42 / 43
Bistro Gens joyeux、開店します⑧
しおりを挟む
「お父さん、あまり会ってないのかい?」
閉店作業中に進藤がそう話しかけて来たので、一花は床のモップがけの手を思わず止めそうになった。
「うち、離婚してるんですよ。だから父に会うのは八年ぶりでした」
「……ああ、そういう……それで名前で……」
「そうそう」
「申し訳ない事聞いてしまってごめん」
「いいんです、もう終わった事ですし」
そう言いながらもモップを握る力がさっきより強くなっている事に自分自身でも気がついていた。
「このお店、家族で来ていた思い出の場所だって前に話しましたよね。そういう理由もあって、潰れて欲しくなかったんです」
「なるほど。じゃあ、これから先も頑張るよ。いやぁ、父と母が戻って来たら驚くだろうなぁ」
今度こそ一花のモップを握る手が止まった。
「……ご両親、戻ってくる予定があるんですか?」
「ん? 言ってなかったかな。実は今、二人は引退記念に世界一周クルーズの旅に出かけていてね。あと一ヶ月くらいで戻ってくる予定なんだ」
「世界一周旅行……?」
「店を持つとろくに休日も持てないだろう。この期にパーっと羽を伸ばしてくると言って、出かけてしまったんだよ。まあ、せっかくなんだしゆっくりすればいいと僕も思っていたからいいのだけど。両親が戻って来たら、僕は近くのアパートでも借りようかと考えてるんだ」
ははは、と明るく笑う一花に、今まで自分はとんでもない勘違いをしていたのだと気がついた。
なんだ。進藤の両親は健在で、それどころか旅行を楽しむ余裕があったなんて。
勝手に進藤にシンパシーを感じていた自分がなぜかものすごく恥ずかしい。
一花はモップをザシュザシュ動かしながら乱暴な口調で言った。
「—————っ良かったですね‼︎」
「え、何が? ていうかなんで急に怒っているんだい」
「怒ってません‼︎」
「いや、絶対怒ってるだろう?」
「怒ってません‼︎ もう、進藤さんなんて知りませんから‼︎」
「えぇ⁉︎ ご、ごめん?」
急に怒り出した一花にオロオロしながら進藤が謝罪するも、一花の気持ちが収まる事はない。
ああもう、なんて事だ。
進藤に出会ってからこっち、色々ありすぎて感情がジェットコースターである。
「ほらっ、早く終わらせますよ‼︎ 厨房戻ってください」
「あ、わ、わかった」
それでもこの店に関わる事ができて良かったと思っている自分がいた。
閉店作業中に進藤がそう話しかけて来たので、一花は床のモップがけの手を思わず止めそうになった。
「うち、離婚してるんですよ。だから父に会うのは八年ぶりでした」
「……ああ、そういう……それで名前で……」
「そうそう」
「申し訳ない事聞いてしまってごめん」
「いいんです、もう終わった事ですし」
そう言いながらもモップを握る力がさっきより強くなっている事に自分自身でも気がついていた。
「このお店、家族で来ていた思い出の場所だって前に話しましたよね。そういう理由もあって、潰れて欲しくなかったんです」
「なるほど。じゃあ、これから先も頑張るよ。いやぁ、父と母が戻って来たら驚くだろうなぁ」
今度こそ一花のモップを握る手が止まった。
「……ご両親、戻ってくる予定があるんですか?」
「ん? 言ってなかったかな。実は今、二人は引退記念に世界一周クルーズの旅に出かけていてね。あと一ヶ月くらいで戻ってくる予定なんだ」
「世界一周旅行……?」
「店を持つとろくに休日も持てないだろう。この期にパーっと羽を伸ばしてくると言って、出かけてしまったんだよ。まあ、せっかくなんだしゆっくりすればいいと僕も思っていたからいいのだけど。両親が戻って来たら、僕は近くのアパートでも借りようかと考えてるんだ」
ははは、と明るく笑う一花に、今まで自分はとんでもない勘違いをしていたのだと気がついた。
なんだ。進藤の両親は健在で、それどころか旅行を楽しむ余裕があったなんて。
勝手に進藤にシンパシーを感じていた自分がなぜかものすごく恥ずかしい。
一花はモップをザシュザシュ動かしながら乱暴な口調で言った。
「—————っ良かったですね‼︎」
「え、何が? ていうかなんで急に怒っているんだい」
「怒ってません‼︎」
「いや、絶対怒ってるだろう?」
「怒ってません‼︎ もう、進藤さんなんて知りませんから‼︎」
「えぇ⁉︎ ご、ごめん?」
急に怒り出した一花にオロオロしながら進藤が謝罪するも、一花の気持ちが収まる事はない。
ああもう、なんて事だ。
進藤に出会ってからこっち、色々ありすぎて感情がジェットコースターである。
「ほらっ、早く終わらせますよ‼︎ 厨房戻ってください」
「あ、わ、わかった」
それでもこの店に関わる事ができて良かったと思っている自分がいた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる