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7.迫り来る危機
しおりを挟むそれだけを告げ、ジル姫は逃げるように走り去ってしまいました。
……涙を、流していました。
「ジル姫、」
追いかけようとした騎士ライトですが、グッと思いとどまります。
迷惑だと、構わないでほしいのだと、ハッキリ告げられたからです。
「……くそ!!」
ーーダン!
壁を拳で思いきり殴りつけても、やるせない思いが晴れることはありません。
震えて泣いていたジル姫に何もしてやれない自分は、なんて無力なのでしょうか。
「……まぁ! ライト様が私に会いに来てくださるなんて、珍しいですね」
「おくつろぎのところ、申し訳ありません」
騎士ライトが向かったのは、リナ姫の部屋でした。
騎士ライトの突然の訪問に、リナ姫は嬉しそうに満面の笑みを浮かべます。
しかし、
「ジル姫と、どんな話を?」
無表情にそんな質問をする騎士ライトに、その笑顔は凍り付きました。
こんな冷たい騎士ライトを目にしたのは、初めてだからでしょう。
「べ、別に大した事は何も……。ただ、ライト様はお忙しい身だから解放してあげてほしいと、頼んだだけです」
「……解放?」
目を泳がせながら答えるリナ姫に、騎士ライトは眉をひそめて聞き返しました。
意味がよく分かりません。
「解放も何も……私は、自分の意志でジル姫のそばにいるのです」
「……ッ」
リナ姫は顔を紅潮させ、唇をかみしめました。
「……おじい様も曾おじい様も、何十年とジル様を救う方法を探してきました。
でも、結局は……。あなたまでそんな無駄な事に時間を費やす必要はないじゃないですか!」
一気にそう話すリナ姫の言葉に。
……騎士ライトの胸は、強く締め付けられます。
「無駄、とおっしゃったのですか……?」
……生き地獄。孤独。
ジル姫の気持ちを全て理解できるとは、言いません。
それでも……。
リナ姫の言葉に傷ついたことくらい、分かります。
「……失礼します、リナ姫」
「ま、待って!」
一礼をし、部屋から出ようとする騎士ライトを、リナ姫は思わず呼び止めます。
そして、震えた声で問いかけました。
「ライト様は……ジル様を愛してらっしゃるのですか?」
もしかしたら、自分の思っている答えとは、違う答えが返ってくるかもしれない。
そんな、淡い期待をしていたのかもしれません。
しかし騎士ライトは振り向くと、微かな笑みを浮かべます。
どこか、悲しげな笑みを。
そして……
「そんな立場ではありません」
それだけを言うと、リナ姫の部屋から立ち去りました。
「…………」
残されたリナ姫の手は、怒りで小さく震えています。
騎士ライトの答えが、肯定しているも同然だったからでしょう。
ジル姫を、愛しているということを。
「ずっと昔からライト様を見ていたのは私なのに……!」
幼い頃からずっと、リナ姫は騎士ライトを想い続けていました。
ジル姫への嫉妬心を抑えることなど、甘やかされて育ったリナ姫に、できるはずもありません。
***
『チチ……』
「……食べないの?」
塔の三階部分にある部屋でのことです。
ジル姫が小鳥にエサを与えようとするのですが、食欲がないのか、小鳥はまったく食べようとしません。
もう二日になります。
……ちょうど、騎士ライトが顔を見せなくなってからでしょうか。
「怪我、食べないと治らないわ」
そう言ってみますが、小鳥は頑なに拒みます。
「……もしかして、私が何も食べないから遠慮してるの? 私は食べなくても死んだりしないのよ? お願い……食べて?」
そう、ジル姫が小鳥に向かって話しかけていると。
ーーキィ……バタン。
ふと、一階の方から、ドアの開く音が聞こえた気がしました。
「……?」
誰でしょうか。
ここを、ジル姫のことを知っているのは、現国王ら親族か騎士ライトくらいです。
いいえ、それよりも、塔の中からちゃんと鍵をしていたはず。
……嫌な予感が、しました。
(え……誰?)
複数の足音が三階へと近づいてくるのが聞こえ、ジル姫は慌てて部屋の鍵を閉めました。
……その瞬間。
ーーガチャ、ガチャ!
「……ッ!」
乱暴にドアノブが回され、思わず息を飲みます。
「チッ……鍵かかってんのか」
「ここにいるんだろ? 呪われたお姫様?」
聞いたこともない、男たちの声。
ドア越しに話しかけられますが、ジル姫は息をひそめます。
しかし、男たちは笑いながら続けて言いました。
「無駄だって。いるのは分かってんだ」
「あなたとたっぷり遊ぶよう、ある人から頼まれてるんだ。さ、オレたちと楽しみましょうか」
「……ッ、」
ジル姫は、何も知らない子供ではありません。
男たちの言っている意味くらい、分かります。
ドアから離れて部屋を見回しますが……どこにも逃げ道はありません。
窓から外に出る事は出来ますが、それには飛び降りるしかありません。
しかし、いくら死なない体とはいえ、ここは三階です。
(どうしたら……)
ーーダン! ダン!
考えているうちに、男たちがドアをこじ開けようと、体当たりしている音が聞こえます。
ドアが開くのも、時間の問題でしょう。
すると、
『チチチッ!』
ジル姫の目に、まだ怪我の治っていない小鳥が羽ばたこうとしている姿が映ったのです。
「だ……ダメよ、怪我治ってないのに」
ーーバサッ
ジル姫は慌てて捕まえようとしましたが、小鳥はついに窓から飛び立ってしまいました。
フラフラと、巻かれた包帯に血を滲ませながら懸命に……。
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