永遠の誓い

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13.旅立ち

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「……今、何とおっしゃったのです? 悪い冗談はおやめ下さい」
「冗談ではありません。私は本気です」


騎士ライトが今いるのは、国王とリナ姫のいる広間です。
魔女探しの旅に出る事を告げるために、やってきました。


「な……なりません!」


まさか、騎士ライトがそんな事を言い出すと思わなかったのでしょう。
リナ姫は動揺し、首を強く横に振りながら声を荒げて言いました。


「あなたはこの国を、この城を守るという騎士の本分をお忘れなのですか!?」


とにかく騎士ライトを引きとめようと、必死に説得してきます。
すると、


「待ちなさいリナ。これはライトと父上との約束なのだ。……行かせてあげなさい」
「お父様!?」


共に話を聞いていた国王が、騎士ライトの旅立ちを許したのです。


「……よろしいのですか?」


まさか、そんな簡単に許してもらえるとは思わず、騎士ライトは目を丸くします。
もちろん、たとえどんなに反対されたとしても旅に出るつもりではいましたが……。


「何故なの!?」


納得がいかない様子でリナ姫が国王に詰め寄ると、国王はため息まじりに、答えます。


「亡き父は、ライトにジル様の事を頼んだのだ。遺言を無視する訳にはいかんだろう……」
「ッ、」


国王の許しが出た以上、リナ姫はこれ以上何も言えないようです。
黙って、うつむいてしまいました。


「しかし……お前は優秀な騎士。できれば城にとどまってほしいところだが……」
「申し訳ありません、陛下。……それでは失礼します」


騎士ライトは、迷いなく即答します。
そして国王とリナ姫に一礼をし、広間をあとにしました。


「……待って!」


通路を歩いていると、リナ姫の呼び止める声が聞こえてきて、騎士ライトは立ち止まります。

振り返ると、息をきらしたリナ姫が駆け寄ってきました。
そして、


「もし……もし、魔女が見つからなかったら、どうなさるおつもりですか?」


不安そうな表情で、そう、問いかけます。
だから、騎士ライトは真剣な表情で、真っ直ぐとリナ姫の目を見ながら、


「見つけてみせます」


そう、はっきりと答えました。
その答えに迷いが一切ないことに、リナ姫は気づいたのでしょう。


「……では、早く帰って来て下さい。約束できますか?」


引きとめることを諦め、震えた声のリナ姫の言葉に、騎士ライトは、力強くうなずきます。


「約束しましょう」


一分一秒でも、早く帰るために。


そして--
ジル姫との幸せな未来を夢見て


……騎士ライトは、旅立ったのです。


***


それから……
リナ姫が、騎士ライトを見送った後のことです。


「お父様、お願いがあります」


泣いていたリナ姫ですが、涙を拭うなり、さっそく国王に懇願しました。
それは、


「もう、ジル様を城から追い出して。私は……ジル様が城内にいると思うだけで、嫉妬でおかしくなりそうなの!」


ジル姫を、城から追い出すこと。

いいえ。
本当の目的は……以前、男たちに命令した時と同じです。

今、騎士ライトの代わりにジル姫のそばにいる、騎士トゥルー。

山奥にでも追放したあと、彼に襲うよう命令するつもりなのです。
そうすれば、ジル姫は二度と騎士ライトの前に姿を現さないでしょう。

涙を浮かべて訴えるリナ姫に、国王は困惑した表情を浮かべました。


「お前がそんなに悩んでいたなんて……。しかし遺言が……」


国王の意識が揺らいでいるのは、一目瞭然です。
……国王もまた、ジル姫が城にいることを良くは思っていないと、リナ姫は知っていたのです。

呪われた姫の存在は、王家の恥だ、と。


「トゥルー様が一緒なら、きっとおじいさまも許して下さるわ! だから誰の目にもつかない山奥で、ひっそりと暮らしてもらいましょう?」
「……そう、そうだな。確かにそうだ」


