43 / 66
第四章
第三十二話 ライト・スタッフ
しおりを挟む
まず確かなことは、[ベルカ]の完全な修復はもはや不可能だということだ。
理由は多々あるが、最大の要因は[ベルカ]が遺産型聖剣
であること。
失われた技術で製造された[ベルカ]は、現代の技術で修復することは不可能なのだ。
[ベルカ]の遺伝子を受け継ぐ、新たな聖剣を作る必要がある。
とはいえ本来、一から聖剣の開発を行うには、莫大な時間を要する。
剣とはいえ、聖剣は現代兵器であり工業製品だ。あらゆる環境においても十全に性能を発揮できるようにするため、企画・設計の段階から入念に試行錯誤が繰り返される。
そして意図した聖剣の性能を発揮するため、伝導基盤に打ち込むプログラムの作成などは避けては通れない難関である。
ようやく制作が始まっても、要求する基準をクリアするため実験と調整を繰り返すことになる。本来なら年単位の時間を費やすのが普通だ。
平時であれば取り得る手段はいくらでもあるのだが、今は時間がない。
僕一人の力では、到底不可能だ。
「――というわけです。アオイを救うために、どうか協力をお願いします」
深々と頭を下げる僕の前に座るのは、ヴァーミリオンエンタープライズ、ガルスラボ所長。ジョセフ・アーヴィングさん。
彼は僕には一瞥もくれず、難しい顔でモニターを睨んでいる。表示されているのは、僕が提示した聖剣プランと設計データだ。
「部外者が無理を言っているのはわかっています。これを作ってくれなんて言いません。せめて設備だけでも貸してもらえれば、後は僕一人でなんとかします。だから――」
「これの設計はレンさんが一人で?」
問いかけるアーヴィングさんの眼差しは鋭い。初めて見る真剣な表情は、彼の技術者としての顔だ。
その問の真意はわからないが、今はそれに気圧されている時間すら惜しい。
「はい。以前から設計を進めていたものの一つです。今は時間がないので、必要な性能以外はオミットして簡略化していますが」
「それでも、もしこれほどの聖剣を当社で一から企画したなら、ロールアウトまで優に五年は費やす巨大プロジェクトとなるでしょう。お一人で作れるとは到底思えません」
「無茶なのは承知しています。ですが今は――」
「今、試作段階で企画が頓挫した聖剣のベースフレームが一つあります。各種検証は済んでいますので、折れてしまった聖剣[ベルカ]とそれを流用して組み合わせれば、大幅な時間短縮が見込めます」
唐突な提案に、「え?」と声を漏らしてしまう。
「無論、多少の仕様変更はやむを得ないですが、うちの設計システムに通せば大して時間はかからないでしょう。よろしいですか?」
「よろしいも何も、それは……」
「あいにく私はソフト方面に関しては専門外ですので……システム部の意見は?」
「今ざっと目を通した。多少の粗はあるが、性能を考えりゃ上出来だ。うちの若いのにデバッグさせりゃ、すぐに使い物になるだろうさ」
モニターの向こうから野太い別の声が飛び込み、さらに驚かされる。
「にしてもあんたすげぇな!こんな複雑なプログラム、余暇に一人で組むようなもんじゃねぇぞ?さてはお前さん、変態だな!?」
「何度も言ってるけど、変態は褒め言葉じゃないからね、おやっさん」
しかも、どうやら一人二人ではないようだ。複数の声が次々と投げかけられた。
「君は今まで聖剣の制作経験はあるのかい?」
「企画と設計のシミュレーションはそれなりにですが、現物はまだ数回だけ。アオイは使ってくれなかったので、勇者機関に提供しました」
「嘘だろ?!機関にくれてやるなんて、もったいない!」
「いえ、でも僕が個人的に制作したものなので、そんな大したものじゃ……」
「いやいや。君の設計思想はとても刺激的だ。きっといい聖剣だったに違いない。これが済んだら、設計案だけでもぜひ見せてくれ」
「しかしこの設計は本当に素晴らしい。大胆なアイデアの一方で、設計は実に堅実。何より、運用方法が面白いだ。これまでの問題点の解決が、そのまま聖剣の特徴になってるんだから驚いた。設計者として、こういう発想は素直に尊敬するよ」
「ど、どうも、恐縮です……」
「一つ確認したいのですが、元は遺産型聖剣と聞いていますが、このマテリアルドライブもそうなのですか?」
「いや、あくまで遺産型なのはベースだけで、ドライブユニットは後付で」
「やっぱり!昔、ゴルジック社との共同企画で似たのを見た気がしたんだ。ほら、二十年くらい前の」
「あー、あの時の!当時の資料があれば移植はすぐにできそうだな。すぐに手配しよう」
「いや、完全移植は余剰スペースが厳しい。ベースは多少切り詰めることになるかと」
「ちょうどいいじゃん。むしろアオイちゃんの体格を考えると、この際もっと小型にしたらどお?」
「設計案をよく読め。こいつがちゃんと機能すりゃ、姿形なんて関係ないだろ」
「ったく、これだから男は。いいかい?アオイちゃんは女の子なんだ。デザインや見てくれだって重要なのよ」
矢継ぎ早に質問されたかと思うと、ついには僕をそっちのけで議論が始まってしまった。
「これではまとまりませんね。所長、一度ブリーフィングルームに各部門長を集めましょう。手配は私がしておきます」
「わかりました。至急、お願いします」
アーヴィングさんはそう告げ、喧々諤々とした会話は打ち切られる。
「……とまぁ、そういうわけです」
「いや、全然わかんないですって!説明してください!」
ニコリと微笑むアーヴィングさんに、僕は思わず声を上げる。「実はですね」と、アーヴィングさんはおもむろに語りだす。
「本社からは避難指示が出ていたのですが、アオイさんの重篤の報せを聞き、『二度も我々を救ってくれた勇者を見捨てて避難なんかできない』という声が、先日の輸送団の面子を始め、社内中から寄せられまして。避難作業そっちのけで急遽、我々に何かできることはないか協議することになりました」
「そんなことが……全然知りませんでした」
「そして我々も、『[ベルカ]を復活させればアオイさんを救うことができるのでは?』という結論に至りました。ですが、そこから先はほとんど手詰まりでした。時間も情報もアイデアも、我々には全てが足りなかった」
なら僕にも声をかけてほしかった……と、言いたいところだがそれが望むべくもないことはよくわかっている。
彼らは企業に属する聖剣鍛冶師。いずれも、知識も経験も豊富な技術者であり、今までいくつもの聖剣を生み出してきたプロの集団だ。
加えて、保有する知識、情報、設備、ノウハウ等々、聖剣製造にまつわる全てが社外秘の機密だ。部外者を入れるなどリスクでしか無い。セキュリティやコンプライアンスの観点からも決して良いことではない。
彼らからすればどこの馬の骨ともつかない若輩者を、安易に迎え入れたりはしない。
だからこそ僕は頭を下げ、協力を請うた。望み通りに製作ができるとは期待していなかった。
しかし、事はどうやら思わぬ方向に展開しているようだ。
「本来ならレンさんにも声をかけるのが筋なのでしょうが、我々はヴァーミリオン・インダストリーの末席に名を連ねる聖剣鍛冶師です。こと聖剣制作に関してはいずれも一角のプロであると自負しています。何を言われようと部外者であるあなたを面子に加えるのは許されない……ですが、あの設計案を見た後では、そんな意見は吹き飛びましたよ」
「設計案を見ただけでですか?」
「言ったでしょう?我々はプロです。設計案を見れば設計者の力量は測れます。この短時間で、あれほどまでに完成度の高い設計プランを出してくるなんて誰も想像していませんでした。まだ若いフリーランスの聖剣鍛冶師だと、どこかで傲慢になり高をくくっていたのでしょうね。そのことを心から謝罪します」
「いやいやいや!実際僕は半人前です。今回はたまたま準備していたいくつかのプランが偶然役立っただけです」
「不測の事態にこそ、その人の真価が見えてくるものです。それは技術者に限らず、ね」
アーヴィングさんはそう言うが、買い被りだ。
実際、僕は二人に背中を押されたから、こうして動くことができたのだ。
僕一人だったなら何もできず、今頃途方に暮れていたに違いない。
僕はまだ、半人前以下だ。
「もはやレンさんの、聖剣鍛冶師としての実力は全員が認めています。それどころか、今や皆があなたとこの聖剣を作りたくて仕方がない始末だ。無論、この私を含めてね」
「それじゃあ……」
「我らガルスラボはこれより全力で、レンさんの剣製をサポートさせていただきます」
言いながらアーヴィングさんは手を差し出す。
僕は感動に涙を滲ませながら両手で手を取り、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」
「恩返しなのですから、礼は不要です。それに正直、技術屋なんてのは切羽詰まった時ほど燃える生き物ですから」
「あ。それすごくよくわかります」
「さぁ。早くブリーフィングを始めましょう。設計者がいなければ始まりませんよ」
胸の奥に熱いものがこみ上げてくるのを感じながら、僕はアーヴィングさんとブリーフィングルームへと向かった。
ブリーフィングルームで僕らを待っていたのは部屋に収まりきらないほどの大勢の人たちだった。部門長だけでなく、ガルスラボのあらゆる部門の主要スタッフや知識人が一同に集っていた。
