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足を引っ張る 全六話
足を引っ張る 五話
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男は今まで経験したことのない、肌を刺す鋭い冷気によって目が覚めた。
体にまとわりつく空気は重く澱んで、生臭い。
肺が受け入れを拒否しているのか、うまく息を吸うことができず、呼吸が浅くなる。
なにが起きているのか、服の裾で口を覆い、男は四つん這いになりながら周囲を見回した。
男の視界は黒一色。
光のない漆黒の空間に、男はいた。
男は暗闇に平衡感覚を狂わされながら、ゆっくりと立ち上がる。
(ここは何処だ……また、意識のないうちに移動したのか?)
口元を押さえる服の裾、手触りから高校時代の体操服だとわかる。
(理由はわからないけど意識を失っていても、外に出るときはいつも着替えていた)
ならなぜ、と自問していると。
男は体に、震えがないことに気がついた。
あれほど自身を狂わせていた、『アルコールへの欲求』を今はまるで感じない。
最初から『そんなもの』を持っていなかったと思うほど、今の男は精神が安定していた。
もし、『なにか』が男の『アルコールへの欲求』を消し去ったのなら。
その『なにか』は男に『アルコールへの欲求』を植え付けたのではないか、と気がついた。
そもそも、自分の体はアルコールに弱く、誕生日の二日酔いがトラウマになっている。
そんな自分が『なにか』に操られるように、アルコールで精神を溶かし、意識を失っていた。
そして、意識がない間に『なにを』したのか。
いや、『なにを』させられたのか。
男の中で想像が繋がっていく。
操られるように意識を失い『なにか』をさせられていた自分。
目覚めるのはいつも、小さな石碑の前。
消えた小鳥のさえずり。
数を減らしていく猫。
親睦会の翌日、発見された変死体。
周囲から目立たぬように、部屋着から私服への着替え。
考え込む男を、言葉にできない不快感が、包みこんでいく。
男の背後、暗闇の先から物音と小さな唸り声が、男の耳に届いた。
口元を覆うのも忘れ、飛び上がり、男も物音を立てる。
その音に警戒したのか、唸り声は聞こえなくなった。
(なにか……いる)
ズボンのポケットに手をいれる。
指に当たるのは柔らかい布地の感触と、携帯電話。
普段通りの硬質的な手触りに、少しの安心を覚えた。
そのまま携帯電話を取り出し、電源をつけ、物音のした方に光を向けた。
携帯電話の薄い光に照らされて、男のいる空間がぼんやりと輪郭を見せる。
広さは学校の教室ほどで窓や扉は見当たらない。
天井は高く、届きそうにない。
男がいるのは密閉された部屋のようだった。
目を凝らし、物音のした方を見る。
部屋の隅になにかが積まれ、見上げるほどの山がそこにはあった。
物音は積まれたなにかが、崩れた音のようだ。
他になにかないか、男は周囲をぐるりと僅かな光源で照らして確認した。
体にまとわりつく空気は重く澱んで、生臭い。
肺が受け入れを拒否しているのか、うまく息を吸うことができず、呼吸が浅くなる。
なにが起きているのか、服の裾で口を覆い、男は四つん這いになりながら周囲を見回した。
男の視界は黒一色。
光のない漆黒の空間に、男はいた。
男は暗闇に平衡感覚を狂わされながら、ゆっくりと立ち上がる。
(ここは何処だ……また、意識のないうちに移動したのか?)
口元を押さえる服の裾、手触りから高校時代の体操服だとわかる。
(理由はわからないけど意識を失っていても、外に出るときはいつも着替えていた)
ならなぜ、と自問していると。
男は体に、震えがないことに気がついた。
あれほど自身を狂わせていた、『アルコールへの欲求』を今はまるで感じない。
最初から『そんなもの』を持っていなかったと思うほど、今の男は精神が安定していた。
もし、『なにか』が男の『アルコールへの欲求』を消し去ったのなら。
その『なにか』は男に『アルコールへの欲求』を植え付けたのではないか、と気がついた。
そもそも、自分の体はアルコールに弱く、誕生日の二日酔いがトラウマになっている。
そんな自分が『なにか』に操られるように、アルコールで精神を溶かし、意識を失っていた。
そして、意識がない間に『なにを』したのか。
いや、『なにを』させられたのか。
男の中で想像が繋がっていく。
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男の背後、暗闇の先から物音と小さな唸り声が、男の耳に届いた。
口元を覆うのも忘れ、飛び上がり、男も物音を立てる。
その音に警戒したのか、唸り声は聞こえなくなった。
(なにか……いる)
ズボンのポケットに手をいれる。
指に当たるのは柔らかい布地の感触と、携帯電話。
普段通りの硬質的な手触りに、少しの安心を覚えた。
そのまま携帯電話を取り出し、電源をつけ、物音のした方に光を向けた。
携帯電話の薄い光に照らされて、男のいる空間がぼんやりと輪郭を見せる。
広さは学校の教室ほどで窓や扉は見当たらない。
天井は高く、届きそうにない。
男がいるのは密閉された部屋のようだった。
目を凝らし、物音のした方を見る。
部屋の隅になにかが積まれ、見上げるほどの山がそこにはあった。
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