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のじゃロリ女神の祝福 挿絵有
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射出された極大の魔力の奔流は、先ほどまでびくともしなかった魔法障壁を貫通し、同時にそれを展開していた術者も撃破したのを感じた。縦穴がより深くまで抉られて、洞窟の深い階層までここから確認できる。
多くの雑魚ゴブリンが混乱し、洞窟は大騒ぎになっている。その中で、動じることなくどっしりと鎮座し、俺の方を睨みつけるゴブリンがいた。禍々しいオーラに覆われた圧倒的存在感のそれは、まさに王と呼ぶにふさわしいと思ってしまった。
今のところ俺の体調に変化はないし、力が落ちている感じもしない。魔王覇気とやらの影響は無さそうだ。俺が異世界人枠なのか、それとも距離があるからなのかは分からない。
どちらにせよ、次で終わりだ。もう障壁を張る奴はいないんだからな。俺はキングに照準を合わせ、ツインバスターライフルを発射しようとしたその時――。
赤い帽子をかぶった成人男性ほどの体躯のゴブリンが、恐ろしいほどの速さで空中の俺に向かってきた。こいつ、飛べるのか? いや、魔力で足場を作って空を駆けあがっている!? 立体機動を可能にする魔法か! ゴブリンのくせにカッコいい魔法を使いやがって!
「リンゼ! 強い奴が迫ってきている! 気を付けて!」
俺は『プラネイトディフェンサー』を発生させて、リンゼの周囲に配置する。そしてすぐに、向かってくる敵に意識を集中させた。
ヴァラーほど巨体ではないが、極めて攻撃的で、強烈なプレッシャーを放っているゴブリン。そいつは、乾いた血のような赤黒い色の帽子をかぶっている。レッドキャップか……。
レッドキャップは空中を駆けあがりながら、離れた間合いから曲刀を投げつけてきた。回避しても追尾してくるんだろ? 視えてるよ!
俺はビームサーベルで曲刀を斬り払い、叩き落とす。が、俺の動きは予想通りだったのか、レッドキャップは空中で拳を打ち込むように構えた瞬間、俺の喉元に向かって急加速してきた。
すんでのところでその拳は躱したが、そのまま俺めがけて連撃を放ってくる。速すぎて回避するのがギリギリだ。
拳圧で俺の服がところどころ裂けてしまったじゃないか! せっかくリンゼと一緒に買った、お気に入りの可愛い服なのに!
おっと、他ごとを考えている場合じゃない。この速さ、ゼロの予測が無ければ捌ききれないだろう。
俺は猛攻をかいくぐり、ゼロの予測通りに反撃に転じるも、そこにあるごくわずかなラグが原因で全て躱されてしまう。今までの相手は全く問題にならなかったほどの、ほんの少しの差だ……。こいつは強さの桁が違うようだな。
「このぉ、ファンネル!」
俺はレッドキャップが放つ拳打のラッシュに押されながら、十基のファンネルを放出した。波状攻撃になるようにタイミングをずらし、全方位からレッドキャップを撃つ。
レッドキャップは回避行動をとりながら、魔法で両手に顕現させた曲刀をファンネルめがけて投げつける。瞬く間にファンネルすべてを撃墜されてしまった。
そこそこ高速で動き回るファンネルに、曲刀を投げて命中させるなんて、とんでもない技量だな。
奴は醜い目と口をぐにゃりと曲げて「ギシシシ……」と声を出す。
あー、笑いやがった! くそぅ……。
このレッドキャップ、空中を自在に走り回るのもどうかと思うが、そのうえかなり速い。俺は変幻自在なその動きをとらえきれず、ビームライフルをかすらせることすら、できないでいた。
俺が狙いを定めていると、レッドキャップは緩急をつけた奇妙なステップを混ぜ始める。徐々にレッドキャップの体がブレて見えてきた。
「なんだ、これ……」
レッドキャップが分身しているように見える。一瞬驚いたが、俺の肉眼を誤魔化しても何の意味もない。奴の攻撃の意志は、はっきり感じるので本体の位置は丸わかりだ。
