君と猫の。

ひなた

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#01

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全裸で全身毛むくじゃらでマイペースな彼。たぽたぽしたお腹。四足歩行。時折、体を擦り付けてきては足を大きく広げて座り、体を舐めまわしている彼。特徴的なまろ眉、背中に小さなお花の模様。長い尻尾を気ままに動かしながら歩く後ろ姿。ピンと尖った耳に何かを感じて揺れるヒゲ。彼の名前はまゆむらさん。
「まゆむらさーん、今日はどこに行くんですかー?」
湿気た路地裏に入っていくまゆむらさんに1人の男子高校生が近づく。その声に迷惑そうな顔をよぎらせ、まゆむらさんは早足に路地裏に入ってすぐの、壊れた木造塀の下をくぐり抜けてしまう。
「まゆむらさーん?」
その、人間がやっと1人通れるかという幅の路地裏に顔を突っ込みながら彼はめげずに声をかける。木造塀の家の横の、ブロック塀の上をまゆむらさんが優雅に歩いていくのには気付かない。
毎朝の光景。きっと彼から逃げるための猫道なのだろう。よくもまあ毎朝同じことを繰り返すものだ。
諦めたように路地裏から彼は顔を抜く。
はあ、と残念そうな溜息。落胆した肩。いつの間にかブロック塀の上を歩くまゆむらさんは見えなくなっていた。
大きな猫目に柔らかそうな焦げ茶色の髪。前髪にぴょこんと立った直らない寝癖が特徴の彼。右側だけ小さな女の子用のヘアゴムで束ねた髪。今日は真っ赤ないちご。通学鞄には猫のマスコット。まゆむらさんと同じ、薄い茶色の猫。
「おはよう」と声をかけようとして、少しあげた手をサッと隠す。彼の少し前にゆるふわカールのいかにも“女の子”な彼の幼馴染。…私なんかが敵うわけない。ほら、彼も見つけて走り寄ってる。仲の良さそうな2人を少し後ろから眺めて登校。
毎朝の光景。挑戦する前に諦めてしまっている私の片思い。
「おっはよ!」
バシンッと音が鳴るような勢いで突然背中を叩かれ、前のめりになる。2つに束ねた肩甲骨辺りまで伸びた髪が前に突き出す。
「…おはよう」
声の主を確認した私は乱れた前髪を整えながら、答える。……別に誰が見るわけでもないけど。
「相変わらず元気ないなー」
「美羽が元気なんだよ…」
ポニーテールにりぼんがトレードマークの彼女は向坂美羽(サキサカ ミウ)。クラスで発言を滅多にしない私とは正反対で、明るく元気でクラスの中心的存在。テニス部所属。小学校からの私の幼馴染み。
「私は普通だって!それより今日は藍原くんに声かけた?」
無言で首を横に振る。
まゆむらさんファンの彼、藍原千鶴(アイハラ チヅル)くん。登下校に見かけるということは意外と家が近いのかもしれない、と密かに期待している存在。私の片思いの相手。
「出来るわけないよ…あんな王子……」
「あのねー……何度もいうけど王子だなんて言ってるの陽菜くらいだよ?どっちかって言うと藍原くんは王子の親友。」
そんなことはわかってる。学校の王子的ポジションは彼の親友の神永(カミナガ)くん。それでも私、結川陽菜(ユカワ ヒナ)の王子は藍原千鶴くんなのだ。
いつもの美羽からのセリフを受け、むくれているとプスッと頬をつつかれた。咄嗟に頬を抑えてつつかれた方を向く。
「おっす」
腰のあたりまで伸ばしたストレートヘアが印象的な少女。男の子のようなハスキーボイスで気の強い男勝りな性格、少し荒い言葉遣い。見た目は清楚系と言えなくもないのに、周りからは姉御系として定評のあるクラスメイトだ。姉御と言うだけあっていざと言う時に頼りになる女の子。
「おはよー、莉菜がこの時間に登校なんて珍しいじゃん」
声を先にかけるのはちょっかいをかけられた私よりも反応の早い美羽。
「まあね。徹夜明けだからいつもの時間まで部屋にいると寝ちゃいそうで」
あくび混じりに返事をする莉菜。160cm半ばの長身な彼女。王子に声をかけれず、少し下を俯いて歩いている私と並ぶと身長差が余計に目立ってしまう。
別に莉菜が苦手なわけじゃない。ただ、20cm近く身長差がある、モデルのようなスタイルの横を並んで歩くのが申し訳なくなってしまう。落ち込んでいるのと申し訳ないので無意識のうちに体が縮こまる。
「また徹夜したの?てゆーか毎朝遅刻ギリギリを狙わず、このくらいの時間には学校来ればいいのに」
「ばーか、徹夜してなきゃこんな時間に起きてすらないよ」
他愛のない会話を左右挟まれて繰り広げられる。……私、邪魔じゃない?
ますます縮こまっちゃう…。
「早く入れよー」
教師の声。チャイムの音。生徒は皆、自然と足早になり、昇降口から教室までをぎゅうぎゅうになりながら駆ける。
ガタガタと立付けのうるさい扉を思いっきり襖のように開く。スパーンッという音と共に、毎日外れてしまいそうになりながら意外としぶとい。築数100年と言われる田舎の公立高校だ。キリがいい年数で記念工事とかしちゃえばいいのに。
まあそんなこと言ってても壊れるまでこのままかな…。高校3年間しかないし。あんまり関係ないか。
「ごめん!ノート貸してくんないかな?」
席につき、鞄の中から必要最低限の物を出していると隣からつつかれた。横を見ると拝むようなポーズをした友達。ショートカットが良く似合う、いかにも運動部な女の子。
元々女子高だったのを人数激減のため、数十年前、共学に変えたような学校だ。未だに男子の数は学校の半分にも満たず、圧倒的に女子が多い。
「教科は?」
「数学!!」
はい、とルーズリーフをファイリングしただけのノートを渡す。
彼女は頬を緩ませ、「ありがとう!」とノートを受け取り自分の席へ戻っていった。可愛いなあ…。ふとそんなことを思う。みんな可愛い。笑顔で、元気で…そんな姿を羨ましく思う。自分にとことん自信がない。
窓際の前から4番目が自分の席。ノートを借りていった彼女は位置で言うと教室のど真ん中。
…あそこでノート移すのか。
毎日思うが、彼女はなかなかな勇者である。あの位置は意外にも教師からは死角なのかもしれない、とさえ思うほど毎日何かとノートを写す作業に没頭している。
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