永遠の誓い

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11.嫉妬

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***


その頃騎士ライトはというと、再びジル姫のいた塔へと、向かっていました。

ジル姫を襲った男たちに、詳しい話を聞くためです。
男たちは何者かに命令されてやったのだと、ジル姫は言っていました。


『リナ姫は、ジル姫のことを何て話してたんだ?』


先ほどの、部屋の外でかわしたアリスとの会話を、不意に思い出します。


『……呪われてて気味悪い、迷惑してる、って。
本当に彼女、呪われてる……の? 何十年も、あの姿で生きているの?』
『……あぁ』


どうしても、嫌な予感がしてなりません。

血の繋がりのあるリナ姫でさえも、ジル姫の存在を迷惑だと言うのです。
彼女をよく思っていない者は、他にもいるのでしょう。

……しかし一体、誰が何のために、ジル姫を襲うような命令をしたのでしょうか。

騎士ライトがそんな事を考えながら歩いていると、


「ライト」


前方から騎士トゥルーの声が聞こえ、ハッと我に返ります。
声のした方へと視線を向けますが……視界に映るのは、歩み寄る騎士トゥルー、ただ一人だけ。

あの男たちの姿は、どこにも見当たりません。
どうしてなのでしょうか。

騎士ライトが眉間にシワをよせ、不思議に思っていると、


「悪い。オレが着いた時には、もう誰もいなかった。逃げたみたいだな」
「……そうか。わざわざ悪かったな」


大して気にしてない様子で、騎士トゥルーは首を横に振ります。
そして腕を組みながら、


「で? 何があったのか、説明してもらえるんだろうな?」


真面目な表情で、騎士ライトに説明を求めました。

当たり前でしょう。
彼には、理由を聞く権利があります。

それに、きっと力になってくれます。
ジル姫も、分かってくれるでしょう。


「……はじめに言っておく。ジル姫の事は、他言無用に頼む」
「? 了解」


首を傾げる騎士トゥルーに構わず、騎士ライトはこれまでの経緯を話し始めました。


「先代国王が亡くなる数週間前……オレはジル姫の存在を、初めて聞かされた」
「……姫? まさか、国王の隠し子か?」


近くにあった大木に寄りかかり、騎士トゥルーが少し冗談混じりに口をはさみます。
もしそうだとしたら、どんなに良かったことでしょう。

騎士ライトは真剣な表情を浮かべたまま、話を続けます。


「ジル姫は……先代国王の、実の妹君。四十年ほど前、彼女が不治の病にかかったことが、すべての始まりだと聞いている」
「……先代の? 四十年も前? けど、どう見ても彼女は二十代にしか、」
「トゥルー。とにかく、最後まで聞いてくれないか」


騎士トゥルーは終始、驚きを隠せない様子で話を聞いていました。
無理もないでしょう。


「……信じられんな。不老不死だって? まるでおとぎ話だ」


……そう。
まるで、おとぎ話。

しかし。


「だが、現実の話なんだ。
……だからジル姫の存在は、ほとんどの者が知らない。
なのに、誰が何のために彼女を襲うよう、男たちに命令したんだ?」


早く命令した人物を見つけないと、また、誰がいつジル姫に危害を及ぼすか分かりません。

しかし、唯一の手がかりである男たちが逃げてしまったため、命令を下した人物を探し出すのは困難でしょう。

神妙な表情を浮かべて考え込む騎士ライトに、


「案外、リナ姫だったりしてな。女の嫉妬ほど怖いもんはない」


騎士トゥルーは肩をすくめながら、そんな事を口にしました。
その言葉に、騎士ライトはキョトンとしてしまいます。

どういう意味なのか、まるで分からないからです。


「嫉妬……?」


そんな騎士ライトの反応を見て、騎士トゥルーは前髪をかきあげながら、どこか呆れたようにため息をつきました。


「……まさか、本気で気づいてなかったのか? はぁ……。鈍いとは思ってたけど、ここまでとは」


そして、


「いいか、ライト。リナ姫はお前に心底惚れてる。それは誰の目から見ても明らかだ」


ビシ、と騎士ライトを指差して、そうキッパリと断言したのです。


「リナ姫が……オレを?」


言われてみれば確かに、よくリナ姫に話しかけられたり、何かあれば指名されていましたが……
その想いには、まるで気づきませんでした。


『ライト様は……ジル様を愛してらっしゃるのですか?』


不意に、嫌な考えが騎士ライトの脳裏をよぎります。
それは……。


「……お。噂をすれば、だな」


騎士ライトが考え込んでいると、そんな騎士トゥルーの言葉が聞こえてきました。


「……ライト様にトゥルー様? な、何故ここに?」


二人が話しているのは塔のすぐ近く……つまり、庭園以外は何もない場所。
そこへ、何故かリナ姫が一人でやってきたのです。

用事があって、ジル姫に会いに来ただけかもしれません。

しかし、明らかに動揺したリナ姫の様子に……先ほどの嫌な考えが、再びよぎりました。


「……ジル姫が、襲われました」


騎士ライトの言葉を聞いても、リナ姫は驚きはしません。
ほんのわずかだけ、口角が上がったように見えました。


「まぁ……そうですか。それで、ジル姫は?」
「ご安心ください。私が助けに入ったのでご無事です」
「…………」


気づいたら、リナ姫を試すような事を口にしていました。


「今から、拘束した男たちを尋問します。誰に命令され、ジル姫を襲ったのかを」
「……ッ」


ビクリと体を震わせるリナ姫は、チラリと騎士トゥルーに目を向けます。
二人にしてほしい、という意味でしょう。

その意味に気づいたのか、騎士トゥルーは一礼し、


「それでは失礼します」


そう言って、その場をあとにしました。
残されたのは、騎士ライトとリナ姫の二人だけです。


「……すぐにバレるのならば、今ここで白状します」


騎士トゥルーの遠くなる後ろ姿を眺めながら、ポツリとリナ姫が言いました。


「ジル様を襲うように男たちに命令したのは、私です……ライト様」
「…………」


リナ姫のその告白に、騎士ライトは言葉を失います。


「……何故です? 何故、ジル姫を?」


騎士ライトのその問いに、リナ姫は悲しそうな表情を浮かべると、


「あなたが好きだから……!」


そう言って……強く、抱きついてきました。


「ジル様に、あなたを奪われたくなかったから!」
「……ッ、」


……ジル姫が襲われた原因は、自分ではないか。
騎士トゥルーの言う通り、自分に想いを寄せるリナ姫がやったことではないか。

先ほど脳裏をよぎった嫌な考えは……的中してしまったのです。


「ライト様……」


潤んだ瞳で自分を見上げるリナ姫のことを、抱きしめ返す事はできません。
リナ姫の想いに応える事が、騎士ライトにはできないからです。


「私は嫉妬で気が狂いそうなんです……。だって、だってライト様はジル様の事を、愛しているのでしょう?」


“愛しています”


その言葉を、騎士ライトは口にすることができません。
本当は、どうしようもないほどジル姫のことを、愛しています。

……しかし、正直に答えれば、リナ姫は次に何をするか分かりません。
だから、


「……いいえ」


だから騎士ライトは、嘘をつくしかありませんでした。


「……本当に?」


リナ姫はその答えが分かっていたのか、どこか勝ち誇ったような笑みを、一瞬浮かべます。


「だったら、もうジル様に構わないと誓っていただけますか? ジル姫のお世話は、別の方にお願いしますから」
「……承知しました」


自分がジル姫のそばにいなければ、今回のような事は起きなかったのです。
だからジル姫の身の安全のため、騎士ライトはリナ姫の提案に、うなずきました。

それと同時に……ある決意をしたのです。
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