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13.未来へ

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 未来の蓮本美玲と名乗る美玲と全く同じ姿をした”人”が話した真実に、俺は驚いたがすぐに納得できた。今までの朱莉とレイーシャの言葉や行動を思い出すと噛み合ったからだ。

 思い出を淡々と話していた未来の美玲は顔をあげて微笑む。

「私が思い描いていた亮と楽しく過ごす女の子を演じたのが朱莉。変なプライドなんかなくて、素直に好きだと言えることがとても気持ち良かった」

「最初は、一回だけ亮と抱き合えたらそれで満足だと思っていた。でも、長年愛しさを募らせた亮が目の前にいるんだもの、我慢なんて出来るはずないよね」

「この時間軸の美玲と亮が付き合うことになった時は、嬉しさよりも残念だという思いが勝ってしまった。この時間軸の美玲の邪魔はしてはいけないと思いながらも、もう少しだけ亮と親密な関係でいたかった」

「レイーシャの姿で、朱莉と呼ばれながらでも、亮に抱かれているときは幸せだったよ。でも、もうここまで。この時間軸の美玲に亮を返さないと、私と同じ、いえ、私よりも悲しい人生になってしまうでしょ?」

 俺と美玲は言葉を出せずにいた。しばらくの沈黙の後、美玲が口を開いた。

「未来の私……。これからあなたはどうするつもりなの?」

「あなた達の邪魔にならないようにするわ。でも亮のサポートは続けるつもりだし、あなたが亮を捨てたときには私がもらおうとも思ってる」

「でも、私がこの姿で近くにいると、亮が浮気しないか心配でしょ? 冷蔵庫とか洗濯機にでもなって見守ろうかな? 私はレイーシャの中のVR空間であなた達の様子を観察しているわ。意外と快適なのよ」

 サポートしてくれるのはありがたいが、未来の超ハイテク美女型ロボットが家電に擬態するのか? 美玲はどう思うのだろうと思い視線を向けた。

(そんな話聞かされたんじゃね……。未来の私か……。そのおかげで亮に素直な気持ちを伝えることが出来たんだし……)

  美玲は小さく呟いた後、顔をあげて意外な事を口にする。

「私の姿でも、レイーシャの姿でもいいよ。お掃除ロボットの立ち位置で良ければ一緒にいてもいいよ」

 未来の美玲は「え……?」と驚き聞き返す。

「あなたが来なければ、私も何十年も悔やみ続けるだけの人生になっていたんでしょ? そこは素直に感謝しておくわ」

「仕方ないから、月に一回くらいなら亮を貸してあげる。でも私に分からないように、こっそりとやってよね」

 俺も思わず「え……?」と声をもらした。

 未来の美玲は不安そうに探るような表情で「いいの?」と問う。

「感謝してるって言ったでしょ。それにあなたも私なんだからどれだけ亮の事が好きなのかは分かるし、亮もなんだかんだ言ってもあなたの事が気掛かりだろうからね。でも私の前で亮とイチャついたら許さないからね!」

「そんな風に言われるなんて全く予想できなかった」

 美玲は、未来の美玲に近づいて語気を強める。

「でも、この時間軸の美玲は私なんだから、あなたは朱莉だからね」

「ええ、……ありがとう」



 * * *



 ――一年後。

 今日は、一維君の結婚式だ。

 朱莉の正体が分かったあの旅行の後、朱莉は「海外留学する」と一維君に告げ、一維君の前から姿を消した。

 既に朱莉に惚れていたようで一維君の落ち込みようは可哀そうになるほどだったが、一維君の同僚の女性にその傷を癒してもらった事がきっかけとなり交際に至ったようだ。もちろんすべては朱莉の裏工作なのだが……。

 そんなこんなで色々とあったのものの、本日めでたく挙式となった。

 新婦の着ているウエディングドレスを見て美玲が大喜びではしゃいでいる。

「わぁ……素敵なドレスだね。私も早く着たいな」
 
「義兄さんも早く姉さんを幸せにしてあげて下さいよ」

「分かってるって。近いうちに必ず……」

 俺は苦笑いで応える。

 最近では一維君とも仲良くなり、俺の事を義兄さんと呼んでくれるようになった。以前のように敵意を見せることも無い。

 一維君は結婚したからと言っても美玲の事が大好きのは変わらない。ただ、女性としてではなく、姉として好きという所は大きい違いかもしれないが。

 俺達が結婚していない理由は貯金が無いからという事にしている。貯金も無いので全くの嘘ではないんだけど、初めてできた恋人だし、もう少し美玲と恋人としての付き合いを楽しみたいのが本音だ。結婚すると色々変わると聞いたことがあるからな。
 
 現在俺は美玲のマンションで同棲しており、毎日仲良く楽しく暮らしている。

 朱莉はというと、一維君の件もあるので基本的には姿を現さなくなった。

 自分は本来この時間軸の存在ではないから、今後は積極的にかかわらないようにすると言っていた。普段はどこかでコアユニットの状態で待機しているのだろうか。

 しかし、月に一度だけ俺とイチャつくために美玲の姿で現れる。朱莉は毎日俺と美玲がイチャついているのを見ていて、悶々としているらしい。

「さあ、亮のコレを使って私の性欲を解消して下さい」

「朱莉、それ、こっちに来た時と逆になってるよ」

 こんな感じで、月に一度の逢瀬では溜まりに溜まっている欲望を全開にして、思い切り搾り取られてしまう。

 美玲もそれは気が付いているのだろうが、見て見ぬふりをすると決めているようだ。

 一つ残念なのは、見た目は全く同じだし、性格もほとんど変わらないので、浮気している感が比較的軽いことだろうか。たまにはレイーシャの姿でしてくれてもいいんだけど、とはちょっと言いにくい。

 ともあれ、三人の人生は不幸な未来とは分岐して、幸せな未来へと向かっているに違いないと思うのだった。
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