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番外編
夢の中で2
しおりを挟むそれにしても、とシェイドは不思議に思います。
「……ずいぶんリアルな夢だな……」
まるで、本当に過去の世界にやってきたかのような。
そんな訳がないことは、もちろん分かっていますが。
それより今は、ジルです。
確か、おぼろげな記憶を辿るなら……
彼女はいつも、色とりどりの花が咲き乱れる美しい庭園にいたはずです。
「ライト、そんなヘンテコな格好してどうしたんだ?」
シェイドが城の外をウロウロしていると
ライアンに瓜二つの騎士が、話しかけてきます。
彼の名は、トゥルー。
騎士ライトの親友だったと聞いています。
彼の言う"ヘンテコな格好"は、シェイドの生きる時代的には、ごくごく普通の服です。
なんだか妙に細かい夢に、苦笑するしかありません。
「……庭園ってどこだ?」
「庭園? そんなのあったか?」
首をかしげる騎士トゥルー。
どうやら、本当に知らないようです。
「いや、なんでもない」
それだけ言うと、シェイドはスタスタと再び歩き出します。
彼女は一体、どこにいるのでしょう。
しばらく広い城の外をくまなく探し歩いていると。
どこか見覚えのある、レンガ造りの塔が見えてきました。
……何度か夢に見た、ジルの住む塔です。
周りを見渡してみれば、庭園も視界にうつります。
きっとジルは、あそこにいるに違いありません。
はやる気持ちを抑えながら、シェイドは足早に庭園へと向かいました。
「…………」
庭園の中に入ってみると……
まるで、花畑の中にいるかのような、そんな感覚。
……この感覚には、覚えがありました。
何度も。
何度も、夢に見ました。
彼女との……ジル姫との出会いの時のことを。
サァァァ……、と水の音が聞こえます。
あの時と、同じように。
シェイドはゆっくりと、音のする方へと向かいました。
たかが夢。
たかが夢だというのに、なぜ、こんなにも緊張しているのでしょう。
「……ジル」
ふわふわとした、長い髪の女性の後ろ姿に向かって。
シェイドは思わず、つぶやきました。
「……え?」
名前を呼ばれたことで、驚いて振り返るのは……
シェイドのよく知る彼女と、何ら変わりない容姿をした……美しい女性。
ジル姫でした。
ジル姫はシェイドを見つめます。
まるで、他人を見るような瞳で。
おそらくは、まだ騎士ライトと出会ってすらいないのだとすぐに気づきました。
「……もしかして、あなたが騎士ライト様ですか?」
「……いや、違う」
「え? ……じゃあ、あなたは……?」
騎士ライトとの出会いは、もうすぐなのでしょう。
シェイドがジル姫の元まで歩みよると
警戒されているのか、ジル姫が少し後ずさりします。
表情も、かたいまま。
そんなジル姫に苦笑しつつ、シェイドはその柔らかな頬を両手で包み込みます。
「あ、あの……」
「あんたは、幸せになれる」
赤くなって戸惑うジル姫に、シェイドはハッキリとそう告げました。
「……ッ、」
「呪いは解けるし、必ず、幸せになる。だから、なんも心配すんな」
そう、自信たっぷりに話すシェイドを、ジル姫は戸惑いながらも潤んだ瞳で見つめます。
(やっぱり、ジルだ)
自分のよく知る、可愛らしい……愛しい女性。
思わず唇を重ねたくなりましたが……我慢です。
「……あなたは一体……誰?」
すっ、とジル姫から離れると、シェイドは笑みを向けました。
安心させるような、そんな優しい笑みを。
と、その時。
庭園の入口付近から、誰かが近づく気配を感じました。
おそらくは、騎士ライトでしょう。
今、彼と対面すればややこしい事になりそうです。
だから、
「じゃあな」
「あっ、待って!」
ジル姫が止める間もなく。
シェイドは、あっという間に庭園の壁を軽々と飛び越え、行ってしまいました。
***
ジル姫にとっては、嵐のような時間でした。
彼は、一体何者なのでしょう。
「…………」
彼に触れられた頬が、熱くて仕方ありません。
ぼんやりと、彼が飛び越えた庭園の壁を見つめていると、
「あなたが……ジル姫ですか?」
庭園にやってきた人物に声をかけられて、ハッと我に返ります。
そして、視線をその人物へと移して。
「……お初目にかかります。
私は、騎士ライトと申します」
「あなたが……ライト様……」
ジル姫は、目を疑いました。
先ほどの彼と、あまりにも似ていたからです。
***
シェイドは、二人の様子を離れた木の上から眺めていました。
「……これが夢なら、なんで覚めねぇんだよ」
誰に言うわけでなく。
シェイドははぁー、と深いため息をつきながら前髪をくしゃりとかきあげます。
『…あなたは一体……誰?』
ジル姫の戸惑う表情を思い出して。
「……早く帰りてぇな」
……あいつの元に。
そう、ポツリと呟きました。
シェイドは、視線を城の外へと向けます。
遥か遠く。
魔女がいる、迷いの森の方角へ。
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