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番外編
夢の中で3
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「……待っていたよ」
迷いの森。
そこへやってきたシェイドの目の前に、杖をついた黒いローブに身を包む老女が、落ち着いた表情を浮かべて立っていました。
この老女はもちろん……魔女です。
「やはりお前さんは……騎士ライトの生まれ変わりだね?」
ずっと、遠くからシェイドのことを見ていたのでしょう。
シェイドはコクリと頷きます。
「なぁ。元の世界に帰るには、どうしたらいい?」
ここにたどり着くまでに、ずいぶんと時間がかかりました。
朝に目が覚めて、お腹が空き、歩けば体は疲労し、夜になれば眠くもなり。
そして目が覚めても……ずっと、シェイドはこの夢から覚めることができませんでした。
この世界から抜け出すには、魔女を頼るしかないのです。
「なるほど……お前さんは迷い込んだようだね」
「迷い込んだ?」
「大丈夫、稀にあることだよ。お前さんの望みが叶えば、きっと元の世界に戻れるだろうね……」
「望み……」
望みなんて、ただの一つだけ。
ジルの待つ現実世界に、戻ることだけ。
この覚めない夢から、抜け出すことだけ。
……けれど。
「……夢の中なら叶えること、できるのかもな」
シェイドはポツリと、つぶやきます。
目を閉じて、思い出すのは……血まみれになりながら泣き叫ぶ、ジル姫の泣き顔でした。
それは、シェイドが騎士ライトだった頃の、おぼろげな前世の記憶。
彼女の心に、深い深い傷を負わせてしまいました。
もちろん、そうするしか方法がなかったのです。
そうしなければ、ジル姫は終わりなき生き地獄の中を、孤独に過ごしていたことでしょう。
生まれ変わったシェイドと、ともに生きることもできなかったのでしょう。
それでも。
「……騎士ライトとジル姫が、死ぬまで共に生きていくこと……だね?」
これは、夢。
夢の中の、世界。
だからこそ、前世で叶わなかった夢を……見てみたいと、思ったのです。
ああ、と静かに頷くシェイドに、魔女は続けます。
「方法はある。
お前さんが、騎士ライトの代わりにジル姫に命を差し出すことだ」
「……」
「おそらくは元の世界に帰れるはずだが……絶対とは言い切れないよ。
お前さんに、その覚悟はあるのかい?」
騎士ライトの命をジル姫の手で奪わなければ、呪いは解けません。
しかし、騎士ライトの代わりに、生まれ変わりでもあるシェイドが命を差し出せば。
シェイドは迷いなく、
「ああ」
キッパリと、即答します。
悩む必要など、何もありません。
それに、
「……いい加減、この夢から覚めたいしな」
他に、元の世界に戻る方法もないでしょう。
「そろそろ限界なんだ。早くあいつを、」
(……ジルを、抱きしめたい)
シェイドはジルの笑顔を思い出し、笑みを浮かべました。
とても、とても幸せそうな笑みを。
「この世界がお前さんの夢の中かどうかはさておき……。
ジル姫は、お前さんの世界ではどうやら幸せになっているようだね……」
魔女が、どこか安心したような表情を浮かべます。
そういえば、魔女はずっと、ずっとジルを見守っていたことを思い出しました。
呪いが解け、シェイドと結ばれるその日まで、ずっと。
シェイドは少し苦笑しました。
「……そうだといいけどな」
ジルが幸せかどうかは、正直、シェイドには分かりません。
いつも隣で笑ってくれてはいますが……。
少し自信がないのも、仕方がないのかもしれません。
シェイドは彼女に対して、いつもつっけんどんな態度をとってしまうのです。
……単に、照れているというか、女性の扱いに慣れていないだけなのですが。
時々、不安になるのです。
こんな自分に……。
「しかしまぁ、騎士ライトとはずいぶんと性格が違うようだね……。
ジル姫に愛想をつかされてないかい?」
「はっ? んな訳……」
不安を言い当てられたシェイドは、強く言い返すことができません。
「……おやまぁ、図星かい。
一つだけアドバイスをあげようか」
「……なんだよ」
「お前さんは、口下手そうだからね。
なぁに簡単さ。思っていることを、ちゃんと言葉にすればいい……」
言葉に……。
シェイドが口を開くより先に。
「そろそろ、騎士ライトが来る頃だね……」
魔女がそう、口にしました。
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