永遠の誓い

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14.魔女

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***


それから……
騎士ライトが城を出発して、数ヶ月が経とうとしていました。

様々な土地をめぐってようやくたどり着いたのは、魔女が住むと言われている『迷いの森』です。

もちろんここも、国が数十年もかけて捜索した場所の一つ。
しかし、何かわずかでも手がかりがあることを信じ、騎士ライトは原点であるここへとやってきたのです。


「魔女が住むといわれている迷いの森、か……」


一人そうつぶやくと、騎士ライトは森の奥へと歩き始めました。


ーーガリ……


道に迷わぬようナイフで木の幹に印を刻んでいる最中、ふと振り返ります。

目に映るのは生い茂る緑ばかりで、特に変わった様子はありません。
迷いの森の中は、どこにでもある普通の森と何ら変わりはないようです。
ただ普通の森と違う事といえば、


「誰かいるのか?」


迷いの森に入ってから、騎士ライトはずっと誰かの視線を感じていました。

だから、騎士ライトが大きな声でそう、何者かに語りかけてみると。


「ほう。お若いというのに大したもんだね」
「!」


背後から、突然老女の声が聞こえます。
驚いて振り返ると。
騎士ライトの目には、黒いローブを着た一人の老女が杖をついて立っていました。


(……気づかなかった)


いつからいたのでしょうか。
気配は感じていたものの、すぐ真後ろに立っていた事に、騎士ライトは驚きを隠せません。

そんな騎士ライトに、老女は更に驚くべき言葉を口にします。


「お前さんを待っていたよ、騎士ライト」
「え?」
「ワシを探していたんだろう? ジル姫を救うために」


騎士ライトは、ただ耳を疑いました。


「……あなたが、魔女……?」
「いかにも」


……そうです。
目の前にいるこの老女こそ、数十年もの間、国をあげて探し求めていた……魔女だったのです。

目を疑っても、仕方がないでしょう。

ジル姫が呪われて、もう数十年という月日が経っているのです。
必ず探し出すと言ったものの、実際に本人を目の前にすると、信じられない気持ちでいっぱいです。


「何故……何故、今まで姿を隠していたんです!?
ジル姫がこの数十年、一体どれだけ苦しんだと……!」


騎士ライトは声を震わせ、責めるように問いかけました。
しかし、


「着いてくるんだ」


魔女は淡々とした口調でそう言うと、クルリと騎士ライトに背を向けて、どこかへと歩き出しました。
騎士ライトは慌てて魔女に着いて歩きます。


「……ジル姫にはかわいそうな事をしたと思ってるよ。さぞ苦しかっただろう。ずっと見ていたから知っているよ」
「見ていたなら何故……」


何故、ずっと姿を現すことなく見ていたのか。
何故、騎士ライトの前にだけ姿を現したのか。

頭の中が、疑問でいっぱいになります。

……すると。


「……いいかい。死んだ方が幸せだと、ワシはちゃんと忠告した。不老不死の薬を口にしてしまったら、もうワシの力ではどうしようもないからね」
「……ッ、」


『どうしようもない』


その言葉に、騎士ライトは真っ青になってしまいました。
それは、ジル姫が元の体に戻ることができないという意味にしか、聞こえなかったからです。


「話はまだ終わってないよ。
……ワシはね、運命の人間が現れるのをずっと待っていたんだ」
「……運命の、人間?」


動揺する騎士ライトは話についていけず、思わず眉をひそめます。
すると、魔女は大きな湖の前でピタリと立ち止まり、その中へと躊躇なく入っていきました。
……しかし、不思議な事に水音はなく、ぬれている様子もまるでありません。


「……幻覚」
「その通り。さぁ着いてきて」


これでは、どんなに捜索をしても魔女が見つからないはずです。
言われるまま、騎士ライトも魔女に続いて湖の中……いえ、地下へと続く階段を降りました。


「ジル姫の呪いを解く方法は、ないということですか? それに、運命の人間……とは?」


地下空洞へと続く階段を降りながら、騎士ライトははやる気持ちを抑えつつ尋ねます。


「騎士ライト、お前さんの事だよ」
「……?」
「ジル姫の運命の相手……、結ばれるべき人間」


それがどういう事なのか、よく分かりません。
困惑する騎士ライトに構う事なく、地下空洞にたどり着いた魔女は、さらに奥へと歩き出しました。
そして、


「運命の人間が現れた今、ジル姫の呪いは解けない事もない」
「……ッ!?」


魔女は振り返る事なく、驚くべき言葉を口にしたのです。


『呪いは解けない事もない』


その言葉に、騎士ライトは喜びを隠せません。
思わず叫んで、確認するように尋ねます。


「ほ、本当ですか!? ジル姫は、元の体に戻ることができるのですね!?」


魔女は振り返ると、騎士ライトの質問に小さくうなずきます。
……しかし、その表情は険しいものでした。


「ただし、呪いを解くか解かないか……。それは、お前さん次第だ」
「……え?」


喜びも束の間……
騎士ライトは、今から残酷な言葉を聞かされることになります。

それは、ジル姫の呪いを、不老不死の薬の効果を相殺する

……唯一の方法。


ーーガチャ


目的の部屋に着いたのか、魔女はドアの中へと入っていきます。
騎士ライトはそれに続きながら、問いかけました。


「……今のは、どういう意味です?」


……嫌な予感がして、なりません。

騎士ライトの問いに、魔女は答えることなく。
様々な薬品が所狭しと棚やテーブルに並んでいる中から、淡い緑の液体の入った瓶を手にします。


「これが……ジル姫が22歳の誕生日に口にした、不老不死の薬じゃ」


呪いを解くか解かないかは、騎士ライト次第。
たとえどんな方法であっても、騎士ライトが呪いを解かないという選択をするはずがありません。
魔女にも、それはよく分かっていました。
それでも、


「たとえお前さんが呪いを解かない道を選んでも、ジル姫は決して責めたりはしないだろう」


そう言うだけの理由が、あったのです。
それは。


「単刀直入に言おうか。
……呪いを解くには、ジル姫が運命の人間の命を奪わねばならない。
そして、いつか生まれ変わった運命の人間の血を、一滴でも口にすること……」


……騎士ライトにとって、あまりにも酷な方法だったからです。


「…………」


不老不死、という強力な呪いを打ち消すだけの代償は
愛する運命の人の、尊い命だったのです。


「お前さんには選択する権利がある。

ジル姫に命を捧げ、来世で呪いを解き結ばれるか……。
この薬を飲み、共に生き地獄を味わうか……。
もちろん、ジル姫を忘れて生きるという選択肢もある」


魔女はそこまで言うと、呆然と立ち尽くす騎士ライトに、不老不死の薬を手渡しました。

そして、


「さぁ、悪いがワシにできる事はもう何もない。後は自分で決めるといい」


その言葉を最後に、魔女は部屋から出て行きます。
魔女の足音が遠のいていくのをぼんやり聞きながら、騎士ライトはギリ、と歯を食いしばりました。


「……ッ、」


やっとジル姫を救う方法が見つかったというのに……素直に喜ぶ事が出来ません。


(共に、生きたかった)


……呪いを解き、同じ時をただ幸せに過ごしたかったのです。

騎士ライトは、魔女に手渡された不老不死の薬に視線を落としました。
この薬を自分も飲めば、ジル姫と同じ時を過ごす事は、確かにできます。
しかし、


(……これ以上、終わりのない生き地獄をジル姫に?)


共に生き地獄を味わう事で、ジル姫は幸せになれるのでしょうか。
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