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15.騎士の帰還
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それから。
騎士ライトが旅立ってから、どれほどの月日が経ったでしょうか。
「……あぁ、ライト様!」
魔女の元から帰ってきた騎士ライトを庭園で出迎えたのは、ジル姫ではありませんでした。
満面の笑みをこぼす、リナ姫です。
「……リナ姫」
「会いたかった……! ご無事で何よりです! この一年、あなたの事ばかり考えていたんですよ!?」
嬉しくて興奮するリナ姫とは対照的に、騎士ライトは険しい表情を浮かべます。
庭園の中を見回すと、枯れ果てた草木ばかりが目に映り……
先ほど聞いた国王の話が本当なのだと、思い知らされました。
戻った事を報告した際に聞いた、国王の話。
それは
……ジル姫が、もうこの城にはいないということです。
かけつけた庭園に、ジル姫の姿はどこにもなく
荒れた庭園は、長い時間世話をする者がいなかったという事を、物語っていました。
「リナ姫……。ジル姫を何故、追放したのです?」
久しぶりの再会にも関わらずジル姫の話をされたからか、リナ姫はムッとした表情を浮かべました。
しかしすぐに、笑顔を作ります。
「追放しただなんて。ジル様が出て行きたいと申し出たんですよ? もう迷惑はかけたくないと……」
「…………」
そんなはずはないと、騎士ライトは見抜きます。
確かに、騎士ライトと出会ったばかりの頃のジル姫なら、そうしていたかもしれません。
けれど、今は違います。
ジル姫は、騎士ライトを待っていると約束してくれたのですから。
……しかし、これ以上聞いたところで無意味なのだと思いました。
それに、
「…….では、どこにいるのか教えてもらえますか? 陛下は、あなたに口止めされていると言って、教えて下さらなかったので」
今大事なのは、追放された理由ではなく
……ジル姫のもとに、帰る事なのです。
しかし。
「それはできません」
騎士ライトの質問に、リナ姫は首を横に振りました。
「リナ姫、」
「どうせ呪いを解く方法など見つからなかったのでしょう?
あなたの役目は、おじい様の遺言はもう終わりです。今まで本当にご苦労様でした」
何も、まだ何も終わってなどいないというのに。
リナ姫の言葉に、騎士ライトはただ不思議そうな表情を浮かべます。
「終わり……? 一体何を言って、」
「遺言は、ジル様の事は騎士トゥルーに任せることにしたんです。だって……ライト様? あなたは私と結婚するのですから」
……結婚。
リナ姫は、冗談を言っている様子ではありません。
「いずれ女王の夫となる身。あんな遺言は、他の者に引き継がせるしかないでしょう?」
リナ姫は、騎士ライトがいない間に国王をうまく言いくるめたのでしょう。
「……ご冗談を」
「お父様も、ライト様ならばと喜んでくださいました」
リナ姫は楽しくて仕方ないようです。
騎士という身分である騎士ライトがこの婚姻の話を断るなど、もってのほか。
ありえないからでしょう。
「……申し訳ありませんが、その話はお断りします」
「……え?」
リナ姫は目を丸くして、ただただ言葉を失います。
騎士ライトが断るだなんて、思いもしなかったのでしょう。
「愛のない結婚など、誰も幸せになれません」
騎士ライトの言葉に、リナ姫はみるみる顔を真っ赤にしました。
無理もありません。
一介の騎士に、恥をかかされたのです。
「……こ、断るという事がどういう事か分かってるのですか!? あなたは自分の立場を分かっていません!」
……そうです。
これは、いわばリナ姫の『命令』なのです。
騎士が王族に恥をかかせただけでなく、命令に背くということ。
それはつまり。
「承知しています」
「そんなに……そんなにジル様が良いというのですか!? 私の方がずっと昔からあなたの事……!」
「失礼します」
リナ姫の言葉を最後まで聞くことなく一礼し、騎士ライトは背を向けて歩き出しました。
もう、話す事はないと言わんばかりに。
「ライト様! 命令がきけないというのなら、私はあなたを処刑にする事だってできるのですよ!!」
騎士ライトは、逆上して脅迫めいた事を口にするリナ姫の方を振り返りました。
そして、
「構いません」
そう……どこか悲しげに微笑み、再び歩き出します。
「……ライト様ぁ……!!」
リナ姫の泣き声が聞こえ、思わず振り返ろうとしましたが、騎士ライトはとどまります。
優しくしたところで、更に傷つけるだけだからです。
(申し訳ありません、リナ姫)
……リナ姫のことですから、本当に騎士ライトを処刑にするかも知れません。
しかし騎士ライトにとって、それは既に大した問題ではありませんでした。
なぜなら
魔女の話を聞いてから城に戻るまでの間に、騎士ライトはある決断をしていたのですから。
***
『チチ!』
ジル姫の周りを、小鳥が元気に飛び回っていました。
すっかり羽の傷も癒えたというのに、小鳥はジル姫のそばから離れようとしませんでした。
今では、ジル姫の家族同然です。
「ふふ、今日はやけに元気ね?」
『チチッチチッ』
元気に飛び回る小鳥に、ジル姫は自然と笑みをこぼします。
……この山奥に来て、一年近く。
ジル姫は毎日騎士ライトの無事を祈り、その帰りをただ待ち続けていました。
騎士トゥルーとアリスは、時々城へ様子を見に戻ったり、買い出しや気晴らしに、町へと出かけたりしています。
しかし、ジル姫はこの場所から動こうとはしませんでした。
騎士ライトと、すれ違いになる可能性がゼロではないからです。
いつ騎士ライトが戻ってきても笑顔で迎えられるように
……ずっとこの場所で、待ち続けているのです。
「良い季節になったわね」
ジル姫はそうつぶやき、辺り一面に広がる、見事なまでの色とりどりの花畑を見渡します。
(ライト様……驚くかしら?)
そう、この花畑はジル姫が愛情をこめて育ててきたものです。
騎士ライトの反応を思い描くだけで、とても幸せな気持ちになります。
そして、ジル姫が花への水やりを再開しようとした
……その時。
「……ジル様! ライトが戻ってきたわ!」
離れた場所に位置する家の二階から、アリスが遠くを指差して声をあげました。
「ッ、」
ジル姫は、息をのみました。
高鳴る胸の鼓動を感じながら、ゆっくり振り返ると……
「……ライト様……」
会いたくて、会いたくてたまらなかった騎士ライトの姿が、目に映ったのです。
一旦城へと様子を見に戻っていた騎士トゥルーと何か話しながら、こちらへと歩いています。
ジル姫はいてもたってもいられず、騎士ライトの元へと花畑の中、駆け出しました。
「……ジル姫!!」
ジル姫に気づくなり、騎士ライトは満面の笑みを浮かべました。
……最後に会った時と何ら変わりない、優しい笑みを。
そして、
「……会いたかった……ジル姫」
「私も……私も会いたかったです……」
二人は強く、強く抱きしめ合いました。
……どんなに、この日がくるのを夢見たことでしょう。
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