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第四章
戦域4――Noble
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今、この戦場において、もっとも激しい戦いを演じていたのは間違いなく彼女――ガーネットさんであった。
戦場を駆け抜けながらまずは司令塔になっている中級魔属に狙いを定め、次々と屠っていく。まるで雑草でも刈り取るように魔属をまとめて薙ぎ払い、この短時間で群単位で魔属を葬っていた。
そうして今、ガーネットさんは一体の魔属と対峙していた。しかしその魔属は、あらゆる意味でこの戦場のどの魔属よりも異質であった。
それというのも、しばしば異形と揶揄される魔属でありながら、そいつは直立二足歩行の人型に近い容姿をしていた。
体長は一般的な成人男性より高め程度と魔属としては非常に小型であり、ローブから覗く腕は筋張っていて人間同様に五指を備えている。全身をどこかで拾ったものなのか、ぼろ布のようなローブですっぽりと覆っている。
遠目には人間とほとんど見分けがつかない。二対四本の腕と、口から短い触手を生やす、まるでイソギンチャクを逆さまにしたような頭部を見なければ、魔属とはわからないだろう。
さらに、その手には剣を携えていることが、異常さをより際立たせていた。これまで様々な種類の魔属が確認されてきたが、武器を使う種が確認された例は殆ど無い。
この場に限らず、魔属というカテゴリー全体においてもこの魔属は特異だ。そして戦場を見渡しても、同じ特徴を持つ魔属は見当たらない。
畢竟、この魔属が何であるか、誰もが同じ答えにたどり着く。
「上級種、ですわね」
その口調に少しの驚きも怯えもなく、上級種を前にいつもの余裕さを少しも損なっていなかった。
「でも、あまり強そうには見えませんわね。なんだか拍子抜けですわ」
「ミタメデハンダンハ、キケン。ユダンタイテキ」
その声にさすがのガーネットさんも目を吊り上げ、驚愕の表情を見せた。
「ソレデ、シンダヒト、タクサンイッパイ、ミマシタ」
最初は何かの聞き間違えかと思ったけど、それを発していたのは、間違いなくこの正面の魔属だった。
オウムなどのよう音を反復して発するのとは違う。言葉の使い方や文法はたどたどしく拙いものの、この魔属は明確に意味を理解し、思考して言葉を操っていた。人間の言葉を操れる魔属など、それこそ前例がない。
「驚きましたわ。畜生の分際で、人間様の言葉を使うなんて」
「コトバハ、イタダキマシタ。ニンゲンカラ」
「人間から教えてもらったということかしら?」
「ノー。チョクセツイタダキマシタ。アンリニハ、ソレガデキマス」
つまり、人間から直接得る事がこの上級種――アンリと名乗る魔属には可能であるということだろうか?
要領を得ない会話に辟易とした様子のガーネットさんは早々に会話を打ち切る。
「ま、そんな芸はどうでもいいですわ。まさか、話しあえばお引き取りいただける、なんてわけでもありませんでしょ?」
ガーネットさんは剣を構え、切っ先をアンリに向ける。あの剣は確か、橋上での決闘の時にアオイが掠め取った聖剣だ。波打つ刀身が燃える炎を連想させる長剣は美しく、一見すると実戦向きの剣には見えない。
殺気に反応し、アンリも素早く四本の腕を上げ、切っ先をガーネットさんに向けて構える。上下二段に構えられ鷹の爪を想起させるその威容は、やはりアンリが魔属であることを再認識させる。
両者は同時に地を蹴る。挨拶がわりに叩きつけられた激しいガーネットさんの一撃。数多の魔属を葬ってきたであろうその攻撃をアンリは重ねた剣で難なく受け止める。
アンリが持つ剣はいずれも形は違えど、身幅が厚い上に刀身も長い、丈夫そうなものばかり。おそらく強化合金剣と思われ、ガーネットさんの一撃を受けても砕け散るようなことはなかった。
ガーネットさんは剣を引き戻しながら体ごと旋回させて、続けざまに力強い横薙ぎを払う。動きに合わせて美しいプラチナブロンドの髪が踊り、金色の流れが剣の軌跡を彩りを添える。
豪力にして鮮やかな一撃はしかし、巧みに受け流されたばかりか、反撃に小手先を浅く削られてしまう。
致命傷には程遠いものの、ガーネットさんは僅かに目を細める。
剣こそ刃こぼれしているような醜い状態ではあったが、アンリはしっかりと「剣技」でもってガーネットさんと渡り合っていた。武術に明るくない僕でも、その太刀筋が洗練されていることがはっきりとわかった。怪力に任せ、ただ力を振り回すような魔属には到底真似できない芸当だ。
ガーネットさんはパワーとスピードの比重を入れ替え、素早い突きを放つ。頭部目掛けた一筋の軌跡は、数多の銀の煌きが迎え撃つ。軌道を逸らされ、切っ先はアンリの頬をわずかに切るだけに終わる。それすらも、上級魔属の回復力により、瞬時に塞がれてしまう。
舌打ちをしながら剣を引き戻すガーネットさんに、今度はアンリが打ち込む。ガーネットさんが構え直す前に、ビビッと空を裂く音を鳴らして素早い無数の突きが繰り出される。ガーネットさんはとっさに剣を立てて防御するも、肩や腰、二の腕などを切り裂かれ、ぱっと血の華を宙に咲かす。
駆け上がってくる痛みを堪え、果敢に剣を振り下ろすも、アンリは防御用に残しておいた上右腕の剣で受け流されてしまう。