国王は、ジル姫を追い出すきっかけが欲しかったのかもしれません。


「リナがそこまで思いつめているのなら、やむを得ない」


ついに、リナ姫の訴えにうなずいたのです。


「ありがとう、お父様!」


……リナ姫は、誰もが自分の思い通りになるのだと実感しました。
幼き頃からそうだったのです。

欲しいものは何でも手に入りました。
誰もが自分の思い通りになりました。

だから騎士ライトも、いずれ自分のモノになるのだと信じて疑いません。
そう……ジル姫さえいなければ。

それはもう、愛情と呼べるものではなくただの歪んだ独占欲だと
……リナ姫は、気づいていません。


***


「……良かったんですか? ライトの見送りに行かなくて」


騎士ライトが旅立った頃。
ジル姫はいつものように、庭園で花の世話をしていました。

いつもと違う事といえば……
そばにいるのが騎士ライトではなく、騎士トゥルーだという事くらいでしょうか。


「私が見送りに行くと、リナが良い顔をしないでしょうから……」


リナ姫の気持ちにうっすらと気づいていたジル姫は、騎士トゥルーの言葉に苦笑しながら答えます。
リナ姫は今頃、騎士ライトと別れを済ませていることでしょう。


「あぁ……あのワガママなお姫様ですか。まったく、ライトも面倒な女に惚れられたもんだ……、と」


そう、笑いを堪えながら言う騎士トゥルーですが、すぐにジル姫の前だという事を思い出したようです。


「……今のは、聞かなかった事に」
「ふふ、いいですよ」


そんな、どこか憎めない騎士トゥルーに、ジル姫はまだぎこちないながらも笑みを浮かべます。


「そういえば、ライトのやつに口止めされてた事があるんですよ」
「え?」


突然そんな事を言われ、ジル姫は首を傾げて騎士トゥルーを見ました。
騎士トゥルーのその表情は、どこかイタズラ好きな少年のようにも見えます。

……口止め、というからには、良くない話でしょうか。
そう、ジル姫が不安に思っていると。


「……『ジル姫と出会うために、生まれてきた』んだと」
「……、」


ニッコリと笑みを浮かべ、騎士トゥルーは続けました。


「『共に幸せになる』とも」


もう、泣くのはやめなければなりません。
騎士ライトが帰ってきた時、笑顔でいたいのです。


「……ありがとう、ございます……」


それでも
……今だけは泣いても、いいでしょうか。


「……知っていますか、トゥルー様? 『ライト』とは……異国の言葉で、“光”という意味があるんですよ」
「へぇ、光?」
「はい。……名前通りの方ですよね」


涙を拭いながら話すジル姫に、騎士トゥルーはおかしそうに笑い出しました。


「あまり過大評価しない方が身のためですよ、姫様」
「……ふふ、そうですか?」
「そうですよ」


ジル姫と騎士トゥルーが、しばらくそんな他愛のない話をしている時。


「ジル様! トゥルー!」


庭園に、血相を変えたアリスがやってきました。
何かあったのでしょうか。
ジル姫と騎士トゥルーは、顔を見合わせます。


「どうしたんだ?」
「それが……、ジル様を城から追放する事になったって、リナ姫が……!」
「追放だって?」


動揺した様子のアリスの言葉に、ジル姫は驚きませんでした。

それもそうでしょう。
兄が亡くなってから、いつかこんな日がくると分かっていたのです。
もう、守ってくれる父や兄はいないのですから。


「……ちょうど良かった。いずれ城を出るつもりでしたから……」


本当は、騎士ライトが帰って来るまでは、城で待っていたかったのですが……
アリスたちに心配をかけたくなかったため、微笑んでそう言いました。
しかし、


「でも……追放なんて、あんまりだわ。ジル様、何もしていないじゃない」


やはり納得できないのか、アリスは口を尖らせてしまいました。
そんなアリスに、騎士トゥルーは肩をすくめながら、軽い調子で言います。


「まぁ……追放っていっても、国王が先代の遺言を無視するとは思えん。
たぶん、住む場所や金なんかはちゃんと準備してくれるだろ」


確かにそうかもしれない、とジル姫が納得してると。


「そう……かしら? でも、ジル様一人じゃ心配だわ。場所によっては危険な魔物だっているのよ」
「オレも一緒だし、大丈夫だ」


そんな騎士トゥルーの言葉に、ジル姫は驚きを隠せません。


「あなたも?」
「オレでは不服ですか?」


そう、当たり前の事のように頷く騎士トゥルーに、困惑します。
一人で城を出るつもりだったからです。


「い、いいえ……不服とかではなくて、」
「ライトに姫様を任されたんだ。当然ですよ」


驚きを隠せなかったのは、ジル姫だけではなかったようです。


「トゥルー……」


アリスがどこか複雑そうな表情を浮かべ、騎士トゥルーの名をつぶやきました。
そんなアリスに、騎士トゥルーは苦笑いを浮かべます。


「おい、別に浮気する気はないぞ」
「でも、こんな美人と二人きりはいけないわ」
「だからって、姫様を一人に出来ないだろ」


そんなやりとりを聞いて、二人が恋人同士であるという事にジル姫はようやく気づきました。
ならば尚更、騎士トゥルーを巻き込むわけにはいきません。


「私は一人で大丈……」
「なら私も一緒に行くわ。それならジル様も安心でしょ?」


ジル姫の言葉を遮って、アリスがそんな提案をしてきました。
しかし、二人に迷惑をかけるわけにはいきません。


「え? ……けれど」
「遠慮はなしよ。私、リナ様にしばらく休暇をもらうわ」
「最近ずっと働きっぱなしだったし、ちょうどいいんじゃないか?」


アリスに続けて、騎士トゥルーもその提案にうなずきます。


「迷惑だなんて考えないで」


もはや何を言っても二人の意志は変わらないのだと、ジル姫は悟ります。


「……二人とも、ありがとうございます……」


騎士トゥルーとアリスが一緒なら、どんなに心強いでしょう。


***


それから数日が経ち、リナ姫はアリスを部屋へと呼び出しました。


「いい? ライト様が帰ってきても、ジル様は勝手に出て行ったと答えるのよ?」


地図を手渡しながら、リナ姫は機嫌よく命令します。
よほど嬉しいのでしょう。

その命令に、アリスは愛想笑いをするしかありませんでした。
……騎士ライトはそんな事を言っても、信じないでしょう。


「ジル様とトゥルー様がこれから住む場所は今渡した紙に書いてあるから、案内は頼むわよ」
「はい、リナ姫」


騎士トゥルーと相談をした結果、リナ姫にはアリスも着いて行く事は黙っていようという事になりました。


『ジル姫を無理やりにでも襲え……なんて、仮にも一国の姫様のする命令じゃないな』


先日、騎士トゥルーが呆れたように話していたからです。
アリスが一緒だと知れば、他の者に変えられるかもしれません。


「リナ姫。案内を終えたら私、休暇をもらってもいいですか? 遠方に住む親戚のところに遊びに行こうかと思って……」


そんなアリスの話に、リナ姫はあっさりとうなずきます。


「えぇ、構わないわ」


全く疑っていないことに、アリスはホッと安堵のため息をつきました。


***


そして……
ジル姫が城を出る日が、ついにやってきました。


「荷物はこれで全部ですか?」
「はい」


騎士トゥルーは荷物の入ったケースを手にすると、先に城門の外へと歩き出します。
それに続いて、ジル姫とアリスも城門を出ようとした時。


『チチチ……』


ジル姫の肩に乗っていた小鳥が、頬ずりをしてきました。
心配してくれてるのでしょうか。


「ありがとう、ハク。私は、大丈夫だから」


ゆっくりと振り返ると、数十年もの間住み続けた城が目に映ります。
ジル姫の思い出がたくさん詰まった、生まれ育った場所……。

きっともう、ここに戻っては来れないでしょう。


「……さようなら」


ジル姫は、別れの言葉をポツリと告げました。
そして城に背を向けて、ゆっくりと歩き出します。


『すぐに戻ってきます。……だから、どうか信じて待っていてください』


騎士ライトの言葉を信じて、
騎士ライトの無事を祈って。

未来への希望を胸に、歩き出したのです。

もう、孤独などではありません。
騎士トゥルーもアリスも、それに小鳥だっています。

……だからでしょうか。
城から追放されたというのに、ジル姫の気持ちはとても穏やかなものでした。


「……私は、ライト様の無事を祈って待つ事しかできないのですね」


ポツリと苦笑してつぶやくジル姫に、隣を歩くアリスは笑顔で首を横に振ります。


「それは違うわ。ジル様は十分一人で苦しんだ。だから、ライトは待っていてほしかったの」
「アリス……」


アリスの言葉に微笑むと、ジル姫は小さくうなずきました。

そして、再び前を向いて、歩き出しました。
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