もう随分昔の話

コーヤダーイ

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売る物がなくなった

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 売る物がなくなってしまった。



 予定よりも一日早く出店を締めた俺たちは、すべての買い物を済ませて翌朝には、荷馬車を進めていた。

 シルヴァーノとかいう気持ち悪い男に、また会うのはごめんだった。



 だけど村が近づくにつれて、サビーノを好きな女たちに、これからも嫌味を言われ続けるのかと思うと、それもいやになってしまった。



 サビーノが他の誰かと結婚してしまうのも、いやだった。



「はぁ……帰りたくない」



「村に戻るのがいやか」



「俺、やっぱり女に生まれればよかった。そうしたら、サビーノと結婚して、ずっと一緒にいられるから」



「あの村にいるのは、いやか。ラウル」



「子供の頃には、男からは女扱いされて。今は女からは結婚できないのは、お前のせいだって言われて。俺が女だったらなぁ、とは思うよ」



 精一杯強がって、笑って話していたんだけど、俺はだんだんうつむいていった。

 サビーノは、そんな俺の横で手綱を握り、しばらく無言で荷馬車を走らせていた。



「ラウル。荷物を置いたら、そのまま村を出ないか」



「……は? 俺にどこへ行けって」



「俺と一緒だ、ラウル。別の場所で、俺と結婚してほしい」



「だけど、サビーノ……」



「俺は、お前に会うためだけに、何度も何度も、繰り返し生まれてきている」



 何の話を、と固まった俺に、サビーノは不思議な話をしてくれた。



 全部はとても理解できなかったけど、俺とサビーノの間にできてしまった絆、みたいなものはなんとなくわかる。

 離れたくない、ずっとそばにいたい。

 俺がそう言えば、サビーノが今回は結構時間が掛かった、とため息を吐いた。







 村へ戻り荷物を下ろした俺たちは、姉さんにシルヴァーノとかいう男の話をした。

 いつも強気の姉さんが、シルヴァーノと聞いて、顔を青くした。

 サビーノが、念のため今後は姉さんと俺が、別々に暮らした方が安全だろうと、しぶる姉さんを説き伏せてくれた。



 甘い野菜の苗だけを持って、翌朝にはサビーノと俺は、村を後にした。



 二人でたくさん旅をして、遠い国で結婚して家を建てた。

 ずっと一緒に旅をした、大きく育った甘い野菜の低木は庭に植えれば、たくさん実をつけて種も採れた。

 けんかもしたけど、たくさん愛し合って幸せな人生だった。







 サビーノ、ありがとう。

 次もまた、俺のこと、探してくれる?











 休み時間に、いつものように教室でどうってことない話をする。

 男子校のいつもの光景。

 ペリリッと何かを開ける音がして、俺の口元に見慣れた手が伸びてきた。



「鈴木、チョコ食う?」



「お、食う食う。あー」



「ほい」



 田中が俺の口にポイッと入れてくれたのは、昔懐かしい五円玉チョコ。

 チープなチョコの味が懐かしくて、俺は口の中でパキパキと音を立てるチョコをかみ砕いた。



「田中はいいやつだなぁ」



「なんだよ、ようやく気づいたのかよ」



「だって俺にチョコ食べさせてくれるもんなぁ」



 田中が俺をあきれた目で見ている。

 む? ほかの友達はチョコなんか食べさせてくれないんだぞ? 俺にチョコを食べさせてくれるのは、田中だけだ。田中ほんといいやつ。



 そう言ったら、隣の席から身を乗り出してきた山下が「鈴木が食べるなら、俺もなんか食べさせたいー」と言ってきた。



「おう、何でも食「だめだろ」」



「………」



 俺の言葉をさえぎった田中の冷たい一言で、それまではいつもの休み時間だった教室内の温度がすうっと下がった気がした。



 静まりかえった教室で、立ち上がった田中が俺の顎に手をかけて上向かせた。



「俺以外が、お前に何か与えるなんて、そんなこと許せるわけがない」



 誰かのたてたゴクリという音がやけに響いて、椅子に座ったまま後ずさろうとした俺の椅子がギギッときしんだ音をあげた。



「鈴木、約束して」



「お、おぅ……なんだ」



「鈴木に何かしていいのは、俺だけだって。ここで今すぐ約束して」



「おぅ、俺に何かしていいのは、田中だけだ。……って、これからずっと?」



「これから、ずっと」



「えーでもお菓子とかこれから「ぜんぶ俺があげる」」



 じゃあいいか、と俺が納得して約束すると、田中がパチンと指を鳴らした。



 きらりと光る星みたいのが一瞬だけ光って消えた、ように見えた。



「何今の?」



「何が?」



「なんか光ったろ?」



 あー、鈴木にはアレ見えたんだ、と田中が言って、約束の印みたいなもんかなと説明した。



 ふーん、そうかと言えば鈴木はかわいいねと頭を撫でられて、田中はまた俺の口にチョコをくれた。



 田中はほんとに、いいやつだ。







「次は無い、って言ったよね。朝まで寝かさない」



 田中が俺の頭をホールドした。

 そんな触れ合いすら嬉しいなんて、俺はおくびにも出さない。

 いてぇ放せと暴れてから、ようやく離れた田中の横に、どっかと腰を下ろす。

 モニターを睨みコントローラーを握りしめると、俺たちは一緒に敵陣へと突っ込んだ。



 田中の家の、田中の部屋で、俺たちは今夜は夜通し、対戦型オンラインゲームをやる予定でいる。

 そつなく何事も器用にこなす田中は、ゲームも上手い。

 俺だって使い慣れたコントローラーで、十分やり込んだゲームの世界だ。



 そのはずなのに、俺はなぜかゲームアウトを繰り返していた。

 朝まで寝かさないと言われて、そのつもりでモニターを見ていたはずだった。







 俺は寝落ちしたらしく、いつの間にか横になっていた。



 重い息苦しいそして暑い。



 目を開けると明るいままの部屋で影になった田中が俺に覆い被さっていた。



「やっと起きた」



 田中の白い歯が見えた。



「言ったでしょ、朝まで寝かさないって」



 気がつけば、二人とも行為に夢中になって汗をかいていて、重なった部分がぬるりと滑った。







 揺すられて目が覚めたら、田中が俺の顔を覗き込んで、大丈夫かと聞いてきた。



 何? と言おうとして、泣いていたことに気がついた。



「すごく、大切な夢を見た気がする」



 と話せば、田中が俺の涙を、手のひらでぐいと雑に払った。



「ようやく思い出したか、俺のかわいい獣め。永遠に離さないから、覚悟しろ」



 と言って笑った。









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