未来からやってきた美女に「私を使って性欲を解消して下さい」と言われたんだが?

ゆさま

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3.幼馴染作戦 挿絵有

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 目が覚めると何やら美味しそうないい香りがする。テーブルを見ると朝食が用意されていた。

「あっ亮君、目覚めた? 朝ご飯作ったから食べてね」

「お、おう」

 なんかもう幼馴染と言うより、同棲カップルになっていないか? 朝食をとり、出社する準備をしながら朱莉に声を掛けた。

「あのー、朱莉?」

「ん、どうしたの亮君? 朝からヌいて欲しいの?」

 そう言うと、朱莉はススッと近づいて来た。立っている俺の正面でストンと両膝を床につき、口と手を駆使して瞬く間に俺を極楽に連れて行ってくれた。はぁ、未来の技術ってすごい。

「いや、そうじゃなくて。ふと思ったんだけど、何も蓮本さんを攻略しなくても、朱莉がいてくれたら俺は幸せなのでは?」

「確かに私が亮君と一緒にいれば、好きなだけエッチもできるし、お金にも一生困らないよ。でもそれだけじゃきっと飽きるし、私に依存していると堕落して何もできない人間になってしまうよ」

「一生懸命に仕事したりとか、上手くいくか分からなくても、惚れた女性に全力でぶつかってみるとか、そんな経験を重ねることが大事なんだよ。楽してばかりだとすぐにボケるんだからね」

「いろいろ頑張って、いろいろ失ったり手に入れたりして、それでも私と一生添い遂げたいと思えたのなら私はそうするから、今は出来ることを精一杯頑張ってね!」

 なんか、ロボットに諭されてしまった。未来の技術ってすごい。

 いろいろ頑張る、か。確かに俺は楽な方に逃げようとしているだけなのかもしれない。まずは金曜日の飲み会で間違いを犯さない事が第一の目標だ。朱莉を俺の元に送ってくれた未来の俺の為にも、今の俺自身の為にも。

「行ってきます」

 決意を胸に、俺は会社に向かった。



 * * *



 会社に着いて、蓮本さんと顔を合わす。

「おはようございます! 昨日はありがとうございました」

「おはよ。これからはちょいちょいゴハン作りに行ってあげようかなー」

 またこの人は……、思わせぶりの事をとてつもなく可愛い表情で言うから、つい期待してしまうじゃないか。今までの俺なら食いついていたところだが、ここは落ち着いて流しておくか。

「はは、楽しみにしてます」



 * * *



 今日も張り切って仕事を進めるが、定時前に追加の仕事を押し付けられて残業となる。

 この調子でいけば20時には終わるだろう。社内には俺と蓮本さんの二人だけが残り、他の人達は既に帰宅している。くそ、早く家に帰って朱莉に癒されたい……。

「荒川君、仕事終わったら一緒に食事行こうか?」

 俺の肩をポンと後ろから軽く叩き声を掛ける蓮本さん。

「どうしたんですか? 今日も蓮本さんの方から誘ってくれるなんて」

「荒川君と一緒にいたいから」

 不意にそんな言葉を掛けられ、心臓がギュっと縮み思わず目を見開いてしまった。

「そうそう、その顔。そういうのが見たいんだよねー。荒川君さー、昨日から妙に落ち着いて、からかい甲斐が無いんだよー」

 やられた……。またおちょくられたのか。「ふぅ」とため息をつくが俺の心臓はまだ激しく動いている。

「俺、蓮本さんの事が好きなんですよ。そんなふうに言われると傷つきますって」

 あまりに自然に自分の口から出た言葉に、言い終わってから狼狽えた。好きって言っちゃったよ。

「な、年上をからかわないでよ……」 

 あれ? 蓮本さんは長いまつ毛を伏せて……頬が赤くなってないか? 



 蓮本さんは俯いて黙っている。

 高鳴る心音を堪えながら蓮本さんの言葉を待っていたが、少しの沈黙の後その場の空気に耐えられず俺は口を開く。

「さあ、早く仕事終わらせて食事に行きましょう」

「え? ええ、そうね……」

 気まずさを誤魔化すかのように二人で黙々と仕事をこなした。



 * * *



 仕事も無事に終わり、蓮本さんと二人で歩いている。会社から駅までの間にあるファミレスに向かっていた。

 ファミレスに入りテーブルに着く。テーブルに据え付けられている端末でメニューを選びつつ蓮本さんの顔色を窺う。今は普段通りの様子だ。

 食事しながら蓮本さんと話をするが、仕事の話題がメインだった。さっきのやり取りが気になっているのは俺だけなんだろうか。 
 スマホにメールの着信だ。確認すると朱莉からだった。

「二人がファミレスを出たところで”幼馴染作戦”を発動します」

 昨日打ち合わせをしていたアレを今からするのか……。手短に「了解」と返信しておいた。



 * * *



 俺と蓮本さんがファミレスを後にして、駅に向かって歩いていると、朱莉が手を振りながらこちらに向かって駆けてきた。

「亮くーん、こんなところで会うなんて偶然だね。こちらの綺麗な人は会社の人?」

「そうだ、前に話したことがあるだろ。こちらは蓮本美玲さん、俺の職場の先輩だ」

 朱莉はぺこりと頭を下げる。そして俺の腕に抱き着き胸部を押し付けた。

「私の亮君がいつもお世話になってます。私は亮君の幼馴染で彼女の琴田朱莉です」

 蓮本さんは引きつった笑顔で言う。

「へー荒川君、そんなに可愛い彼女がいたんだー」

「違いますよ! 彼女じゃないです。ただの幼馴染です!」

 俺が否定した直後にすかさず朱莉は口を挟む。

「えー、彼女じゃないの? なら婚約者だよねー 亮君、私に結婚しようって言ってくれたでしょ」

「ばっ、ばか、それは子供の頃の話だろ?」

 俺と朱莉は事前に打ち合わせていた通りに、蓮本さんの前でラブコメの定番のやり取りをやってみた。

 蓮本さんは口元に笑みを湛えながらも、何とも言えない重圧を俺達に放っている。

「私はお邪魔の様だから、失礼させてもらうわ」

 蓮本さんは目じりをぴくぴくと動かしながら、足早に駅に向かって行った。 

 朱莉はレイーシャモードの口調に変わる。 

「分かりやすい反応ですね。蓮本さんは明らかに嫉妬しています」

「蓮本さんも俺の事が好きって事?」

「いえ、まだはっきりと恋愛感情は抱いていないかもしれません。ですが、亮さんと私が仲良くしていたことに不快感を抱いているのは確実です。今から追いかけてください」

「追いかけてどうするの?」

「何も格好つける必要はありません。本音をぶつけてきてください」



 * * *



「蓮本さん、待ってください!」

 俺は駆け足で蓮本さんに追いつき、並んで歩きつつ声を掛ける。蓮本さんは足を止めずにこちらに視線を向けることも無く言う。

「朱莉ちゃんはどうしたの? 彼女だか婚約者だか知らないけどあんなに可愛い子放っておいていいの?」

 声のトーンは低く、蓮本さんが怒っているのは確実だ。でも……なんか嬉しい。

「朱莉には今日は帰るように頼みました。さっきも言ったけど、俺は蓮本さんの事が好きなんです!」

 蓮本さんは立ち止まり、俺をギロリと睨みつけて言う。

「あんた達、ヤってるでしょ」

 まったく想定していなかった反応に、俺は口籠もる。

「何を言って……」

「とぼけないでよ! 二人の雰囲気を見れば誰でも分かるわ!」

「それは……、まぁ、そうですけど」  

「私の事が好きと言いながら、ちゃっかり他の子とヤってるんじゃない!」

「しょうがないでしょ! 蓮本さんは俺に全くなびいてくれないんだから!」

「はぁ? 知らないわよそんなこと!」

「朱莉は美人だし、俺の事を大好きって言ってくれるし、部屋に上がってきて抱き着かれたら我慢なんてできるわけないでしょ?!」

「へー、なら私なんかに構ってないで、美人な朱莉ちゃんと仲良くしていなさいよ!」

「でも、俺が一番好きなのは蓮本さんなんですよ! 朱莉も蓮本さんを振り向かせられたら身を引くって言ってくれています!」
 
「何なのそれ? ずいぶん身勝手な話ね!」

「蓮本さんだって身勝手ですよ! 俺が蓮本さんの事が好きだってこと、前から気が付いていましたよね? その上で思わせ振りな態度を取ってたじゃないですか! 俺、もしかしたらって期待していたんですよ! 俺に気が無いなら思わせ振りな態度なんかしないで下さいよ!」

「それは、言い寄ってくる男どもと上手く距離を保とうとしているの! あんたには分からないだろうけど、冷たくあしらうと逆恨みして嫌がらせしてくる奴だっているんだから!」

「俺はそんなことしませんよ!」

「そんなの分からないわよ! あんただっていっつも私の胸とかお尻とかをいやらしい目で見てるくせに!」

「それは……、すいません」

 図星を突かれて言い返せなくなり、視線を落として黙る。大声を出して言い合っていたので周囲からの視線が痛い。二人して息を切らしていると少し落ち着いてきた。

「蓮本さん……、あの……」

「ゴメン、荒川君。少し言い過ぎたね。明日も仕事なんだから、ずる休みしないできちんと出てきてよ?」

「はい……」

 蓮本さんは駅舎に入って行った。



 * * *



 俺が一人になったところで朱莉が現れる。

「どうですか? 憧れの人に本音をぶつけた感想は?」

「ちょっと、すっきりした。人に好きって伝えるのがこんなに気分がいいなんて知らなかった」

「それに蓮本さんがあんな風に怒っているのは初めて見た。俺が仕事で大ミスしたときでも怒らなかったのにな」

「ふふっ、なら今日は大きな成果がありましたね。さあ、私達も早く帰って明日に備えましょう」

「そうだな」



 * * *



 部屋に着くなり朱莉は俺に向き合い真剣な表情で言う。

「明日は亮さんの人生を左右する日です。肝心なところで間違いを犯さない為にも、今夜は入念に性欲を処理しておきましょう」

「お、おう」

 美女型ロボットの口調がレイーシャモードから朱莉モードに変わる。

「亮君、大好きだよ♡ いっぱい気持ち良くなろうね!」

 朱莉が俺に抱き着き唇を重ねる。

 それだけで俺の身体は固く強張ってしてしまった。朱莉が来てからは何度も処理してもらっているはずなのに……。

 朱莉は細くしなやかな指で包むようにして優しく撫でる。

「ここ、すごく熱くなってるよ。私、早く欲しいな♡」

 リップサービスなのは分かっているが、俺の気分は鰻上りだ。 

 今夜も俺は未来の技術で根こそぎ搾り取られるのであった。
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