王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

六話 戦争の傷痕

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 ギリアスの街を目指していた俺達は、その道中で異常な魔物の群れと交戦していた。
 それでもルーシアの上級魔法のお陰で、問題なく敵を退けた訳なんだが。

「まさか魔石になってまで吹っ飛ぶとか、やり過ぎだろ」

「つい気合いを入れすぎちゃって。反省してます……」

 魔石拾い戦後処理をしている中、やりすぎた事を後悔するルーシア。
 そんなルーシアは魔力の潜在値が飛び抜けて高い。
 それは単に魔法が連発できるだけではなく、威力そのものまで高くなってしまうらしい。
 まぁ、多少なら威力も調整できるそうだが。

「ねえ、ローレライ。南の地域って、今でも帝国と小競り合いをしているのよね」

 再びギリアスを目指している途中、ルーシアがそんな事を尋ねてくる。

「パパから聞いたんだけど、帝国は魔物を思考洗脳マインドコントロールする魔法具も使うって噂よ。まさかとは思うけど、さっきの群れと関係があるのかも」

「うん、私も、聞いた事あるよ。でも、ここはまだ中央地域なんだ。さすがの帝国軍でも、侵入できないと思う」

 そう。帝国との小規模な戦闘は、主に南方地域と海上での衝突のみ。
 でも、ルーシアの予想は的を得ていると思う。闇市場で帝国の魔法具が流通しているとすれば、あり得る話なのだから。

「まぁ、俺達が考えてもしょうがない。魔物の異変に関しては、恐らく騎士団も気づいてるだろうしな。あとの事は、国王さんに任せればいいさ」

「……うん、そうだね」

 一抹の不安を抱えたまま、俺達はギリアスの街を目指した。
 その後も魔物の襲撃に遭いながらも、さっきのような魔物の群れに出くわす事はなかった。
 偶然できた突然変異なのか。帝国の罠なのか。
 今の俺達にはまだ、わからなかった。

 ━中央地域・ギリアスの街━

 太陽が頂点を過ぎた頃、ようやく景色の中に街並みが現れていた。
 ほどよく空腹に襲われていた為、思わず笑みが溢れてしまう。

「ローレライ、つまずいてエリクシールを割るなよ。一瓶だけの希望なんだから」

「フフフ。平気だよ。木箱に入れて、鍵もかけてあるから」

「……しっかりした子だな」

 ギリアスの正門に到着すると、俺達はすぐにこの街の違和感を覚えた。
 街を囲む防壁の至るところには、継ぎはぎに打ち付けられた鉄板ブリキや木材が張り付けられていて。
 その仕上がりは、とても軍や職人の手でやったとは思えない。
 どう見ても素人の腕前だ。

 王都から離れているとはいえ、ここはまだ中央地域。
 本来なら、もっと整備された景観でもおかしくないのに。

「この街は、一六年前の戦争で、戦場になったの。でも、終戦間際になって、南方地域に城塞都市を築き始めたんだ。それからは、ギリアスの復旧が止まってしまって……」

 無言で街を見渡していた俺に気づいたのか、ローレライは哀しげな表情で教えてくれた。

「なるほどな。城塞の建設で軍と職人を奪われて、街の人達だけで修復したって事か」

「うん。復旧に必要な資金も人員も、街の人達だけで工面してくれたの」

「それって酷くないかしら! 戦争は終わったんだから、今さら軍事力なんて必要無いじゃない! 国の上層部は、一体何を考えているのよ!」

 話を聞いていたルーシアは、怒りを露にしていた。
 それはルーシアの家系、ランドルフ子爵家が村民の生活を優先に考えているからだ。
 もっと明確に言えば、アルヘム村を守るのではなく、そこに住む人々を守る。
 それが領主、フォル・サム・ランドルフの理念。

「……ごめんなさい」

 俯いたまま、小さく呟いたローレライ。
 なぜ彼女が悲しそうな顔をしているのか、今の俺にはその真意を理解してやれず、何も言えなかった。

 ━ギリアスの街・墓地━

 オフィーリアの友人の元へ向かう途中、街の奥までやって来た俺達の前には、数えきれないほどの十字架が建ち並んでいた。
 鉄製や木製、大木を布で縛っただけの仮の墓が、無数に広がっていて。

 無意識に瞳を閉じた俺は、静かに黙祷を捧げる。

「本当に、ここで戦争があったんだな」

 小さく頷くローレライ。

「大丈夫だよ、ミスト。聖王ファルシオンが健在な限り、同じ悲劇は起きないから」

 そっと俺の手を握り、ローレライがそう言う。
 その手は、少し震えていて。

「そうね。王様は大地を消滅させるほどの大魔法を備えているんだから、帝国は下手に手出しできないわ」

「じゃあ、この国の平和は国王一人の肩にかかってるのか。ずいぶん重い責任を背負ってんだな」

「……そうだね」

 しばらくの間、俺達はその場で立ち尽くしていた。
 戦争とは無縁の平和な土地で暮らしてきた俺には、とても衝撃的な光景だったのだから。
 どんな教科書や語り部よりも、鮮明に。

『おや? お前さんは……あの時の娘か?』

 その時、突然誰かが声をかけてきていた。
 ふと振り向くと、そこには一人の鉱夫のような男性が。
 立派な茶色の髭を蓄え、頭には黒いバンダナを巻いている小柄な体格。
 おそらくこの人物は、ドワーフ族だ。

「グローインさん!」

 知った顔だったようで、ドワーフの元へ駆け寄るローレライ。

「おぉ! 無事じゃったか! それで、薬はどうじゃった?」

「はい、持ってきました」

 ローレライが鞄から木箱を取り出すと、大切そうに両手に乗せながらドワーフに見せた。
 その中には、ガラスでできた一本の小瓶が。

「ほぉ、こいつがそうなのか。しっかし薄気味悪い色じゃのう」

 薄気味悪い魔女が作ったからな。

「でも、必ず効くはずです。森の魔女様が、作ってくれたんですから」

 変な薬も作るけどな。

「ああ……あやつか。変人じゃが、腕は本物と聞くからな」

 どうやら、このグローインという男がオフィーリアの友人らしい。

「なぁ、グローインさん。早速で悪いんだが、飛竜の居場所を教えてくれるか?」

「む、むぅ……その話なんじゃが……」

 なぜか言葉に詰まるグローイン。
 小さく唸りながら、考え込むように頭を抱えた。
 治療薬がある今、何も考える必要はないと思うのだが……。
 だとすれば、他に問題が起きたのか。

「わしは魔術の類いには疎いんじゃが、果たして今のオフィーリアあやつが無事と言って良いのか、正直よくわからんのでなぁ」

「オフィーリアに、何かあったんですか?」

「うーむ……オフィーリアがわしに会いに来よったは良かったんじゃが、ちとでかすぎると思うて、街外れの廃教会に匿っとったんじゃ。じゃが、ローレライお前さんが旅立った数日後には、突然オフィーリアの様子がおかしくなってのう」

「それで、オフィーリアは生きているんですよね!?」

 歯切れの悪いグローインの腕を掴み、急かすように返事を求めるローレライ。

「おお、すまんすまん。その点は心配いらんぞ。ちゃんと息もしとる。ここで話すのもなんじゃから、わしの店に来るがいい。オフィーリアも、今はそこにおるでな」

 オフィーリアの身に何があったのか。
 そして今、なぜグローインの店にいるのだろうか。
 廃教会ではなく、巨大な飛竜をわざわざ移動させてまで。

 そんな数多の疑問を抱きながら、俺達はグローインの後をついていく。

 ━ギリアスの街・グローインの店━

「ほれ、ここがわしの武器屋じゃ! ついでに、何か買っていっても良いぞ?」

 そこは人通りの少ない道に建てられた、一棟の家屋だった。
 二階建ての寂れた店の前に馬を繋ぎ、正面から中に入ると……。

『親方、おかえりっす』

「留守を任せてすまんかったな。まあ、客も来んのだし大丈夫じゃったろ! ガッハッハッハ!」

『ある意味大丈夫じゃないっすけどね』

 豪快に笑うグローインと話すのは、呆れ顔の一人の青年だった。

「こやつはわしが育てた自慢の弟子じゃ。メルルと言うんじゃが、なかなか面白い代物を作るんでなぁ」

 代わりに紹介するグローインに合わせて、メルルもお辞儀をしてくる。

「さて、オフィーリアについてじゃが、会わせる前に伝えておきたい事があるんじゃ。なに、そこから二階に行けば奥におる。焦らんでも良かろう」

 飛竜が店の二階に?
 ふと、そんな疑問を感じた。
 ローレライを乗せるほどの飛竜が、この店の二階に収まるのだろうか。
 外から見た限りでは、とてもそうは思えないが。

「……二階に、いるんですね」

「ちょっと、ローレライ!」

「おい、待て! あやつには呪いがあるんじゃ! 不用意に近づくでない!」

 グローインの制止も聞かず、ローレライは駆け上がっていってしまった。 

「……この扉を開ければ」

 そして、奥の扉の前で立ち止まったローレライは、大きく呼吸を整えた。

 コンコンコン。

 小さく扉を叩き、その扉を開いたローレライ。

「……オフィーリア、なの?」

 遅れて駆けつけた俺の視界には、想像を遥かに覆すものが映っていた。
 呆然と立ち尽くすローレライもまた、その光景に困惑していて……。
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