怪異に襲われる

醍醐兎乙

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足を引っ張る 全六話

足を引っ張る 四話

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 一人ぼっちの自室で昼食を抜いた男は、一人暮らし用の小さな冷蔵庫を見つめていた。
 そこには昨日まで缶ビールが入っていたが、今はすべて空き缶になって床に散らばっている。
 昨日、覚えているのは冷蔵庫を開けるところまで。

「やっぱり、思い出せない」

 最近、自室で飲んでいても、意識が戻ると外で寝ていることが多くなった。
 どうやら昨日も、アルコールで意識を失いながら部屋を飛び出し、駅前広場の大きなベンチまで自分の足で歩いたようだ。
  ご丁寧に部屋着から私服に着替えも済ませている。

 痙攣するように震える自身の左手を見た。

「部屋にアルコールがないせいで、手が震えてくる」

 手の届く場所にアルコールがある。
 それが男が人として最低限の生活を送るために必要な、精神安定剤。
 一ヶ月の間、その精神安定剤にすがって生きていた。

 一瞬、アルコールを買いに出かけようという考えが男の頭によぎる。

「明日は朝からシフトに入ってるから、我慢しないと」

 一度アルコールを体に入れれば、男の体がどこに向かうのか、男自身にもわからない。
 なによりこれ以上アルバイトに遅刻をしたくなかった。



 親睦会の翌日の遅刻からアルバイト先での男の扱いは変わった。
 居心地が悪い。
 同僚の視線が自分を責めているように感じる。
 実際に言葉で責められることもあった。
 
「あのおかしな酒癖の悪さを隠すために、私達に嘘をついて騙して‼ 心配して体調を気遣ってた私達のことバカにしてたんでしょ‼」 

 自業自得だとわかっている。
 それでも苦しみから逃れるためにアルコールへ手が向かいそうになった
 そのたびに冷蔵庫の缶ビールを眺めて耐えて過ごした。

 しかし、それも昨日までの話。 

 
 男は震える手で空き缶を片付け始めた。
 空き缶を一つ一つゴミ袋に入れていく。
 
 ゴミ袋の口を縛る頃には、男の部屋は夕日で赤く染められていた。
 空き缶をまとめた袋も夕日を反射している。
 全てが赤に包まれた部屋で、男の頭に石碑の言葉が想起した。

『求めるものを
  赤く染め
  黒に至れば
  闇に溶け込め
  次の扉が開かれる』
 
 男は石碑の言葉をつぶやいた。
 携帯電話で時間を確認する。

「十八時半」

 夏の夕暮れはもう少し続く。
 震える体を自分で抱きしめ、夕日が沈み切るのを眺めていた。
 
 部屋が赤を失い、黒に至る。
 暗闇の中、食欲の戻らない男は、そのまま布団に横になり、瞳を閉じた。
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