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第二章
第十三話 サブセントラル市街戦
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ジープを停めたのは郊外のベッドタウンを抜けたあたり。ガルスを象徴する摩天楼群を眼前にし、僕らが入ってきたゲートの城壁は遥か後方に見える地点だ。
「さて。問題はここからだ。時間が限られている上に、上級種もいる。当てもなく闇雲に探し回るのは危険だ。どうアプローチしたものか」
「おおよそでも彼らの居場所の見当が付けられれば……」
「算段はあります」
コンピューターを起動しながらそう口にする僕に、全員の視線が集まる。僕は言いながら
軍の支援も無い以上、この救出作戦はできるだけ完璧なものとし、最短で迅速に済ませる。全員無事に帰らせるにはそれしかない。
「彼らの現在位置がわかるのかい?」
「いえ。でも、彼らの辿った可能性のある道筋なら計算で予測できます」
「つってもよレン。人間様はそんな単純じゃないぜ?コンピューターなんかでわかるのか?」
「人間の中でも単純の代表格みたいなお前が言うなという気もするがな」
"なんか"とクロウは言うが、これこそが僕の武器だ。
このコンピューターと、僕の組んだAIはあらゆる問題に対し、様々なアルゴリズムを用いて科学的に答えを出してくれる。魔属に遭遇しない安全なルートの割り出しから、逆に特定の犯罪者や魔属の居場所の特定など、実に様々な場面において役に立つ。
僕はキーを叩いて条件を入力していく。情報が多ければ多いほどその精度は正確になり、AIは確実な答えを導き出してくれる。
彼らは上級魔属を目標にし、ネスト化の進む都心部に向かっているのは間違いない。先ほど軍からもらったデータを基に、魔属の戦力と分布。地形や建物の細かな配置。魔属との会敵予想範囲。勇者たちの人数と、そこから導き出される戦力。さらには、クロウの指摘した“人間的な部分”も条件として入力していく。
“人間的な部分”とは、彼らの行動原理。これによって物事は大きく変化する。
正義感や使命感は個人差があるし、今日会ったばかりの彼らが共有するような特別な感情も目的もないはずだ。全員で共通し、かつ結託して動く理由はそう多くない。
彼らを強く突き動かしているのは、きっと「功名心」だろう。
それらの複雑な条件を細かく打ち込み終え、計算を実行する。AIは入力されたあらゆる要素を瞬く間に数値に変換し、様々なアルゴリズムを用いて複雑かつ多元的な計算を高速で行う。
数分の間を置いた後、表示された画面内の地図上には彼らの辿った可能性が高い箇所を、グラデーションで視覚的に示していた。
「イーストエリアD区画方面から都心部に向かうルートが最短ですが、遅くともA区画からサブセントラルエリアまでの間に魔属と交戦していると予想されます。彼らの戦力で押し返すことは難しいでしょうから、一端どこかに身を隠していると想定し、魔属分布の低いF区画からサブセントラル区画までの間をまず探索しましょう」
僕は検索結果から導き出された結果を元にルートを提案する。皆に異論はなく、一様に頷く。
「そうそう出てくるとは思えないが、上級種が出てくる可能性はゼロではない。とにかく迅速にコンタクトをして連れ戻そう」
ここから先は魔属の支配領域。僅かな気の緩みでも命取りになりかねない。
「停めてくれ、レン君」
ヴィルさんがそう告げたのはE区画のメインストリート終端、B区画に差し掛かかるところだった。
サブセントラルと称されるこの区画は片側三車線もあるメインストリートを中心に、中小規模のビルや雑居ビル、商店が道沿いに並んでいる。平時であれば人の往来が多いであろうそこも、今は人影があるわけもなく、当然街明かりなど全く無く、不気味なまでに静まり返っている。
前方の一点に視点を据えたヴィルさん。気付けば、アオイやケイン君も同様の表情をしていた。
この状況で、何が起ころうとしているのか、わからない人間はこの中にはいない。ほぼ同時にコンピューターが大群の接近を伝えていた。センサーが拾い上げた数値が本当なら、これまで見たことが無いほどの数の魔属群だ。
「どうやら奴らの警戒圏内に入ったみたいだな。おそらく振り切るのは不可能だ。ここで撃退しよう」
できるだけ戦闘は最低限に済ませたいが、迂回してばかりではアルベルトたちには追いつけない。計算上、どこかで一回は魔属と戦闘になることは覚悟していた。
「みんな、くれぐれも油断するな。下位種であろうと、数は多い」
「レン。隠れていろ」
「ヒルダさん。僕から離れちゃダメだよ」
三者三様に警告を発する勇者たち。
程なく、足裏から小さな振動が伝わってくると同時に、地鳴りの如き低い轟が聞こえてくる。それらは徐々に、しかし確実に大きくなっていく。明らかに僕らのいる方向に迫ってくるのがわかった。
そして、それは姿を表す。
一言で表すなら、それは津波だった。通りの各所から溢れ出てくる魔属たちはメインストリートで合流。一つの潮流となってこちらめがけて迫り来る。その様はまるでそれが一つの巨大な生き物のようにすら見えた。
戦えない僕は足手まといになるので、安全な場所から彼らの戦いを援護に徹する。手近な雑居ビルの屋上を目指しながら、耳に装着したレシーバーマイクのスイッチを入れる。これは事前にグリュー軍が用意してくれた無線通信機だ。
屋上にたどり着くと同時に、勇者たちと魔属群が正面から激突した。
アオイは迫り来る魔属たちの爪を掻い潜り、多少の傷はものともせず一撃を叩き込んでいく。ギンやクロウも同様で、心配はなさそうだ。
「ケイン君危ない!」
視線を移した僕は、彼を見るなり思わず叫んでいた。
無数の魔属に取り囲まれていたケイン君は、臆した様子もなく背負った身幅の広い剣を構えている。その彼の真横の死角から忍び寄った魔属がその爪を伸ばし、今まさにその身を引き裂こうとしていたのだ。
しかし、その爪は突如現れた銀色の盾によって阻まれ、甲高い擦過音を奏でるだけに終わる。
ケイン君を守った半球状の物体は魔属の攻撃を防ぐと、形を失いって液状になりながら吸い込まれるようにケイン君の鎧に溶け込んでいった。
まるで魔法のような現象だが、あれは彼の聖剣の機能であると直感的に理解する。恐らくは自動防御機構を備えた聖剣に違いない。
ケイン君は防御を銀の盾に任せ、次々と魔属を葬っていく。剣技にアオイやガーネットさんほどの鋭さや力は無いものの、急所に刃を送り確実に仕留める精密さでそれを補っていた。防御に気を取られること無く攻撃に専念できるのは彼の強みだ。
彼の背後から迫る一体の魔属。しかし、その頭部が轟音とともに消し飛ぶ。
その音源を視線で追った僕は、店舗の屋根上にヒルダさんの姿を確認する。今は上からポケットを多く備えたロングジャケットを羽織り、その手には拳銃が握られていた。
拳銃と言ってもその口径は規格外に大きい。あれは.585口径強装弾を使用するMIM社の大型拳銃『D50 “ゴスホーク”』だ。対魔属用に開発されたそれは、拳銃というカテゴリーの中では間違いなく最高威力を誇る。
反面、取り扱いの難しさもトップレベルでもある。発砲時の反動は男性であっても構えが悪ければ腕が跳ね上がってしまい、連射はおろかまともな射撃もできないと言われている。本来は女性が扱うには全く向かない代物なのだ。
しかし、ことヒルダさんに関しては例外のようだ。
物静かなヒルダさんの雰囲気は、銃を構えると同時に霧散。戦闘に臨むに相応しい双眸を、照準機を通して獲物に向けていた。
そして躊躇いなく引き金を引き、銃弾を叩きこむ。反動を完全にコントロールした銃撃は僅かに跳ねるだけで、銃弾を正確に魔属の急所へと送り込む。その姿勢は素人の僕が見ても非常に洗練されていて、衝撃を受け止めるのではなくきれいに拡散させていた。
銃声に気付いた魔属が迫るとヒルダさんはその場を移動し、屋根から屋根、屋根からアーケードの上へと駆ける。そして走りながらも両手で銃を構え、追いすがる魔属めがけて立て続けに引き金を引く。反動をものともせず、暗闇の中で銃炎を明滅させながら七発の弾丸が瞬く間に吐き出され、銃声と同じ数の魔属が葬られた。
残弾が無くなりスライドが下がりきった時、すでにヒルダさんの左手には予備の弾倉が握られている。分厚く大きい空のマガジンが滑り、ゴツッと重々しい音を立てて床に落ちた時には新たなマガジンの装填が完了していた。わずか一秒にも満たない瞬間でリロードをし、再び引き金を引く。その所作は一分の無駄もない。
まさに芸術の域にあるといてもいい銃裁きだ。
戦っている時の頼もしいまでに凛々しい姿は、アルベルトに責められていた時に見せた、言われるがままのか弱い女性とは全く別人だった。
そして遠目で見るとよくわかるが、二人はどんなに動きまわっても、一定距離以上を離れることはなかった。常に互いにフォローできる距離を保って戦闘を行っていた。
「オイオイ。こりゃうかうかしてると見せ場が食われちまうな」
クロウも賞賛の声を上げながらチェーンソーを振り回す。
三人の勇者と、彼らを援護する百戦錬磨の従属たちは、怒涛のごとく迫り来る魔属群を瞬く間に葬っていく。苦戦らしい苦戦もせず、特に僕がサポートするまでもなくものの十分ほどで魔属を駆逐してのけた。
通りは埋め尽くす魔属たちの屍と、川のように流れる血と体液で足の踏み場もない有様だった。
戦闘の最中でジープは破壊されてしまったため、仕方なく工事現場に停められていたトラックを拝借し、僕らは再び探索に向かう。
「しかし、驚いたな。まさかその鎧も聖剣の一部だったのか」
運転をヒルダさんに任せ、戦闘で得られた情報を元に再計算を行っていると、ヴィルさんはケイン君に言う。
「はい。この聖剣、[アルジェント]はラインボルト社とネムス・インダストリアルの共同製作により開発された聖剣のテストモデルでして。流体金属で自動的に防御してくれるのが最大の特徴です」
身に纏っている鎧に手を当てながらケイン君は答える。
「この流体金属は、制御コア・ユニットとセンサーユニットを兼ねたこの剣とリンクしています。一定距離の外部攻撃や僕の意識を感知すると流体金属はプログラムに沿って形状と硬度を変質させる防御機能を発動させます」
「流体金属、ユニットと機能の分離……新しいコンセプトの聖剣だね」
ケイン君の説明に僕は興味津々で、食い入るように聞き入ってしまう。なんせ他の勇者の聖剣を見れる機会なんて滅多に無いのだから、聖剣鍛冶師としては当然だ。
「なんだ、この剣ン中にはコンピューターが入ってんのか?そんなもんブン回して壊れたりしねぇのか」
「たぶん、これは今話題のSCFなんじゃないかい?」
僕の指摘に「さすがレンさん。その通りです」と、ケイン君。
「この剣には、極小のマイクロチップが金属粒子レベルで埋め込まれています。一つ一つは小さくて性能も微小ですが、それらが寄り集まり、形を成す事で聖剣として力を発揮します」
「つまり、この剣は剣であると同時にコンピューターそのものなんだ。言い換えれば、小さなコンピューターが集まり、剣の形を成しているとも言えるね」
SCFの構造は、人間を含めた多細胞生物にとても良く似ている。だからセルなのだ。これは実に画期的な技術で、この技術のお陰で必要パーツ数の削減と内部の省スペース化が可能となり、ひいては聖剣そのものの小型化、そして多機能化などが見込まれている。
まだ新しい技術だけに聖剣メーカーはこぞってこれを研究し、自社の聖剣に組み込もうとしている。おそらく次世代聖剣では主流になると僕は睨んでいる。
「開発者が言うには、勇者とのリンクが切れない限りは全体の七割を欠損しても最低限機能するそうですよ」
僕とケイン君が交互に説明してもクロウは腕を組みながらアホの子みたいに首を傾げるばかりだ。筋肉至上主義のクロウからすれば、武器なんてものは敵を殴って倒せればそれでいいのだろう。嘆かわしい。
「本来はこの形状変化の性質を攻防両面で運用することを想定していたそうなんですが、どうも僕の気質が原因で、あまり攻撃面での性能は発揮できていないんです」
「確かに、あれほどの硬度と形状変化ができるなら、防御一辺倒はもったいないね」
温和なケイン君の性格が、聖剣にまで影響してしまっているということか。担い手の感情や性格が性能に影響を与えてしまうのは、兵器としては短所でもある。今後、この聖剣[アルジェント]の後継モデルが開発されるとすれば、大きな課題となるはずだ。
「ところでヴィルさんの聖剣はどんな剣なのですか?あ、こういうことは聞いたらマズイですかね?」
「いや。そんなことはないよ。僕の[イーター]の特性は……見てもらった方が早いかな」
ヴィルさんは袖口から甲剣の刀身を引き出す。そしてわずかに拳を握る仕草をすると、刀身は根元からポロリと抜け落ちてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!ヴィ、ヴィル!?!せせせせせ聖剣が、おおおれ、おれ、おれ、折れて、あわわわわ……」
「落ち着けアオイ。別にお前の剣が折れたわけじゃない」
ものすごい悲鳴をあげるアオイ。刃を落とした当の本人を余所に、今まで見たことない慌てっぷりは、放っておけば泡を吹いて倒れかねないほど狼狽してしまう。
「驚かせちゃったね。これは仕様だから別に問題ないよ」
落ち着かせるように言うヴィルさんもの言葉に、アオイはようやく我に返る。
と、クロウが僕に近寄ってきて僕に耳打ちしてくる。
「刃が取り外せることがすごいのか?なんか台所用品みたいで地味だな。あの程度だったらお前でも作れんじゃね?」
「ちょっ!クロウ!」
本人は耳打ちしているつもりなのだろうが、基本声量が大きいのでほぼ筒抜けになってしまい、僕は慌ててクロウの口を抑える。
「ははは。こいつの特質は他にあるんだよ。そうだな……これなんか丁度いいかな」
ヴィルさんが指さしたのは、荷台に積まれていた一抱えもある大きさの油圧式杭打機だった。
何をするのかわからない僕達の視線を受けながら、ヴィルさんは、釘打ち機を刃の取れた[イーター]の根本に近づける。すると、根本から無数のコードが触手のように伸び、釘打ち機を包むように取り込んでしまった。
そして杭打機はそのコードの中でみるみる縮んでいくのがわかる。手頃な大きさになると、包みのままコードはヴィルさんの手元に引き戻されていく。
そうしてわずか数秒の後、コードが解けるとそこにはパイルバンカーのような形態の立派な武器がそこにあった。
「僕のこの聖剣、[イーター]は、物をナノマシンで分解して取り込み、その性能を反映させた聖剣として再構築・発現させる性質を持っているんだ。武器や機械など物としての性能や特徴も取り込めることが最大の特徴なんだ」
「ナノマシンによる吸収分解と再構成……。なるほど。だから“イーター”なんですね」
口に手を当てながらふむふむと頷くケイン君。
「そりゃすごいことなのか?」
「そうだよ。例えば、クロウのチェーンソーなんかもあの剣に食べられたら、ヴィルさんの剣はクロウのチェーンソーと同じ物を持つことになるんだよ」
「じゃあチェーンソー最初から持ってた方がいいじゃねぇのか」
「いや、そうじゃなくて。ヴィルさんの剣の強みは、どんな相手、状況にも対応できる最適な武器で戦えることこにあるんだよ。しかも、それがどんな武器であっても聖剣級の性能を発揮できるんだ」
「つまり、どんな状況でも対応できる万能兵器ということか」
ギンが相づちを打つが、クロウの頭の上の?はさらに一個増えた。
「例えば、僕が重いものを運ばなくちゃならないとき、僕の腕にクロウの筋肉を借りることができたらすごいと思わない?」
「そいつはすげぇ!」
あっさり理解した。
しかしナノマシンを取り入れ、物質を特定のベクトルで構築できる技術が一体どのようなものか、もはや僕にも及びもつかない。最先端技術の結晶とも言われる聖剣の中でも、この[イーター]は間違いなく現代では最高峰に位置する聖剣だ。
確かに一振りで戦況を変える類のものではないかもしれないが、圧倒的な戦闘技術を持つヴィルさんには下手に機能を込んだ聖剣よりも相性がいいのかもしれない。
[イーター]然り。[アルジェント]も然り。ガーネットさん所有の無数の聖剣もまた然り。様々な能力や機能を持つ聖剣の製作においても兵器の枠にとらわれず、あらゆる技術が導入されているのが現状だ。
「アオイ君のそれも聖剣だろう?もしかしてレン君が打ったものかい?」
そして必然的に、話題はアオイの聖剣に向けられる。
「うんにゃ。死んだ母様が生前に用意してくれてたものだ」
「あ。彼女の母親も勇者だったんですよ」僕は横から補足する。
「なるほど。聖剣であり形見というわけか。確かに、見たところだいぶ年季の入った聖剣のようだね」
「あ。確かに古い聖剣ではあるんですがそれは――」
「私の聖剣は遺産型って言うらしいぞ」
「遺産型!?」
アオイの一言に、ヴィルさんだけでなく、ケイン君までもが驚きに声を上げる。
遺産型聖剣。それは数千年の間で失われた技術によって作られた聖剣のカテゴリー。
オーパーツなどとも揶揄されることもあるけど、その性能や能力も現代製のものとは一線を画すのが遺産型の特徴で、それはまさに魔法とも呼べるようなものだとか。
構成する素材がこの世界に存在しない物質だったり、能力発動のメカニズムが全く不明。そもそも回路らしきものすら存在しない、など真偽が不明な都市伝説まがいの噂も含めて、その例は様々だが、どれも共通して現代技術で再現どころか、解析すらできないブラックボックスである。
数世紀も前の遺産型聖剣が完璧な形で発見されることは極稀で、現存している数は非常に少ない。
「それで、この遺産型聖剣にはどんな能力があるんですか!?」
「さぁ……」
期待に反し、アオイの間の抜けた回答に一同は同時にずっこけた。
「いやいや。何度も説明したでしょ」
「何度説明されてもレンの言ってることは理解できないから、毎回適当に頷いてた」
「えぇ……」
ショッキングな告白に言葉を失う。
一方、説明を求める視線が僕に集中していたので、よくわかっていない担い手に変わり、僕が説明する。
「遺産型と言っても、壊れていたのをベースとして改修したので、実質的には現代聖剣と変わりないんですよ」
元の聖剣の正確な出自は誰も知らない。破損したまま長らくイリス家に保管されていた遺産型聖剣を改修して、現代に蘇った聖剣が[ベルカ]なんだそうだ。
「壊れていても遺産型聖剣であることに変わりはありません。特に潜在力の変換効率が優れていたので、フレームベースとして活用したそうです。[ベルカ]自体は、アオイの"DEEP"である〈L粒子〉の変換するための能力拡張・補佐タイプの聖剣なんです」
例えばアオイの超回復や鎧の具現化もこの[ベルカ]の鍔元に備えられたマテリアルドライブが行っている。プログラムに従いドライブユニットが〈L粒子〉を取り込み、傷であれば傷に応じた性質に変換し、鎧であれば物質変換し現出させる。
潜在力を安全に、過剰に消費しないよう制御しつつ〈L粒子〉を使用することに特化した聖剣なのだ。
――もっとも、物質変換すら可能な〈L粒子〉には切断力強化や機動力補助だけに留まらない、もっと幅広い可能性を秘めていると僕は思っているのだけど……
「じゃあアオイさんの聖剣は……」
「うん。巷で言われているようなすごい機能はないんだ」
みんななんだか微妙な顔をする。まぁ滅多にお目にかかれない遺産型にしては特筆するような派手な性能は無い。口にはしないものの「期待はずれ」という言葉が彼らの顔にはっきりと書いてあった。
「しかし全員が聖剣所有者だったのは僥倖だ。これなら魔属がどれだけ来ようと負ける気がしない。何としても魔属どもをこのガルスから駆逐するぞ」
「そのためにも、まずは他の勇者たちを何としても連れ帰らないと、ですね」
僕の投げかけにヴィルさんだけでなくアオイやケイン君らも深く頷く。
「雨が降り出してきたな」
と、空を仰ぎ見ながらアオイが呟いた。曇天の空からは雨粒がポツポツと滴り落ち、風も出てきた。
この様子だと荒れるかもしれない。
「さて。問題はここからだ。時間が限られている上に、上級種もいる。当てもなく闇雲に探し回るのは危険だ。どうアプローチしたものか」
「おおよそでも彼らの居場所の見当が付けられれば……」
「算段はあります」
コンピューターを起動しながらそう口にする僕に、全員の視線が集まる。僕は言いながら
軍の支援も無い以上、この救出作戦はできるだけ完璧なものとし、最短で迅速に済ませる。全員無事に帰らせるにはそれしかない。
「彼らの現在位置がわかるのかい?」
「いえ。でも、彼らの辿った可能性のある道筋なら計算で予測できます」
「つってもよレン。人間様はそんな単純じゃないぜ?コンピューターなんかでわかるのか?」
「人間の中でも単純の代表格みたいなお前が言うなという気もするがな」
"なんか"とクロウは言うが、これこそが僕の武器だ。
このコンピューターと、僕の組んだAIはあらゆる問題に対し、様々なアルゴリズムを用いて科学的に答えを出してくれる。魔属に遭遇しない安全なルートの割り出しから、逆に特定の犯罪者や魔属の居場所の特定など、実に様々な場面において役に立つ。
僕はキーを叩いて条件を入力していく。情報が多ければ多いほどその精度は正確になり、AIは確実な答えを導き出してくれる。
彼らは上級魔属を目標にし、ネスト化の進む都心部に向かっているのは間違いない。先ほど軍からもらったデータを基に、魔属の戦力と分布。地形や建物の細かな配置。魔属との会敵予想範囲。勇者たちの人数と、そこから導き出される戦力。さらには、クロウの指摘した“人間的な部分”も条件として入力していく。
“人間的な部分”とは、彼らの行動原理。これによって物事は大きく変化する。
正義感や使命感は個人差があるし、今日会ったばかりの彼らが共有するような特別な感情も目的もないはずだ。全員で共通し、かつ結託して動く理由はそう多くない。
彼らを強く突き動かしているのは、きっと「功名心」だろう。
それらの複雑な条件を細かく打ち込み終え、計算を実行する。AIは入力されたあらゆる要素を瞬く間に数値に変換し、様々なアルゴリズムを用いて複雑かつ多元的な計算を高速で行う。
数分の間を置いた後、表示された画面内の地図上には彼らの辿った可能性が高い箇所を、グラデーションで視覚的に示していた。
「イーストエリアD区画方面から都心部に向かうルートが最短ですが、遅くともA区画からサブセントラルエリアまでの間に魔属と交戦していると予想されます。彼らの戦力で押し返すことは難しいでしょうから、一端どこかに身を隠していると想定し、魔属分布の低いF区画からサブセントラル区画までの間をまず探索しましょう」
僕は検索結果から導き出された結果を元にルートを提案する。皆に異論はなく、一様に頷く。
「そうそう出てくるとは思えないが、上級種が出てくる可能性はゼロではない。とにかく迅速にコンタクトをして連れ戻そう」
ここから先は魔属の支配領域。僅かな気の緩みでも命取りになりかねない。
「停めてくれ、レン君」
ヴィルさんがそう告げたのはE区画のメインストリート終端、B区画に差し掛かかるところだった。
サブセントラルと称されるこの区画は片側三車線もあるメインストリートを中心に、中小規模のビルや雑居ビル、商店が道沿いに並んでいる。平時であれば人の往来が多いであろうそこも、今は人影があるわけもなく、当然街明かりなど全く無く、不気味なまでに静まり返っている。
前方の一点に視点を据えたヴィルさん。気付けば、アオイやケイン君も同様の表情をしていた。
この状況で、何が起ころうとしているのか、わからない人間はこの中にはいない。ほぼ同時にコンピューターが大群の接近を伝えていた。センサーが拾い上げた数値が本当なら、これまで見たことが無いほどの数の魔属群だ。
「どうやら奴らの警戒圏内に入ったみたいだな。おそらく振り切るのは不可能だ。ここで撃退しよう」
できるだけ戦闘は最低限に済ませたいが、迂回してばかりではアルベルトたちには追いつけない。計算上、どこかで一回は魔属と戦闘になることは覚悟していた。
「みんな、くれぐれも油断するな。下位種であろうと、数は多い」
「レン。隠れていろ」
「ヒルダさん。僕から離れちゃダメだよ」
三者三様に警告を発する勇者たち。
程なく、足裏から小さな振動が伝わってくると同時に、地鳴りの如き低い轟が聞こえてくる。それらは徐々に、しかし確実に大きくなっていく。明らかに僕らのいる方向に迫ってくるのがわかった。
そして、それは姿を表す。
一言で表すなら、それは津波だった。通りの各所から溢れ出てくる魔属たちはメインストリートで合流。一つの潮流となってこちらめがけて迫り来る。その様はまるでそれが一つの巨大な生き物のようにすら見えた。