聞けば、これでもだいぶ厳選した方だという。聖剣製造に直接は関係ない末端のスタッフから、果ては食堂のおばちゃんまでもが協力を申し出たとか。
皆、知っているのだ。
国も国連も見捨てたこの都市を、アオイが命をかけて戦い、守ってくれたことを。
そのアオイの危機を知り、皆が自分の領分でアオイを救う手助けがしたいと思ってくれたのだ。
アオイが救った人々が、今アオイを救うべく力を貸してくれている。
当初、困難を目の前に、絶望に打ちひしがれた。アオイのためにと奮い立って尚、胸の内には絶望感が漂っていた。
しかし、その絶望は今、大きな希望へと変わった。
彼らの助力は、僕が想定した山のような課題を瞬く間に解決してくれた。
聖剣を生み出してきたヴァーミリオン社のノウハウと実証データ、そして何より優秀な技術者たちの後押しは新たな聖剣の完成を現実的なものへと押し上げてくれた。
詳細まで詰めが終わると、一気にガルスラボは慌ただしくなる。
そこからの僕は多忙を極めた。製造に関わるあらゆる箇所を周り、入念なチェックに奔走し続けた。
そういえば最後に寝たのは、旧ガルスに向かう前だ。疲労困憊の上、フェイクリーダーに刺された傷もあり、身体は限界を迎えようとしていた。
しかしその苦労の甲斐もあり、驚異的な速さで新たな聖剣は完成の目処が見えてくる。ようやく一筋の光明が見えてきた。
そんな時、アオイの容態急変が知らされた。
理由は多々あるが、最大の要因は[ベルカ]が遺産型聖剣
であること。
失われた技術で製造された[ベルカ]は、現代の技術で修復することは不可能なのだ。
[ベルカ]の遺伝子を受け継ぐ、新たな聖剣を作る必要がある。
とはいえ本来、一から聖剣の開発を行うには、莫大な時間を要する。
剣とはいえ、聖剣は現代兵器であり工業製品だ。あらゆる環境においても十全に性能を発揮できるようにするため、企画・設計の段階から入念に試行錯誤が繰り返される。
そして意図した聖剣の性能を発揮するため、伝導基盤に打ち込むプログラムの作成などは避けては通れない難関である。
ようやく制作が始まっても、要求する基準をクリアするため実験と調整を繰り返すことになる。本来なら年単位の時間を費やすのが普通だ。
平時であれば取り得る手段はいくらでもあるのだが、今は時間がない。
僕一人の力では、到底不可能だ。
「――というわけです。アオイを救うために、どうか協力をお願いします」
深々と頭を下げる僕の前に座るのは、ヴァーミリオンエンタープライズ、ガルスラボ所長。ジョセフ・アーヴィングさん。
彼は僕には一瞥もくれず、難しい顔でモニターを睨んでいる。表示されているのは、僕が提示した聖剣プランと設計データだ。
「部外者が無理を言っているのはわかっています。これを作ってくれなんて言いません。せめて設備だけでも貸してもらえれば、後は僕一人でなんとかします。だから――」
「これの設計はレンさんが一人で?」
問いかけるアーヴィングさんの眼差しは鋭い。初めて見る真剣な表情は、彼の技術者としての顔だ。
その問の真意はわからないが、今はそれに気圧されている時間すら惜しい。
「はい。以前から設計を進めていたものの一つです。今は時間がないので、必要な性能以外はオミットして簡略化していますが」
「それでも、もしこれほどの聖剣を当社で一から企画したなら、ロールアウトまで優に五年は費やす巨大プロジェクトとなるでしょう。お一人で作れるとは到底思えません」
「無茶なのは承知しています。ですが今は――」
「今、試作段階で企画が頓挫した聖剣のベースフレームが一つあります。各種検証は済んでいますので、折れてしまった聖剣[ベルカ]とそれを流用して組み合わせれば、大幅な時間短縮が見込めます」
唐突な提案に、「え?」と声を漏らしてしまう。
「無論、多少の仕様変更はやむを得ないですが、うちの設計システムに通せば大して時間はかからないでしょう。よろしいですか?」
「よろしいも何も、それは……」
「あいにく私はソフト方面に関しては専門外ですので……システム部の意見は?」
「今ざっと目を通した。多少の粗はあるが、性能を考えりゃ上出来だ。うちの若いのにデバッグさせりゃ、すぐに使い物になるだろうさ」
モニターの向こうから野太い別の声が飛び込み、さらに驚かされる。
「にしてもあんたすげぇな!こんな複雑なプログラム、余暇に一人で組むようなもんじゃねぇぞ?さてはお前さん、変態だな!?」
「何度も言ってるけど、変態は褒め言葉じゃないからね、おやっさん」