俺も分身くらいできるよ、とばかりに分身してやる。それも質量の有る残像でな。強制冷却のために、装甲や塗膜が剝がれることで質量の有る残像を……といったオサレ物理理論も全て魔力が肩代わりしてくれているのだ。当然だが、俺の皮膚とかが剥がれ落ちているわけではない。
俺の分身を見て、レッドキャップが驚いたのを感じた。どうよ、俺の分身について来れるか? そんなことを思いながら、ビームサーベルで斬りかかるが、奴は冷静に避けて反撃してきた。くっ、意味なかったか……がっかりだ。
そんなお遊びを挟みつつ戦闘を継続していると、少しづつレッドキャップの速さになれてきた。でもまだ奴の動きが速すぎて、俺の攻撃は決定打にならない。奴の攻撃も俺に当たらないので互角と言えば互角だ。
身体のスペックは俺の方がはるかに高いのは確実だが、技量では大きく負けているな。最大稼働で動き回りつつ、ヴェスバーをゼロの予測通りに撃っても、命中してくれない。俺の反応速度よりも、奴の反応速度の方が上なんだろう。
待てよ、あっちの方の最大稼働を試してみるか。
「『光の翼』!」
空中に足場を作って、自在に跳ね回るレッドキャップに対して、俺は真っ向から全速力で突っ込んでいく。お前は機動力に自信があるんだろうけど、こっちも超高速でV字にだってターンできるほどの機動力がある!
俺の速度がレッドキャップを上回り、遂に奴を俺の間合いに捉えた! 奴は俺が振るうビームサーベルをどうにか回避したものの、すれ違いざまに俺の背中に展開された光の翼に斬り裂かれて粉々になった。
ふう、ようやく勝てたか。強かったー!
こいつ無茶苦茶強かったけど、もしオルデガッシュが戦っていたら勝てたのだろうか? 到底勝てるとは思えないんだけど……。もしかしたら、勇者固有のチートスキル『英雄覇気』の効果が凄まじくて、かなり有利に戦えるのかもしれんが。
おっと、まだすべて終わってなかった。考え事をする前にキングを倒さないと。
キングに意識を向けると、眼下でキングは何やら魔法を使おうとしている。あれはジェネラルも使っていた鬼咬大砲か。ま、ツインバスターライフルで押し切って倒せるだろ。
キングが鬼咬大砲を撃つのと同時に、俺もツインバスターライフルを撃つ。キングの撃った魔法を吞み込んで、閃光は突き進む。
ツインバスターライフルの閃光が収まると、キングの気配は消滅していた。どうやら、キングの戦闘力自体はたいしたことはないようだ。キングを失った雑魚ゴブリンどもは散り散りになって退散していく。
ようやく終わったな。今回はさすがに疲れた。俺はリンゼの乗っているゲタを近くに寄せた。
「どうにかキングを倒せたよ。あの赤い帽子の奴、強かったー」
「バランセ凄い! あんなに速く動けるなんて! 動きが全く見えなかったよ! それに凄い魔法もいっぱい使ってた! カッコ良かったよ!」
リンゼは大喜びで俺を褒めちぎる。ふぅ、癒されるな……。ほっと一息ついていると、頭上から声が聞こえてきた。
「人間よ。おぬしの戦いぶりは楽しませてもらったのじゃ」
俺たちは声のした方向を見上げると、そこには宙に浮かぶ幼女の姿があった。見た目とは裏腹に、とてつもない存在感と、俺とは次元が違うと思える程の強烈な魔力を感じる。
何者か知らんが、こいつはヤバイ。戦いなんて成立しない。敵意を持たれたら、ただ踏みつぶされるだけだ。俺のすべての感覚が警鐘を鳴らし、背中に冷や汗がつたうのを感じる。
「妾は月の女神、ルナーナヒダなのじゃ! 妾はおぬしの祈りを聞き、月の魔力を貸してやったのじゃ! 対価を払うのじゃ!」
のじゃのじゃうるせぇ……。いや、そんなことよりも、月の魔力の対価だと……? まさか、のじゃロリ女神に月の魔力を使用した対価を求められるなんて。
「どうしたのじゃ? さあ、はやくするのじゃ! それとも命で対価を支払うのか?」
それはちょっと勘弁して。俺はアイテムボックスから、リーエルの屋台で買ってしまっておいた、魚の串焼きをのじゃロリ女神に差し出した。
「ほう、ただの焼き魚とな? このような物が妾への供物であるともうすのか?」
「恐れながら……。これはただの焼き魚ではございません。香草により爽やかな香りが付けられ、複数のスパイスによって奥深い風味を演出しております。さらに、絶妙な火加減で焼き上げられており、外はパリっと中はふわっとの極上の食感の逸品にございます」
おそらくこの魚の串焼きは、過去の異世界人が知識チートでこの世界にもたらした料理だろう。はっきり言って無茶苦茶旨い。食べたくなったらいつでも食べられるように、たくさん買って焼きたてをアイテムボックスにしまっておいたものだ。
この手の女神様は多くの場合、美味しい物を渡しておけば上機嫌になるはず。俺はビビり半分期待半分で、のじゃロリ女神様の反応を待つ。
「ふむ、そうまで言うなら一口味わうのじゃ! モグモグ……。う……、うまい! なんじゃこの食べ物は!? もっとじゃ! もっとよこすのじゃ!!」
のじゃロリ女神、ちょろいな。俺は口元が緩みそうになるのを堪え、アイテムボックスにしまってある魚の串焼きを全部差し出した。それらを完食した後、のじゃロリ女神様は嬉しそうに俺を見る。
「うむ、旨かったぞ。次は甘味を所望するのじゃ」
げ、まだ食うのかよ? 俺はアイテムボックスにしまってあった、ストロベリータルトにザッハトルテ、そしてタピオカミルクティを捧げた。それらをガツガツ食らうのじゃロリ女神様。
「なんと素晴らしい美食の数々。褒めてつかわすのじゃ」
「ははっ、ありがたき幸せ!」
「妾はおぬしが気に入った。名を何という?」
「バランセにございます」
「うむ、ではバランセ、妾はそなたに祝福を授けるのじゃ。バランセは人間にしては強い方じゃが、『魔王覇気』で強化されたモンスターと戦うのは骨が折れたじゃろう。よって、スキル『英雄覇気』を授けるのじゃ!」
マジか? それって勇者の固有チートスキルじゃなかったのか? それをポンとくれるなんて太っ腹な女神様だな。
「さらに、月の魔力を一日一回だけなら使っても良いのじゃ! ただし、使った後はしっかりと対価は支払ってもらうぞ。次も美味なるものを期待しておるのじゃ!」
「この上なき誉れにございます」
「うむ、ではさらばなのじゃ!」
のじゃロリ女神は満足げな様子で消えていった。しかし、これはありがたい。勇者のチートスキルが手に入るなんて、考えてもみなかった。これであのエロ勇者は用無しだな。
そういえば、月の魔力を一日一回使っていいって言ってたな。でもサテライトキャノンは極力使わないでおこう。またのじゃのじゃ言われると面倒だし。
「バランセって本当に凄いよね! 月の女神様に認められるなんて」
「きっと運が良かっただけだよ。ルナーナヒダ様には感謝しないとね」
目を輝かせて尊敬の眼差しを向けているリンゼに、俺は照れ笑いで返した。
さて、腹も減ってきたことだし、魔石を回収してから帰るか。
俺とリンゼは、地表に開いた大きな縦穴を降りていき洞窟に立った。そこには、ツインバスターライフルとサテライトキャノンに巻き込まれたゴブリンたちの魔石が大量に転がっている。
それらに混じって一際大きな魔石があった。あれはキングの魔石だな。勇者の力を借りずにキングを倒したとなると、またルディアナさんとかに騒がれて面倒になるだろうから、キングの魔石はそのままにしておくか。
レッドキャップの魔石と、散らばっている魔石を適当に何個か回収してアイテムボックスにしまった。
予想外なことがいろいろ起きたが、収穫も多かった。何とも言えない充実感を胸に、俺とリンゼはモルジアスの街に帰るのだった。
* * *
戦っているバランセのイメージ。
多くの雑魚ゴブリンが混乱し、洞窟は大騒ぎになっている。その中で、動じることなくどっしりと鎮座し、俺の方を睨みつけるゴブリンがいた。禍々しいオーラに覆われた圧倒的存在感のそれは、まさに王と呼ぶにふさわしいと思ってしまった。
今のところ俺の体調に変化はないし、力が落ちている感じもしない。魔王覇気とやらの影響は無さそうだ。俺が異世界人枠なのか、それとも距離があるからなのかは分からない。
どちらにせよ、次で終わりだ。もう障壁を張る奴はいないんだからな。俺はキングに照準を合わせ、ツインバスターライフルを発射しようとしたその時――。
赤い帽子をかぶった成人男性ほどの体躯のゴブリンが、恐ろしいほどの速さで空中の俺に向かってきた。こいつ、飛べるのか? いや、魔力で足場を作って空を駆けあがっている!? 立体機動を可能にする魔法か! ゴブリンのくせにカッコいい魔法を使いやがって!
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俺は『プラネイトディフェンサー』を発生させて、リンゼの周囲に配置する。そしてすぐに、向かってくる敵に意識を集中させた。
ヴァラーほど巨体ではないが、極めて攻撃的で、強烈なプレッシャーを放っているゴブリン。そいつは、乾いた血のような赤黒い色の帽子をかぶっている。レッドキャップか……。
レッドキャップは空中を駆けあがりながら、離れた間合いから曲刀を投げつけてきた。回避しても追尾してくるんだろ? 視えてるよ!
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すんでのところでその拳は躱したが、そのまま俺めがけて連撃を放ってくる。速すぎて回避するのがギリギリだ。
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おっと、他ごとを考えている場合じゃない。この速さ、ゼロの予測が無ければ捌ききれないだろう。
俺は猛攻をかいくぐり、ゼロの予測通りに反撃に転じるも、そこにあるごくわずかなラグが原因で全て躱されてしまう。今までの相手は全く問題にならなかったほどの、ほんの少しの差だ……。こいつは強さの桁が違うようだな。
「このぉ、ファンネル!」
俺はレッドキャップが放つ拳打のラッシュに押されながら、十基のファンネルを放出した。波状攻撃になるようにタイミングをずらし、全方位からレッドキャップを撃つ。
レッドキャップは回避行動をとりながら、魔法で両手に顕現させた曲刀をファンネルめがけて投げつける。瞬く間にファンネルすべてを撃墜されてしまった。
そこそこ高速で動き回るファンネルに、曲刀を投げて命中させるなんて、とんでもない技量だな。
奴は醜い目と口をぐにゃりと曲げて「ギシシシ……」と声を出す。
あー、笑いやがった! くそぅ……。
このレッドキャップ、空中を自在に走り回るのもどうかと思うが、そのうえかなり速い。俺は変幻自在なその動きをとらえきれず、ビームライフルをかすらせることすら、できないでいた。
俺が狙いを定めていると、レッドキャップは緩急をつけた奇妙なステップを混ぜ始める。徐々にレッドキャップの体がブレて見えてきた。
「なんだ、これ……」
レッドキャップが分身しているように見える。一瞬驚いたが、俺の肉眼を誤魔化しても何の意味もない。奴の攻撃の意志は、はっきり感じるので本体の位置は丸わかりだ。
俺も分身くらいできるよ、とばかりに分身してやる。それも質量の有る残像でな。強制冷却のために、装甲や塗膜が剝がれることで質量の有る残像を……といったオサレ物理理論も全て魔力が肩代わりしてくれているのだ。当然だが、俺の皮膚とかが剥がれ落ちているわけではない。
俺の分身を見て、レッドキャップが驚いたのを感じた。どうよ、俺の分身について来れるか? そんなことを思いながら、ビームサーベルで斬りかかるが、奴は冷静に避けて反撃してきた。くっ、意味なかったか……がっかりだ。
そんなお遊びを挟みつつ戦闘を継続していると、少しづつレッドキャップの速さになれてきた。でもまだ奴の動きが速すぎて、俺の攻撃は決定打にならない。奴の攻撃も俺に当たらないので互角と言えば互角だ。
身体のスペックは俺の方がはるかに高いのは確実だが、技量では大きく負けているな。最大稼働で動き回りつつ、ヴェスバーをゼロの予測通りに撃っても、命中してくれない。俺の反応速度よりも、奴の反応速度の方が上なんだろう。
待てよ、あっちの方の最大稼働を試してみるか。
「『光の翼』!」
空中に足場を作って、自在に跳ね回るレッドキャップに対して、俺は真っ向から全速力で突っ込んでいく。お前は機動力に自信があるんだろうけど、こっちも超高速でV字にだってターンできるほどの機動力がある!
俺の速度がレッドキャップを上回り、遂に奴を俺の間合いに捉えた! 奴は俺が振るうビームサーベルをどうにか回避したものの、すれ違いざまに俺の背中に展開された光の翼に斬り裂かれて粉々になった。
ふう、ようやく勝てたか。強かったー!
こいつ無茶苦茶強かったけど、もしオルデガッシュが戦っていたら勝てたのだろうか? 到底勝てるとは思えないんだけど……。もしかしたら、勇者固有のチートスキル『英雄覇気』の効果が凄まじくて、かなり有利に戦えるのかもしれんが。
おっと、まだすべて終わってなかった。考え事をする前にキングを倒さないと。
キングに意識を向けると、眼下でキングは何やら魔法を使おうとしている。あれはジェネラルも使っていた鬼咬大砲か。ま、ツインバスターライフルで押し切って倒せるだろ。
キングが鬼咬大砲を撃つのと同時に、俺もツインバスターライフルを撃つ。キングの撃った魔法を吞み込んで、閃光は突き進む。
ツインバスターライフルの閃光が収まると、キングの気配は消滅していた。どうやら、キングの戦闘力自体はたいしたことはないようだ。キングを失った雑魚ゴブリンどもは散り散りになって退散していく。
ようやく終わったな。今回はさすがに疲れた。俺はリンゼの乗っているゲタを近くに寄せた。
「どうにかキングを倒せたよ。あの赤い帽子の奴、強かったー」
「バランセ凄い! あんなに速く動けるなんて! 動きが全く見えなかったよ! それに凄い魔法もいっぱい使ってた! カッコ良かったよ!」
リンゼは大喜びで俺を褒めちぎる。ふぅ、癒されるな……。ほっと一息ついていると、頭上から声が聞こえてきた。
「人間よ。おぬしの戦いぶりは楽しませてもらったのじゃ」
俺たちは声のした方向を見上げると、そこには宙に浮かぶ幼女の姿があった。見た目とは裏腹に、とてつもない存在感と、俺とは次元が違うと思える程の強烈な魔力を感じる。
何者か知らんが、こいつはヤバイ。戦いなんて成立しない。敵意を持たれたら、ただ踏みつぶされるだけだ。俺のすべての感覚が警鐘を鳴らし、背中に冷や汗がつたうのを感じる。
「妾は月の女神、ルナーナヒダなのじゃ! 妾はおぬしの祈りを聞き、月の魔力を貸してやったのじゃ! 対価を払うのじゃ!」
のじゃのじゃうるせぇ……。いや、そんなことよりも、月の魔力の対価だと……? まさか、のじゃロリ女神に月の魔力を使用した対価を求められるなんて。
「どうしたのじゃ? さあ、はやくするのじゃ! それとも命で対価を支払うのか?」
それはちょっと勘弁して。俺はアイテムボックスから、リーエルの屋台で買ってしまっておいた、魚の串焼きをのじゃロリ女神に差し出した。
「ほう、ただの焼き魚とな? このような物が妾への供物であるともうすのか?」
「恐れながら……。これはただの焼き魚ではございません。香草により爽やかな香りが付けられ、複数のスパイスによって奥深い風味を演出しております。さらに、絶妙な火加減で焼き上げられており、外はパリっと中はふわっとの極上の食感の逸品にございます」
おそらくこの魚の串焼きは、過去の異世界人が知識チートでこの世界にもたらした料理だろう。はっきり言って無茶苦茶旨い。食べたくなったらいつでも食べられるように、たくさん買って焼きたてをアイテムボックスにしまっておいたものだ。
