絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第二十四話《ブライク編》

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 そうして始まった同居生活は思いのほか順調だった。
 ブライクが心配していた常識の不一致については十二分に説明する時間が取れたし、サトー自身も素直に受け入れてくれた。どうもあちらの世界には異世界探訪のような物語があるらしい。こちらでの生活を書き記したものではないようだったが、もしかしたら別の世界へと迷い込んだニンゲンがいるのかもしれない。
 サトーが急に居なくなったのは目覚めてから十日が経った頃……ブライクはとにかく慌てた。ベッドで横になったのを確認し、翌朝になったらもぬけの殻となっていたのだから仕方ない。
 隣近所、それから少し離れた森、川、少し遠い山まで探し回って、ロッティに「自分の世界に戻ったんじゃない? また縁があれば戻ってくるでしょ?」と呆れられて、それでもなお不安を募らせた。
 戻ってきたのは五日後。サトーがふと気付いたら、あちらの世界で目覚めていたらしい。
 詳細を聞くとやはり時間の経過が違ったとのこと。これは文献とも合致する。こちらで過ごした二十日間ほどは、あちらでは三日間……その間はしっかりと寝込んでいた。様々な偶然が重なった結果で助けられていたらしい。

「見つかってなければ死んでましたね」
「……サトー」
「わかってます。もう、そういうことは考えません。ブライクさんもですけど、ロッティさんが一番怒りそうですし……」

 ロッティなら死後の世界まで追いかけてきて説教しそうだ、と考えてしまったブライクだがあながち間違いではないだろう。

「あちらの世界でも、俺がわかっていなかっただけで心配してくれる人はいたんです……」
「私だって心配だよ。サトーが無事で良かった」

 思わずサトーの頭を撫でてしまい、ブライクはそんな自分に驚いた。彼が関係するとどうにも調子が狂う。しかし当の本人は撫でられたことにキョトンとした後、ほわりと笑ってくれた。

「ふふふ。ブライクさんの手、あったかくて好きです」

 サトーの言葉にそれ以上の意味はないと思うのに、ブライクの胸がドキリと鳴る。たぶんそれはきっと〝愛〟や〝恋〟と呼ばれるもので、しかし……。

(いつか必ず別れが訪れるんだ)

  ブライクは改めて心に刻む。
 なんだかんだと言い訳をしながらサトーを手放さなかったブライクは、きっと彼を保護したあの日から無自覚で好意を抱いていたんだろう。
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