四本の腕から繰り出される達人の如き巧みな剣さばきは攻防に隙がなく、容易に追撃を許さない。苛烈極まる斬撃の雨にさらされ、ガーネットさんは防御に徹する。
もっとも、剣の向こうに覗く眼差しは、獲物を虎視眈々と狙う獰猛な肉食獣のそれである。
斬撃と斬撃の僅かな間隙を見極めたガーネットさんは素早く剣を振り上げ、唐竹割りの一撃を繰り出す。歪み一つない美しいまでの太刀筋はしかし、アンリは見切っていた。右腕二本を重ねて掲げて防ぎつつ、左腕の二本を引き、カウンターを狙う構えだ。
だが、アンリは気付いていない。
彼女の剣が熾火の如く赫々と赤熱していることに。
アンリの剣が聖剣を受け止める――ことができなかった。
聖剣は受け止めた強化合金剣の刀身を食い破るように断ち切っていた。
正確には、溶断したというのが正しい。
高耐久を誇る、それも重ねた強化合金剣を溶断した灼熱の刃はなお勢いを緩めず、そのままアンリの二本の右腕をも付け根から切り飛ばした。焼き切られた腕の痛みに甲高い奇声を上げ、仰け反るように後ずさるアンリ。
それを見やりながら悠然と構えるガーネットさんの聖剣からは陽炎が立ち上り、空気を激しく揺らしている。
あの聖剣は潜在力を熱エネルギーに変換し、刃に纏わせているのだろう。原理的にはシンプルで目新しいものではないが、強化合金剣を一瞬で切り落とすレベルとなると他に類を見ない。
さすがはヴァーミリオン・ブランドの聖剣である。
「ようやく暖気が済んだようですし、ウォーミングアップはここまでですわ」
妖艶に唇を舐めると剣を軽やかに振って構え、攻撃へと転じた。
長剣とは思えぬ素早い斬撃が縦横無尽に打ち込まれる。アンリは魔属らしからぬ巧みな身のこなしで捌きつつ左腕の二本の剣で果敢に反撃を試みるも、ガーネットさんにはかすりもしない。腕を失い死角となったアンリの右側に回り込むように立ち回り、張り付くようにポジションを維持していたからである。
けっして慢心しない、冷静な戦い方。やはり彼女の勇者としての経験値は高い。
聖剣から生じる剣風と熱波が乱れ飛び、地上の乱気流を生み出していた。
アンリが苦し紛れの大振りを放つも、ガーネットさんは難なく身をかがめ空振りに終わる。勢い余って姿勢を崩した隙を見逃さず、ガーネットさんは大胆に間合いを詰め、必殺の一撃を繰り出すべく長剣を横に振りかぶる。
「残念でしたわね!私に出会った不運を呪いなさ――」
勝ち誇ったガーネットさんの言葉は、ローブを内側から斬り裂いて迸る閃光によって遮られた。
雷光を纏い、鋭く突き出されたそれは、ガーネットさんの脇腹に深々と突き刺さった。同時に、空が爆ぜるような破裂音。
全くの意表外からの攻撃に、驚愕よりも己の不覚を悔いるように顔をしかめたガーネットさん。痛みに脇腹を押さえながら、迫る二撃を頭上に躱し、間合いを取るべく大きく後退する。傷口から溢れる血はワンピースドレスをべっとりと染め、指間からドクドクと滲み出ていた。
どういうわけか、その傷口からはうっすら煙が立ち上っているように見える。それに、衣服の一部が焼け落ち、その下に酷い熱傷を確認できる。
苦しげに呻くガーネットさんを見て、愉快そうに目を細めたアンリ。
切れ落ちたローブの下には、剣を持ったもう一対の腕がだらりと下がっていた。
アンリは、ローブの中にはさらにもう一対の腕が隠していたようだ。ローブはこの隠し腕のための偽装だったのだろうか。だとすればなんとも魔属らしからぬ狡猾さだ。
「ウデガヨンホンダケ、オモイマシタカ?」
だらりと腕を下げながら言葉を投げかける。抑揚はなくとも、嘲るような調子をその言葉の内に覗かせる。
だが、ガーネットさんをその声を聞いてはいなかった。視線は一点、その握られた剣に注視されていた。
その剣はショートソードの類に入るコンパクトなデザイン。刀身に掘られた彫刻や鍔元などいたるところに凝固した血糊がこびり着き、刃もボロボロで見る影もないけれど、元々は洗練された現代的なシルエットであることが見て取れる。
そしてその剣は、電気を帯びているかのように刀身に紫色のスパークを閃かせ、時折弾けるような音を鳴らしていた。
「……一つ教えて下さるかしら。その剣、どうやって手に入れまして?」
極力感情を押し殺した、低い声で尋ねる。
「コレ、ピカピカ、ヒカッテテ、キレイデシタ、カラ、イタダキ、マシタ」
「まだヒアリングがおぼつかないようね。私は“どうして”ではなく、“どうやって”手に入れたのかをきいてますの」
しかしアンリは理解できないのか、もしくはあえて無視しているのか、剣を握っていない方の手を突き出し、指を蠢かせて語り続ける。
「デモ、ヒカラナカッタ。ワカラナイ。ダカラ、ウデ、ト、アタマノナカ、モ、イタダイタ。ソウシタラ、ヒカッタ。トテモトテモウレシイ、ノ、デス」
瞳孔の細い目をうっとりとさせながら、腕から指、そして剣先までを舐めるように見つめた。
よく観察してみるとアンリの腕は妙だ。
露出している顔や足、身体の表皮は樫の木のように硬質そうで、いかにも魔属らしい。
しかし、腕だけは筋肉と五指を備え、肉と血色を感じる瑞々しい肌色をしている。率直に言えば、人間の腕に酷似しているのだ。
まるで、後から植え付けたかのように不自然だ。
"イタダキマシタ"
(まさか、そういうことか……?!)
その言葉の意味を理解し、その悍ましさに吐き気すら覚えた。
「……その剣のために、持ち主の勇者を殺した、と?」
ガーネットさんの問いかけに、「セイカイデス」と起伏のない声で返すアンリ。
「アンリハ、イキモノ、ノ、カラダヲ、イタダクコト、ガ、デキマス。イタダイテ、ジブン、ニ、デキマス」
意訳するに、アンリは生き物を自身に取り込むか、移植できる能力を持っているということか。
あの聖剣を使うために、勇者から知性と腕を得た。
いや、奪った。
「コノケンヲ、モッテタヒトノ、ウデ、モイダ。アタマモ、モイダ。オイシク、イタダキ――」
アンリの言葉は、叩きつけられた剣戟によって中断させられる。
地面が震えるほどの強い踏み足で地を蹴ったガーネットさんは、これまで見せたことのない憤怒の形相で、喋り続けるアンリの脳天から剣を叩きつけていた。アンリは語り途中でも難なく反応し、聖剣を立ててそれを受け止めた。
組合った剣越しに異形の顔を強い眼光で睨みつけながら、昂ぶる感情を細糸一本で押しとどめたような震える声で語る。
「私からも教えて差し上げますわ。その剣の名は聖剣[シデン]……我がヴァーミリオン社製の聖剣よ」
「セイ、ケン?」
「聖剣とは未来を切り開く者にのみ与えられる、気高き勇者の象徴。名のとおり神聖なる剣……畜生風情には、触れることすら許されないものよ!」
「ワカラナイ。ナニ、ヲ、イッテイルノカ、イミフメイ」
「わからないでしょうね!わかってたまるものですか!」
荒くなる語尾と共に、横薙ぎの一撃を叩きつける。怒りすらもエネルギーにするかのように刃に熱が滾る。
受け止めるアンリに、怯えや気圧される様子はない。所詮は魔属。言葉は解しても、そこに込められた感情までは理解できない。
一顧だにせず、ガーネットさんの激しい乱打を聖剣[シデン]で防ぎつつ、残りの強化合金剣の切っ先がガーネットさんの身を容赦なく切り刻む。
しかしどれほど傷付こうとも、ガーネットさんは歩みを一切緩めない。
むしろ燃え上がる激情を燃料に、ガーネットさんの攻撃はいよいよ苛烈さを増す。アンリの手数にすらも負けないスピードを発揮しながらも、繰り出される斬撃はより重い。
ついにはアンリにも受けきれなくなり、数撃の刃が奴の身を削っていく。驚異的な再生能力を持つ上級魔属であっても傷口を熱で炭化させられては思うように回復も追いつかない様子だ。
体勢を立て直すために、大きく後ろに後退するアンリであったが、
「休ませるとお思いで!?」
叫びながらガーネットさんは腰の後ろにリングピンで吊るしたそれを指の間で掴むと勢い良く投擲した。
それは聖剣[グリーム]。空中で刃を発信し、淡い光の筋を宙に引きながら一直線に突き進む。
アンリは上左腕の強化合金剣ではたき落とそうとするも非実体の刀身はそれをすり抜け、下左腕に突き刺さった。勢いのまま上腕から焼き切り、ついには腕を付け根から切り落としていった。
怯むアンリ。その隙に一気に踏み込むガーネットさん。
凄まじい勢いで斬り上げる一撃を、アンリは聖剣[シデン]で受け止める。戦場全体に響いたのではと思うほどの激しい音と衝撃は、双方の体をビリビリと震わせた。
だが、我が意を得たりとばかりにアンリの目が笑う。
そしてアンリの聖剣[シデン]の刀身が瞬間的に明滅する。刹那の間に、稲光が刀身を走り、刃の接点を伝ってガーネットさんに襲いかかる。
それは、電撃による攻撃であった。
「――っ!」
声にならない苦鳴を漏らし、衝撃に身を震わせるガーネットさん。対魔属兵器である聖剣が生み出す電気は、スタンガンやテーザー銃などとは比較にならない程の高電圧を発する。神経を焼き切られてもおかしくない耐えがたい苦痛が、ガーネットさんの身を襲う。
全身にまとわりついた電撃は激しい破裂音を伴ってガーネットさんの身を焦がし、神経を焼き、脳をも揺さぶる。血液が沸騰しているのか、肌の一部が内側から爆ぜる。眼球の毛細血管が破裂し、瞼からは血の涙が流れる。
正視に耐えないほどのダメージを全身に受けたガーネットさんはしかし、それでも膝を屈することはなかった。
それどころか、その闘気は些かも削がれてはいなかった。
「がぁっ!」と、とても彼女のの口から発せられたとは思えない獣のような咆哮とともにアンリを強引に押し返す。
電撃は空を伝って尚もガーネットさんを苦しめるも、それすらも厭わないと言わんばかりに足を前に踏み出し、大きく振りかぶった一撃を打ち下ろす。
再び激突する聖剣と聖剣。
同じことの繰り返しになるかと思われたが、それは違った。
ここにきてガーネットさんの聖剣が一際強い熱を放ち、刀身は目に痛いほど赤く赤熱していた。すでに限界を超えているのか、悲鳴にも似た異音を発しているが、彼女はそれを無視。燃え盛る感情を燃焼機関にし、歯を食いしばりながら剣に力とエネルギーを送り続ける。
そして彼女の怒りが乗った剣を受けきることは、アンリにはできなかった。
ガーネットさんが一際腕に力を込めたとき、アンリの聖剣[シデン]はついに根元から折れ、刀身が砕け散った。
舞い散る破片と霧散していくスパークの燐光を、アンリは目を見開き、驚愕の声を漏らした。
僕には驚くに値しない、当然の結末だった。
本来、聖剣は細かなメンテナンス無しでは性能を発揮できない繊細な兵器だ。半ば朽ちかけていたアンリの聖剣[シデン]は、度重なるガーネットさんの重斬撃と聖剣の熱エネルギーに耐え切れなかった。
……というのは傍観者の野暮な考え方だろうか。きっとガーネットさんの強い意志が、アンリの聖剣を打ち破ったのだと考えよう。
しかしその代償は大きかった。
ガーネットさんの聖剣も限界に達し、波打つ刀身は爆跳しながら粉々に砕け散ってしまった。