この手の女神様は多くの場合、美味しい物を渡しておけば上機嫌になるはず。俺はビビり半分期待半分で、のじゃロリ女神様の反応を待つ。
「ふむ、そうまで言うなら一口味わうのじゃ! モグモグ……。う……、うまい! なんじゃこの食べ物は!? もっとじゃ! もっとよこすのじゃ!!」
のじゃロリ女神、ちょろいな。俺は口元が緩みそうになるのを堪え、アイテムボックスにしまってある魚の串焼きを全部差し出した。それらを完食した後、のじゃロリ女神様は嬉しそうに俺を見る。
「うむ、旨かったぞ。次は甘味を所望するのじゃ」
げ、まだ食うのかよ? 俺はアイテムボックスにしまってあった、ストロベリータルトにザッハトルテ、そしてタピオカミルクティを捧げた。それらをガツガツ食らうのじゃロリ女神様。
「なんと素晴らしい美食の数々。褒めてつかわすのじゃ」
「ははっ、ありがたき幸せ!」
「妾はおぬしが気に入った。名を何という?」
「バランセにございます」
「うむ、ではバランセ、妾はそなたに祝福を授けるのじゃ。バランセは人間にしては強い方じゃが、『魔王覇気』で強化されたモンスターと戦うのは骨が折れたじゃろう。よって、スキル『英雄覇気』を授けるのじゃ!」
マジか? それって勇者の固有チートスキルじゃなかったのか? それをポンとくれるなんて太っ腹な女神様だな。
「さらに、月の魔力を一日一回だけなら使っても良いのじゃ! ただし、使った後はしっかりと対価は支払ってもらうぞ。次も美味なるものを期待しておるのじゃ!」
「この上なき誉れにございます」
「うむ、ではさらばなのじゃ!」
のじゃロリ女神は満足げな様子で消えていった。しかし、これはありがたい。勇者のチートスキルが手に入るなんて、考えてもみなかった。これであのエロ勇者は用無しだな。
そういえば、月の魔力を一日一回使っていいって言ってたな。でもサテライトキャノンは極力使わないでおこう。またのじゃのじゃ言われると面倒だし。
「バランセって本当に凄いよね! 月の女神様に認められるなんて」
「きっと運が良かっただけだよ。ルナーナヒダ様には感謝しないとね」
目を輝かせて尊敬の眼差しを向けているリンゼに、俺は照れ笑いで返した。
さて、腹も減ってきたことだし、魔石を回収してから帰るか。
俺とリンゼは、地表に開いた大きな縦穴を降りていき洞窟に立った。そこには、ツインバスターライフルとサテライトキャノンに巻き込まれたゴブリンたちの魔石が大量に転がっている。
それらに混じって一際大きな魔石があった。あれはキングの魔石だな。勇者の力を借りずにキングを倒したとなると、またルディアナさんとかに騒がれて面倒になるだろうから、キングの魔石はそのままにしておくか。
レッドキャップの魔石と、散らばっている魔石を適当に何個か回収してアイテムボックスにしまった。
予想外なことがいろいろ起きたが、収穫も多かった。何とも言えない充実感を胸に、俺とリンゼはモルジアスの街に帰るのだった。
* * *
戦っているバランセのイメージ。
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皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
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