王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

四話 翔べない鳥

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 王都に到着した私達は、今日の宿泊先を探していた。
 旅の疲れを癒し、明日に備える為に。
 本当は一日でも早くギリアスに行きたいけれど、焦って何かが起きてしまったら、今までの努力が水の泡になるから。

「わぁ、意外と部屋は綺麗ね! ゆっくりできそう!」

「へえ、悪くないな」

 やっと見つけたその宿は、一泊夕食付きで一人につき銀貨五枚の宿。
 ルーシアが言うには、ドリアスの一般的な宿と比べると、少し高いみたい。
 ミストは『さすが王都だ』と、腕を組みながら感心していたけれど。

「ミスト、お風呂の時は絶対に覗かないでね。ちなみに、振り・・じゃないから」

「わかってるよ」

 ただ一つ問題だったのは、空室が一部屋しかなかった事。
 だから今日は、三人で一緒に眠る事になっていて。
 でも、私は二人と一緒で嬉しい。寝顔を見られちゃったら少し恥ずかしいけど、不思議と心が踊ってしまう。

「おっ、見ろよ。この部屋給湯器ポットまであるぞ。紅茶とコーヒーも備え付けで置いてくれてるし」

 感激するミストの目の前には、数分でお湯を沸かせる給湯器ポットが置かれていた。
 それは魔石から抽出された動力エネルギーを利用して、熱に変換させる魔法具。

 他には二人掛けソファーとガラステーブル、ベッドが二つ並んであった。
 大きなクローゼットの中には、バスローブもたくさんあって。

「ルーシア、一緒に入ろ」

「そうね。なんだか眠くなってきたし、今日はお風呂に入って寝ましょうか」

 私の提案を快く聞いてくれるルーシアと、一緒にお風呂へと向かう。
 いつの間にか夜を迎えていた為か、欠伸なんかもしながら。
 昨日は荷馬車の中で身体を拭く事しかできなかったから、この瞬間が待ち遠しかった。

「……。」

「どうか、したの?」

 脱衣室で服を脱ぐ途中、ルーシアが無言で見つめてくる。
 その視線は、少しだけ下を向いていて。

それ・・、何を食べてそんなに大きくなったの?」

 質問の意味を理解できず、小首を傾げる私。
 身長は、ルーシアの方が大きいし……。

「えっと、あまり食べてないかな」

 とりあえず頭に浮かんだ言葉を返す。
 実際、アルヘム村に来るまでの私は食に困っていたから。

「そんな訳ないわ! 絶対に何か私とは違う生活習慣があるはずよ! 他に心当たりはないの!?」

「えっ、えっと、いっぱい眠る事……とか?」

「なるほど。それは確かにありえるわ。寝る子は育つって言うものね」

 咄嗟にそうは言ったけれど、元の家にいた頃の私は、あまり眠れていなかった。
 静寂の中で目を閉じると、恐かったから。
 窓の景色を眺めていないと、寂しかったから。

「ねえ、ローレライ。貴方と出会ってからまだ数日なのに、本当に色々あったわね。まさか王都に来る事になるなんて、想像もしなかったわ」

 二人で湯船に浸かる中、ルーシアがそんな事を言う。
 小さな浴槽に、二人で譲り合って入りながら。

「ごめんね、付き合わせちゃって」

「ううん、むしろ感謝してるわ。だって、すごく楽しいもの」

「うん、ありがとう。私も、とても楽しい」

 今の私は、本当に楽しいと感じている。
 旅をして、いろんなもの見て、たくさん経験して。
 そして、こんなにも大切な人達が増えたのだから。
 だからこそ私は、みんなの前から……。

 ガチャ。

 その時、浴室の扉がゆっくりと開いた。

「……あっ」

 解放された扉の先には、呆けた顔のミストが立ち尽くしていた。
 次第に汗を垂らし、滝のように吹き出す。
 
「おっと、トイレと間違えてしまったようだ。二人とも、ごゆっくり」

 パタン。

 作り笑顔を見せたまま、扉を閉めるミスト。

「全くミストったら、本当にお馬鹿なんだから。そんなに死にたかったのかしら。ねっ、ローレライ?」

「えっ、うん」

 明らかに笑っていないルーシアは、水飛沫を上げて立ち上がり、浴室を出ていってしまった。
 その背中には、烈火のごとく燃え盛る魔力が放出されていて。

 ガシャーン! ピシャーン! ゴスッ。

「あれ? 何の音かな」

 遅れてお風呂を出ると、何やら悲鳴や鈍い音が聞こえてきていた。
 きっとルーシアとミストが遊んでいるのだろうけど。
 でも、二人とも元気で良かった。

「お待たせ」

 寝間着ネグリジェに着替え終えた私は、冷めないうちに部屋へと戻った。
 温まった身体からは、微かに湯気が立ち上る。

「おかえり、ローレライ」

 笑顔でコーヒーを飲むルーシアの足元には、なぜだかうつ伏せのミストが床で寝ていた。
 そっか。ミスト、本当は疲れていたんだね。
 でも、なんだか凍っているような気が……。

「ミストは床で寝るそうだから、ベッドは私達で使いましょう」

「うん、もう寝てるもんね」

 そっとミストに毛布をかけてから、私達も眠る事にした。
 やっとオフィーリアに会える、明日の為に。

 ━翌日・安宿━

「さあ、早くオフィーリアさんに会いに行くわよ!」

「うん」

「くっそー。床で気絶寝たせいで、身体中が痛てぇ……」

 翌朝、すっかり疲れの取れたルーシアが私達を起こし、早くからハルモニアを出発していた。
 あまり眠れなかった寝惚け眼の私は、馬を駆るミストの背にしがみ付く。
 ようやくオフィーリアを救えると思うと、昨夜は結局寝つけなかったから。

「なぁ、すぐに王都を出ちゃったけど、旅に必要な物は平気か? 食糧とか」

 街道を走る最中、ミストがルーシアに尋ねる。

「昨日地図で見た限りだと、ギリアスまでは四、五時間で着くんじゃないかしら。今ある備えだけで、大丈夫なんじゃない?」

「うん、私もそう思う。お昼頃には着くから、行きは心配無いよ」

「そうか。なら、さっさと飛竜に会って、一緒に昼飯だな」

「そうね! あの鳥達に負けないように、全速力で行くわよ!」

 街道を走り続ける私達の前には、色とりどりの渡り鳥が空を飛んでいた。
 自由に飛び回り、思うままに。
 見渡す限りに広がる草原の海を。雲ひとつない青空を。

 多くの人が思った事があるかもしれない。
 自分も、あの鳥のようになりたいと。
 私は、ずっと鳥籠の中にいた。
 どうして出られないのかも、わからないまま。
 ただずっと、外の世界を自由に飛び回る人々を眺めながら。

 でも、今の私は自由だ。
 それでも長く飛べない事はわかっている。いずれ鳥籠に戻る日が来る事も、覚悟している。
 私の責務を果たす為に、いつかは。
 それが私の、運命さだめだから。
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