「クヤシイデスガ、ヒキワケ。ココハ、ヒイテヤル。イタミワケダ」
後ろ向きに大きく跳躍しながら、この場からの逃亡を図るアンリ。互いに得物を失い、深い傷を負った。このまま戦いの続行は難しい。確かにアンリの言うとおり、痛み分けだろう。
このままなら。
「引き分け?痛み分け?そんなつまらない幕引きは許しませんわ……ボブ!」
「Yes Boss」
ガーネットさんが呼びかけに、静かな声が応じる。同時に、ガーネットさんの背後に迫っていたヘッドレスの群れが破裂するように消し飛んだ。
その向こうに見えたのは、オーバースローの格好をしたボブさん。
そしてその前方には、彼が投げつけたであろう巨大な物体。
ヘッドレスを粉砕するほどの大質量が、空気の唸りを伴って回転しながらガーネットさんの背中へと迫る。
激突するかと思われた瞬間、ガーネットさんは振り返りもせず、パシン!と音を立てて背中越しに難なくキャッチしてみせた。
彼女が手にしたのは、先程の折れた聖剣よりも遥かに大きく無骨な剣。
あれこそ、彼女のために作られた真の愛剣。
聖剣[レジウスフラマ]。
新たな得物を手にしたガーネットさんは、後退するアンリに向かって駆け出す。
これにはアンリも己の不利を悟ったのだろう。身体能力をフルに発揮して跳躍を繰り返し、ガーネットさんから逃れようとする。同時に命令を送ったのだろう、周辺のヘッドレスがガーネットさんに殺到するが、触れることすら叶わず、近づくそばから肉片と化す。もはや路傍の石ほどの足止めにもならない。
忌々しげに顔を歪ませながら何回目かの跳躍から着地した瞬間、アンリは大きくバランスを崩し、ぐしゃっと地面に転倒した。
何事かと視線を足元に向けると、足首より下が消し飛んでいた。
ガーネットさんの攻撃ではない。だが足先とは言え、上級魔属の肉体を吹き飛ばすなんて、大口径の徹甲弾でも持ち出さなければ不可能だ。
故に、それが誰による仕業なのか、僕にはすぐにわかった。
「ナン、ダ!?」
「勇者を守る、50口径の魔弾よ」
その声に、はっと視線を上げるアンリ。そこには太陽を背に、跳躍しながら剣を真後ろに振りかぶったガーネットさんの姿があった。
唸りを上げながら迫る赤黒い刀身。振り下ろす力に剣の重量が乗った重斬撃がアンリの頭を潰した――かに思われた。
響き渡る、重く鈍い硬質な音。
アンリの眼の前に差し込まれた何かが、渾身の一撃を受け止めていた。
それはアンリの肩の後ろあたりから生えた、丸太ほどの太さがある図太い一本の腕であった。人間のものとは明らかに異なる、ゴツゴツとした硬い甲殻に覆われた腕。あれこそがアンリ自身の腕に違いない。
どれほどの硬度を有しているのか、ガーネットさんの渾身の一撃を受けても、表面には傷一つ付いてはいなかった。
「ザンネンデシタネ。アンリニデアッタフウンヲ、ノロイナサイ」
先程の意趣返しとばかりにそう言い、人間味を帯びた目を嘲りに歪める。そして、口周りの触手を震わせ、喉の奥から奇妙な音を小刻みに発した。
笑っていた。
そして強化合金剣の切っ先がガーネットさんに向けて高速で送り込まれる。
しかし、ガーネットさんの目は悔しさも狼狽も、まして諦めなど一片すらも浮かんではいない。
目の前の敵を打ち砕かんと、瞳の中の闘志を一層強く燃え上がらせ、腕に力を込める。
――その闘志が、ガーネットさんの内に眠り続けたものに火をつけた。
風も起きていないのに、ガーネットさんの髪がぞわりと波打ったのも一瞬のこと。そして次の瞬間、ガーネットさんの美しいプラチナブロンドの髪がばっと一気に燃え上がった。
それは錯覚で、実際は燃えるような真っ赤な色に変色を遂げた。
突き出された強化合金剣の切っ先は、一瞬にして赤熱化して飴細工のごとくひしゃげ、ついには溶け落ちてしまった。
信じられない光景だ。
彼女の姿が揺らめいて見えるのは、彼女自身から高熱が発せられているということか。
その証拠に、アンリのローブが自然発火し、一瞬にして灰になる。そしてその下の硬質な表皮からも白煙が上がっている。
この現象は、明らかに聖剣の性能を越えている。
だとすると、考えれる可能性は一つ。
D.E.E.Pだ。
ガーネットさんは戦いの中で、ついに自身の能力を覚醒させたのだ。
主の覚醒を喜ぶかのように、[レジウスフラマ]も、髪同様に紅蓮色に燃え上がる。だが、こちらは比喩表現ではなく、実際に炎を発していた。しかもその炎は、自然界や人工的に生み出すことのできない超高温の炎。これほどの熱になれば剣本体が耐えられないはずだが、[レジウスフラマ]は尚も剣の形を維持し、その炎を宿し続けていた。
あの聖剣はガーネットさん専用に作られた。きっと能力覚醒を前提として設計されたのだろう。
さすがはアーヴィングさんだ。
一本の巨大な火柱となった刀身は、アンリの腕は目の前で切り落とした。信じられないものを目撃したかのように、アンリの小さな目が大きく見開かれて切断面を凝視した。
もはやアンリを守るものは何も無い。赫灼の刃が空を焼いて迫りくる。
死をもたらすその刃を睨みつけながら、アンリは意味不明な悲鳴をあげる。それは怨嗟の声か、ただの断末魔なのか。
[レジウスフラマ]の刀身は皮膚を焼きながら頭から浸入し、固い骨を砕き、脳や内臓を焼き切りながら股下から抜けた。断面は一瞬にして炭化したため出血はない。肉の焼ける臭気だけを漂わせながら 両断された体は左右に別れて倒れる。
半分になったアンリの顔は苦痛の歪みを貼りつけたまま固まっていた。それもガーネットさんの放つ熱波により、すぐに燃え上がって消し炭と化していた。
その様子を悲痛な面持ちで見下ろすガーネットさん。無論、アンリの死を悼んでいるわけではない。
