7 / 14
昨日のように
しおりを挟む
昨日のように、台座に毛織物を敷こうとして、荷馬車の中でグチャグチャになった商品を確認して、俺は首をかしげた。
「サビーノ、昨日台座に置いてた毛織物が、見当たらないんだけど」
「あぁ、あれなら売れた」
「え? 大きい派手なのと、小さい地味なのが、2枚あっただろ?」
「昨日、店じまいしてるときに、両方売れたぞ」
「結構な値段がしたはずだけど……」
「よく知らんが、思い出に、とか言ってたな」
「ふ~ん、良い思い出になるといいな」
昨日の俺たちみたいに、と小さな声で言えば、俺たちはこれからだろう、と当たり前の顔をしたサビーノが答えた。
それは、村に戻って誰とも結婚しなくても、昨日の夜みたいにこれからも過ごす、ってことか。
俺は荷馬車から商品を出しているサビーノを見た。
サビーノは女に人気がある。
村の未婚の女は、みんなサビーノと結婚したがっているのを、俺は知っている。
なぜって、女たちが俺にそう言ってくるからだ。
聞いてよ、ラウル。あたし早くサビーノと結婚したいんだけど、サビーノったら。
ねえ、ラウル。どうしてサビーノは誰とも結婚しようとしないのかしら。
ラウル、サビーノと結婚するために、どうしたらいいと思う?
サビーノがずっと、誰とも結婚しなかったら、俺はあれをずっと聞き続けることになるんだろうか。
じゃあ、サビーノが誰かと結婚したら、それでいいのかと考えたら、それは嫌だなと俺は思った。
こんなこと、今まではなかった。
村でひっそりと生きてれば、それでいいと思っていた。
だけど町の祭りに来たことで、昨日の夜サビーノと過ごしたことで、俺はこんなに欲しがりになってしまった。
どうしよう、この気持ちがわからない。どうしたらいい?
「どうしたラウル、そんな顔して」
気づいたら、心配そうな顔したサビーノに、うつむいた顔を覗き込まれていた。
「俺、そんなに変な顔、してる?」
「変っていうか、……いなくなっちまいそうで、俺の方が不安になる」
「……話しかけてくる盗人には、気をつける」
「うん、まぁ、話が微妙に噛み合ってない気がするけど、気をつけろよ」
荷馬車の影で、周りには見えないからだと思うけど、サビーノにそのまま抱きしめられた。
俺は大丈夫だから、とギュッと抱きしめかえしたら、朝からその顔クるな……とつぶやいていた。
何がくるんだ?
台座に敷くものもないし、商品もほとんどが売れていたので、商品を並べても半分以上空いてしまった。
この空いた場所はどうするか、と俺がそこに腰掛けてサビーノは立ったまま話をしていると、すぐに客がやってきた。
俺は立ち上がろうとしたけど、客が目の前のいたから立ち上がれず、とりあえず笑顔でいらっしゃいと言った。
「君も売り物かね?」
と真顔で言われて、は? と聞き返せば、サビーノが両手を合わせてゴキリと音を鳴らした。
「うちのに何か用が?」
サビーノが俺の肩に手を置いて、俺の顎をすくった。
なんだ? とサビーノを見上げれば、伸びた首筋を指先がスッとたどった。
客が一歩下がったので、俺はそっちを見て、何か買いますか? と尋ねた。
「そ、そうだな、えーと、うん。この薬草をもらおうか」
適当につかんだように見えるが、客の手にした薬草は腹下しによく効くやつだ。
そうか、腹の弱い客なんだな。
俺は親切に、飲み方を説明した。
これは煎じる必要がなくて、毎朝ひとかたまり分を、水で飲み込むこと。
俺が山で採ってきた薬草だ、よく効くはずだ、と言えば客は嬉しそうに3つも買っていった。
「ラウル、夕べは少し身体に無理があったはずだから、今日はこのままここに座っているといい」
「えぇ? 商品の横だよ」
「もうそんなに売るものはないし、かまわないさ」
荷馬車から古毛布を持ってきて、俺の座る下に敷いてくれた。
これなら身体も辛くないかと聞かれて、サビーノに礼を言う。
そのままサビーノと話をしているうちに、ちょこちょこと客が来て、必ず何かを買っていってくれた。
「サビーノは、ほんとに商売がうまいんだな」
「何の話だ」
「だって、昨日からサビーノが声をかけたら、絶対みんな買ってくだろ」
「それはだな……、うん、まぁいいか。そうだな」
「サビーノは、こういう都会で店でもしたら、成功するかもな」
「俺一人じゃ、無理だろ。今回はラウルがいるからだ。いつもはこんなに売れん」
そうなのか。俺が役に立ってるなら嬉しい。
頬を緩ませていたら、また人が寄ってきて、ごっそりと買っていってくれた。
「もう、ほとんど売るものがなくなっちゃったな」
「そうだな、早めに切り上げて、村の買い物済ませたら、祭りでも見て回るか」
「そうしよう、そうしよう。もうしめちゃおう!」
俺が叫んでいたら、近づいてきた男が、おかしな木彫りの置物を手に取った。
村の誰が作ったのか、何の実用性もない置物だ。
これをもらおう、と男が言ったので、俺は思わずこんなの買ってどうするんですか、と口にしてしまった。
「あ、しまった」
「ふははは、君とこうして話ができたんだから、これは幸運の置物だよ」
「幸運の置物……ねぇ」
客である男がそういうのだから、きっとそうなんだろう。
俺はおかしな木彫りの置物を、来年も用意したほうがよさそうだ、と村長に伝えておこうと思った。
「全部売れちゃって、よかったな」
俺とサビーノは、後片付けをして祭りに繰り出している。
サビーノの手は相変わらず俺の腰にあって、うまいこと人にぶつからないように、誘導してくれている。
村で頼まれた買い物を、サビーノは慣れた様子で店を周り、どんどん購入していった。
サビーノは字を読むのも書くのもできるから、買う物を忘れたり間違えることもないらしい。
俺はどっちも苦手だからなと言ったら、教えてやろうかとサビーノが言った。
勉強すんのは嫌いだから、いいよと断ったら、じゃあ楽しければ勉強するんだなと言うから、そりゃ楽しければ勉強だってするだろう、楽しければの話だぞ、と念を押す。
夜になったら楽しく教えてやろう、と悪い顔で笑ったサビーノの方が、よっぽど楽しそうな顔をしている。
夜に裸にされた俺の身体に、家畜の柔らかい毛を束ねて棒に付けた、ふでってやつで字を書くサビーノに、俺が喘ぎながら字を覚えさせられるのは、もう少し後の話になる。
「サビーノ、昨日台座に置いてた毛織物が、見当たらないんだけど」
「あぁ、あれなら売れた」
「え? 大きい派手なのと、小さい地味なのが、2枚あっただろ?」
「昨日、店じまいしてるときに、両方売れたぞ」
「結構な値段がしたはずだけど……」
「よく知らんが、思い出に、とか言ってたな」
「ふ~ん、良い思い出になるといいな」
昨日の俺たちみたいに、と小さな声で言えば、俺たちはこれからだろう、と当たり前の顔をしたサビーノが答えた。
それは、村に戻って誰とも結婚しなくても、昨日の夜みたいにこれからも過ごす、ってことか。
俺は荷馬車から商品を出しているサビーノを見た。
サビーノは女に人気がある。
村の未婚の女は、みんなサビーノと結婚したがっているのを、俺は知っている。
なぜって、女たちが俺にそう言ってくるからだ。
聞いてよ、ラウル。あたし早くサビーノと結婚したいんだけど、サビーノったら。
ねえ、ラウル。どうしてサビーノは誰とも結婚しようとしないのかしら。
ラウル、サビーノと結婚するために、どうしたらいいと思う?
サビーノがずっと、誰とも結婚しなかったら、俺はあれをずっと聞き続けることになるんだろうか。
じゃあ、サビーノが誰かと結婚したら、それでいいのかと考えたら、それは嫌だなと俺は思った。
こんなこと、今まではなかった。
村でひっそりと生きてれば、それでいいと思っていた。
だけど町の祭りに来たことで、昨日の夜サビーノと過ごしたことで、俺はこんなに欲しがりになってしまった。
どうしよう、この気持ちがわからない。どうしたらいい?
「どうしたラウル、そんな顔して」
気づいたら、心配そうな顔したサビーノに、うつむいた顔を覗き込まれていた。
「俺、そんなに変な顔、してる?」
「変っていうか、……いなくなっちまいそうで、俺の方が不安になる」
「……話しかけてくる盗人には、気をつける」
「うん、まぁ、話が微妙に噛み合ってない気がするけど、気をつけろよ」
荷馬車の影で、周りには見えないからだと思うけど、サビーノにそのまま抱きしめられた。
俺は大丈夫だから、とギュッと抱きしめかえしたら、朝からその顔クるな……とつぶやいていた。
何がくるんだ?
台座に敷くものもないし、商品もほとんどが売れていたので、商品を並べても半分以上空いてしまった。
この空いた場所はどうするか、と俺がそこに腰掛けてサビーノは立ったまま話をしていると、すぐに客がやってきた。
俺は立ち上がろうとしたけど、客が目の前のいたから立ち上がれず、とりあえず笑顔でいらっしゃいと言った。
「君も売り物かね?」
と真顔で言われて、は? と聞き返せば、サビーノが両手を合わせてゴキリと音を鳴らした。
「うちのに何か用が?」
サビーノが俺の肩に手を置いて、俺の顎をすくった。
なんだ? とサビーノを見上げれば、伸びた首筋を指先がスッとたどった。
客が一歩下がったので、俺はそっちを見て、何か買いますか? と尋ねた。
「そ、そうだな、えーと、うん。この薬草をもらおうか」
適当につかんだように見えるが、客の手にした薬草は腹下しによく効くやつだ。
そうか、腹の弱い客なんだな。
俺は親切に、飲み方を説明した。
これは煎じる必要がなくて、毎朝ひとかたまり分を、水で飲み込むこと。
俺が山で採ってきた薬草だ、よく効くはずだ、と言えば客は嬉しそうに3つも買っていった。
「ラウル、夕べは少し身体に無理があったはずだから、今日はこのままここに座っているといい」
「えぇ? 商品の横だよ」
「もうそんなに売るものはないし、かまわないさ」
荷馬車から古毛布を持ってきて、俺の座る下に敷いてくれた。
これなら身体も辛くないかと聞かれて、サビーノに礼を言う。
そのままサビーノと話をしているうちに、ちょこちょこと客が来て、必ず何かを買っていってくれた。
「サビーノは、ほんとに商売がうまいんだな」
「何の話だ」
「だって、昨日からサビーノが声をかけたら、絶対みんな買ってくだろ」
「それはだな……、うん、まぁいいか。そうだな」
「サビーノは、こういう都会で店でもしたら、成功するかもな」
「俺一人じゃ、無理だろ。今回はラウルがいるからだ。いつもはこんなに売れん」
そうなのか。俺が役に立ってるなら嬉しい。
頬を緩ませていたら、また人が寄ってきて、ごっそりと買っていってくれた。
「もう、ほとんど売るものがなくなっちゃったな」
「そうだな、早めに切り上げて、村の買い物済ませたら、祭りでも見て回るか」
「そうしよう、そうしよう。もうしめちゃおう!」
俺が叫んでいたら、近づいてきた男が、おかしな木彫りの置物を手に取った。
村の誰が作ったのか、何の実用性もない置物だ。
これをもらおう、と男が言ったので、俺は思わずこんなの買ってどうするんですか、と口にしてしまった。
「あ、しまった」
「ふははは、君とこうして話ができたんだから、これは幸運の置物だよ」
「幸運の置物……ねぇ」
客である男がそういうのだから、きっとそうなんだろう。
俺はおかしな木彫りの置物を、来年も用意したほうがよさそうだ、と村長に伝えておこうと思った。
「全部売れちゃって、よかったな」
俺とサビーノは、後片付けをして祭りに繰り出している。
サビーノの手は相変わらず俺の腰にあって、うまいこと人にぶつからないように、誘導してくれている。
村で頼まれた買い物を、サビーノは慣れた様子で店を周り、どんどん購入していった。
サビーノは字を読むのも書くのもできるから、買う物を忘れたり間違えることもないらしい。
俺はどっちも苦手だからなと言ったら、教えてやろうかとサビーノが言った。
勉強すんのは嫌いだから、いいよと断ったら、じゃあ楽しければ勉強するんだなと言うから、そりゃ楽しければ勉強だってするだろう、楽しければの話だぞ、と念を押す。
夜になったら楽しく教えてやろう、と悪い顔で笑ったサビーノの方が、よっぽど楽しそうな顔をしている。
夜に裸にされた俺の身体に、家畜の柔らかい毛を束ねて棒に付けた、ふでってやつで字を書くサビーノに、俺が喘ぎながら字を覚えさせられるのは、もう少し後の話になる。
10
あなたにおすすめの小説
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
KINGS〜第一王子同士で婚姻しました
Q矢(Q.➽)
BL
国を救う為の同盟婚、絶対条件は、其方の第一王子を此方の第一王子の妃として差し出す事。
それは当初、白い結婚かと思われた…。
共に王位継承者として教育を受けてきた王子同士の婚姻に、果たしてライバル意識以外の何かは生まれるのか。
ザルツ王国第一王子
ルシエル・アレグリフト
長い金髪を後ろで編んでいる。 碧眼 188cm体格はしっかりめの筋肉質
※えらそう。
レトナス国第一王子
エンドリア・コーネリアス
黒髪ウェーブの短髪 ヘーゼルアイ
185 cm 細身筋肉質
※ えらそう。
互いの剣となり、盾となった2人の話。
※異世界ファンタジーで成人年齢は現世とは違いますゆえ、飲酒表現が、とのご指摘はご無用にてお願いいたします。
※高身長見た目タチタチCP
※※シリアスではございません。
※※※ざっくり設定なので細かい事はお気になさらず。
手慰みのゆるゆる更新予定なので間開くかもです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる