永遠の誓い

rui

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8.大事な人

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……その頃。

騎士ライトは、訓練の合間で休憩をとっているところでした。


「ライト、最近疲れてるんじゃないか?」


水を飲みながら、無意識に庭園のある方をぼんやり眺めていると
一人の騎士が歩み寄るなり、そう尋ねてきました。

長い黒髪を一つに束ね、落ち着いた雰囲気をもつ騎士の名は、トゥルー。
騎士ライトの親友です。


「……いや、ちょっと寝不足なだけだ」
「寝不足って、何してるんだ?」
「別に大した事じゃないさ」
「?」


曖昧に答えると、騎士ライトは再び訓練に戻りました。

……先日、リナ姫の話を聞いて。
ジル姫の呪いを解く方法を見つけるまで、彼女に会うのをやめようと決意したのです。

今会いに行ったところで、ジル姫にまた避けられるだけ。
だから毎日徹夜し、ありとあらゆる書物を調べているのです。

しかし、どれだけ調べても、ジル姫の呪いを解く方法は見つかりません。


「……魔女、か」


ふと立ち止まり、騎士ライトはポツリとつぶやきました。

……全ての始まりである魔女。
やはり彼女を探し出すしか、他に方法はないのかもしれません。


「……あれ? おい、見てみろよライト」
「……なんだ?」


話しかけられて我に返った騎士ライトは、騎士トゥルーの指差す方向に視線を移します。
すると、


「……!」


一体どういう事でしょうか。
ジル姫のもとにいるはずの小鳥が、数メートル先の草村に倒れているではありませんか。

騎士ライトはすぐに駆け寄り、小鳥を優しく手にのせます。


「大丈夫か?」
『チチ……』


ずいぶん弱っていますが、生きています。
騎士ライトがホッと安堵していると。


『チチチ……! チチチ……!』


……小鳥が何かを訴えているように、必死に鳴き続けたのです。

何故でしょうか。
嫌な予感が、しました。


「まさか……ジル姫に何かあったのか?」


愛しいジル姫の微笑みが、脳裏をよぎりました。
もし、本当に彼女の身に何かあったとしたら……。


「……すまないトゥルー、この鳥を頼む」
「え? あ、おいライト!」


騎士トゥルーに小鳥を手渡すなり、騎士ライトはジル姫のもとへと駆け出します。
この嫌な予感が、ただの思い過ごしであるよう、強く願いながら。


***


「……オレたちラッキーだよな。呪われた姫っていうから、どんな不気味な女かと思えば……こんなにいい女だなんて」
「あぁ、まったくだ」



……ジル姫は、二人の男に部屋の隅へと追いやられていました。
わざと、怖がらせるように少しずつ間合いを詰める男たちは、ニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべています。


「何が目的なのですか……?」
「分かりやすく言えばいいですかね? あなたを滅茶苦茶にしろって命令されたんですよ」
「だ、誰に……ッ、きゃ!」


ジル姫は最後まで言葉を発することができません。
腕を強く掴まれ、痛みに表情を歪ませます。

そして次の瞬間には、男に軽々とベッドに押し倒されしまったのです。
もう一人が素早く両手を縄で縛り付け、あっという間に身動きがとれなくなりました。


「い、嫌……」


大声で泣き叫びたいのに、恐怖からか声がうまく出ません。

……いいえ、出たところで誰も気づかないでしょう。

自らこの隔離された生き方を選んだ事を、ジル姫は初めて後悔しました。


「ライト、様……」


無意識に口にしたのは……騎士ライトの名前でした。

彼を拒絶したのは、遠ざけたのは、他ならぬ自分。
だから助けに来てくれるはずがないと、頭では分かっています。
分かっていますが……。


「ライト様……ライト様!」


ジル姫は強く目を閉じ、震える声で騎士ライトの名前を呼び続けました。
そんなジル姫に構わず、男たちは衣服をはがしにかかります。
……すると。


「……今すぐ、姫から離れろ」


聞こえるはずのない人物の声が、聞こえたのです。


「……ッ、」


ジル姫は、耳を疑いました。
なぜなら、その声の主は……。


「何だてめぇは、ッ!」
「うっ、」


一瞬の事でした。

ドサッ、ドサッ、と音がし、男たちの重みを感じなくなったのです。
ジル姫が恐る恐る、ゆっくりと視線を移すと。


「ジル姫……もう大丈夫です」


そこに立っていたのは、息をきらした……騎士ライトでした。

そして、黙ってジル姫の手首を縛っていた縄をナイフで切るなり……強く、抱きしめてきたのです。
息が出来ないほど、強く。


「……ッ、」


……助けに来てくれたのです。

そう認識した瞬間。
ジル姫は、声を殺して泣き出してしまいました。

心を開いても、後々辛い別れが待っているだけ。
騎士ライトに迷惑をかけるだけ。
だから、彼から離れようとしたというのに……。


***


「……何故、何故私なんかに構うのですか!?」


騎士ライトの胸の中で、ジル姫が泣きじゃくりながら問いかけます。
だから、


「あなたは……私の命より大事な人だからです」


騎士ライトは体を少し離し、ジル姫の目を真っ直ぐと見つめながら、ハッキリと答えました。
偽りのない、本当の気持ちを。


「……え?」


騎士ライトの答えに、ジル姫は一瞬驚いたような、そんな表情を浮かべます。
そして……みるみる、頬を赤く染めました。


「……ッ、あ、いや、」


その反応を見て、ようやく騎士ライトは我に返ったのです。
……騎士という身分でありながら、ジル姫を抱きしめるなど、もってのほか。


「ッ、申し訳ありません!」


騎士ライトは、慌ててジル姫の体を放します……が。


「ひ、姫……?」


なんとジル姫が、自ら騎士ライトの体に抱きついてきたのです。
さすがに動揺を隠せません。

騎士ライトが固まっていると、ジル姫が口を開きました。


「この間はひどい事を言ってしまって……ごめんなさい……。迷惑だなんて、本当は……」


声も体も、小さく震えていました。


(……怖かっただろう)


当たり前といえば、当たり前でしょう。
男二人に襲われかけたのです。


「そんな事気にしてませんよ。
……あなたが無事で、本当に良かった」


騎士ライトは恐る恐る、ジル姫の体を抱きしめ返しました。
そして、


(このまま、時が止まればいいのに)


不謹慎だと分かっていても……そう、願いました。
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