「魔属に利用されるのはさぞかし辛かったでしょう。これがあなたの魂の、せめてもの慰みになればよろしいですけれど」
ガーネットさんはアンリに取り込まれた、名も知らぬ勇者のために哀悼を捧げ、静かに冥福を祈った。
自身の傷も厭わず限界を超えて力を発揮できる強さと、見知らぬ他者にも哀悼を捧げることのできる優しさを持つガーネットさんに、この人は勇者になるべくしてなったのだと思わずにはいられなかった。
「やっぱすごいな。ガーネットさんは」
だから、そう声をかけられずにはいられなかった。
「あら、惚れ直したのかしら?」
「少しだけね」
「ふふ。照れなくてもよろしいのに」
と、ガーネットさんが視線を上げる。ちょうどアオイがすぐそこまで迫っているところだった。
二人は互いに目線を合わせるも言葉はなく、一瞬ですれ違い、駆け抜けていった。ガーネットさんもまた薄く笑みを浮かべると、アオイに追いすがろうと迫る魔属たちに向かって悠然と踏み出していく。
この短い間のやり取りに、どんな意思が込められていたのかは、二人にしかわからない。
戦場を駆け抜けながらまずは司令塔になっている中級魔属に狙いを定め、次々と屠っていく。まるで雑草でも刈り取るように魔属をまとめて薙ぎ払い、この短時間で群単位で魔属を葬っていた。
そうして今、ガーネットさんは一体の魔属と対峙していた。しかしその魔属は、あらゆる意味でこの戦場のどの魔属よりも異質であった。
それというのも、しばしば異形と揶揄される魔属でありながら、そいつは直立二足歩行の人型に近い容姿をしていた。
体長は一般的な成人男性より高め程度と魔属としては非常に小型であり、ローブから覗く腕は筋張っていて人間同様に五指を備えている。全身をどこかで拾ったものなのか、ぼろ布のようなローブですっぽりと覆っている。
遠目には人間とほとんど見分けがつかない。二対四本の腕と、口から短い触手を生やす、まるでイソギンチャクを逆さまにしたような頭部を見なければ、魔属とはわからないだろう。
さらに、その手には剣を携えていることが、異常さをより際立たせていた。これまで様々な種類の魔属が確認されてきたが、武器を使う種が確認された例は殆ど無い。
この場に限らず、魔属というカテゴリー全体においてもこの魔属は特異だ。そして戦場を見渡しても、同じ特徴を持つ魔属は見当たらない。
畢竟、この魔属が何であるか、誰もが同じ答えにたどり着く。
「上級種、ですわね」
その口調に少しの驚きも怯えもなく、上級種を前にいつもの余裕さを少しも損なっていなかった。
「でも、あまり強そうには見えませんわね。なんだか拍子抜けですわ」
「ミタメデハンダンハ、キケン。ユダンタイテキ」
その声にさすがのガーネットさんも目を吊り上げ、驚愕の表情を見せた。
「ソレデ、シンダヒト、タクサンイッパイ、ミマシタ」
最初は何かの聞き間違えかと思ったけど、それを発していたのは、間違いなくこの正面の魔属だった。
オウムなどのよう音を反復して発するのとは違う。言葉の使い方や文法はたどたどしく拙いものの、この魔属は明確に意味を理解し、思考して言葉を操っていた。人間の言葉を操れる魔属など、それこそ前例がない。
「驚きましたわ。畜生の分際で、人間様の言葉を使うなんて」
「コトバハ、イタダキマシタ。ニンゲンカラ」
「人間から教えてもらったということかしら?」
「ノー。チョクセツイタダキマシタ。アンリニハ、ソレガデキマス」
つまり、人間から直接得る事がこの上級種――アンリと名乗る魔属には可能であるということだろうか?
要領を得ない会話に辟易とした様子のガーネットさんは早々に会話を打ち切る。
「ま、そんな芸はどうでもいいですわ。まさか、話しあえばお引き取りいただける、なんてわけでもありませんでしょ?」
ガーネットさんは剣を構え、切っ先をアンリに向ける。あの剣は確か、橋上での決闘の時にアオイが掠め取った聖剣だ。波打つ刀身が燃える炎を連想させる長剣は美しく、一見すると実戦向きの剣には見えない。
殺気に反応し、アンリも素早く四本の腕を上げ、切っ先をガーネットさんに向けて構える。上下二段に構えられ鷹の爪を想起させるその威容は、やはりアンリが魔属であることを再認識させる。
両者は同時に地を蹴る。挨拶がわりに叩きつけられた激しいガーネットさんの一撃。数多の魔属を葬ってきたであろうその攻撃をアンリは重ねた剣で難なく受け止める。
アンリが持つ剣はいずれも形は違えど、身幅が厚い上に刀身も長い、丈夫そうなものばかり。おそらく強化合金剣と思われ、ガーネットさんの一撃を受けても砕け散るようなことはなかった。
ガーネットさんは剣を引き戻しながら体ごと旋回させて、続けざまに力強い横薙ぎを払う。動きに合わせて美しいプラチナブロンドの髪が踊り、金色の流れが剣の軌跡を彩りを添える。
豪力にして鮮やかな一撃はしかし、巧みに受け流されたばかりか、反撃に小手先を浅く削られてしまう。
致命傷には程遠いものの、ガーネットさんは僅かに目を細める。
剣こそ刃こぼれしているような醜い状態ではあったが、アンリはしっかりと「剣技」でもってガーネットさんと渡り合っていた。武術に明るくない僕でも、その太刀筋が洗練されていることがはっきりとわかった。怪力に任せ、ただ力を振り回すような魔属には到底真似できない芸当だ。
ガーネットさんはパワーとスピードの比重を入れ替え、素早い突きを放つ。頭部目掛けた一筋の軌跡は、数多の銀の煌きが迎え撃つ。軌道を逸らされ、切っ先はアンリの頬をわずかに切るだけに終わる。それすらも、上級魔属の回復力により、瞬時に塞がれてしまう。
