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番外編
過去の記憶2
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「……おい、大変だ!」
ーーバタン!
隣町へと稼ぎに出ていたマシューが、慌てた様子で廃屋へと帰ってきました。
マシューたちが十六才。
シェイドが十二才の頃のことです。
相変わらず四人は、盗みに恐喝……生きるために必死でした。
しかし
ローズとマシューとシェイドが、隣町まで日雇いの仕事をしに行くようになり
ほんの少しだけ、まともな暮らしができるようになりつつありました。
「慌ててどうしたの?」
部屋の掃除をしていたローズと、それを手伝っていたシェイドは
マシューの様子がおかしいことに、すぐに気づきます。
マシューは息を切らしながら、
「ま、町の時計屋のじいさんが、死んだ……」
そう、真っ青な顔をして言いました。
しかし、ローズとシェイドは顔を見合わせます。
「誰だっけ?」
「さぁ……」
そう反応するのも、無理ないでしょう。
町の人々からは、昔から邪険に扱われてきたのです。
ですから、たとえ死んだと言われても、ピンとこないのです。
なぜマシューは、真っ青になり慌てているのでしょうか。
その理由は、マシューの次の言葉により、判明します。
「エドが、殺したんだ!」
「仕方ねぇだろ。あのクソジジィ……わざわざ追いかけてきて、鉄の棒で思いっきり殴ってきやがった」
マシューに続いて、エドが腕をダランとしながら部屋へと入ってきます。
まるで、人を殺したことを何とも思っていないようです。
「……ちょっと、殺したなんて冗談でしょ?」
ローズが震えながら、エドに聞きました。
しかし、
「今ごろ、犯人を探してんじゃねーか?」
エドは笑いながら、肩をすくめてみせます。
ローズは、そんなエドに歩み寄ると。
ーーパン!
その頬を、力いっぱいに叩きました。
目からは、ポロポロと涙が流れています。
「なんで……なんでよ!!
まともな暮らしがしたくて、私たち頑張ってるのに、なんで邪魔するのよ!?」
「お、落ち着けローズ」
エドの胸を叩くローズを、マシューが慌てて静止します。
シェイドはというと……ただ、唖然とするばかり。
すると、
「見ろよ。これだけの高価な時計を売れば、まともな暮らしができるだろ?」
エドはそう笑いながら、盗んだ時計をポケットからたくさん取り出します。
ローズとマシューは、思わず顔を見合わせました。
「宝石がたくさんついてる……」
「全部売ったら、すごいんじゃないか? ……こうしちゃいられないぞ! 早く荷物まとめて、この町から逃げよう!」
ローズとエドは、マシューの言葉にうなずきます。
人を殺しておいて、盗んだモノを売ってまともな暮らしを……。
三人の気持ちが、分からないわけではありません。
事実、シェイドも“やっとこんな生活から抜け出せる”と、そう、確かに思いました。
しかし。
「シェイド、何つっ立ってるの? 捕まったら、私たちみんなが処罰され……」
「オレは、行かない」
荷造りするローズの言葉を遮って
シェイドは、ポツリと言いました。
「は? 何言ってんの、お前! エドは町のやつらに顔を見られてんだぞ!」
マシューも呆れたように、続けて言います。
しかし、シェイドは一緒に行く気にはなれません。
「……オレも、盗みをしたり騙したりしてきたから、人のこと言えねぇけど。
でも……お前ら、人の命、なんだと思ってんだ?」
まるで反省する様子も、罪悪感を感じる様子もないエドたち。
そんな彼らと一緒に行く気には、なれなかったのです。
そんなシェイドの胸ぐらを、エドがつかみます。
「イイコちゃんぶってんじゃねぇよ。てめぇ、オレたちがいなかったら今ごろのたれ死んでたんだぞ!」
「それは……」
もちろん、分かっています。
エドにマシュー、ローズたちがいなければ今ごろどうなっていたか。
「もう知るか! ローズ、マシュー、行くぞ!」
話すだけ時間の無駄だと思ったのでしょう。
エドはシェイドの服を放すと、廃屋から出るためにクルリと背を向けました。
「お前ら、ホントにそれでいいのか?」
シェイドは、ローズとマシューに確認するように声をかけます。
すると、
ーーバタン!
「……いたぞ! こいつらだ!」
突然、ドアが開き
町の男たちが、一斉にやってきたのです。
「時計屋のじいさんを病院送りにしやがったのはどいつだ! 今日という今日は許さねぇ!」
……病院送りに。
その言葉を聞いて、シェイドは少しホッと安堵します。
命は無事だったということでしょう。
しかし今は、自分たちの心配をしなければなりません。
「たしか金髪のやつだ……お前だな!?」
一人の男が、エドを見て言います。
すると、
「オレじゃねぇ! 盗みもジジィをやったのも……シェイドが一人で勝手にしたことだ!」
そう言って
シェイドの背中を、ドン、と町の男たちに突き出しました。
「……はぁ? オレじゃ、」
「ほら見ろよ、盗んだ宝石を持ってる!」
シェイドが否定するより先に
エドが、盗んだ時計をシェイドのポケットから出したように、町の男たちに見せました。
罪を、なすりつける気なのです。
「こんなチビじゃなかった気もするが……確かに金髪だ」
「おい、他の盗んだ時計はどこにやった!」
あっという間に、シェイドは町の男たちに囲まれてしまいます。
「マシュー、ローズ、」
困惑しながら二人の名前を呼びますが、返事はありません。
なぜなら
エドたち三人は、その隙に窓から逃げ出したからです。
「……ッ、」
『ね、シェイド……。私たちは、ずっと仲間だよ。ううん、家族』
不意に……
昔、ローズが言ったその言葉を、思い出しました。
『絶対、何があっても一緒だよ。約束。シェイドのこと、親みたいに見捨てたりしないから』
あれは
あの言葉は、一体なんだったのでしょうか。
シェイドはギリ、と歯を食いしばりました。
「……他の時計はどこだ?」
「どこにもないぞ?」
「すまん、やっぱりオレが見たのはこんなガキじゃなかった気がする」
「なんだと!? おい、逃げた仲間はどこに……」
そんな町の男たちの会話を、シェイドは聞いてはいません。
……仲間だと、思っていました。
しかし、そう思っていたのは、シェイド一人だったのです。
エドもマシューもローズも、まともな暮らしをするために
シェイドを、あっさりと切り捨てられるのです。
--それから
襲われた時計屋の主人の証言により、犯人がシェイドではないことがハッキリと証明されました。
ですが、エドの仲間であったことに、かわりありません。
しかし……
シェイドはまだ十二才。
親にも仲間にも捨てられたことに、同情する声もありました。
「……町から出て行け。二度とこの町に戻って来るな。
もし戻ってきた時は、エドとかいうやつの代わりに罰を受けてもらうぞ」
それが、町の大人たちが出した答えです。
「…………」
誰も、引き止める者はいません。
当たり前のことに、シェイドは苦笑いを浮かべました。
そして、一人歩き出します。
(……何のために生きてんだか)
あてもなく歩きながら、ふと、そんな疑問が脳裏をよぎりました。
誰からも必要とされないし、必要ともしない自分は
一体、なんなのでしょうか。
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