もう随分昔の話

コーヤダーイ

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やはり似ている

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「やはり似ている」



 肩を強く掴まれて、この町に住んでいるのかと聞かれた。



 掴まれた肩がきしむくらい痛くて、答える前に思わず痛いと言っていた。



「うちのに何の用だ」



「サビーノ」



 俺の肩にあった手を簡単に指先で払って、いつの間にか後ろにいたサビーノが俺の両肩に手を置いていた。

 男の顔を見たのだろう、一瞬肩の手に力がこもった。



「用がないなら、これで」



 肩の手に入った力をごまかすように、俺の肩をサビーノの手が何度かこすった。



「待ってくれ、君たちはこの町に住んでいるのか?」



「……だとしたら?」



 男は、俺ではなくサビーノに話しかけた。



「私はシルヴァーノという、この町には祭りでたまたま立ち寄った。住まいは、」



「悪いが、あなたに興味がないんでね。失礼する」



 サビーノが俺の身体ごと向きを変えて、荷馬車とは反対の方向に歩き出した。

 朝よりももっと人が増えて歩きにくいが、片手を俺の腰にやってうまく歩けるように誘導してくれる。



「何だったんだろうな? 姉さんに似ていたけど」



「さあな。ラウルも声を掛けられたら、いちいち相手すんなよ」



 えらそうになんだよと思ったが、声を掛けてくるような奴は、みんな盗人だと思えと言われて、それもそうかと思い直す。

 俺は田舎者だ、サビーノの方が町のことはよくわかっているんだろう。



 結局、荷馬車に戻る前に屋台をぐるりと回って歩き、うまそうな脂をしたたらせた肉の串焼きを買って、歩きながら食べた。

 俺は人混みをうまく歩けなかったから、サビーノは俺の腰に手をやって、よそ見して歩いてもぶつからないよう、避けて歩いてくれた。







 荷馬車に戻ると、台の上は何も乗っていなかった。サビーノが片付けてくれたのかと思って見上げれば、荷馬車にとりあえず突っ込んでおいたと、返事がきた。



 荷馬車の後ろの布をまくった俺は、なんだこりゃと叫んだ。

 ぐっちゃぐちゃだ、しかも陽も暮れてきて荷馬車の中がよく見えない。



「これで今夜どうやって寝るんだよ、サビーノ」



「なんとかなるだろ」



「ならないよ。もう暗くて見えないし」



「ラウル一人寝るくらいの隙間は、あるだろう」



「サビーノがいなきゃ、寝られないよ!」



 サビーノが目をパチパチさせた。

 言った俺もさすがに恥ずかしくて、あ、いや、寒くて一人じゃ寝られないだろ? といっそう恥ずかしい言葉をはいていた。



 ぐっと腕を取られて、行こうとサビーノが歩き出した。

 今戻ってきたばかりで、これから真っ暗になるっていうのに、どこへ行くんだよと聞けば、宿だと言う。

 そんな金はないと言っても、金なら俺が持ってるからと、強引に連れていかれた。



 元からサビーノに力でかなうわけなどないから、引っ張られるままに歩く。

 昼間ほどではないが、町のなかは覆いをつけたロウソクがたくさんあって、ずいぶん明るかった。



 人もたくさん歩いていて、昼とはまた違った騒がしさで賑わっている。

 物珍しさにキョロキョロしていれば、また俺の腰にサビーノの手がまわってきた。



 一件の建物の前で、サビーノが立ち止まった。

 村の村長の家より立派だし、その辺の建物よりひときわ大きい気がする。尻込みする俺の腰を押して、サビーノは建物に入ってしまった。



「いらっしゃいませ。お泊まりですか」



「あぁ。二名だ」



 サビーノが店の人のいるテーブルに置いたのは、一枚の金貨だった。

 店の人が頷いて硬貨をいくつか出して、サビーノに返した。

 出した金貨は、もちろん戻ってこない。

 硬貨とは別に、なにかを受け取ったサビーノの顔を、俺は震えて見上げた。



「部屋に行くぞ」



 つばを飲んだ俺にかまわず、サビーノは腰の手をうまく操って、俺に階段をのぼらせた。



 金貨を出した。

 サビーノは金貨を出した。



 俺は混乱していて、サビーノが扉のひとつになにかを差し込んだことに、びっくりして叫んだ。



「サビーノ、それなにっ?」



「なにって……部屋の鍵だが」



「かぎ?」



 かぎというものが何なのか、あいにく俺は知らなかった。

 奇妙な形を差し込むと、扉がガチャと音を立てた。



 音もなく扉が開くのも初めてだったし、覆いのついたロウソクが、こんなにいくつも部屋で点いているのを見るのも、初めてだった。

 部屋の隅に大きなたらいがあるのを見て、それがなんのためかもわからなかった。



 きれいに整った部屋の、どこにいればいいのかすらわからず、俺は立ったままでいた。

 トントンと扉が叩かれて、サビーノが返事をすれば、木の桶を持った人が何人かいた。

 部屋の中に入ってきて、たらいに次々と桶の中身をあけて、すぐに出て行ってしまう。

 たらいからは湯気が出ている。



「ラウル、これで沐浴するんだ」



「えぇっ?」



 沐浴といえば、水を汲んできて外で浴びるか、川へ飛び込むかだ。

 俺は部屋の中で湯を使うという沐浴など、したことがない。



 戸惑う俺に、サビーノは粉の入った袋と大きなやわらかい布を手渡した。

 袋ごと湯につけて髪や身体を洗うと言われて、俺は言われた通り服を脱いでたらいに入った。



 温かい湯につかってしゃがみ込むと、サビーノが袋を貸せと言って、俺に湯を掛けて髪から順番に洗ってくれた。

 一通り洗われて、やけにいい匂いまで身体について、俺は非常にさっぱりした。

 都会はすごい。サビーノの金貨にもびっくりしたけど、こんな贅沢はたぶん一生に一回のことだろう。

 大きなやわらかい布でくるまれて、水気を拭いておくように言われる。

 俺の服より手触りのいい布が、身体を拭くための布なのだという。



 髪の毛の水滴を布で拭きながら、俺は服を脱いでたらいに入ったサビーノを見ていた。

 首から肩の盛り上がった筋肉や腕なんかは、いつも見えているけれど、背中も腰も足も、サビーノの身体はすごかった。

 サビーノが動くたびに、筋肉が生きてるみたいに移動する。



 途中で見られていることに気づいたサビーノが、袋で身体をこすりながら、どうしたと振り返った。

 それでサビーノの前も目に入ってしまって、俺はびっくりした。



 なんだそれ。

 身体も大きければ、サビーノの股間についているものも、やっぱり大きかった。

 普通の状態でそれってことは、興奮したらもっと大きくなるってことだ。



 俺は身体の大きな男と結婚したがる女の気持ちを、ちょっと疑った。

 こんなの絶対入らないだろ。

 というか裂ける、ケガする。



 俺は女じゃなくて良かったと、心底ホッとした。







 互いにいい匂いのする身体で、部屋にある椅子へと座った。

 座面が布で覆われてふかふかしていて、俺はそれにも驚いた。



 サビーノが棚から酒とコップを出して、勝手に注いでいる。

 この部屋のものだろう、と聞けば、この部屋に泊まった者が好きに飲んでいいものだと言われて、もう一度驚いた。



 俺はもう初めての連続に、完全に舞い上がってしまっていた。

 サビーノに飲むかと渡されたコップの酒を飲み干し、あまりのおいしさにお代わりを注いでもらい、それも飲んだ。



「ラウルは酒に強くないんだから、それくらいにしておけ」



 そういってコップを取り上げられて、俺は駄々をこねた。



「なんだよう。サビーノばっかり飲んで、ずるいぞ」



「目の前にごちそうがあって、手が出せないんだ。これが飲まずにいられるか」



「ごちそうってなんだよ。なんかあったのかよう、サビーノ。話なら俺が聞くぞ」



 黙ったサビーノが俺をじっと見て、はーっとため息をついた。

 もう酔ってるのか、とつぶやいた声を拾って、俺は悪いかと叫んだ。

 とにかく話してみろと促すと、サビーノはコップを置いて口を開いた。



「好きなやつがいるんだが、一向に気づいてもらえない」



 そうかそうか、とうなずきかけて、俺はえっと声を出した。



 サビーノは女に人気がある。結婚したいと言えば、誰だってすぐに結婚するだろう。

 それなのに気づいてもらえないなんて、どういうわけかと俺は首をひねった。



「サビーノって、好きなやついたのか」



「あぁ、昔からそいつだけだ」



 そんなに一途なら、結婚したいって言っちまえと、俺はあおった。



 サビーノは男らしくていいやつだ。

 お前に結婚を申し込まれて、断るやつなんか一人だっているもんかと。



「全然知らなかったなぁ。それって俺も知っているやつ?」



 頭のうしろで腕を組んで、のんきに尋ねた俺は、サビーノの顔を見てなぜだかぞくりとした。



「お前だよ、ラウル。俺はラウルのことが好きなんだ」









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