影の織り手たち

あおごろも

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【第五章】終夜の影

28 : エリオの贈り物 ー後編ー

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 休日の午前、ルクスはエリオとともに学院の門を出た。
 学院指定の黒を基調とした外出用コートをはおり、馬車に乗って街へと出る。
 貴族街へと続く石畳の道を走る馬車の中、ルクスは緊張を隠せなかった。
 隣に座るエリオは、そんな様子を気にも留めず、流れる景色を眺めている。

「何か手が必要な用事が?」

 控えめに尋ねると、エリオは唇の端をわずかに上げて応じた。

「必要になったら指示する。それまでは、ただついてこい」



 最初に訪れたのは、貴族街でも屈指の名店と謳われる宝石店だった。
 表通りから奥まった場所に佇むその店は、外からでは中の様子すら窺えない。
 しかし、重厚な扉をくぐった瞬間、別世界のような光と静謐さに包まれた。

「お待ちしておりました、グランヴェレス様」

 店主らしき老紳士が深く一礼し、ふたりを奥の特別応接室へ案内する。
 毛足の長い絨毯、磨き込まれた飾り棚、繊細な刺繍のカーテン。
 部屋の中央に置かれた椅子にエリオが腰を下ろすと、ルクスはその斜め後ろに立った。

「座れ」
「えっ、いえ、僕は……」
「立たれていると気が散る。座っていろ」

 素っ気ないようで、不思議と気遣いの色がにじむ声音だった。
 ルクスは観念して、エリオの隣の椅子にそっと腰を下ろした。

 やがてベルベットのトレイにのせて、宝石があしらわれた装飾品の数々が運ばれてきた。

「婚約者への誕生日祝いだ」

 そう言って、一つひとつを吟味するエリオの横顔を、ルクスはただ黙って見ていた。

「……君、こちらに寄れ」

 唐突な指示に、ルクスは驚きながらも身を寄せる。
 エリオが示したのは、青紫色の宝石をあしらった装飾品だった。

「この色、君の瞳に似ている」

 エリオの視線は、まっすぐにルクスの瞳に向けられていた。

「相手の瞳の色も、似た色で……似合うかどうか、判断に迷っていた」

 それだけ言って、視線を品に戻した。



 宝石店を出た後、続いて訪れたのは、書店だった。
 装丁の細部にまでこだわった書物が並ぶ棚を、ルクスは感嘆の表情で眺める。

 エリオはいくつかの棚の前を通り過ぎ、立ち止まると、並ぶ中から一冊を抜き取った。
 内容を確認するように、エリオが指先で頁を繰る。
 彩り豊かな挿し絵に、それが童話集だとわかった。

「君が言っていたな。あの坊やには、誰も童話を読んでやらなかったようだと」

 不意に向けられた言葉に、ルクスは驚いて顔を上げる。
 エリオは店主に購入を告げ、その本をルクスに差し出した。

「これは、君にやる」
「え……僕に?」
「君が読んでやれ。あの坊やに……自分のために語られた物語を受け取る経験を、与えてやれ」

 揺るぎない声でそう言うと、エリオは先に歩き出した。
 ルクスは渡された本を胸に抱きしめた。



 ーー数日後。
 雲ひとつない晴天の下。
 強い陽光が鮮烈な影を刻む中、エリオ・グランヴェレスは士官学院を去った。
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