3 / 4
第一章少年と天使と賞金稼ぎ
三人の出会い
しおりを挟む
教会はサンハウスの街のはずれにあった。
鬱蒼とした雑木林に囲まれた古い建物で、どこもかしこも老朽化している。
それでも広さだけはあった。
犬人の老女であるシスターマリーに10ダラー金貨の詰まった革袋を押しやると、踵を返したジャコモが、教会から去ろうとする。
その背中にシスターマリーは声を掛けた。
「いつもありがとうね、ジャコモ。あなたのおかげで教会の子供たちも飢えずに済んでいます。でも、こんな危険な真似を続けていれば、貴方はいつか命を落とすわ。
私の夫のように……」
ジャコモは振り返らずに言った。
「そんときゃ、祈りの一つでも唱えてくれ、シスター」
マリーはジャコモを黙って見送った。
そして年老いたシスターは彼のために静かに祈りを捧げた。
神よ、どうか、彼をお守りくださいと。
朝日が昇りはじめた。
夜中に冷たい雨が降りしきったせいで、あちこちにぬかるみが出来上がっている。
だが、砂埃が吹きあがらないおかげで、道中は楽に過ごすことができそうだ。
途中で立ち寄った宿場町の食料品店で買ったリンゴを一つ齧ると、ジャコモはつむじ風の村へと急いだ。
村で疫病が流行り、その為に薬を届けなければならないのだ。
ジャコモの跨ったビートルホースが、六本肢を忙しなく動かしながら、ろくに舗装もされていない街道を突き進む。
ビートルホースはカブトムシのような見た目の昆虫で、飼いならせば乗り物になってくれる。
馬やバイクも悪くはないが、ジャコモにはビートルホースが一番性に合っていた。
無骨で頑丈で、それでいて馬力があるビートルホースは、頼りになる旅の相棒だ。
特にこのビートルホースのピエールは、とても賢く、力も強かった。
乗り物屋の隅に置かれていた一際大きなビートルホース、それがピエールだ。
もっとも乗りこなせる者がいなかったので、ピエールは店で放置されている状態だったのだが。
そこをジャコモが安く手に入れた。
店主も売れ残りのピエールを捌くことができて、ホッとしている様子だったのを覚えている。
お互いに良い取引だった。
ジャコモは最高のビートルホースを手に入れ、店主は数枚の金貨を受け取ることができたのだから。
それから日暮れになるまで、歩を進めていたジャコモは、一旦休憩を取ることにした。
出立したのが早朝だったから、かれこれ、12時間は休まずに移動していたことになる。
流石のピエールも疲れを感じているだろうし、腹が減っているはずだ。
つむじ風の村はもう目と鼻の先なので、食事をしてから少しばかり睡眠を取り、それから出発しても遅くはない。
「一休みするか、ピエール」
鈍色に光るピエールの頭部を撫でると、ジャコモは糖蜜を水で溶かした液体を皿になみなみと注いだ。
皿に顔を突っ込んだピエールが液体を啜り始める。
ジャコモは固形燃料に着火し、暖を取ると沸かしたコーヒーを飲みながら干し肉を頬張った。
「うまいか、ピエール?」
その言葉にピエールは黒く無機質な目を僅かばかりジャコモに向け、それからまた糖蜜を舐めた。
その時、不意にピエールが顔を上げた。
悲鳴を上げながら誰かがこちら側へと駆けてくる。
一体なんだ、野盗か、それともモンスターか。
警戒するようにジャコモは、ガンベルトにぶら下がった銃をホルスターから引き抜いた。
「誰かっ、誰か助けてっ」
ヒューマンの若い男女のペアが助けを求めながら走っている。
その背後からは人間ほどの大きさのゾンビドッグがふたりを追っていた。
すぐにジャコモはゾンビドッグの額に二発、銃弾を撃ち込んだ。
もんどりうったゾンビドッグが、黒血をまき散らしながら空中で回転してみせる。
それからゾンビドッグは、ぴくりともしなくなった。
鬱蒼とした雑木林に囲まれた古い建物で、どこもかしこも老朽化している。
それでも広さだけはあった。
犬人の老女であるシスターマリーに10ダラー金貨の詰まった革袋を押しやると、踵を返したジャコモが、教会から去ろうとする。
その背中にシスターマリーは声を掛けた。
「いつもありがとうね、ジャコモ。あなたのおかげで教会の子供たちも飢えずに済んでいます。でも、こんな危険な真似を続けていれば、貴方はいつか命を落とすわ。
私の夫のように……」
ジャコモは振り返らずに言った。
「そんときゃ、祈りの一つでも唱えてくれ、シスター」
