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19.解かれた呪い
しおりを挟むシェイドはというと、泣いているジルを前に……少し困った表情を浮かべます。
泣かせるつもりは、なかったのでしょう。
「……冗談に決まってんだろ」
そして、ジルを見下ろしながら続けて言いました。
「……まぁ、これで分かっただろ。あんたが愛した男はもうどこにもいない。それが、現実だ」
「やっ……違うわ……! ライト様はちゃんとここに……」
ジルは思わず顔を上げ、シェイドの言葉を否定しようとしました。
騎士ライトは生まれ変わり、ちゃんとジルの目の前にいるのです。
……けれど。
ジルは、シェイドを見て言葉を失ってしまいました。
一瞬……
シェイドが寂しそうな、そんな表情を見せたからです。
「……オレは、ライトじゃない。シェイドだ」
何故そんな寂しそうな表情をしたのか、ジルにはまるで分かりません。
少し驚いた表情でシェイドを見上げていると、グイッと腕をつかまれ立たされました。
そして、
「そういえば……呪い、解くにはオレの血を口にしなきゃならないんだって?」
思い出したように、ジルの目を真っ直ぐに見つめて聞いてきました。
ジルの話した遠い過去の話を、おとぎ話のような話を、信じてくれたのでしょうか。
それとも、面倒だから話に付き合ってくれているだけなのでしょうか。
シェイドは腰に下げていた小型のナイフを手にしながら、
「血くらいやるよ。その代わり……二度とオレに構うな」
……そう、冷たく言い放ったのです。
「ッ、」
また愛してほしいだなんて、我がままを言うつもりはありません。
なのに何故……ただそばにいる事さえ、叶わないのでしょうか。
ジルは首を横に小さく振りながら、
「いや……嫌です。それならば、いりません……!」
そう、自分でも信じられない言葉を口にしていました。
「は? お前……呪いを解かなきゃ、」
「私は、」
……遠い過去。
騎士ライトが自分の腕の中で永遠の眠りについたあの日の事を、今でも鮮明に覚えています。
愛していました。
今でも、ずっと……。
数百年の時を経てやっと再会できたというのに、二度と会えなくなるだなんて
ジルにはとても、耐えられません。
「私は……あなたに二度と会えなくなるくらいなら、生き地獄のままでいい……」
震えた声に、あふれる涙。
シェイドはそんなジルに対して舌打ちをすると、自分の指先をナイフで切ります。
すると、その指先から赤い血が滴り落ちました。
「いい加減にしろよ!」
「ッ、」
シェイドの苛立った大きな声に、ジルは思わず目を閉じてビクリと体を震わせました。
そして……次の瞬間。
シェイドは傷ついていない方の手でジルの顎をつかむと
血の滴る指を……無理やり口の中へと、押し込めてきたのです。
「い、嫌っ……ッ、!!」
首を振り、必死にジルは抵抗します。
……しかし、抵抗もむなしく
口の中で血の味がじんわりと広がるのを、ジルは確かに感じました。
『二度とオレに構うな』
先ほどのシェイドの冷たい言葉が、頭の中で繰り返されます。
シェイドは指を抜くと、呆然とするジルからゆっくりと離れます。
そして、何か言いたげな表情を浮かべていましたが、
「…………」
結局何も口にすることなく
パタン、と自分の部屋へと入っていきました。
(……何が……起きたの……?)
『私の命をあなたが奪い……いつか生まれ変わった私の血を、一滴でも口にする事。
それが、呪いを解く唯一の方法……』
そうです。
長い間、夢にまでみた……瞬間でした。
騎士ライトの生まれ変わりと出会える日を、呪いが解けるこの時を、一体どれだけ待ち続けたでしょうか。
なのに今。
……ジルの心は、絶望感でいっぱいでした。
「こんなの嫌よ……」
あふれる涙を必死で拭いますが、一向に止まりそうにありません。
『姫の呪いが解けて元の体に戻った暁には……』
遠い過去の、騎士ライトとの思い出が鮮明に蘇ります。
『どうか私と結婚してほしい』
突然のプロポーズ……
『初めて会った時から、あなたに惹かれていました』
そして
『私はあなたと共に生き、同じ年月を過ごしたい』
……この数百年、一度たりとも忘れた事のない言葉。
(ライト様は……もう、どこにもいないの?)
『知らねぇ』
『オレはオレだ。そのライトってやつの生まれ変わりだか何だか知らねぇけど……
あんたに、興味はない』
『……まぁ、これで分かっただろ。あんたが愛した男はもうどこにもいない。それが、現実だ』
(現実……?)
ジルはついに、現実を受け止めなければならないのだと悟りました。
騎士ライトは、遠い昔に命を断って亡くなったのです。
もう、この世にはいないのです。
生まれ変わったシェイドは、別人なのです。
「…………」
力なく立ち上がると、ジルは涙をぬぐいながら、シェイドの部屋の前からゆっくりと離れました。
ずっとこの場にいても、ただ拒絶されるだけでしょう。
たとえ騎士ライトとは別人だとしても、やはり嫌われたくはありません。
『二度とオレに構うな』
……会うことも話すことも、拒絶されてしまいましたが。
自分の部屋に入る直前に、ジルはもう一度だけシェイドの部屋のドアに目をやります。
『……オレは、ライトじゃない。シェイドだ』
あの時、一瞬見せたシェイドの悲しげな表情を思い出して
……胸が、締め付けられました。
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