しかも、どうやら一人二人ではないようだ。複数の声が次々と投げかけられた。
「君は今まで聖剣の制作経験はあるのかい?」
「企画と設計のシミュレーションはそれなりにですが、現物はまだ数回だけ。アオイは使ってくれなかったので、勇者機関に提供しました」
「嘘だろ?!機関にくれてやるなんて、もったいない!」
「いえ、でも僕が個人的に制作したものなので、そんな大したものじゃ……」
「いやいや。君の設計思想はとても刺激的だ。きっといい聖剣だったに違いない。これが済んだら、設計案だけでもぜひ見せてくれ」
「しかしこの設計は本当に素晴らしい。大胆なアイデアの一方で、設計は実に堅実。何より、運用方法が面白いだ。これまでの問題点の解決が、そのまま聖剣の特徴になってるんだから驚いた。設計者として、こういう発想は素直に尊敬するよ」
「ど、どうも、恐縮です……」
「一つ確認したいのですが、元は遺産型聖剣と聞いていますが、このマテリアルドライブもそうなのですか?」
「いや、あくまで遺産型なのはベースだけで、ドライブユニットは後付で」
「やっぱり!昔、ゴルジック社との共同企画で似たのを見た気がしたんだ。ほら、二十年くらい前の」
「あー、あの時の!当時の資料があれば移植はすぐにできそうだな。すぐに手配しよう」
「いや、完全移植は余剰スペースが厳しい。ベースは多少切り詰めることになるかと」
「ちょうどいいじゃん。むしろアオイちゃんの体格を考えると、この際もっと小型にしたらどお?」
「設計案をよく読め。こいつがちゃんと機能すりゃ、姿形なんて関係ないだろ」
「ったく、これだから男は。いいかい?アオイちゃんは女の子なんだ。デザインや見てくれだって重要なのよ」
矢継ぎ早に質問されたかと思うと、ついには僕をそっちのけで議論が始まってしまった。
「これではまとまりませんね。所長、一度ブリーフィングルームに各部門長を集めましょう。手配は私がしておきます」
「わかりました。至急、お願いします」
アーヴィングさんはそう告げ、喧々諤々とした会話は打ち切られる。
「……とまぁ、そういうわけです」
「いや、全然わかんないですって!説明してください!」
ニコリと微笑むアーヴィングさんに、僕は思わず声を上げる。「実はですね」と、アーヴィングさんはおもむろに語りだす。
「本社からは避難指示が出ていたのですが、アオイさんの重篤の報せを聞き、『二度も我々を救ってくれた勇者を見捨てて避難なんかできない』という声が、先日の輸送団の面子を始め、社内中から寄せられまして。避難作業そっちのけで急遽、我々に何かできることはないか協議することになりました」
「そんなことが……全然知りませんでした」
「そして我々も、『[ベルカ]を復活させればアオイさんを救うことができるのでは?』という結論に至りました。ですが、そこから先はほとんど手詰まりでした。時間も情報もアイデアも、我々には全てが足りなかった」
なら僕にも声をかけてほしかった……と、言いたいところだがそれが望むべくもないことはよくわかっている。
彼らは企業に属する聖剣鍛冶師。いずれも、知識も経験も豊富な技術者であり、今までいくつもの聖剣を生み出してきたプロの集団だ。
加えて、保有する知識、情報、設備、ノウハウ等々、聖剣製造にまつわる全てが社外秘の機密だ。部外者を入れるなどリスクでしか無い。セキュリティやコンプライアンスの観点からも決して良いことではない。
彼らからすればどこの馬の骨ともつかない若輩者を、安易に迎え入れたりはしない。
だからこそ僕は頭を下げ、協力を請うた。望み通りに製作ができるとは期待していなかった。
しかし、事はどうやら思わぬ方向に展開しているようだ。
「本来ならレンさんにも声をかけるのが筋なのでしょうが、我々はヴァーミリオン・インダストリーの末席に名を連ねる聖剣鍛冶師です。こと聖剣制作に関してはいずれも一角のプロであると自負しています。何を言われようと部外者であるあなたを面子に加えるのは許されない……ですが、あの設計案を見た後では、そんな意見は吹き飛びましたよ」
「設計案を見ただけでですか?」
「言ったでしょう?我々はプロです。設計案を見れば設計者の力量は測れます。この短時間で、あれほどまでに完成度の高い設計プランを出してくるなんて誰も想像していませんでした。まだ若いフリーランスの聖剣鍛冶師だと、どこかで傲慢になり高をくくっていたのでしょうね。そのことを心から謝罪します」
「いやいやいや!実際僕は半人前です。今回はたまたま準備していたいくつかのプランが偶然役立っただけです」
「不測の事態にこそ、その人の真価が見えてくるものです。それは技術者に限らず、ね」
アーヴィングさんはそう言うが、買い被りだ。
実際、僕は二人に背中を押されたから、こうして動くことができたのだ。
僕一人だったなら何もできず、今頃途方に暮れていたに違いない。
僕はまだ、半人前以下だ。
「もはやレンさんの、聖剣鍛冶師としての実力は全員が認めています。それどころか、今や皆があなたとこの聖剣を作りたくて仕方がない始末だ。無論、この私を含めてね」
「それじゃあ……」
「我らガルスラボはこれより全力で、レンさんの剣製をサポートさせていただきます」
言いながらアーヴィングさんは手を差し出す。
僕は感動に涙を滲ませながら両手で手を取り、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」
「恩返しなのですから、礼は不要です。それに正直、技術屋なんてのは切羽詰まった時ほど燃える生き物ですから」
「あ。それすごくよくわかります」
「さぁ。早くブリーフィングを始めましょう。設計者がいなければ始まりませんよ」
胸の奥に熱いものがこみ上げてくるのを感じながら、僕はアーヴィングさんとブリーフィングルームへと向かった。
ブリーフィングルームで僕らを待っていたのは部屋に収まりきらないほどの大勢の人たちだった。部門長だけでなく、ガルスラボのあらゆる部門の主要スタッフや知識人が一同に集っていた。
聞けば、これでもだいぶ厳選した方だという。聖剣製造に直接は関係ない末端のスタッフから、果ては食堂のおばちゃんまでもが協力を申し出たとか。
皆、知っているのだ。
国も国連も見捨てたこの都市を、アオイが命をかけて戦い、守ってくれたことを。
そのアオイの危機を知り、皆が自分の領分でアオイを救う手助けがしたいと思ってくれたのだ。
アオイが救った人々が、今アオイを救うべく力を貸してくれている。
当初、困難を目の前に、絶望に打ちひしがれた。アオイのためにと奮い立って尚、胸の内には絶望感が漂っていた。
しかし、その絶望は今、大きな希望へと変わった。
彼らの助力は、僕が想定した山のような課題を瞬く間に解決してくれた。
聖剣を生み出してきたヴァーミリオン社のノウハウと実証データ、そして何より優秀な技術者たちの後押しは新たな聖剣の完成を現実的なものへと押し上げてくれた。
詳細まで詰めが終わると、一気にガルスラボは慌ただしくなる。
そこからの僕は多忙を極めた。製造に関わるあらゆる箇所を周り、入念なチェックに奔走し続けた。
そういえば最後に寝たのは、旧ガルスに向かう前だ。疲労困憊の上、フェイクリーダーに刺された傷もあり、身体は限界を迎えようとしていた。
しかしその苦労の甲斐もあり、驚異的な速さで新たな聖剣は完成の目処が見えてくる。ようやく一筋の光明が見えてきた。
そんな時、アオイの容態急変が知らされた。
0
あなたにおすすめの小説
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め
イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。
孤独になった勇者。
人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。
ベストな組み合わせだった。
たまに来る行商人が、唯一の接点だった。
言葉は少なく、距離はここちよかった。
でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。
それが、すべての始まりだった。
若者が来た。
食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。
断っても、また来る。
石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。
優しさは、静けさを壊す。
逃げても、追いつかれる。
それでも、ほんの少しだけ、
誰かと生きたいと思ってしまう。
これは、癒しに耐える者の物語。
***
登場人物の紹介
■ アセル
元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。
■ アーサー
初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。
■ トリス
若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる