頑なに考えを変えず、僕も自分が正しいと思いこんだ。
高校を卒業しても、僕と彼の腐れ縁は続き、とうとう大学も同じキャンパスになった。
学部は僕が経済学部、彼は文化学部で民俗学を専攻したようだ。
そんな僕らも大学生になって、自分の悪いところを自覚できるようになった。
僕は、自分の価値観が正しいと、人に強制しようとする、独りよがりな正義感を持っていると自覚し、後悔した。
彼は、自分が遅刻するたび、待たせている人の時間を無駄にさせている、人生の残り時間を奪っていると気が付き、反省した。
しかし、反省したからと言って彼の遅刻がすぐになくなるわけではない。
彼の遅刻をなくすために、僕も手伝って、二人で試行錯誤を重ねた。
色々と試した結果、壁に大きなカレンダーをかけて、予定のある日に大きく印をつける方法が、彼の遅刻に1番効果があった。
なぜ印なのかと言うと。
カレンダーに予定を書き込む方法を試した時に「予定を書くのが途中で面倒でやらなくなった」と彼が言ったからだ。
さすがにその時は、久しぶりの喧嘩になった。
予定のある日に◯でも、✕でも、☆でも、好きな印をカレンダーに書くと、部屋にいる時に、自然と大きなカレンダーが目に入り、印を見ると予定を思い出せるそうだ。
そのおかげで、彼の遅刻は目に見えて減っていった。
彼には、型にはまった決まり事を守らせるより、ゆるく融通の効く方が合っていたようだ。
彼の部屋に遊びに行った時に見た、大きなカレンダー。
そのカレンダーに書き込まれた様々な形の印は、彼が変わろうとした努力の証に違いない。
カレンダーを眺めていた僕の背後から、照れの混ざった小さなつぶやきが僕の耳に届いた。
「お前のおかげだ、ありがとう」
少し素直じゃない彼のつぶやきは、僕の耳には少しこそばゆい。
春になり、二人とも無事に進級ができた。
互いに専門分野の勉強が忙しく、特に彼が専攻している民俗学のフィールドワークは、海外に向かうこともあり、それもあって彼とは三ヶ月ほど顔を合わせていない。
最後に連絡を取ったのは二週間前、彼がフィールドワークで海外に行く直前のメール。
たしか、独自の儀式や呪いが未だに残っている、秘境の地に住む民族に会いに行くらしい。
「未知の文化を存分に堪能してくる、特殊な生物もいるらしい。日本に帰る頃には新たな価値観を持った俺に会えることだろう」と楽しげな文章が書いてあったはずだ。
今まで彼とは毎日のように一緒にいて、これほど離れて生活するのは、僕の記憶にある限り初めてのことだった。
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