戦えない僕は足手まといになるので、安全な場所から彼らの戦いを援護に徹する。手近な雑居ビルの屋上を目指しながら、耳に装着したレシーバーマイクのスイッチを入れる。これは事前にグリュー軍が用意してくれた無線通信機だ。
屋上にたどり着くと同時に、勇者たちと魔属群が正面から激突した。
アオイは迫り来る魔属たちの爪を掻い潜り、多少の傷はものともせず一撃を叩き込んでいく。ギンやクロウも同様で、心配はなさそうだ。
「ケイン君危ない!」
視線を移した僕は、彼を見るなり思わず叫んでいた。
無数の魔属に取り囲まれていたケイン君は、臆した様子もなく背負った身幅の広い剣を構えている。その彼の真横の死角から忍び寄った魔属がその爪を伸ばし、今まさにその身を引き裂こうとしていたのだ。
しかし、その爪は突如現れた銀色の盾によって阻まれ、甲高い擦過音を奏でるだけに終わる。
ケイン君を守った半球状の物体は魔属の攻撃を防ぐと、形を失いって液状になりながら吸い込まれるようにケイン君の鎧に溶け込んでいった。
まるで魔法のような現象だが、あれは彼の聖剣の機能であると直感的に理解する。恐らくは自動防御機構を備えた聖剣に違いない。
ケイン君は防御を銀の盾に任せ、次々と魔属を葬っていく。剣技にアオイやガーネットさんほどの鋭さや力は無いものの、急所に刃を送り確実に仕留める精密さでそれを補っていた。防御に気を取られること無く攻撃に専念できるのは彼の強みだ。
彼の背後から迫る一体の魔属。しかし、その頭部が轟音とともに消し飛ぶ。
その音源を視線で追った僕は、店舗の屋根上にヒルダさんの姿を確認する。今は上からポケットを多く備えたロングジャケットを羽織り、その手には拳銃が握られていた。
拳銃と言ってもその口径は規格外に大きい。あれは.585口径強装弾を使用するMIM社の大型拳銃『D50 “ゴスホーク”』だ。対魔属用に開発されたそれは、拳銃というカテゴリーの中では間違いなく最高威力を誇る。
反面、取り扱いの難しさもトップレベルでもある。発砲時の反動は男性であっても構えが悪ければ腕が跳ね上がってしまい、連射はおろかまともな射撃もできないと言われている。本来は女性が扱うには全く向かない代物なのだ。
しかし、ことヒルダさんに関しては例外のようだ。
物静かなヒルダさんの雰囲気は、銃を構えると同時に霧散。戦闘に臨むに相応しい双眸を、照準機を通して獲物に向けていた。
そして躊躇いなく引き金を引き、銃弾を叩きこむ。反動を完全にコントロールした銃撃は僅かに跳ねるだけで、銃弾を正確に魔属の急所へと送り込む。その姿勢は素人の僕が見ても非常に洗練されていて、衝撃を受け止めるのではなくきれいに拡散させていた。
銃声に気付いた魔属が迫るとヒルダさんはその場を移動し、屋根から屋根、屋根からアーケードの上へと駆ける。そして走りながらも両手で銃を構え、追いすがる魔属めがけて立て続けに引き金を引く。反動をものともせず、暗闇の中で銃炎を明滅させながら七発の弾丸が瞬く間に吐き出され、銃声と同じ数の魔属が葬られた。
残弾が無くなりスライドが下がりきった時、すでにヒルダさんの左手には予備の弾倉が握られている。分厚く大きい空のマガジンが滑り、ゴツッと重々しい音を立てて床に落ちた時には新たなマガジンの装填が完了していた。わずか一秒にも満たない瞬間でリロードをし、再び引き金を引く。その所作は一分の無駄もない。
まさに芸術の域にあるといてもいい銃裁きだ。
戦っている時の頼もしいまでに凛々しい姿は、アルベルトに責められていた時に見せた、言われるがままのか弱い女性とは全く別人だった。
そして遠目で見るとよくわかるが、二人はどんなに動きまわっても、一定距離以上を離れることはなかった。常に互いにフォローできる距離を保って戦闘を行っていた。
「オイオイ。こりゃうかうかしてると見せ場が食われちまうな」
クロウも賞賛の声を上げながらチェーンソーを振り回す。
三人の勇者と、彼らを援護する百戦錬磨の従属たちは、怒涛のごとく迫り来る魔属群を瞬く間に葬っていく。苦戦らしい苦戦もせず、特に僕がサポートするまでもなくものの十分ほどで魔属を駆逐してのけた。
通りは埋め尽くす魔属たちの屍と、川のように流れる血と体液で足の踏み場もない有様だった。
戦闘の最中でジープは破壊されてしまったため、仕方なく工事現場に停められていたトラックを拝借し、僕らは再び探索に向かう。
「しかし、驚いたな。まさかその鎧も聖剣の一部だったのか」
運転をヒルダさんに任せ、戦闘で得られた情報を元に再計算を行っていると、ヴィルさんはケイン君に言う。
「はい。この聖剣、[アルジェント]はラインボルト社とネムス・インダストリアルの共同製作により開発された聖剣のテストモデルでして。流体金属で自動的に防御してくれるのが最大の特徴です」
身に纏っている鎧に手を当てながらケイン君は答える。
「この流体金属は、制御コア・ユニットとセンサーユニットを兼ねたこの剣とリンクしています。一定距離の外部攻撃や僕の意識を感知すると流体金属はプログラムに沿って形状と硬度を変質させる防御機能を発動させます」
「流体金属、ユニットと機能の分離……新しいコンセプトの聖剣だね」
ケイン君の説明に僕は興味津々で、食い入るように聞き入ってしまう。なんせ他の勇者の聖剣を見れる機会なんて滅多に無いのだから、聖剣鍛冶師としては当然だ。
「なんだ、この剣ン中にはコンピューターが入ってんのか?そんなもんブン回して壊れたりしねぇのか」
「たぶん、これは今話題のSCFなんじゃないかい?」
僕の指摘に「さすがレンさん。その通りです」と、ケイン君。
「この剣には、極小のマイクロチップが金属粒子レベルで埋め込まれています。一つ一つは小さくて性能も微小ですが、それらが寄り集まり、形を成す事で聖剣として力を発揮します」
「つまり、この剣は剣であると同時にコンピューターそのものなんだ。言い換えれば、小さなコンピューターが集まり、剣の形を成しているとも言えるね」
SCFの構造は、人間を含めた多細胞生物にとても良く似ている。だからセルなのだ。これは実に画期的な技術で、この技術のお陰で必要パーツ数の削減と内部の省スペース化が可能となり、ひいては聖剣そのものの小型化、そして多機能化などが見込まれている。
まだ新しい技術だけに聖剣メーカーはこぞってこれを研究し、自社の聖剣に組み込もうとしている。おそらく次世代聖剣では主流になると僕は睨んでいる。
「開発者が言うには、勇者とのリンクが切れない限りは全体の七割を欠損しても最低限機能するそうですよ」
僕とケイン君が交互に説明してもクロウは腕を組みながらアホの子みたいに首を傾げるばかりだ。筋肉至上主義のクロウからすれば、武器なんてものは敵を殴って倒せればそれでいいのだろう。嘆かわしい。
「本来はこの形状変化の性質を攻防両面で運用することを想定していたそうなんですが、どうも僕の気質が原因で、あまり攻撃面での性能は発揮できていないんです」
「確かに、あれほどの硬度と形状変化ができるなら、防御一辺倒はもったいないね」
温和なケイン君の性格が、聖剣にまで影響してしまっているということか。担い手の感情や性格が性能に影響を与えてしまうのは、兵器としては短所でもある。今後、この聖剣[アルジェント]の後継モデルが開発されるとすれば、大きな課題となるはずだ。
「ところでヴィルさんの聖剣はどんな剣なのですか?あ、こういうことは聞いたらマズイですかね?」
「いや。そんなことはないよ。僕の[イーター]の特性は……見てもらった方が早いかな」
ヴィルさんは袖口から甲剣の刀身を引き出す。そしてわずかに拳を握る仕草をすると、刀身は根元からポロリと抜け落ちてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!ヴィ、ヴィル!?!せせせせせ聖剣が、おおおれ、おれ、おれ、折れて、あわわわわ……」
「落ち着けアオイ。別にお前の剣が折れたわけじゃない」
ものすごい悲鳴をあげるアオイ。刃を落とした当の本人を余所に、今まで見たことない慌てっぷりは、放っておけば泡を吹いて倒れかねないほど狼狽してしまう。
「驚かせちゃったね。これは仕様だから別に問題ないよ」
落ち着かせるように言うヴィルさんもの言葉に、アオイはようやく我に返る。
と、クロウが僕に近寄ってきて僕に耳打ちしてくる。
「刃が取り外せることがすごいのか?なんか台所用品みたいで地味だな。あの程度だったらお前でも作れんじゃね?」
「ちょっ!クロウ!」
本人は耳打ちしているつもりなのだろうが、基本声量が大きいのでほぼ筒抜けになってしまい、僕は慌ててクロウの口を抑える。
「ははは。こいつの特質は他にあるんだよ。そうだな……これなんか丁度いいかな」
ヴィルさんが指さしたのは、荷台に積まれていた一抱えもある大きさの油圧式杭打機だった。
何をするのかわからない僕達の視線を受けながら、ヴィルさんは、釘打ち機を刃の取れた[イーター]の根本に近づける。すると、根本から無数のコードが触手のように伸び、釘打ち機を包むように取り込んでしまった。
そして杭打機はそのコードの中でみるみる縮んでいくのがわかる。手頃な大きさになると、包みのままコードはヴィルさんの手元に引き戻されていく。
そうしてわずか数秒の後、コードが解けるとそこにはパイルバンカーのような形態の立派な武器がそこにあった。
「僕のこの聖剣、[イーター]は、物をナノマシンで分解して取り込み、その性能を反映させた聖剣として再構築・発現させる性質を持っているんだ。武器や機械など物としての性能や特徴も取り込めることが最大の特徴なんだ」
「ナノマシンによる吸収分解と再構成……。なるほど。だから“イーター”なんですね」
口に手を当てながらふむふむと頷くケイン君。
「そりゃすごいことなのか?」
「そうだよ。例えば、クロウのチェーンソーなんかもあの剣に食べられたら、ヴィルさんの剣はクロウのチェーンソーと同じ物を持つことになるんだよ」
「じゃあチェーンソー最初から持ってた方がいいじゃねぇのか」
「いや、そうじゃなくて。ヴィルさんの剣の強みは、どんな相手、状況にも対応できる最適な武器で戦えることこにあるんだよ。しかも、それがどんな武器であっても聖剣級の性能を発揮できるんだ」
「つまり、どんな状況でも対応できる万能兵器ということか」
ギンが相づちを打つが、クロウの頭の上の?はさらに一個増えた。
「例えば、僕が重いものを運ばなくちゃならないとき、僕の腕にクロウの筋肉を借りることができたらすごいと思わない?」
「そいつはすげぇ!」
あっさり理解した。
しかしナノマシンを取り入れ、物質を特定のベクトルで構築できる技術が一体どのようなものか、もはや僕にも及びもつかない。最先端技術の結晶とも言われる聖剣の中でも、この[イーター]は間違いなく現代では最高峰に位置する聖剣だ。
確かに一振りで戦況を変える類のものではないかもしれないが、圧倒的な戦闘技術を持つヴィルさんには下手に機能を込んだ聖剣よりも相性がいいのかもしれない。
[イーター]然り。[アルジェント]も然り。ガーネットさん所有の無数の聖剣もまた然り。様々な能力や機能を持つ聖剣の製作においても兵器の枠にとらわれず、あらゆる技術が導入されているのが現状だ。
「アオイ君のそれも聖剣だろう?もしかしてレン君が打ったものかい?」
そして必然的に、話題はアオイの聖剣に向けられる。
「うんにゃ。死んだ母様が生前に用意してくれてたものだ」
「あ。彼女の母親も勇者だったんですよ」僕は横から補足する。
「なるほど。聖剣であり形見というわけか。確かに、見たところだいぶ年季の入った聖剣のようだね」
「あ。確かに古い聖剣ではあるんですがそれは――」
「私の聖剣は遺産型って言うらしいぞ」
「遺産型!?」
アオイの一言に、ヴィルさんだけでなく、ケイン君までもが驚きに声を上げる。
遺産型聖剣。それは数千年の間で失われた技術によって作られた聖剣のカテゴリー。
オーパーツなどとも揶揄されることもあるけど、その性能や能力も現代製のものとは一線を画すのが遺産型の特徴で、それはまさに魔法とも呼べるようなものだとか。
構成する素材がこの世界に存在しない物質だったり、能力発動のメカニズムが全く不明。そもそも回路らしきものすら存在しない、など真偽が不明な都市伝説まがいの噂も含めて、その例は様々だが、どれも共通して現代技術で再現どころか、解析すらできないブラックボックスである。
数世紀も前の遺産型聖剣が完璧な形で発見されることは極稀で、現存している数は非常に少ない。
「それで、この遺産型聖剣にはどんな能力があるんですか!?」
「さぁ……」
期待に反し、アオイの間の抜けた回答に一同は同時にずっこけた。
「いやいや。何度も説明したでしょ」
「何度説明されてもレンの言ってることは理解できないから、毎回適当に頷いてた」
「えぇ……」
ショッキングな告白に言葉を失う。
一方、説明を求める視線が僕に集中していたので、よくわかっていない担い手に変わり、僕が説明する。
「遺産型と言っても、壊れていたのをベースとして改修したので、実質的には現代聖剣と変わりないんですよ」
元の聖剣の正確な出自は誰も知らない。破損したまま長らくイリス家に保管されていた遺産型聖剣を改修して、現代に蘇った聖剣が[ベルカ]なんだそうだ。
「壊れていても遺産型聖剣であることに変わりはありません。特に潜在力の変換効率が優れていたので、フレームベースとして活用したそうです。[ベルカ]自体は、アオイの"DEEP"である〈L粒子〉の変換するための能力拡張・補佐タイプの聖剣なんです」
例えばアオイの超回復や鎧の具現化もこの[ベルカ]の鍔元に備えられたマテリアルドライブが行っている。プログラムに従いドライブユニットが〈L粒子〉を取り込み、傷であれば傷に応じた性質に変換し、鎧であれば物質変換し現出させる。
潜在力を安全に、過剰に消費しないよう制御しつつ〈L粒子〉を使用することに特化した聖剣なのだ。
――もっとも、物質変換すら可能な〈L粒子〉には切断力強化や機動力補助だけに留まらない、もっと幅広い可能性を秘めていると僕は思っているのだけど……
「じゃあアオイさんの聖剣は……」
「うん。巷で言われているようなすごい機能はないんだ」
みんななんだか微妙な顔をする。まぁ滅多にお目にかかれない遺産型にしては特筆するような派手な性能は無い。口にはしないものの「期待はずれ」という言葉が彼らの顔にはっきりと書いてあった。
「しかし全員が聖剣所有者だったのは僥倖だ。これなら魔属がどれだけ来ようと負ける気がしない。何としても魔属どもをこのガルスから駆逐するぞ」
「そのためにも、まずは他の勇者たちを何としても連れ帰らないと、ですね」
僕の投げかけにヴィルさんだけでなくアオイやケイン君らも深く頷く。
「雨が降り出してきたな」
と、空を仰ぎ見ながらアオイが呟いた。曇天の空からは雨粒がポツポツと滴り落ち、風も出てきた。
この様子だと荒れるかもしれない。
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