マリーはジャコモを黙って見送った。
そして年老いたシスターは彼のために静かに祈りを捧げた。
神よ、どうか、彼をお守りくださいと。
朝日が昇りはじめた。
夜中に冷たい雨が降りしきったせいで、あちこちにぬかるみが出来上がっている。
だが、砂埃が吹きあがらないおかげで、道中は楽に過ごすことができそうだ。
途中で立ち寄った宿場町の食料品店で買ったリンゴを一つ齧ると、ジャコモはつむじ風の村へと急いだ。
村で疫病が流行り、その為に薬を届けなければならないのだ。
ジャコモの跨ったビートルホースが、六本肢を忙しなく動かしながら、ろくに舗装もされていない街道を突き進む。
ビートルホースはカブトムシのような見た目の昆虫で、飼いならせば乗り物になってくれる。
馬やバイクも悪くはないが、ジャコモにはビートルホースが一番性に合っていた。
無骨で頑丈で、それでいて馬力があるビートルホースは、頼りになる旅の相棒だ。
特にこのビートルホースのピエールは、とても賢く、力も強かった。
乗り物屋の隅に置かれていた一際大きなビートルホース、それがピエールだ。
もっとも乗りこなせる者がいなかったので、ピエールは店で放置されている状態だったのだが。
そこをジャコモが安く手に入れた。
店主も売れ残りのピエールを捌くことができて、ホッとしている様子だったのを覚えている。
お互いに良い取引だった。
ジャコモは最高のビートルホースを手に入れ、店主は数枚の金貨を受け取ることができたのだから。
それから日暮れになるまで、歩を進めていたジャコモは、一旦休憩を取ることにした。
出立したのが早朝だったから、かれこれ、12時間は休まずに移動していたことになる。
流石のピエールも疲れを感じているだろうし、腹が減っているはずだ。
つむじ風の村はもう目と鼻の先なので、食事をしてから少しばかり睡眠を取り、それから出発しても遅くはない。
「一休みするか、ピエール」
鈍色に光るピエールの頭部を撫でると、ジャコモは糖蜜を水で溶かした液体を皿になみなみと注いだ。
皿に顔を突っ込んだピエールが液体を啜り始める。
ジャコモは固形燃料に着火し、暖を取ると沸かしたコーヒーを飲みながら干し肉を頬張った。
「うまいか、ピエール?」
その言葉にピエールは黒く無機質な目を僅かばかりジャコモに向け、それからまた糖蜜を舐めた。
その時、不意にピエールが顔を上げた。
悲鳴を上げながら誰かがこちら側へと駆けてくる。
一体なんだ、野盗か、それともモンスターか。
警戒するようにジャコモは、ガンベルトにぶら下がった銃をホルスターから引き抜いた。
「誰かっ、誰か助けてっ」
ヒューマンの若い男女のペアが助けを求めながら走っている。
その背後からは人間ほどの大きさのゾンビドッグがふたりを追っていた。
すぐにジャコモはゾンビドッグの額に二発、銃弾を撃ち込んだ。
もんどりうったゾンビドッグが、黒血をまき散らしながら空中で回転してみせる。
それからゾンビドッグは、ぴくりともしなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です
たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」
勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。
しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。
一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。
彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。
引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――?
ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。
「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」
これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる