永遠の誓い

rui

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「……ライト様! ライト様! ずっと、ずっと会いたかった……!!」


……ジルは
長い、長い年月を一人生きてきました。
気が遠くなるくらいの、長い年月を……。

それは、生き地獄以外の何ものでもありませんでした。
それでも、精神を崩壊させることなくこの日まで生きてこれたのは
……騎士ライトとの誓いが、あったからです。


『生まれ変わっても…….必ずあなたを探し出し、愛する事を誓います』


騎士ライトはジルに命を捧げることで、わずかな希望の光を残してくれました。
だからジルは、強くあろうと決意したのです。

いつか再会するその日まで、決して諦めないと。
何があっても、決して泣かないと……。

祖国がなくなってからは、島周辺の土地を旅していました。

そして今日。
数年ぶりにこの町へとやってきたのです。

……再び出会えた喜びで浮かれていたジルでしたが、


「……人違いだろ」
「……え?」


そのシェイドの冷たく放った言一言に。
……全身が凍りついたような、そんな気がしました。

グイッ、とシェイドはジルの体を引き離します。


「送ってやるから、さっさと家に帰れ」
「……あ……」


ジルは何が起きたのか、すぐには理解出来ませんでした。
呆然とした表情でシェイドを見つめるその目からは、今にも涙が零れ落ちそうです。

……よく考えてみれば、当たり前の事だというのに。

たとえ彼が騎士ライトの生まれ変わりであっても
遠い過去の、前世の記憶など……あるはずがないのです。

ジルのことを、覚えているはすがないのです。


「……、ライト……様……」


そんな事に今更気づき、ジルはショックを隠せません。

生まれ変わった騎士ライトと再会すれば……
今度こそ、今度こそ共に生きる事が出来るのだと……ずっと、信じて疑わなかったのです。


「あぁ、そうしてもらうといい。
いいか、この町は治安が悪い。暗くなったら一人で出歩くもんじゃない」


ライアンの言葉にジルはハッと我に返ると、小さくうなずきます。


「……はい。あの、ありがとうございました」


そして、ジルを待つ事なくスタスタと歩き出したシェイドの後ろ姿を、ぼんやり見つめました。
……騎士ライトと、同じ後ろ姿を。
すると、


「何してんだ。行くぞ」
「は、はい……」


ジルがついて来ない事に気づいたのでしょう。
シェイドは振り返って面倒くさそうにそう言うと、再び背を向けて歩き出してしまいました。


「それじゃあ、行きます」
「あぁ、気をつけて」


ジルは慌ててライアンに頭を下げると、シェイドのもとへと急いで駆け寄ります。



「……覚えて、ませんか? 私の事……」


無言で歩くシェイドの背中を見つめながら、ジルはすがるような気持ちでポツリと口を開きました。

ほんのわずかだけ、まだ期待していたのです。
……もしかしたら、と。
しかし、


「知らねぇ」


シェイドは振り向く事なく、そんな素っ気ない一言だけを返してきました。


「……そうですよね」


再び目頭が熱くなるのを感じますが、ジルはうつむき涙をこらえます。
泣いたところで、騎士ライトの記憶が蘇るわけではありません。


「……何、あんた誘ってんの?」
「、え?」


ピタリ、と立ち止まって言うシェイドの言葉に……ジルは、耳を疑いました。


「別に、女なら誰でもいいけど?」


騎士ライトは、冗談でもそんなことを口にしません。
なのに……。

思わず顔をあげると、シェイドは冷たい目でジルを見ていました。
これっぽっちの感情もこもっていない、冷たい目で。


「……ッ、」


口調も、性格も、瞳も
何もかもが、騎士ライトとは違いました。
生まれ変わりだというのに……まるで別人です。

そんなシェイドに、ジルはただ動揺して言葉を失ってしまいました。


「で……ライトって、誰?」


黙ってしまったジルに、シェイドは再び歩き出しながら質問しました。
しかし、大して興味はなさそうに見えます。

ジルは少しだけ躊躇しましたが、ゆっくりと歩きながら話し始めました。


「……もう何百年前になるのか、私にも分かりません」
「…………」


遠い、遠い昔の話は……
まるでおとぎ話のようだ、とジルは思います。

不治の病
魔女
不老不死の呪い
騎士との出逢い
淡い恋
呪いを解く方法
誓い
別れ
そして……。


「あなたは……ライト様の生まれ変わりだと、私には分かるんです」


全てを話し終えて
ジルは、最後まで黙って聞いていたシェイドの背中を見つめました。


「愛してます……」


おそらく、彼は何一つ信じないでしょう。
しかしそれは仕方のないこと。

それでもジルは、話さずにはいられなかったのです。


「……愛してる?」


シェイドは宿屋の前でピタリと立ち止まるなり、どこかバカにしたように鼻で笑います。
そして、


「あんたはオレのこと、何も知らねぇだろ」


振り返ることなく、ジルを突き放すように冷たい声で言いました。


「オレはオレだ。そのライトってやつの生まれ変わりだか何だか知らねぇけど……
あんたに、興味はない」
「……ライト、様……」
「違う。オレの名前は、シェイドだ」


そこで初めて、ジルは一筋の涙が頬を伝っていることに気づきます。


(ダメ、泣いちゃダメ)


グッと唇をかみしめ、手の甲で涙をぬぐいました。

高望みなどしてしまった自分を、ジルは恥ずかしく思います。

……記憶になくても、たとえ興味をもたれなくても。
こうして、生まれ変わった愛する騎士ライトと出会えただけで
……それだけで、十分なのです。


「シェイド様……ですね」
「……シェイドでいい。
そんな事より、あんたも宿屋でよかったのか?」


『そんな事』


シェイドの一言一言が胸に鋭く突き刺さり、ズキズキと痛みます。

ようやく振り返ったシェイドは、黙って小さくうなずくジルを確認すると、宿屋のドアを開けて中へと入りました。

……そんなシェイドの後ろ姿に。
ジルは、どうしても騎士ライトの後ろ姿を重ねて見てしまいます。
しかし、


『……愛してる? あんたはオレのこと、何も知らねぇだろ』


さきほどのシェイドの言葉が、頭をよぎりました。

そう。
ジルは、『シェイド』の事を何一つ知りません。
彼がどこで生まれ、どんな人生を歩んできたのか……どんな人間なのかも
何一つ、知りません。

ジルがぼんやりと宿屋のドアの前に突っ立っていると。


「……おい、何してんだ」


なかなか中に入って来ないジルに対し、シェイドが苛立った口調で声をかけます。

……これが騎士ライトだったら、


『どうかしましたか?』


心配そうに、そう優しく聞いてくれたでしょう。
そんなことを考えながら、黙ってシェイドの顔を見つめるジルに
シェイドは呆れたような表情を浮かべると、ため息をつきました。


「珍しい日だねぇ。一日に二人も客が来るなんて」


そんな二人のもとに、受付にいたらしい宿屋の女主人がパタパタと足音をたててやってきました。
そして、


「……おやまぁ。こんな時間に、あんたみたいな若いべっぴんさんが出歩くもんじゃないよ」


そう、ジルに向かってどこか優しい笑みを浮かべて言います。


「あ……はい、気をつけます……」


会った事はないはずなのに……
その女主人の笑みに、ジルは何故か懐かしい気持ちになりました。


「あの、部屋は空いてますか?」
「もちろん」


ジルが女主人とそんなやりとりをしているうちに。


「あ、」


気づいたら、シェイドがスタスタと自分の部屋へと向かい歩き出していました。
もう、自分は何の関係もないと言わんばかりに。


「ま、待って」


慌てて女主人から鍵を受け取ると、ジルは急いでシェイドに駆け寄りました。


「シェイド、」
「……何? まだ何か用?」
「…………」


そっけないシェイドの態度に、胸が痛みます。

彼は、騎士ライトではないのです。
頭では理解しても、やはりそう簡単に切り替える事ができません。

……心が、付いていけないのです。


「さっきのお礼を、何かさせてほしいの……」


もっと、一緒にいたい。
もっと、話したい。

ただそれだけの想いで、ジルはそう言ってシェイドを引き止めました。
しかし、そんなジルの気持ちを知ってか知らずか……
シェイドは自分の部屋の前でピタリと立ち止まると、


「体で?」


振り返り、相変わらずの冷めた表情でそんなことを口にします。


「……ッ、」


別人、でした。

あんなにも優しい、愛おしそうな眼差しを向けてくれていた騎士ライトとは
全くの……別人でした。

ポタリと、床に涙が一滴落ちた事に気づいた瞬間。


「ッ、うっ……」


ジルはついに我慢できなくなり……
歯を噛み締め、声を押し殺し。
その場に座り込んで、泣き出してしまいました。
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