永遠の誓い

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17.運命の再会

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***


時は経ち……

数え切れないほどの季節が巡り……。


ジル姫が生まれ育った国は、時代と共にいつしか姿を消しました。
原因は、遠い昔に起こった争いだとも、人々が豊かな大陸へ渡っていったからだとも言われています。

……緑で埋め尽くされた大地を見渡すかのように佇む、朽ちた古城。
今となってはそれだけが、過去、確かにこの島に国が存在していた事を証明していました。


そんな、今はほとんど誰も立ち寄る事のない島を目指している、一人の青年がいます。

青年の名は、シェイド。
その容姿は、驚くほど騎士ライトに似ていました。
……どこか人を寄せ付けない、冷たい瞳を除いては。

そう。
シェイドは、騎士ライトの生まれ変わりなのです。



「……あの島に向かう船がない?」


シェイドがたどり着いたのは、とある小さな港町でした。

この港町にやってきた理由。
それは、目的地……古城の島へと渡る船が、この町から出てると知ったからです。
……しかし、


「そうなんだ。残念だけど兄ちゃん、後一ヶ月待ってくれるかい」
「一ヶ月?」
「悪いな。あの島へは月に一度しか船を出してないんだ。つい何日か前に出したばっかりだからさ」


港にいた船乗りにさっそく船を出してもらえるか聞いたところ、そんな答えが返ってきました。


「……ずいぶん先だな」


不機嫌そうに眉をひそめるシェイドに、船乗りは肩をすくめて続けて言います。


「兄ちゃん、あんな島に何の用があるんだ? 月に一度、商人が薬草を採取しに行くくらいで、本当に何もない土地だぞ?」
「……別に」


船乗りの質問に答える事なく、シェイドは無愛想につぶやきました。


「? まぁとにかく、また来月来るんだな」


シェイドはため息まじりに、うなずきます。


「分かった」


どうやら船が出るまでの一ヶ月、この港町で時間をつぶすしかないようです。
そう判断したシェイドは、とりあえず宿屋に向かうことにしました。


町に出て。
酒場や果物屋、花屋が立ち並ぶ通りを抜けると、それらしい三階建ての建物が見えてきます。


「おやまぁ、客だなんて珍しい」


シェイドが宿屋に入るなり、離れた場所から中年の女性の声がしました。

声のする方へと視線を移すと、窓を拭いていた女性と目が合います。
ふくよかな体型に、人の良さそうな顔立ちをしています。
すると、


「…………」


一瞬、女性はまるで懐かしい人物を見るような、そんな表情を浮かべたのです。
……いいえ、シェイドの気のせいでしょうか。


「…….客が珍しいのか?」


受付のテーブルに向かいながら、思わず問いかけます。


「この港町は小さいから、旅人なんて滅多に来ないんだよ。
それに、夜になるとガラの悪い連中があちこちに出没するからねぇ。治安は悪いから気をつけるんだよ」
「……あんた、宿屋だろ。客ビビらせて帰ってほしいのか?」


シェイドはその女性……宿屋の女主人に、呆れたように言いました。
客を逃がしても仕方のない話をしてるのだから、当たり前の反応かもしれません。


「そんな事はないさ。まぁ本業って訳じゃないから、逃げ帰ってもらっても構わないけどね。
……何だい、怖くなったのかい?」


女主人の挑発的な問いに、シェイドはムッとした表情を浮かべました。
別に、そんなつもりで言ったわけではありません。


「逃げるもなにも、この町の治安なんか関係ねぇし。とりあえず一ヶ月、部屋を貸してくれ」
「そうかい。安心したよ」


女主人は胸をなで下ろすと、シェイドを三階の見晴らしの良い部屋へと案内しました。


「それじゃあ、ごゆっくり」


ーーパタン


女主人が部屋を出て行ったあと。
新鮮な空気をいれようと、部屋の窓を開けたシェイドの目に映るのは


「…………」


果てしなく広がる、澄んだ美しい海。

そして
遠くに小さく見える、もう何年も探し続けていた、古城が佇む緑の島……。

シェイドは、その景色をぼんやりとしばらく眺めた後、


「……何してんだオレは」


ポツリと自嘲気味な笑みを浮かべ、そう呟きました。

あの島には船乗りの言う通り、何もないのでしょう。

……しかし、“彼女”について何か手がかりがあると信じ、ここまで来ました。

今更、後にはひけません。



「……見ない顔だな。旅人か?」


すっかり辺りが暗くなり始めた頃。

酒場に足を踏み入れたシェイドに、カウンターの向こう側にいる店主らしき青年が声をかけてきました。
長い黒髪を一つに束ね、落ち着いた雰囲気をもつ、青年です。


「あぁ」


そっけなく答えてカウンター前の椅子に座るシェイドに、店主はさらに続けます。


「もう暗いし、さっさと宿屋に帰った方が身のためだぞ。この町の治安は、ちょっと良くないからな」


女主人と同じことを言われ、思わず眉をひそめてしまいます。


「客に帰ってほしいのかよ」
「いや、心配してるんだよ。ハンターと一緒じゃないのか?」
「…………」


呆れながらメニューを眺めるシェイドですが、そう言われても仕方がないと自分でも分かっていました。

シェイドは誰の目から見ても優男。
しかも、小型のナイフ以外、何も身につけていないのです。


「ナイフ一つでちゃんと自分の身を守れるのか? いくら町の中だからって、軽装すぎやしないか?」


悪気はないようです。
店主は本当に心配そうに、そんな事を忠告してきました。
シェイドの事を、世間知らずな貴族の息子か何かだとでも思ったのでしょう。

そんな店主の言葉に、シェイドはため息交じりに答えました。


「俺はこれでもハンターだ。ナイフ一つあれば十分だ」
「……へぇ! あんたハンターか!」


意外そうに大きな声を出す店主に、シェイドは少し苛立った様子を見せます。
着やせするとはいえ、よほど軟弱そうに見えたのでしょう。


「……悪ぃかよ」
「いや、ハンターといえばアレだろ。
その称号をもらえるのは、ごく一握りの強者だけだっていう……。
若いのにすごいな。俺と同じ二十代半ばってとこだろ?」
「んな事より、酒くれ」


興味津々に尋ねる店主の言葉をさえぎると、シェイドはぶっきらぼうに注文しました。

……この時代。

旅人が魔物に襲われて命を落とす事は、あまり珍しくありません。
昔に比べ、魔物の数が格段と増え続けているからです。

そのため、数十年前でしょうか。
“ハンター”という職業が、世の中に誕生したのです。

ハンターは町や旅人から依頼を受け、金品と引き換えに魔物を退治します。
その称号を手に入れる事が出来るのは、店主が言った通り、魔物を狩るだけの力を持つ、一握りの強者だけ。


「あぁ悪い。まぁそれなら心配無用だな。……でも、何だってハンターがこんな寂れた町に? 依頼でも?」


シェイドの他に、まだ客がいないからでしょう。
店主はさらにシェイドに話しかけてきます。
しかし……


「何だっていいだろ」


シェイドに全く会話をする気がないと悟ったのか、店主は苦笑してしまいました。


「つれない客だな……」


そして、差し出された酒の入ったグラスを、シェイドが手に取った
……その時です。


「……?」


酒場の外がやけに騒がしい事に気づき、二人は顔を見合わせました。


「また何かもめてるのか……。
気にしなくていい。どうせただの喧嘩だろう」


店主のため息まじりにつぶやいたその言葉から察するに、いつもの事なのでしょう。
この町の治安が悪いというのは、大げさでも何でもないようです。


「ふぅん……」


シェイドは外の騒ぎを気にするのをやめ、グラスに入った酒を口にしました。
……すると。


「……や、やめてください……!」


かすかに聞こえてきた、若い女性の声に
……シェイドのグラスを持つ手が、固まります。


「……女の声? おいおい、こんな時間に女が外にいるのか?」


店主は、女性が外にいる事に驚いた表情を浮かべます。
そして、慌てて外の様子を見るために店の出入り口に向かいますが……


――ガチャ!


「お、おい」


店主が出るより先に、シェイドが店の外へと出たのです。

外に出たシェイドが辺りを見渡すと、少し離れたところに体格のいい数人の男たちが目に映りました。

……その男たちに囲まれ、腕をつかまれている華奢な女性の姿も。


「…………、」


ふわふわとした長い髪のその女性を見て
……シェイドは、息をのみます。


「いいだろ? オレたちといい事して遊ぼうぜ」


ニヤニヤと、いやらしい視線を女性に投げかける男にハッと我に返ると
シェイドは眉間にシワを寄せながら、スタスタと歩み寄ります。


「……ん、何だ? 見ない顔だな……」


数人のうちの一人が、近づいてきたシェイドに気づいて声をかけましたが、それを無視します。
そして、女性と女性の腕をつかんでいる男の目の前でピタリと立ち止まるなり、


――グイッ


その腕を、強くつかみました。


「な、何だよお前は?」
「オレの連れだ。……この汚い手、さっさと放せよ」


シェイドの殺気を含んだような冷たい視線に、男は思わずひるみます。
そして、


「…………ッ、」


シェイドを目にした女性が
……驚いたように、目を見開きました。

そんな女性に視線をチラリと移すシェイドは、顔色を変えることなく、すぐに視線を男へと戻します。


「連れだと? そんなの知るか!」


男は自分のほうが有利な状況下にあると、判断したのでしょう。
その言葉を合図に、周りにいた数人の男の仲間たちがシェイドを取り囲みました。
どの男たちも、シェイドよりも体格のいい者ばかりです。


「よそ者だな? この町じゃ、力のねぇやつは強いやつに従う決まりなんだよ!」
「きゃっ、」


男が女性の腕を乱暴に放すなり、男の仲間たちが一斉にシェイドに殴りかかってきました。


「おい、あんたはさっさと逃げろ。邪魔だ!」


ドン、と女性の体を突き飛ばしてそう怒鳴るシェイドは……


「自分の心配でもしてな!」
「それはこっちの台詞だ。このチンピラが」


なんと、逃げることなく、男たち相手に喧嘩を始めてしまったのです。

いくら何でも無茶です。
しかし、女性に喧嘩を止めさせる術はありません。
ですから、


「ッ、誰か……!」


助けを求めるため、女性は近くにある酒場へと急いで駆け出しました。


――ガチャ!


「た、助けてください! ……きゃっ」
「おっと」


ドアを開けた瞬間に女性は何かとぶつかり、尻餅をついてしまいます。
店主が銃を手に、ちょうど外へ出るところだったのです。


「悪いな、大丈夫か?」
「は、はい」


手を差し伸べられ、その手をとろうと店主の顔を見上げた女性は……
シェイドを見た時と同じように、驚いた表情をうかべました。
なぜなら。


「……トゥルー、様……?」
「ん? いや、オレはライアンっていう名前だが……」


……そうです。
この女性は、ジル姫……いえ、ジルだったのです。

そして、今ジルの目の前にいるライアンは、騎士トゥルーの生まれ変わりなのです。


「……あ……す、すみません……。
……それより、あの、ライト様……ではなくて、助けてくれた男性が、」


今は驚いている場合ではありません。
混乱しながらも、ジルは今の状況をすぐに思い出します。


「あぁ、分かってる」


ライアンはその言葉にうなずくと、ジルの手をとり立たせました。
そして、


「中で待ってろ。オレはあの旅人に加勢してくる」


 ジルにそう告げると、酒場から出て行きました。


ライアンは外に出るなり、辺りを見回します。
この銃を使う気はさらさらありませんが、男たちを追い払うには十分でしょう。
しかし……


「! 
……こりゃあ、また……派手にやったもんだ」


どうやら、余計なお世話だったようです。

ライアンの目に映った光景。
それは、地面に倒れている町の男たちの情けない姿でした。
ジルが助けを呼びに行っているほんの少しの間に、シェイドはたったの一人で喧嘩を終わらせていたのです。


「……いてぇっ……」
「お、覚えてろよっ……」


男たちの姿とは対照的に
シェイドはというと、かすり傷程度で済んだようです。


「覚えてられるかよ」


男たちに悪態をつくと、シェイドは何事もなかったかのように、スタスタとライアンの店へと戻ってきました。


「さすがハン……」
「……ッ、ライト様!!!」


“さすがハンターだな”
そう、ライアンが話しかけようとした時です。
ジルがシェイドに駆け寄るなり

……強く
強く、抱きつきました。
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