舌打ちをしながら剣を引き戻すガーネットさんに、今度はアンリが打ち込む。ガーネットさんが構え直す前に、ビビッと空を裂く音を鳴らして素早い無数の突きが繰り出される。ガーネットさんはとっさに剣を立てて防御するも、肩や腰、二の腕などを切り裂かれ、ぱっと血の華を宙に咲かす。
駆け上がってくる痛みを堪え、果敢に剣を振り下ろすも、アンリは防御用に残しておいた上右腕の剣で受け流されてしまう。
四本の腕から繰り出される達人の如き巧みな剣さばきは攻防に隙がなく、容易に追撃を許さない。苛烈極まる斬撃の雨にさらされ、ガーネットさんは防御に徹する。
もっとも、剣の向こうに覗く眼差しは、獲物を虎視眈々と狙う獰猛な肉食獣のそれである。
斬撃と斬撃の僅かな間隙を見極めたガーネットさんは素早く剣を振り上げ、唐竹割りの一撃を繰り出す。歪み一つない美しいまでの太刀筋はしかし、アンリは見切っていた。右腕二本を重ねて掲げて防ぎつつ、左腕の二本を引き、カウンターを狙う構えだ。
だが、アンリは気付いていない。
彼女の剣が熾火の如く赫々と赤熱していることに。
アンリの剣が聖剣を受け止める――ことができなかった。
聖剣は受け止めた強化合金剣の刀身を食い破るように断ち切っていた。
正確には、溶断したというのが正しい。
高耐久を誇る、それも重ねた強化合金剣を溶断した灼熱の刃はなお勢いを緩めず、そのままアンリの二本の右腕をも付け根から切り飛ばした。焼き切られた腕の痛みに甲高い奇声を上げ、仰け反るように後ずさるアンリ。
それを見やりながら悠然と構えるガーネットさんの聖剣からは陽炎が立ち上り、空気を激しく揺らしている。
あの聖剣は潜在力を熱エネルギーに変換し、刃に纏わせているのだろう。原理的にはシンプルで目新しいものではないが、強化合金剣を一瞬で切り落とすレベルとなると他に類を見ない。
さすがはヴァーミリオン・ブランドの聖剣である。
「ようやく暖気が済んだようですし、ウォーミングアップはここまでですわ」
妖艶に唇を舐めると剣を軽やかに振って構え、攻撃へと転じた。
長剣とは思えぬ素早い斬撃が縦横無尽に打ち込まれる。アンリは魔属らしからぬ巧みな身のこなしで捌きつつ左腕の二本の剣で果敢に反撃を試みるも、ガーネットさんにはかすりもしない。腕を失い死角となったアンリの右側に回り込むように立ち回り、張り付くようにポジションを維持していたからである。
けっして慢心しない、冷静な戦い方。やはり彼女の勇者としての経験値は高い。
聖剣から生じる剣風と熱波が乱れ飛び、地上の乱気流を生み出していた。
アンリが苦し紛れの大振りを放つも、ガーネットさんは難なく身をかがめ空振りに終わる。勢い余って姿勢を崩した隙を見逃さず、ガーネットさんは大胆に間合いを詰め、必殺の一撃を繰り出すべく長剣を横に振りかぶる。
「残念でしたわね!私に出会った不運を呪いなさ――」
勝ち誇ったガーネットさんの言葉は、ローブを内側から斬り裂いて迸る閃光によって遮られた。
雷光を纏い、鋭く突き出されたそれは、ガーネットさんの脇腹に深々と突き刺さった。同時に、空が爆ぜるような破裂音。
全くの意表外からの攻撃に、驚愕よりも己の不覚を悔いるように顔をしかめたガーネットさん。痛みに脇腹を押さえながら、迫る二撃を頭上に躱し、間合いを取るべく大きく後退する。傷口から溢れる血はワンピースドレスをべっとりと染め、指間からドクドクと滲み出ていた。
どういうわけか、その傷口からはうっすら煙が立ち上っているように見える。それに、衣服の一部が焼け落ち、その下に酷い熱傷を確認できる。
苦しげに呻くガーネットさんを見て、愉快そうに目を細めたアンリ。
切れ落ちたローブの下には、剣を持ったもう一対の腕がだらりと下がっていた。
アンリは、ローブの中にはさらにもう一対の腕が隠していたようだ。ローブはこの隠し腕のための偽装だったのだろうか。だとすればなんとも魔属らしからぬ狡猾さだ。
「ウデガヨンホンダケ、オモイマシタカ?」
だらりと腕を下げながら言葉を投げかける。抑揚はなくとも、嘲るような調子をその言葉の内に覗かせる。
だが、ガーネットさんをその声を聞いてはいなかった。視線は一点、その握られた剣に注視されていた。
その剣はショートソードの類に入るコンパクトなデザイン。刀身に掘られた彫刻や鍔元などいたるところに凝固した血糊がこびり着き、刃もボロボロで見る影もないけれど、元々は洗練された現代的なシルエットであることが見て取れる。
そしてその剣は、電気を帯びているかのように刀身に紫色のスパークを閃かせ、時折弾けるような音を鳴らしていた。
「……一つ教えて下さるかしら。その剣、どうやって手に入れまして?」
極力感情を押し殺した、低い声で尋ねる。
「コレ、ピカピカ、ヒカッテテ、キレイデシタ、カラ、イタダキ、マシタ」
「まだヒアリングがおぼつかないようね。私は“どうして”ではなく、“どうやって”手に入れたのかをきいてますの」
しかしアンリは理解できないのか、もしくはあえて無視しているのか、剣を握っていない方の手を突き出し、指を蠢かせて語り続ける。
「デモ、ヒカラナカッタ。ワカラナイ。ダカラ、ウデ、ト、アタマノナカ、モ、イタダイタ。ソウシタラ、ヒカッタ。トテモトテモウレシイ、ノ、デス」
瞳孔の細い目をうっとりとさせながら、腕から指、そして剣先までを舐めるように見つめた。
よく観察してみるとアンリの腕は妙だ。
露出している顔や足、身体の表皮は樫の木のように硬質そうで、いかにも魔属らしい。
しかし、腕だけは筋肉と五指を備え、肉と血色を感じる瑞々しい肌色をしている。率直に言えば、人間の腕に酷似しているのだ。
まるで、後から植え付けたかのように不自然だ。
"イタダキマシタ"
(まさか、そういうことか……?!)
その言葉の意味を理解し、その悍ましさに吐き気すら覚えた。
「……その剣のために、持ち主の勇者を殺した、と?」
ガーネットさんの問いかけに、「セイカイデス」と起伏のない声で返すアンリ。
「アンリハ、イキモノ、ノ、カラダヲ、イタダクコト、ガ、デキマス。イタダイテ、ジブン、ニ、デキマス」
意訳するに、アンリは生き物を自身に取り込むか、移植できる能力を持っているということか。
あの聖剣を使うために、勇者から知性と腕を得た。
いや、奪った。
「コノケンヲ、モッテタヒトノ、ウデ、モイダ。アタマモ、モイダ。オイシク、イタダキ――」
アンリの言葉は、叩きつけられた剣戟によって中断させられる。
地面が震えるほどの強い踏み足で地を蹴ったガーネットさんは、これまで見せたことのない憤怒の形相で、喋り続けるアンリの脳天から剣を叩きつけていた。アンリは語り途中でも難なく反応し、聖剣を立ててそれを受け止めた。
組合った剣越しに異形の顔を強い眼光で睨みつけながら、昂ぶる感情を細糸一本で押しとどめたような震える声で語る。
「私からも教えて差し上げますわ。その剣の名は聖剣[シデン]……我がヴァーミリオン社製の聖剣よ」
「セイ、ケン?」
「聖剣とは未来を切り開く者にのみ与えられる、気高き勇者の象徴。名のとおり神聖なる剣……畜生風情には、触れることすら許されないものよ!」
「ワカラナイ。ナニ、ヲ、イッテイルノカ、イミフメイ」
「わからないでしょうね!わかってたまるものですか!」
荒くなる語尾と共に、横薙ぎの一撃を叩きつける。怒りすらもエネルギーにするかのように刃に熱が滾る。
受け止めるアンリに、怯えや気圧される様子はない。所詮は魔属。言葉は解しても、そこに込められた感情までは理解できない。
一顧だにせず、ガーネットさんの激しい乱打を聖剣[シデン]で防ぎつつ、残りの強化合金剣の切っ先がガーネットさんの身を容赦なく切り刻む。
しかしどれほど傷付こうとも、ガーネットさんは歩みを一切緩めない。
むしろ燃え上がる激情を燃料に、ガーネットさんの攻撃はいよいよ苛烈さを増す。アンリの手数にすらも負けないスピードを発揮しながらも、繰り出される斬撃はより重い。
ついにはアンリにも受けきれなくなり、数撃の刃が奴の身を削っていく。驚異的な再生能力を持つ上級魔属であっても傷口を熱で炭化させられては思うように回復も追いつかない様子だ。
体勢を立て直すために、大きく後ろに後退するアンリであったが、
「休ませるとお思いで!?」
叫びながらガーネットさんは腰の後ろにリングピンで吊るしたそれを指の間で掴むと勢い良く投擲した。
それは聖剣[グリーム]。空中で刃を発信し、淡い光の筋を宙に引きながら一直線に突き進む。
アンリは上左腕の強化合金剣ではたき落とそうとするも非実体の刀身はそれをすり抜け、下左腕に突き刺さった。勢いのまま上腕から焼き切り、ついには腕を付け根から切り落としていった。
怯むアンリ。その隙に一気に踏み込むガーネットさん。
凄まじい勢いで斬り上げる一撃を、アンリは聖剣[シデン]で受け止める。戦場全体に響いたのではと思うほどの激しい音と衝撃は、双方の体をビリビリと震わせた。
だが、我が意を得たりとばかりにアンリの目が笑う。
そしてアンリの聖剣[シデン]の刀身が瞬間的に明滅する。刹那の間に、稲光が刀身を走り、刃の接点を伝ってガーネットさんに襲いかかる。
それは、電撃による攻撃であった。
「――っ!」
声にならない苦鳴を漏らし、衝撃に身を震わせるガーネットさん。対魔属兵器である聖剣が生み出す電気は、スタンガンやテーザー銃などとは比較にならない程の高電圧を発する。神経を焼き切られてもおかしくない耐えがたい苦痛が、ガーネットさんの身を襲う。
全身にまとわりついた電撃は激しい破裂音を伴ってガーネットさんの身を焦がし、神経を焼き、脳をも揺さぶる。血液が沸騰しているのか、肌の一部が内側から爆ぜる。眼球の毛細血管が破裂し、瞼からは血の涙が流れる。
正視に耐えないほどのダメージを全身に受けたガーネットさんはしかし、それでも膝を屈することはなかった。
それどころか、その闘気は些かも削がれてはいなかった。
「がぁっ!」と、とても彼女のの口から発せられたとは思えない獣のような咆哮とともにアンリを強引に押し返す。
電撃は空を伝って尚もガーネットさんを苦しめるも、それすらも厭わないと言わんばかりに足を前に踏み出し、大きく振りかぶった一撃を打ち下ろす。
再び激突する聖剣と聖剣。
同じことの繰り返しになるかと思われたが、それは違った。
ここにきてガーネットさんの聖剣が一際強い熱を放ち、刀身は目に痛いほど赤く赤熱していた。すでに限界を超えているのか、悲鳴にも似た異音を発しているが、彼女はそれを無視。燃え盛る感情を燃焼機関にし、歯を食いしばりながら剣に力とエネルギーを送り続ける。
そして彼女の怒りが乗った剣を受けきることは、アンリにはできなかった。
ガーネットさんが一際腕に力を込めたとき、アンリの聖剣[シデン]はついに根元から折れ、刀身が砕け散った。
舞い散る破片と霧散していくスパークの燐光を、アンリは目を見開き、驚愕の声を漏らした。
僕には驚くに値しない、当然の結末だった。
本来、聖剣は細かなメンテナンス無しでは性能を発揮できない繊細な兵器だ。半ば朽ちかけていたアンリの聖剣[シデン]は、度重なるガーネットさんの重斬撃と聖剣の熱エネルギーに耐え切れなかった。
……というのは傍観者の野暮な考え方だろうか。きっとガーネットさんの強い意志が、アンリの聖剣を打ち破ったのだと考えよう。
しかしその代償は大きかった。
ガーネットさんの聖剣も限界に達し、波打つ刀身は爆跳しながら粉々に砕け散ってしまった。
「クヤシイデスガ、ヒキワケ。ココハ、ヒイテヤル。イタミワケダ」
後ろ向きに大きく跳躍しながら、この場からの逃亡を図るアンリ。互いに得物を失い、深い傷を負った。このまま戦いの続行は難しい。確かにアンリの言うとおり、痛み分けだろう。
このままなら。
「引き分け?痛み分け?そんなつまらない幕引きは許しませんわ……ボブ!」
「Yes Boss」
ガーネットさんが呼びかけに、静かな声が応じる。同時に、ガーネットさんの背後に迫っていたヘッドレスの群れが破裂するように消し飛んだ。
その向こうに見えたのは、オーバースローの格好をしたボブさん。
そしてその前方には、彼が投げつけたであろう巨大な物体。
ヘッドレスを粉砕するほどの大質量が、空気の唸りを伴って回転しながらガーネットさんの背中へと迫る。
激突するかと思われた瞬間、ガーネットさんは振り返りもせず、パシン!と音を立てて背中越しに難なくキャッチしてみせた。
彼女が手にしたのは、先程の折れた聖剣よりも遥かに大きく無骨な剣。
あれこそ、彼女のために作られた真の愛剣。
聖剣[レジウスフラマ]。
新たな得物を手にしたガーネットさんは、後退するアンリに向かって駆け出す。
これにはアンリも己の不利を悟ったのだろう。身体能力をフルに発揮して跳躍を繰り返し、ガーネットさんから逃れようとする。同時に命令を送ったのだろう、周辺のヘッドレスがガーネットさんに殺到するが、触れることすら叶わず、近づくそばから肉片と化す。もはや路傍の石ほどの足止めにもならない。
忌々しげに顔を歪ませながら何回目かの跳躍から着地した瞬間、アンリは大きくバランスを崩し、ぐしゃっと地面に転倒した。
何事かと視線を足元に向けると、足首より下が消し飛んでいた。
ガーネットさんの攻撃ではない。だが足先とは言え、上級魔属の肉体を吹き飛ばすなんて、大口径の徹甲弾でも持ち出さなければ不可能だ。
故に、それが誰による仕業なのか、僕にはすぐにわかった。
「ナン、ダ!?」
「勇者を守る、50口径の魔弾よ」
その声に、はっと視線を上げるアンリ。そこには太陽を背に、跳躍しながら剣を真後ろに振りかぶったガーネットさんの姿があった。
唸りを上げながら迫る赤黒い刀身。振り下ろす力に剣の重量が乗った重斬撃がアンリの頭を潰した――かに思われた。
響き渡る、重く鈍い硬質な音。
アンリの眼の前に差し込まれた何かが、渾身の一撃を受け止めていた。
それはアンリの肩の後ろあたりから生えた、丸太ほどの太さがある図太い一本の腕であった。人間のものとは明らかに異なる、ゴツゴツとした硬い甲殻に覆われた腕。あれこそがアンリ自身の腕に違いない。
どれほどの硬度を有しているのか、ガーネットさんの渾身の一撃を受けても、表面には傷一つ付いてはいなかった。
「ザンネンデシタネ。アンリニデアッタフウンヲ、ノロイナサイ」
先程の意趣返しとばかりにそう言い、人間味を帯びた目を嘲りに歪める。そして、口周りの触手を震わせ、喉の奥から奇妙な音を小刻みに発した。
笑っていた。
そして強化合金剣の切っ先がガーネットさんに向けて高速で送り込まれる。
しかし、ガーネットさんの目は悔しさも狼狽も、まして諦めなど一片すらも浮かんではいない。
目の前の敵を打ち砕かんと、瞳の中の闘志を一層強く燃え上がらせ、腕に力を込める。
――その闘志が、ガーネットさんの内に眠り続けたものに火をつけた。
風も起きていないのに、ガーネットさんの髪がぞわりと波打ったのも一瞬のこと。そして次の瞬間、ガーネットさんの美しいプラチナブロンドの髪がばっと一気に燃え上がった。
それは錯覚で、実際は燃えるような真っ赤な色に変色を遂げた。
突き出された強化合金剣の切っ先は、一瞬にして赤熱化して飴細工のごとくひしゃげ、ついには溶け落ちてしまった。
信じられない光景だ。
彼女の姿が揺らめいて見えるのは、彼女自身から高熱が発せられているということか。
その証拠に、アンリのローブが自然発火し、一瞬にして灰になる。そしてその下の硬質な表皮からも白煙が上がっている。
この現象は、明らかに聖剣の性能を越えている。
だとすると、考えれる可能性は一つ。
D.E.E.Pだ。
ガーネットさんは戦いの中で、ついに自身の能力を覚醒させたのだ。
主の覚醒を喜ぶかのように、[レジウスフラマ]も、髪同様に紅蓮色に燃え上がる。だが、こちらは比喩表現ではなく、実際に炎を発していた。しかもその炎は、自然界や人工的に生み出すことのできない超高温の炎。これほどの熱になれば剣本体が耐えられないはずだが、[レジウスフラマ]は尚も剣の形を維持し、その炎を宿し続けていた。
あの聖剣はガーネットさん専用に作られた。きっと能力覚醒を前提として設計されたのだろう。
さすがはアーヴィングさんだ。
一本の巨大な火柱となった刀身は、アンリの腕は目の前で切り落とした。信じられないものを目撃したかのように、アンリの小さな目が大きく見開かれて切断面を凝視した。
もはやアンリを守るものは何も無い。赫灼の刃が空を焼いて迫りくる。
死をもたらすその刃を睨みつけながら、アンリは意味不明な悲鳴をあげる。それは怨嗟の声か、ただの断末魔なのか。
[レジウスフラマ]の刀身は皮膚を焼きながら頭から浸入し、固い骨を砕き、脳や内臓を焼き切りながら股下から抜けた。断面は一瞬にして炭化したため出血はない。肉の焼ける臭気だけを漂わせながら 両断された体は左右に別れて倒れる。
半分になったアンリの顔は苦痛の歪みを貼りつけたまま固まっていた。それもガーネットさんの放つ熱波により、すぐに燃え上がって消し炭と化していた。
その様子を悲痛な面持ちで見下ろすガーネットさん。無論、アンリの死を悼んでいるわけではない。
「魔属に利用されるのはさぞかし辛かったでしょう。これがあなたの魂の、せめてもの慰みになればよろしいですけれど」
ガーネットさんはアンリに取り込まれた、名も知らぬ勇者のために哀悼を捧げ、静かに冥福を祈った。
自身の傷も厭わず限界を超えて力を発揮できる強さと、見知らぬ他者にも哀悼を捧げることのできる優しさを持つガーネットさんに、この人は勇者になるべくしてなったのだと思わずにはいられなかった。
「やっぱすごいな。ガーネットさんは」
だから、そう声をかけられずにはいられなかった。
「あら、惚れ直したのかしら?」
「少しだけね」
「ふふ。照れなくてもよろしいのに」
と、ガーネットさんが視線を上げる。ちょうどアオイがすぐそこまで迫っているところだった。
二人は互いに目線を合わせるも言葉はなく、一瞬ですれ違い、駆け抜けていった。ガーネットさんもまた薄く笑みを浮かべると、アオイに追いすがろうと迫る魔属たちに向かって悠然と踏み出していく。
この短い間のやり取りに、どんな意思が込められていたのかは、二人にしかわからない。
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