10 / 39
9.幸せな時間
しおりを挟む「あの……もう大丈夫ですから、その……」
しばらくして。
ようやく泣きやんだジル姫は、頬を真っ赤に染めながら、ポツリと言いました。
今更かもしれませんが、騎士ライトに抱きしめられている事が……恥ずかしくて仕方ないのです。
嫌という訳ではありません。
むしろ……。
「さて……こいつらをどうしましょうか」
騎士ライトはジル姫からソッと離れると、床に倒れている男二人に目をやります。
その頬は、少し赤く染まっているようにも見えました。
「とりあえず、縛っておきましょう」
「…………」
どうやら、気絶させただけのようです。
騎士ライトが男たちの手足を縛ってる姿を見て、ジル姫は自分の手首を、無意識につかみました。
「ッ……」
先ほどの事を思いだし、体がカタカタと震えます。
もし騎士ライトの助けが、あと少し遅かったら、今頃……。
「……行きましょう、姫」
男たちを縛り終えた騎士ライトはそう言うと、ジル姫の体をヒョイと抱き上げました。
あまりに突然のことに、ジル姫は驚きを隠せません。
「あ、あの……自分で、」
「歩けないでしょう。……こんなに震えて」
その言葉に、反論できませんでした。
騎士ライトの言う通りだからです。
「……すみません」
「いえ、気になさらないで下さい」
騎士ライトはどこか嬉しそうな笑みを浮かべてそう言うと、歩き出しました。
その笑みに……ジル姫は、胸が高鳴って仕方ありません。
頬が熱くて、仕方ありません。
「よければ……私の話を、聞いてくれますか?」
「もちろんです」
……心優しい、騎士ライト。
もう、嘘で彼を傷つけたくはないと思いました。
「私は……父や兄、それにライト様に甘えていました」
ジル姫の話に口を挟む事なく、騎士ライトは黙って耳を傾けてくれます。
「いつも自分では何もせず、良い報告をただ待つばかり……。けれどもう、人に甘えるのはやめなければならないと気づいたんです」
ジル姫は少し間を置いた後、涙をこらえながら続けます。
「……救ってくれると言ってくれて、本当に嬉しかった。けど、もうあなたに迷惑をかけたくないんです。……無駄な時間を使わせたくないんです……」
そこまで言うと、小さくうつむきました。
***
「ジル姫……」
自分を拒絶した理由は、迷惑をかけたくなかったから……。
ジル姫に嫌われた訳ではない事に、騎士ライトは心の底から、安堵しました。
それと同時に、素直に嬉しいと感じました。
ジル姫が初めて、本音を話してくれたからです。
「……私が言った事を覚えてらっしゃいますか?」
「え……?」
黙ってうつむいたジル姫に、立ち止まってそう話しかけると。
顔をあげ、不思議そうに潤んだ瞳で見つめられます。
今度こそ。
今度こそ、信じてくれるでしょうか。
「……あなたを必ず救います、と」
「…………」
真剣な真っ直ぐした眼差しを向けると、ジル姫は目をそらしませんでした。
「必ず方法はあります。私を信じてください。だから……あなたのそばに、いさせて下さい」
「ライト様……」
その言葉を聞いた瞬間。
ジル姫の頬を、一筋の涙が伝いました。
***
……騎士ライトの言葉が、想いが、嬉しかったのです。
生まれて初めてでした。
こんなにも、胸が締め付けられるのは。
彼に迷惑をかけるだけだと、頭では理解しています。
……それでも。
「……私も、あなたのそばにいたい……」
ずっと、騎士ライトのそばに。
ジル姫は、無意識に本心を口にしていました。
すると、
「本当……ですか?」
まさか、そんな言葉が返ってくるとは思わなかったのでしょう。
騎士ライトが、驚いた様子で聞き返してきます。
コクン、と真っ赤な顔をしてうなずくジル姫は、恐る恐る尋ねました。
「やっぱり迷惑……でしょうか?」
「ま、まさか!」
ジル姫の不安げな言葉を聞いた騎士ライトは、顔を赤く染め、慌てて否定します。
それを聞いて、
「良かった……」
ジル姫は本当に嬉しくなり、そうつぶやきました。
騎士ライトはジル姫を抱きかかえたまま、再び歩き出します。
「ライト様、あの……そろそろ自分で、」
「あなたが危険なんだと、あの白い小鳥が教えてくれたんです」
「え?」
赤くなるジル姫の言葉を遮って、騎士ライトが少し早口に、そう言いました。
頬がまだ赤く染まっているということは……彼もまた、照れているのかもしれません。
「怪我が治っていないのに、必死だったんでしょう。……おかげで、あなたを守ることができました」
「ハクが……」
包帯に血を滲ませながら、フラフラと窓から飛び立った小鳥の姿を思い出します。
怪我は、大丈夫でしょうか。
そんなジル姫の不安に気づいたのでしょう。
騎士ライトはニコリと微笑み、教えてくれました。
「大丈夫ですよ。友人に頼んでありますから。……ハクという名前を? いい名前ですね」
「あ……ありがとうございます」
ジル姫は嬉しくなり、微笑みました。
名前をほめられたからではありません。
……何気ないこの会話に、幸せを感じるからです。
ふと、自分を抱きかかえて歩く騎士ライトと目が合いました。
「……ッ、」
……やはり、恥ずかしくてたまりません。
「あの、もうそろそろ自分で歩けます……」
赤くなる頬を両手でおおいながら、ジル姫は言います。
しかし、
「……ダメです」
騎士ライトは、聞く耳を持ちません。
「ほ、本当に大丈夫ですから、」
「まだ無理です」
「でも……重いですよね?」
「まさか」
「あの……」
「ダメです」
そんな押し問答をしてるうちにたどり着いたのは、訓練場でした。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる