うらぶれビストロ料理店、美大生四人組が手伝います

佐倉涼

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Bistro Gens joyeux、開店します⑧

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「お父さん、あまり会ってないのかい?」

 閉店作業中に進藤がそう話しかけて来たので、一花は床のモップがけの手を思わず止めそうになった。

「うち、離婚してるんですよ。だから父に会うのは八年ぶりでした」
「……ああ、そういう……それで名前で……」
「そうそう」
「申し訳ない事聞いてしまってごめん」
「いいんです、もう終わった事ですし」

 そう言いながらもモップを握る力がさっきより強くなっている事に自分自身でも気がついていた。

「このお店、家族で来ていた思い出の場所だって前に話しましたよね。そういう理由もあって、潰れて欲しくなかったんです」
「なるほど。じゃあ、これから先も頑張るよ。いやぁ、父と母が戻って来たら驚くだろうなぁ」

 今度こそ一花のモップを握る手が止まった。

「……ご両親、戻ってくる予定があるんですか?」
「ん? 言ってなかったかな。実は今、二人は引退記念に世界一周クルーズの旅に出かけていてね。あと一ヶ月くらいで戻ってくる予定なんだ」
「世界一周旅行……?」
「店を持つとろくに休日も持てないだろう。この期にパーっと羽を伸ばしてくると言って、出かけてしまったんだよ。まあ、せっかくなんだしゆっくりすればいいと僕も思っていたからいいのだけど。両親が戻って来たら、僕は近くのアパートでも借りようかと考えてるんだ」

 ははは、と明るく笑う一花に、今まで自分はとんでもない勘違いをしていたのだと気がついた。
 なんだ。進藤の両親は健在で、それどころか旅行を楽しむ余裕があったなんて。
 勝手に進藤にシンパシーを感じていた自分がなぜかものすごく恥ずかしい。
 一花はモップをザシュザシュ動かしながら乱暴な口調で言った。

「—————っ良かったですね‼︎」
「え、何が? ていうかなんで急に怒っているんだい」
「怒ってません‼︎」
「いや、絶対怒ってるだろう?」
「怒ってません‼︎ もう、進藤さんなんて知りませんから‼︎」
「えぇ⁉︎ ご、ごめん?」

 急に怒り出した一花にオロオロしながら進藤が謝罪するも、一花の気持ちが収まる事はない。
 ああもう、なんて事だ。
 進藤に出会ってからこっち、色々ありすぎて感情がジェットコースターである。

「ほらっ、早く終わらせますよ‼︎ 厨房戻ってください」
「あ、わ、わかった」

 それでもこの店に関わる事ができて良かったと思っている自分がいた。
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