勇者候補として転生した少年タキと見習い天使のリリーと荒野のガンマンジャコモ

醤碁

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第一章少年と天使と賞金稼ぎ

さすらいのジャコモ

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青い闇が、星明り一つ見当たらない夜空を覆っていた。月並みな表現をすれば、そんな晩だった。

薄暗いバーのスイング・ドアが音を立てて揺れると、そこには黒い外套を羽織った人影が佇んでいた。

人影は黒革のトリコーンを目深に被り、襟首で顔の半分を覆っていた。

そのせいで表情は見えない。

バーには、人影以外に客が一人いるだけだった。

他に客の姿はなく、それどころか酒場の店主も不在の様子だった。


ゆっくりとした足取りで人影が、たったひとりの客の居る右側のテーブル席に近づいていく。

そのテーブル席には、ずんぐりむっくりとした体型のヒューマンの巨漢が足を投げ出して座っていた。

巨漢が自分に近づいてくる人影に向かって声をかける。

酷く酒臭い息だった。

「おい、お前、俺に何か用か?」

人影は巨漢から視線を動かさずに「よう、あんた、肉蜘蛛のボンドだろ」と、陽気な口調で問いかけた。

「ああ、そうだとも。この俺様が肉蜘蛛のボンド様よ。で、そういうテメエは誰だ?」


ボンドがウォッカの瓶を軽く傾けながら、人影を凝視する。

「俺のことかい?なあに、ただ、あんたを殺しに来ただけさ」

その言葉と同時に外套に隠されていたレミントンM1890が、立て続けに火を噴いた。


放たれた銃弾の衝撃に椅子ごとボンドの巨体が吹き飛び、後ろの壁に激突する。

宙に放り出された酒瓶が地面に落ちて砕けた。

辺りに立ち込める硝煙の匂い、人影は倒れたボンドを無言で見下ろした。

「死んだふりはやめておくんだな、大将。それとも本当におっ死んじまったのか?」

人影の言葉に反応するかの如く、床に転がったボンドが勢い良く上体を起こした。

すかさず、人影目掛けてボンドが大量のスレッドを浴びせる。



ボンドの吐き出した蜘蛛糸に身体をがんじがらめにされる人影。

ボンドの顔面は、もはや人間のそれではなかった。

真っ赤に光る六つの複眼を人影にむけながら、鋭い牙を携えた上顎をひっきりなしに擦っている。

そのまま地面にうつ伏せになると、ボンドの脇腹を突き破って節のある肢が生えてきた。

その姿はまさに蜘蛛だった。

「あんなチャチな豆鉄砲、いくら撃とうがこの俺に効くかよ、この間抜け!ははっ、それじゃあ踊り食いとしゃれこむか。この店の連中みてえによ」

蜘蛛糸に絡め捕られた人影にボンドが、わざと牙をカチカチと鳴らして見せる。

獲物を嬲っているのだ。


毒腺から分泌される毒液が、牙の先端からぽたぽたと床に滴り落ちると、紫色の煙とともに悪臭を放った。


卑しい光沢を帯びたボンドの複眼が、薄闇の中でぎらつく。

人間の温かな生肉の触感を思い出し、興奮しているのだ。


だが、人影に焦りは見られない。

「……おあいにく様だったな、大将」

人影が両腕を振り上げ、ネット状に絡みついた糸を引きちぎる。

その光景にボンドが驚愕の表情を浮かべた。

「なっ、俺のスパイダーネットを素手でっ」

ボンドの糸は鋼鉄の1000倍以上の強度を誇り、ゾウすら絡め捕る代物だった。

その糸をこうも易々と千切り飛ばすなど、ただのヒューマンができる芸当ではない。

「お、お前、なんだ、いったい誰なんだっ」

人影から距離を取ろうと後ずさるボンド。

無言のまま、人影が襟首をずらすと葉巻をくわえ、マッチで火をつけた。

マッチの明かりに浮かび上がった人影の相貌。


山猫だ。

比喩でもなんでもなく、文字通りの山猫の顔がそこにあった。


「一週間前、とある行商人の一行が何者かに襲われ、皆殺しにされた。全員、蜘蛛糸で絡め捕られ、食われた状態でな。
俺はピンときたよ。犯人はお前だってな」

山猫がゆったりと葉巻の煙を吐き出す。

それを隙と見たボンドが跳躍し、山猫に襲い掛かった。

刹那、轟音とともに閃光がボンドの胴体を貫いた。

ボンドの腹部に刻まれる巨大な風穴。

山猫がボンドにむけた右腕、そこには肘から伸びた筒状の無骨な銃砲が突き出ていた。

「み、右腕が銃だと……っ、そうか……お前が……ジャコモか……っ」

血反吐を吐きながら崩れ落ちるボンド。

「お前についた賞金は教会の孤児のために使ってやるよ。よかったな、最後に罪滅ぼしができて」

「くっ……くそったれめ……」

徐々にボンドの瞳から光が失われていった。

ジャコモと呼ばれた山猫が、燻ぶった葉巻をボンドの口に差し込む。


「まあ、こいつでも一服しながら冥途に旅立ってくれ。地獄じゃ、大勢の亡者どもがお前を手厚く歓迎してくれるだろうぜ。いや、手荒くの間違いか」

ジャコモが担ぎ上げたボンドの亡骸を外に置いてある棺桶に放り込んだ。

そのまま軽やかにジャコモが、ビートルホースの背中に跨る。

ビートルホースのピエールが、ズルズルと棺桶を引きずりながら、ジャコモとともにハンターギルドを目指す。

枯れ木にとまったフクロウ達の鳴き声が響いた。

すると夜風が、枯葉を揺らしながら、ジャコモの横顔を通り過ぎて行った。
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